村上春樹の「デビュー25年記念作」を読んだ。

私は、その25年前の『群像』1979年6月号から、彼の小説はリアルタイムですべて読んできたが、その中でいうと、本作は5段階評価の「3」というところだ。ちなみに、「5」は「1973年のピンボール」だけ。

『海辺のカフカ』の延長上で、中途半端にストーリーがあって読みやすいが、イメージに力がなく、リアリティに乏しい。コアになる「眠る女」のイメージが、他の連れ込みホテルなどの話と噛み合わず、浮いてしまっている。彼はもともと長編作家ではなく、細部の造形力で勝負する作家だが、『ノルウェーの森』の成功で「大家」になって、初期のようなシャープさがなくなってしまった。

しかし、彼が世界に通用する唯一の日本人作家であることには変わりない。初期の作品を超えるのはもう無理だと思うが、変に老成せず、これからも新しいフロンティアを開拓してほしいものだ。