反グローバリズム―市場改革の戦略的思考
著者は、経済理論学会(マルクス経済学の学会)に所属する経済学者では随一のマスコミの人気者である。「ブッシュはバカだ」とか「小泉改革はニセモノだ」 というような床屋政談が受けるらしい。この本も、最初から最後まで学問とは無縁の「ぼやき漫才」のようなもので、まあそういう読み物としてはいいが、まじめに受け取るべきではない。

マル経は、 今でも一部の大学には講座の枠が残っているので、無能な学者でも職にありつける「穴場」である。しかし、よりどころとする理論が崩壊してしまったので、 「きわもの」的なテーマを探すしかない。こういう「マル経難民」が好んで選ぶテーマが「国際」「情報」である。このフレーズさえつければ文部省から科研費が引っ張れるし、状況の変化が激しくて「近経」の理論がついていけないので、「床屋理論」でも何かいえそうだからである。
そもそも著者のいう「グローバリズム」とは何なのか、ちゃんとした定義も書かれていない。国際会計基準と年金改革の話がごちゃごちゃに並んで、「グローバ ル・スタンダード」への非難が繰り返されているだけだ。改革を批判するときの根拠は、いつも「リストラしたら景気が悪くなる」というだけで終わりだ。「市場の失敗」を非難するが、「政府の失敗」については何もいわない。こういう介入主義もマル経の悪しき遺産である。

著者は「主流派経済学」を批判するが、それを理解していないことは明白である。「情報の非対称」や「ゲーム論」についての孫引きをもとにした一知半解の 「批判」はなかなか笑える。この程度の学者でも慶応大学に職を得られるぐらい、日本のマル経業界は「売り手市場」になっているわけだ。先進国で最低レベルといわれる日本の大学の恩恵を受けている著者が「グローバリズム」に反対する理由はよくわかる。