
著者の出身は経産省コンテンツ課の官僚だが、風貌はとてもそうは見えない。本書の中身も、ギョーカイの複雑怪奇なしくみを客観的に分析した入門書だ。書評は来月発売の『アスキードットPC』に書くので、ここでは気になった点を一つだけ:106ページ以下で、「地デジという名の時限爆弾」がテレビ業界を震撼させている様子を描いているが、その原因が「電波を有効利用したいという政府の決定によるものだ」というのは間違いである。
FAQにも書いたように、郵政省の頭には「有効利用」なんかなかった。これは(Q2に書いたように)後からつけた理屈だ。ハイビジョン(MUSE)がMPEGに負けたので、それを取り戻したいという産業政策がメインだった。しかもデジタル化するならCSでやればよかったのに、「県域免許を守れ」という自民党郵政族の政治力で、地デジが決まってしまった。当時、放送政策課長になる予定だったY氏は「1兆円以上かけて地上の中継局を建て直すなんてバカなことはやめるべきだ。CSなら200億円でできる」と主張したが、放送と無関係の部署に異動された。
要するに、「アメリカに負けるわけには行かない」という郵政省の面子と、「電波利権を守れ」という政治家の圧力で、ビジネスとして成り立たない地デジが決まってしまったのだ。当時、これに反対したのは10人だけだった。テレビはもちろん新聞も翼賛報道一色で、特に日経新聞はその後、私の原稿をいっさい載せなくなった。言論統制が誤った意思決定の軌道修正を困難にし、破滅的な結果をもたらすという社会主義の教訓を、日本のメディアがみずから示したわけだ。
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