2008年08月

こんな日本でよかったね

献本を酷評するのはちょっと気が引けるのだが、『諸君!』10月号で、書評を唯一の業績として誇る松原隆一郎氏がトンチンカンな書評をしているので、つい「反・書評」を書いてみたくなった。

本書はブログの記事をつなぎ合わせたもので、著者も認めるようにかなりいい加減な本だ。エドマンド・バーク的な保守主義をなぜか構造主義と呼んで、奇妙な「日本論」を展開している。しかし私が批判したマルクスの記事もインサイダー取引の記事も削除され、ポパーの誤読の部分も削除されているのは好感がもてる。献本も「理解は共有している」というメッセージかもしれない。

問題は、松原氏の無知である。彼は「構造改革」を否定し、「世の中を使えるように維持する」内田氏のピースミール社会工学を絶賛するのだが、これは私が指摘したにもかかわらず、内田氏が訂正していない誤解である。ハイエクがポパーを批判したように、社会をデカルト的合理主義で制御しようとする社会工学という考え方は、社会主義と同じ計画主義(constructivism)なのだ。このへんの議論は拙著でも少しふれたので、サポートページに一部掲載した。

「革命」を否定する思想は、保守主義でも構造主義でもない。ハイエクは保守主義者と呼ばれることを拒否したし、構造主義はレヴィ=ストロース自身が「超越論的主観なきカント主義」と呼んだように、逆にデカルト的理性が野生の社会にも普遍的に存在すると考える思想である。ただ私は、内田氏とは違う意味で、構造主義は今日でも重要だと思う。「形式が本質に先立つ」とした構造主義が20世紀の思想の分水嶺であり、ポストモダンはそのcorollaryにすぎないからだ。

「フーコーの社会史」とか書いている松原氏は、どうせフーコーもレヴィ=ストロースも読んでない(あるいは読んでも理解してない)のだろう。中沢事件で村上泰亮氏などが抜けてできた駒場の「知の空白」は、いまだに大きい。

大本営発表という権力

今度の騒動では、日経新聞以外のすべての全国紙・夕刊紙・週刊誌・在京キー局が(直接あるいは電話で)取材に来た。その取材と報道を比較すると、おもしろいサンプル調査になった。

全国紙は、私の話を「裏を取る」材料に使っただけで、談話として使ったのは夕刊紙とJ-CASTだけだった。ただ、これがヤフーニュースのヘッドラインになったため、27日には当ブログへのアクセスが激増し、1日30万PVを記録した。テレビ局は、5社ぐらい撮影に来たが、放送で使ったのは日テレとTBSとテレ朝ぐらい。

おもしろいのはフジで、「サキヨミ」からスタジオ出演の依頼があったので、「私はかまわないけど、私はテレビ業界の天敵なので、前に出演スケジュールを決めてから『上からNGが出て・・・』とドタキャンされたことがあります。上司に確認してください」と答えたら、同じ結果になった。

新聞社はよく「戦時中は大本営の検閲や紙の配給のために本当のことが書けなかった」と言い訳するが、そんなのは真っ赤な嘘であることが本書(新書の再刊)を読めばわかる。新聞社は「大日本言論報国会」(徳富蘇峰会長)を結成し、大本営発表をさらに誇張した戦意高揚報道を競って行なったのだ。それは景気のいい戦果を載せたほうが売れるからであり、つまり国民が戦争を求めていたからだ。日中戦争以降の軍部の暴走の最大の要因は、新聞=世論の圧力だった。

だから大江健三郎氏のような「悪いのはすべて軍で、国民は軍に自殺を命令された無辜の被害者だ」という思い込みは、大本営発表の裏返しだ。大江氏を支援する先頭に立っている金城重明牧師(元沖縄キリスト教短大学長)は、渡嘉敷島でゴボウ剣で数十人を刺殺したことを法廷で認めた。本人は米軍に投降したのだから、これは「集団自決」ではなく殺人であり、金城氏こそ屠殺者である。軍=悪、国民=被害者という図式は、GHQが戦争責任を軍に限定することによって占領コストを削減するための情報操作だったのだ。

結果的には、この占領政策が最大の「戦犯」だった新聞を温存してしまった(ドイツの新聞社は解体された)。そして彼らは、いまだに「地デジは大成功する」という大本営発表を垂れ流し、都合の悪い情報を「自主検閲」している。私の友人のN氏は、通信と放送の融合をめざす情報通信法を評価したらワイドショーのレギュラーを下ろされ、「竹中懇談会」のメンバーだったM氏は討論番組のレギュラーを下ろされた。メディアの「翼賛体質」は、大本営のころから何も変わっていないわけだ。

グーグル・ストリートビューで「太田誠一代議士を育てる会」事務所を見る

ストリートビューに「メリットがない」という人がいるが、政治資金の不透明性を明らかにするメリットはある。右の画像は、東京都の選管に届け出ている「育てる会」の住所をストリートビューに入力すれば出てくる画像だ。この幅1mもない道路は車も通れない(秘書宅を改築するときも、消防車が入れないため建築確認が下りず、隣の家の塀に非常口を設けて何とかクリアしたそうだ)。インターネット時代には、幽霊政治団体もこうして天下にさらされるので、他のあやしい政治団体も簡単にチェックできる。

太田氏は記者会見で、1005万円の人件費の内訳を「郵送物の発送作業などをした学生や主婦ら計約150人のアルバイト代」と説明しているが、この狭い道を通って55坪の家で、どうやって150人ものアルバイトが作業したのか。私は、いつもこの道を通って出入りするので、そんな大勢のアルバイトがこの道を行き来したら、出会わないはずがないが、家族以外は見たことがない。つまり150人のアルバイトは存在したとしても、彼らが秘書宅で作業した事実はないと断言できる。

では、彼らはどこで作業したのか。常識的には、2005年の総選挙のとき福岡の後援会事務所で作業し、その経費を支出したのは後援会だと推定される。人件費の支払台帳は閲覧させたが、なぜか「領収書は取っていない」という。しかも個人名を伏せているので、確認が取れない。それより問題は、この支払台帳はどの政治団体のものかということだ。閲覧させた領収書も台紙からはがしたものやコピーだというから、後援会のものを流用した疑いが強い。したがって後援会の支払台帳と領収書を国会に提出させれば、照合できる。

またアルバイトでも所得申告をしていれば、税務署に問い合わせれば雇用主がわかる。これは個人名を明かす必要はなく、国会に所轄の税務署の署長を参考人として呼び、アルバイトの謝礼がどこから支出されたのかを質問すればよい。いずれにしても、野党も人件費にターゲットをしぼり、集中審議を求めているので、真相が判明するのは時間の問題だろう。

こんな下らない問題で、また国会が混乱するのは日本の恥だ。町村長官と違って首相は「まだ領収書を見てない」と距離を置いているので、別の考えがあるのだろう。松岡農相を守ろうとして、安倍政権そのものが崩壊した例もある。野党やメディアに暴露されて更迭に追い込まれる前に、首相が引導を渡すのが賢明だと思う。

追記:英文ブログにも書いた。

太田誠一氏の「釈明会見」の疑問点

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会見の全容が判明した。各社に教えてもらった要点は次のとおり(カッコ内は私のコメント)

  • 秘書宅に事務所を置いたことについて「議員会館では資金管理団体以外の事務所を置くことができず、次善の策として秘書宅を届け出た」と説明した。
    (これは26日の「落選中だったから」という釈明とは食い違う)
  • 政治団体の経費は「福岡事務所と国会の議員会館での経費だ」と明かし、秘書宅では政治活動が行なわれなかったことを認めた。
    (私の「幽霊事務所だった」という証言に太田氏も同意したわけだが、当初の「秘書宅で政治活動の実体があった」という説明は嘘だったことになる)
  • 印刷費の領収書には福岡のものもあり、太田氏は「印刷を福岡でやり、印刷したものを東京で使うこともあり得る。福岡で支出されているから、福岡だけに限定した活動ということはいえない」と釈明した。
    (後援会を従たる事務所ということにして、昔の領収書の中から「使える」ものを選んだのだろう)
  • 人件費については「東京や福岡県の事務所などを手伝った非常勤職員らに支払った」とか「議員会館の事務所にいる非常勤のアシスタントの給与」とか説明が二転三転し、プライバシーを理由に細かい説明は避けた。人件費の帳簿も個人名を伏せて閲覧させたが、領収証と帳簿ともにコピーについては農水相秘書官(中里氏)が「カンベンしてほしい」とかたくなに拒んだ。
  • 領収証については「9割を保存している。これだけあれば適格だろう」と胸を張ったが、「全部把握して答えているのか」「どの領収証がないのか」などと突っ込まれると、「(大半が残っていれば)適切だと思う」と次第にトーンダウン。領収証が残っている割合について「7割でした」と訂正した。
  • 領収証がない支出について、当初は「冠婚葬祭だ」と言ったものの、横から秘書が紙を渡し、「間違っていた。冠婚葬祭は含まれていなかった」と訂正した。
    (慶弔費が公選法違反だということも知らないで政治家やってるのか・・・)
町村官房長官は、午後の記者会見で「架空経費はなかった。何ら問題はない」とコメントしたので、官邸はこれで収めるつもりかもしれないが、後援会の経費を二重計上するのは架空経費である。民主党は、政治倫理審査会の秘密会で、この非常勤職員の氏名を明らかにするよう太田氏に要求し、その職員の所得税の申告記録を(国政調査権で)閲覧すべきだ。税務署の記録には雇用主が記載されているので、それが「育てる会」でなければ、収支報告書の虚偽記載として刑事告発に持ち込める。有罪となれば、閣僚辞任ぐらいではすまないだろう。

本質的な問題は、このようないい加減な会計処理を認める政治資金規正法だ。町村長官は「改正政治資金規正法でも人件費の内訳は求められておらず、何ら問題はない」と太田氏を弁護したが、それなら幽霊職員をつくれば経費はいくらでも水増しできる。民間企業については、ライブドアのように匿名組合で費目を変更しただけで「粉飾決算」として逮捕したり、J-SOX法ですべての社内手続きの文書化を義務づけたり、過剰規制が進められているのに、政界では幽霊事務所も幽霊職員も自由自在で、事務所経費はごまかし放題だ。政治活動をすべて文書化するよう義務づける「永田町SOX法」でもつくってはどうだろうか。

追記:人件費について、太田氏は150人のアルバイトの経費で、受領伝票は残っていないと説明した。税務申告との照合を逃れるためだろうが、そんな人数がこの秘書宅に出入りした事実はない。この150人の名前を割り出し、彼らに問い合わせれば、「育てる会」から給与をもらったかどうかはっきりする。彼らが後援会から謝礼をもらった支払調書が1通でも出てくれば、虚偽記載の動かぬ証拠だ。福岡の地元の新聞なら調べられるのではないか。

太田誠一氏の想定問答

太田誠一氏は「29日に領収書を公開して説明する」とのことなので、楽しみだ。しかし、これまでも書いたとおり、わが家の隣の秘書宅で政治活動が行なわれたと説明するのは無理なので、記者会見では次のような説明が考えられる:

  • 太田:政治資金規正法の規定で、資金管理団体以外の政治団体の主たる事務所は議員会館に置けないので、秘書の自宅に置いた。主たる事務所は年に1回、収支報告の用紙が届くところであればよいので、秘書の自宅に置いたことに法的な問題はない。

    • 問:先日の「落選中で議員会館が使えなかった」という説明と違うが?
    • 答:あれは私の勘違いだった。「育てる会」の主たる事務所は、1982年に発足したときから、ずっと秘書の自宅に置いている。

  • 太田:人件費は、従たる事務所である地元(福岡)の後援会の非常勤職員の給与である。2005年には月27万円で1人、06年には2人雇用した。その給与明細はここにあり、税務申告もしている。

    • 問:なぜ後援会の職員の給与を政治団体の職員の給与として報告したのか?
    • 答:それは私の裁量の範囲だ。政治資金規正法では、従たる事務所の経費を主たる事務所に合算することを認めている。

  • 太田:備品・消耗品費は、政治資金規正法施行規則によると「机、椅子、ロッカー、複写機、事務所用自動車等の備品の類及び事務用用紙、封筒、鉛筆、インク、事務服、新聞、雑誌、ガソリン等の消耗品の類の購入費」である。これは2年間で788万円、支出しているが、すべて後援会の自動車や事務用品などの経費である。ガソリン代も、選挙区で使った選挙カーのものだ。領収書はすべて残ってはいないが、ここにある。

    • 問:領収書の宛て先は「後援会」となっているが?
    • 答:前にもいったように、後援会は従たる事務所なので、その経費の一部を政治団体の主たる事務所に合算した。

  • 太田:事務所費は「事務所の賃料、損料(地代、家賃)、公租公課、火災保険金等の各種保険金、電話使用料、切手購入費、修繕料その他これらに類する経費」である。これに2年間で552万円支出したが、大部分は選挙区向けに発送した機関紙などの発送経費である。1回に1万通ぐらい出すので、2年間だと切手代だけでこれぐらいになる。郵便局の領収書もある。
このように後援会(あるいは別の政治団体)を「従たる事務所」ということにすれば、その経費の一部を主たる事務所に合算したというテクニカルな問題に見せることができ、領収書も後援会のものを流用すればよい。前回の説明との矛盾や届け出手続きのミスなどは、その場で陳謝すればよい――と太田氏側は考えているのかもしれない。

しかし、この説明は通らない。後援会や他の政治団体の経費は、すでに収支報告書に記載されているので、それを「育てる会」の従たる事務所の経費としても計上することは、経費を二重計上した虚偽記載になるからだ。たぶんそれが目的だったのだろうから、そう正直に説明して閣僚を辞任するのが潔い出処進退だと思う。

追記:「事務所の画像」と称するものが2ちゃんねるなどに出回っているが、間違いが多いので、正しい画像を集めた。住所は、総務省か東京都の選挙管理委員会に聞いてください。

追記2:閣議後に釈明会見が行なわれたが、まったく説明になっていない。領収書なんて、「上様」あてならいくらでも出せる(当時は後援会などに領収書の提出義務はなかったので残っているはずだ)。しかも肝心の非常勤職員について、まったく答えていない。

「仮想大学院」の挑戦

10月から、SBI大学院大学でも客員教授として講義することになった。これは今年スタートした「起業家精神」を学ぶ大学院で、学長はSBIホールディングスの北尾吉孝CEO。最大の特徴はキャンパスをもたず、すべてインターネットによるe-ラーニングで講義を行なうことだ。私は、今年度の後期は「イノベーションの経済学」を担当する。その最初の部分だけをYouTubeにアップロードした。


将来は、ウェブカメラを使って質疑応答や演習をやったり、SNSの中に大学サイトをつくろうという構想もある。こうした「仮想大学」は、世界的には珍しくなく、日本でも京大がYouTubeでコースウェアを公開している。インターネットではすべてが無料になってゆくが、学位はコモディタイズしないので、映像サービス産業としての可能性は大きい。日本の私立大学の30%が定員割れで、これから淘汰が始まるが、これは「創造的破壊」によるイノベーションのチャンスでもある。

後期の学生募集は、9月16日まで受け付けている。

太田誠一氏の政治資金収支報告書を検証する

「太田誠一代議士を育てる会」の政治資金収支報告書は、ウェブで公開されている(2005年度p.746、2006年度p.695)。これを記者会見の説明や私の知っている事実と照合してみた。

おもしろいのは、寄附者の内訳だ。2005年についてみると、政治団体からの献金は日本医師連盟だけで、あとはすべて個人献金で、18人の名前があがっている。そのうち税理士が10人、会計士が3人で、合計305万円。06年については、同じく税理士が15人、会計士が4人で、合計548万円。太田氏は「大蔵族」として知られ、税理士政治連盟から毎年、100万円程度の政治献金を受けているが、こうして小口にわけて実質的には(この政治団体だけで)その5倍以上の献金を受けているわけだ。

支出については、会見でふれられていない経費として「政治活動費」のうち、機関紙誌の発行その他の事業費が05年に2161万円、06年に5495万円と大きい。そのうち06年については、全額が「政治資金パーティ開催事業費」と書かれ、収入にもそのパーティ収入が計上されているが、05年については内訳が書かれていない。05年には2000万円以上かかっていた(パーティ以外の)事業費が、06年にはゼロになったのはどういうわけだろうか。(*)

経常経費は、その事務所の中で発生している事務経費だが、奇妙なのは人件費が05年の331万円から06年の674万円に倍増していることだ。これは月給27万円の非常勤職員を、1人から2人に増やしたとも考えられる。他方で、太田氏は「落選中は議員会館が使えなかったので秘書の自宅を使った」と弁明しているが、彼は2005年の総選挙で当選したので、06年には秘書の自宅で政治活動をする必要はなかったはずだ。また前述のように06年には事業費がゼロになったのに、職員が倍増したのもおかしい。

2人も職員がいれば、毎日その事務所の前を通る私が一度も目撃しないということは考えられない。私の家と事務所は棟続きになっているので、大きな音は聞こえる。奥さんが子供を叱っている声や、階段を上り下りする音まで聞こえることがある。したがって2人も職員がいて政治活動をしていれば、他人との会話が聞こえるはずだが、私は奥さんと女の子以外の声を聞いたことがない。

要するに、この家の中で「非常勤職員が政治活動を行なっていた」という太田氏の説明は、私の見た(聞いた)事実とまったく合致しないのだ。その政治活動がほかの場所で行なわれていたとすれば、この事務所の「人件費」は収支報告書の虚偽記載として政治資金規正法(第24条9項)に違反する疑いがある。特に、非常勤職員が何という名前で、事務所で何月何日にどういう業務を行なったのかが公表されれば、私の記憶や記録と照合できるので、ぜひ情報公開をお願いしたい。

(*)これは私の誤読だった。2005年についても政治資金パーティ経費425万円が計上されている。

太田誠一氏の「政治団体事務所」は隣の家だった

きょうは朝から新聞・テレビが12社も自宅に来て驚いた。なんとうちの大家さん(中里浩氏)が太田誠一氏の農相秘書官で、その自宅(わが家の隣)が太田氏の政治団体の事務所だったというのだ。右の写真の奥に私の借りているテラスハウスがある。棟続きだが、壁で遮断されているので、私は隣の家に入ったことはない。

太田氏側は「活動の主たる担当者である秘書官の自宅を事務所とした」と説明しているそうだ。しかし私は隣に7年間住んでいるが、この家で政治活動が行なわれている形跡(ポスターなど)を見たことがない。そもそも家族以外の人がこの家に出入りしたのを一度も見たことがない。

政治資金収支報告書によると、この政治団体は2005~6年に2300万円余りの経費を計上し、その内訳は事務所費が550万円、備品・消耗品費が800万円、人件費が1000万円ということになっている。しかし家賃は払っていないというのだから、人の出入りがまったくない家の「事務所費」とは何に使われたのだろうか。

「備品・消耗品」として太田氏側は「事務用品の購入費やガソリン代」と説明しているようだが、大家さんがマイカー以外に選挙活動用の車を使っていた形跡はない。通信費というのも、この政治団体の電話連絡先が議員会館になっているのだから、発生するはずがない。

人件費を「会の政治活動に要した人件費」と説明したようだが、秘書報酬以外に出しているとすれば(家族以外に誰もいないので)奥さんを雇用したことになっているのだろうか。しかし彼女はごく普通の専業主婦として、昼間は買い物などをしており、政治活動しているのを見たことはない。

そもそも大家さんが議員秘書だったというのが驚きだ。園芸が好きで、よく週末には庭いじりをしており、あいさつしていたから、普通のサラリーマンだと思っていた。週末というのは、選挙区回りなどで秘書がいちばん忙しいときだから、これもおかしい。彼の秘書官としての勤務実態があったのかどうかも調べたほうがいいと思う。

以上はオンカメラで5~6社に話したので、きょうのニュースやワイドショーなどに出るだろう。必要なら、国会で証言してもいい。私の印象では、中里秘書官の自宅が「幽霊事務所」だったことは間違いない。

すべてがビットになる

タイトルは「あらゆる情報がデジタルに分解されて流通・蓄積される」というほどの意味だ。中心はもちろんインターネットだが、技術的な説明はあまりなく、それが社会に及ぼすプラス・マイナス両方の影響を、いろいろな具体例をあげて解説している。たとえばRIAAが5年間に26000人を著作権侵害で訴え、10億ドル以上の賠償金を取ったという話などをみると、JASRACなんてまだかわいいほうだ。

もう一つの重要な話題はプライバシーだが、「プライバシーはすでに失われている」と私の昔のコラムみたいなタイトルがついている。グーグルで私の名前を検索したら130万件も出てくる時代に、住基ネットとかストリートビューに騒ぐのはアナクロニズムである。本書も引用している"Tranparent Society"のいうように、本来の意味でのプライバシーというのは個人の隠している秘密だから、その侵害を防ぐには、むしろ誰がどんな情報をもっているかをウェブで徹底的に公開したほうがいい。

本書に一貫しているのは、デジタル・ネットワークによってあらゆる情報が自由に流通することは避けられないし、避けるべきでもないという立場だ。これは表現の自由は民主主義の絶対原則であり、著作権とかプライバシーなどはそれに優越するものではないという米国憲法修正第1条の精神である。一時的には、インターネットによって権利侵害やクリエイターの減収などが起こるかもしれないが、そういう問題を克服する技術も、インターネットの自由が保証されていれば開発でき、新しい収入の道も開ける。ところが今は、P2Pのようにクリエイターの利益になる技術さえ違法化されている。

当ブログの読者にとっては、やや物足りないかもしれないが、インターネットの社会的影響についてやさしく書いた本というのは意外に少ないので、一般のビジネスマンにはいいかもしれない。

B-CASについての技術的まとめ

先日の速報には10万を超える爆発的なアクセスがあったが、いろいろ間違いがあり、多くのコメントやTBなどで訂正していただいた。まず私がB-CASの規格(ARIB STD-B25)を誤解していたため混乱をまねいたことをおわびし、あらためて(私の理解している範囲で)正確に問題をまとめておく。非常にテクニカルな話なので、関係者以外は無視してください。

私は、まずカードを挿入しないと見えないという程度の簡単な(スクランブルなしの)B-CASが導入され、地デジに移行するときコピーワンスを実装するためにMULTI2が導入されたと理解していたのだが、システム上は最初からMULTI2は入っており、最初は使わなかっただけらしい。そのしくみを簡単に解説すると、いっせいに数千万人に信号を送るため、暗号鍵を共通のECM(Entitlement Control Message)とカード固有のEMM(Entitlement Management Message)にわけているのが特徴だ。次の図はARIBの仕様書(p.319)のものだが、TS(放送波)に含まれている暗号をEMM処理(B-CASカード)とECM処理(受信機本体)にわけて処理する。
図をみればわかるように、大部分の処理はECMで行なわれるが、これだと限定受信にできないので、EMM処理によって取り出したKw(ワークキー)を使ってACI(Account Control Information)処理を行なうとともに、ECMの復号化を行なって最終的なKs(スクランブルキー)を取り出す。鍵は放送波とともに不特定多数に送られるので、コピーして不正利用されるのを防ぐため、最短1秒ごとに変更される。

多くの人の意見では、これは放送用のCASとしてはそれほど特殊なシステムではないようだ。EMMをカード(ポータブルなファームウェア)で処理したことも、システムの汎用性を高めるためにはやむをえなかったという。しかし最終的にはKsがACI(ID情報)とは別の共通鍵として出てくるため、Ksが不正流通しても出所がわからず、問題のIDを止められないというバグがある。今回のFriioのネット配信は、この「穴」を見事に突いたわけだ。

致命的な失敗は、暗号システム(MULTI2)が完成してからコピーワンスをつけることが決まったため、コピー制御(CGMS)のフラグ自体は生の数ビットの信号だったことである。このためKsを(LANやインターネットなどによって)送るだけで暗号が解けてTSが再生され、そこに含まれたフラグも簡単に無視できる(それを検知しなければよい)。Friio以外にも同様の機器はたくさんあり、秋葉原で堂々と売られている。

ふつう暗号をクラックする作業は非常に高度な数学を使う知的ゲームで、最近ではB-CASのような128ビットの暗号も危ないといわれる。しかしFriioのやり方は、暗号そのものを破ったのではなく、ARIBの行き当たりばったりの意思決定によるバグを利用しただけだ。小寺氏の意見とは違って、これは技術が破られたのではなく、B-CASという出来の悪いカルテルが破られたのだ。したがって本質はその違法性にある。これについては、今週のASCII.jpに書く予定。

謝辞:コメントをいただいたseldon、猪口、hibirthおよび匿名の諸氏に感謝します。この記事も誤りを含んでいると思われるので、訂正はコメント欄で(gooIDなし)。

追記:Friio社から、この記事の記述は正しいというメールが来た。B-CASは長く続いてくれたほうがいいそうだ。英文ブログにも書いた。





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