2008年07月

OPEC2.0

NYタイムズのTim Wuのコラム:

ガソリンの値上がりが問題になっているが、なぜ通信費の高さはだれも追及しないのだろうか。平均的な家庭では、固定・携帯電話やケーブルTVを含めた通信費は数百ドルで、ガソリン代とほぼ同じなのに。しかも通信の帯域には、石油のような稀少性はない。FCCが既存業者の非効率な電波利用を守り、そして業者が「新規参入に開放するスペースなんかない」とうそぶいて広大な帯域を浪費しているのだ。これは、いわば官民共同のOPECのようなカルテルだ。

日本ではNTTの光ファイバーの「8分岐」などが問題になっているが、政府がデバイスの仕様まで規制するのは好ましくない。それよりもホワイトスペースの200MHzを無線ブロードバンドに開放すれば、FTTHと同等の高速通信が可能になって有線と無線の設備ベースの競争が実現し、通信費はムーアの法則にしたがって劇的に下がるだろう。

追記:NBオンラインにICPFシンポジウムの記事が出ている。

ジャーナリズム崩壊

本書に書かれていることの多くは業界では周知の事実だが、一般読者には信じられないような非常識な話が多いだろう。特に私の印象に残っているのは、NHKの黒田あゆみ事件だ。これは彼女が離婚していたことをスポーツ紙に書かれたことが原因で、「生活ほっとモーニング」のキャスターを途中降板した事件で、彼女は放送で離婚を隠していたことを謝罪した。

これに対して、福島みずほ氏などが「離婚はプライベートな出来事であり、降ろすのは男女差別だ」と批判し、これをNYタイムズが記事にした(署名はフレンチ支局長だが、著者が取材したらしい)。ここまではちょっとした街ネタにすぎないのだが、当時のNHKの広報担当(春原秀一郎・現山口放送局長)がNYタイムズの支局に電話してきて「貴様、ふざけんな。貴様のような野郎はNYタイムズで働く資格はない。NY本社の知り合いにかけあって絶対クビにしてやる」などと、どなり散らした。これがさらに報道されて、NHKは世界の笑いものになった。

その後、海老沢会長にインタビューしたとき、著者が「会長の入局には橋本登美三郎(元衆院議員)の力添えがあったのか」と質問したところ、横にいた三浦元・秘書室長(現・福岡放送局長)が立ち上がって「その質問を取り消してもらおう」とどなったそうだ。三浦氏は私もよく知っているが、海老沢氏にいつもくっついて歩き、局内では「小海老」と呼ばれていた。

・・・といったお粗末なメディアの内情(もちろんNHKだけではない)が実名で暴露され、関係者にはけっこう笑える。ただ「記者クラブの閉鎖性」などの繰り返しが多く、論理が展開しない。またNYタイムズも、ノリミツ・オオニシが多くのデマゴギーをまき散らし、批判にもまったく答えないなど、説明責任を果たしているとはいえない。別にアメリカだけが立派なわけじゃなく、どこの国でも絶対的な「第四権力」(*)は絶対的に腐敗するということだろう。

ただ最近の「ダビング10」をめぐる騒動をみると、第四権力に風穴が開いてきたような気もする。この問題で読売新聞が「ダビング10 メーカーの頑固さ、なぜ?」という社説で、あからさまにテレビ局の立場から、ダビング10を妨害しているのはiPod課金を拒否するメーカーだと非難したのに対して、小寺信良氏などのブロガーが一斉に反論し、iPod課金を中止に追い込んだ。これは新聞が「最後の審級」ではなくなった日として、日本のメディアの歴史に残るかもしれない。

(*)本書でこれを「立法・行政・司法に次ぐ権力」としているのは、よくある誤り。これはフランス革命のときの第一身分(聖職者)、第二身分(貴族)、第三身分(平民)に次ぐ「第四身分」が、のちに新聞をさすようになったもの。

地球温暖化についての安井至氏の誤解

朝日・読売・日経の「あらたにす」というウェブサイト(初めて読んだ)に、安井至氏の「IPCCは温暖化を断言したのか」というエッセイが出ている。これは以前の日経新聞のコラムへの批判に対する反論だが、環境科学の専門家からの反論なので検討に値する。

まず安井氏は、日経の「『科学的に決着した温暖化』という表現は、単独で読む限り、誤解を招くおそれがある」と認める。つまりこの問題は、科学的には決着していないのだ。彼はIPCCの報告書に「断言」という言葉がないことを認めた上で、脚注の「非常に高い確信をもって(90%以上の確信度で)」という表現を根拠に「断言とほぼ同義なのではないだろうか」と苦しい弁解をしている。しかし断言というのは「100%の確信度」であり、90%の確率で生じる事象を科学者は断言しない。あすの朝、太陽が東から昇ることは断言できるが、天気予報であすの降水確率が90%だからといって、雨が降ると断言する気象予報士はいないだろう。

それより致命的な誤解は、安井氏が「『二酸化炭素と温暖化は無関係』は間違い」だと何度も強調していることだ。両者が無関係だと主張している科学者も経済学者もいない。CO2濃度と気温になんらかの関係があることは自明である。争点は、それが決定的に重要な原因なのか、マイナーな(自然変動で相殺される)要因にすぎないのか、ということだ。この点については、安井氏もこう書いている:
一般社会も理解すべきことがある。温室効果ガスの排出によって温度が上昇しても、その温暖化を加速したり、あるいは逆に抑えるような効果が地球の気象システムには組み込まれている、ということである。[・・・]温室効果ガスを排出すれば、地球の温度が高くなる方向に影響を与える。しかし、どのぐらい上昇するのか、と問われれば、まだまだ不確実性が大きいと答えるしかないだろう。(強調は引用者)
これは私が今まで紹介した「温暖化懐疑論」の科学者の意見とほとんど同じで、およそ「断言」とはほど遠い(これは彼が科学者として誠実であることを示している)。しかし安井氏が理解していない点がある。それはLomborgも指摘するように、地球温暖化は第一義的には経済問題だということだ。グローバルに重要な問題は山ほどある。いくら地球温暖化が重要でも、それより重要で緊急の問題があれば、まずそれに政策資源を投入すべきである。

温暖化だけに1兆ドル以上の公的資源を投入するには、費用対効果のテストと、その効果が他のどの政策よりも高いという優先順位のテストを通過する必要があり、これは経済学者の専門領域だ。そしてグローバルな経済政策の優先順位を論じたコペンハーゲン会議の結論によれば、もっとも重要な課題は飢餓(malnutrition)であり、残念ながら温暖化ガスの抑制は――IPCCの結論を前提にしても――最下位なのだ。

民間天下り

楠君からのTBで「現政権は国民重視といって結果的にヤクザ復権へと舵を切っているようにみえる」というのは、その通りだと思う。山口組のビジネスは、労基法に違反して港湾労働を仕切ることから始まったので、後藤田氏や舛添氏の進める規制強化で、いちばん喜ぶのは山口組だろう。

「じゃあどうすればいいのか」とのことだが、これは今まで何度も書いてきたように、ノンワーキング・リッチの過剰保護をやめることだ。抽象的に書いてもわからないと思うので、私の体験から、NHKで彼らがいかに優遇されてきたか、一つの具体的なケースを書いてみよう。

あるとき、NHKエンタープライズ・アメリカのP社長が突然、更迭された。公金横領の容疑があるといわれたが、本人は「濡れ衣だ」と主張し、国際部の関係者全員に査問が行なわれた。NHKアメリカの「隠し金庫」の金を私的に流用したのは、当時、海老沢会長の腹心だったQ理事で、P氏はQ理事の「身代わり」になったといわれた。全国紙も取材したが、決定的な証拠がなく、記事にならなかった。そしてP元社長もQ理事も(口止めのためか)関連会社に天下りした。

こういうグレーなノンワーキング・リッチでさえ、生涯賃金を2億円以上とるばかりでなく、関連会社に天下りして数千万円の役員報酬をとる。転職といえば、普通は40代前半までしか需要がないのに、日本で50代の転職が多いのは、彼らの能力ではなく、カオの威力が大きいからだ。

しかし、これは彼らの職務上の能力ではなく、独占的な関係を維持するrent-seekingの能力であり、生産性の向上には寄与しない。たとえばNHKは、番組をプロダクションに発注するとき、必ず(最大の天下り先)NHKエンタープライズ(NEP)を通し、NEPはそれをプロダクションに丸投げして10%の「企画料」を抜く。技研の幹部は、機材を「共同開発」したメーカーに天下り、NHKはその機材を民生用の数倍の価格で調達する。こうした無駄な経費は、すべて受信料として国民負担になっているわけだ。

もちろんこれはNHKだけでなく、民間の大企業にも同じような民間天下りが大量に存在する。これが系列構造やITゼネコン構造を支えているのだ。人材の移動は労働生産性を高めるはずだが、こうした天下りはかえってrelational capitalismの非効率性を温存している。公務員だけでなく、大企業の民間天下りも禁止したら、日本経済の風通しもかなりよくなるのではないか。

「みのもんた」になった舛添要一氏

厚労省が「日雇い派遣の禁止」を御用学者の「有識者研究会」で決めた。この問題が急展開したのは、秋葉原の大量殺人事件のあとの舛添厚労相の発言がきっかけだ。彼はかつて「最大の敵はみのもんただ」とポピュリズムを批判し、貸金業規制の強化を批判していた。ところが今回は、自分が「みのもんた」になってしまったわけだ。年金の公約違反や後期高齢者医療をめぐる失態などで追い込まれ、秋葉原事件を利用して若者の人気取りをねらったのだろう。

今週の週刊ダイヤモンドも指摘するように、日雇い派遣の禁止は、かろうじて残っていた短期労働者の雇用チャネルを断ち切り、彼らの雇用をさらに不安定にするだろう。企業側でも、引越しのようなスポット雇用の多い業種では3割が廃業するだろうという。さらに貸金業法と同じように、違法派遣や二重派遣などの「闇」も拡大するだろう。

舛添氏は、日雇い派遣を禁止したら、企業が彼らを正社員にするとでも思っているのだろうか。企業は慈善事業ではないのだから、労働需要は同じコスト(以下)で雇えるアルバイトや請負契約にシフトするだけだ。単純労働への需要がある限り、短期雇用や派遣労働をなくすことはできない。問題は派遣業者の搾取や酷使などの違法行為であり、それを防ぐにはこうしたビジネスを禁止するより、合法化して公的に監視するほうが有効なのだ。

舛添氏もそれぐらいわかっているはずだ。しかし論理は学者にとっては重要だが、政治家にとってはどうでもいい。その意味で、彼も学者から政治家になったのだろう。いや、芸能人になったというべきか。

ホワイトスペース:電波の90%以上は空いている

先週の金曜の記事は、細かい話だったのでやや専門的に書いたのだが、5万以上のアクセスがあり、「はてなブックマーク」で200以上のブックマークを集めて首位になったのには驚いた。この問題は非常に重要なので、わかりやすく(上瀬千春氏にもわかるように)説明しておく。

Werbachのスライドの16ページにもあるように、電波は「稀少」ではない。アメリカでは、30MHz~3GHzの帯域の95%が、割り当てられながら使われていない。われわれが電波探検隊プロジェクトで調査したときも、電波が日本一混んでいる渋谷でさえ90%が空いていた。このように非効率な電波利用が起こる原因を具体的にみてみよう。

茨城県は、もともと東京タワーの電波を受信していたので、NHKは総合(G)・教育(E)の2チャンネルしかなかったが、デジタル化の際、茨城出身の海老沢元NHK会長の強い要請で、新たにローカルのチャンネルが割り当てられた。他の民放(N=NTV、T=TBS、F=フジ、A=テレ朝、V=テレ東)も含めて、現在の地デジ中継局を表にすると次のようになる(1W以下の小電力局は略):

Ch水戸高萩筑波日立鹿島山方大宮男体北茨城竜神平
13EE
14NN
15TT
16GG
17AA
18VV
19FF
20GGGGG
21FFFF
22TTTT
23VVVV
24AAAA
25N
26EEEE
27
28
29
30
31G
32
33
34NN
35F
36
37
38N
39EE
40E
41TN
42G
43
44A
45
46V
47G
48
49G
50
51
52

表の空白の部分が、放送局に割り当てられながら使われていないホワイトスペースである。携帯電話業者が見たら目まいのするような超低利用率で、全40チャンネル(13~52)×10エリアの1割も使われていない。上瀬氏の「真っ赤に埋まっている」とかいう話は、真っ赤な嘘である。たとえば水戸をみればわかるように、そもそも7チャンネルしかテレビ局がないのだから、今後どんなに中継局を増やしても、40チャンネルを真っ赤に埋められるはずがない。

このように(独立系U局を含めても)全国で40チャンネルのうち、たかだか10チャンネルしか使っていないのだから、テレビの電波は任意の地点で30チャンネル以上(ほぼ200MHz)空いているのである。これは非常に大きな帯域で、今のすべての携帯電話業者がほとんどすっぽり収容でき、オークションにかければ2兆円以上の価値がある。このホワイトスペースをWiMAXなどの無線ブロードバンドに使うことも可能だし、4GHz帯で実験の始まっている4Gも、UHF帯を使ったほうがはるかに効率が高い。

ただ日本は中継局の密度が高いので、ホワイトスペースを携帯端末に使う場合は、たとえば水戸で空いている35チャンネルが高萩ではフジに使われているため、周波数を切り替える必要がある。これはcognitive radioで周波数を検知して切り替えてもよいし、チャンネルプランをデータベース化してGPSで携帯端末の位置と照合して切り替えるgeolocationという技術もある。いずれにせよ、これは上瀬氏のいうように「ホワイトスペースがない」のではなく、空白の帯域が頻繁に切り替わるというテクニカルな問題にすぎない。

さらにSFNを使えば、13~20チャンネルだけで茨城県全域に中継できるので、残りの32チャンネルは完全に「空きスペース」になる。上瀬氏は「SFNは不可能だ」と言っていたが、これも嘘である。総務省もISDB-TでSFNの実験に成功している。彼らが効率の悪いMFNにこだわるのは、すでにタダでもらった240MHzという巨大な電波利権を手放したくないからである。しかしSFNのほうが中継局の構造も簡単で、コストもはるかに安くなる。今後の「条件不利地域」だけでもSFNに変更し、余った周波数は返却すべきだ。

追記:われわれの入手した資料によれば、800MHz帯がFPUに利用されている時間は、全国で月間数十時間である。これは国民の共有財産を私的にガメる犯罪に近い。

追記2:最新情報を提供していただいたので、表を少しアップデートした。1W以下の局を含めると、ホワイトスペースはこの2倍以上ある。

ジョブズは元気らしい――彼自身の説明では

最近、スティーブ・ジョブズが異常にやせたように見えることが、いろいろな憶測を呼んでいる(写真の左は2003年、右は現在)。彼が今年の初めに何かの手術を受けたことが報じられたが、アップル社の広報は「彼の健康状態はプライバシーだ」としか答えない。NYタイムズとの電話インタビューで、ジョブズはオフレコを条件に(!)この質問に答えた。その記事のわかりにくい表現によれば、彼は癌の再発を否定したようだ。

この出来事は、企業の情報開示についてデリケートな問題を提起している。最近、公開企業はさまざまなリスク要因の開示を求められているが、経営者の健康状態はそこに含まれていない。しかしアップルにとって、ジョブズの健康状態は明らかに個人的な問題ではない。マイクロソフトはビル・ゲイツが去っても業績を維持できるだろうが、アップルがジョブズなしでやっていけると思う株主は少ないだろう。

経営者の健康に問題があるとき、その病状は財務諸表に「リスク要因」として開示を義務づけるべきだろうか? あるいは経営者が交代する可能性があるときは(健康状態に限らず)開示すべきだろうか?

ベスト経済学ブログ

Brad DeLongのブログで、「経済学ブログのベスト10」が話題になっている。NetNewsWireがあげたのは次のリストだが、DeLongならずともちょっと首をかしげるところだ:
  1. Economist's View
  2. Marginal Revolution
  3. Curious Capitalist
  4. The Big Picture
  5. Econbrowser
  6. Angry Bear
  7. Real Time Economics
  8. The Conscience of a Liberal
  9. Market Movers
  10. Infectious Greed
単純にテクノラティのリンク数(authority)で並べた26econ.comでは、次のようになっている:
  1. Freakonomics
  2. Marginal Revolution
  3. The Conscience of a Liberal
  4. The Big Picture
  5. Greg Mankiw's Blog
  6. Calculated Risk
  7. Asymmetrical Information
  8. Global Economic Trend Analysis
  9. Real Time Economics
  10. Economist's View
こっちのほうが私の感覚に近い。このうち私のRSSリーダーに入っているのは、1、2、5、9だが、あとの多くもブラウザの「ライブ・ブックマーク」に入っている。ちなみに当ブログ(世界で1767位)は、リンク数だけでいえばこのリストの第7位。

経産省はホワイトスペースを推進する

いわゆる「情報通信法」についてのパブリックコメントが発表された。注目されるのは、経済産業省がコメントを寄せ、コンテンツ規制の抑制を求めるほか、ホワイトスペースの利用を求めていることだ。わざわざこの項目について「別紙」で説明し、
割り当てられた周波数のうち、時間帯やエリアの別、若しくは技術進歩などによって余裕の生まれつつある帯域を、他の事業者との共用や無償貸与に供することができるような制度を導入することなどにより、新たなビジネスの創出を促進する。
と書いて、コグニティブ無線やUWBやPLCの規制緩和を求めている。実は、当初案では「周波数オークションの検討」もあげられていたのだが、さすがにこれは刺激が強すぎるためか、今回のコメントでは見送られた。「ホワイトスペース」という言葉も避けているが、この記述は明らかにホワイトスペース(オーバーレイ)を認めよという意味である。

また「海外における近年の行政組織改革の進展の実態なども十分に踏まえつつ、より中立性の高い組織設計を目指すべきである」として、FCCやOfcomに加えて、今年できた韓国の放送通信委員会をあげている。これまで「OECD諸国で通信規制の独立行政委員会がないのは日本と韓国だけ」といわれてきたが、ついに日本だけになったわけだ。せっかく法律の抜本改正をやるのだから、総務省の組織も抜本改正してはどうだろうか。

北畑事務次官もめでたく退官し、スペインで老後を過ごす(?)ようだから、経産省も改革派がまた元気を取り戻してほしいものだ。

地デジの非常識

きょうのICPFシンポジウムでは、この業界に長い私にとっても驚くべき話があった。テクニカルな話題なので、関心のない人は無視してください。

ホワイトスペースについてのWerbachのプレゼンテーションは、「問題はデジタルTVではなく、次世代のネットワークのために帯域を開放することだ」という世界の常識だったが、驚いたのはそれを受けたフジテレビの上瀬千春氏(地デジのチャンネルプランのチーフ)の話だ。彼は「アメリカは広い国土に1500しか中継局がないが、日本では13000局もあるので、ホワイトスペースなんてほとんどない」という。ホワイトスペースを中継局間の電波の届かない地域のことと誤解しているらしい。

私が「ホワイトスペースというのは未利用の帯域のことで、中継局の数とは関係ない。たとえばここ(九段)ではテレビは最大10チャンネルしか見えないが、テレビ局は40チャンネル占有する。残りの30チャンネルをホワイトスペースというのだ」と説明しても、彼は「われわれのチャンネルプランでは全国が真っ赤に塗りつぶされている」という。

司会の山田肇氏が「そういう問題ではない。たとえばここに山梨県のテレビ電波が届いても、干渉は問題にならない」と説明しても、上瀬氏は「移動端末は動くので、どこで干渉が起きるかわからない」という。「その問題は、さっきWerbachも説明したように、cognitive radioなどの技術で避けられる」と私がいうと、上瀬氏は「日本は中継局が多いから干渉は避けられない」と言い張る。アメリカのテレビ局と同じく、「干渉」は既得権を守るための呪文なのだ。

林紘一郎氏(ICPF理事長)が、「万に一つも干渉が起きてはいけないという前提に立てば、どんな無線技術も成り立たない。私もかつてNTTで、そういう完全無欠論を振り回して新規参入を妨害した側だが、おかげでNTTのISDNやATMは没落した。地デジも、同じ轍を踏むのではないか。Best effortのインターネットが世界を制覇した事実に学んではどうか」と指摘すると、上瀬氏は黙ってしまった。

さらに私が「10チャンネルの放送に40チャンネルも占有するチャンネルプランは、古い技術に依拠するものだ。地デジのOFDMなら、SFNで10チャンネルの放送には10チャンネルしか必要ないので、残りの30チャンネルはホワイトスペースどころか完全な空きスペースだ」というと、上瀬氏は「SFNは遅延で干渉が起こるからだめだ」という。

SFNの問題は、総務省のVHF帯の懇談会でも論争が続いており、「SFNで6MHzあれば全国がカバーできるので、14.5MHzあれば2方式が可能だ」と主張するクアルコム社に対して、地デジ(ISDB-T)陣営は「SFNは不可能で2チャンネル以上必要だから、VHF帯は全部われわれが取る」と主張している。なるべく非効率に帯域を使うことによって新規参入を締め出すインカンバントの戦略は、世界共通なのだ。

もう一つ驚いたのは、総務省の吉田地上放送課長の「現在93%の世帯をカバーできているが、全国カバーするにはあと9500局建てる必要がある」という計画だった。7%の世帯のために1基1億円の中継局を9500も建てる? 総務省の辞書に費用対効果という言葉はないのだろうか。

それでも「最後は30~40万世帯が残るので通信衛星(CS)でカバーする」という。それなら最初からCSでやったらどうかというと「ローカル民放がいやがる」。アメリカでは、ローカル局もCSにチャンネルを持っている。それなら年間数千万円で1チャンネル借りられるからだ。しかし、それを言い出したら、そもそも地デジがまったくナンセンスだということが露呈してしまうから、今さら路線転換できないのだ。

こうした非常識な計画に冷水を浴びせたのが、小寺信良氏の報告だった。彼によれば、アナログ放送をやめたフィンランドでは、これをきっかけにテレビを捨てる人が大量に出て、国営放送の受信料収入が大幅に落ち込んでいるという。MIAUのアンケート調査でも、「ダビング10など使いにくい地デジは見ない」という答が多く、「2011年にアナログ放送が止まったらどうするか」という質問に対して、ほとんどの人が「テレビは捨てる」と答えたという。Werbachもいうように、2011年はテレビという20世紀のレガシーに縁を切るいい機会だろう。




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