
ノリントン指揮、シュトゥットガルト放送響(SWR)のコンサート(サントリーホール)を聞いた。メインは、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲とベートーヴェンの交響曲第3番。メンデルスゾーンは・・・だったが、ベートーヴェンは相変わらず元気で、安心した。20年前、古楽器で小編成のLondon Classical Playersを率いて、超スピードのベートーヴェンで世界に衝撃を与えた彼も、今年は74歳。さすがに往年の切れ味はないが、楽団員までリラックスして楽しそうに演奏していたのはよかった。
彼がLCPでデビューしたときは、国内盤さえ出なかった。もちろん『レコード芸術』なども無視。小林秀雄以来の「泰西名曲」をあがめて「楽聖」を絶賛する御用批評家たちにとっては、ベートーヴェンの指定したメトロノームを逆用して従来の重々しい演奏をぶち壊すノリントンのアプローチは、我慢できなかったのだろう。国内に情報がないので、ファンがKanzaki.comというノリントン専門サイトまで作った。
その後、SWRで常識的な編成にしてからは国内盤も出るようになり、2003年にはレコード・アカデミー賞を受賞。「『演奏新時代!』とかいう評者のコメントが今更で笑いを誘います」と神崎氏は書いている。しかし演奏としては、LCPの全集のほうが今でもフレッシュだ。5枚組で4000円強というバーゲン価格で出ているので、こっちをおすすめする。ただ癖が強いので、万人向けではない。ベルリオーズの「幻想交響曲」やメンデルスゾーンの「イタリア」はよかったが、モーツァルトはぱっとしない。特に「魔笛」は最悪だった(いずれもLCP)。
SWRになっても、ノリントンのアプローチは基本的に変わらない。それは、ベートーヴェンを「楽しむ」という姿勢だ。モーツァルトまでの音楽は貴族のための「大衆芸術」だったが、ベートーヴェン以降は近代的な「純粋芸術」として、ありがたく鑑賞するものだ――と誰もが思い込んでいたが、彼はその通念を破壊したのだ。Authenticという建て前だが、もしベートーヴェンが聞いたら怒るだろう。これは、あくまでも20世紀の演奏である。