![]() | ティム・ハーフォードランダムハウス講談社このアイテムの詳細を見る |
フィナンシャル・タイムズの"Dear Economist"というコラムの筆者の本(近刊)。Freakonomicsが売れたので、2匹目のドジョウを当て込んで出版されたのかもしれないが、タイトルどおり中身はまっとうで、いい意味でも悪い意味でも教科書的だ。こういう本は、貸金業規制法を審議する先生方にはぜひ読んでほしいものだ。
当ブログの「グレーゾーン金利」をめぐる記事へのコメントを見ても、世の中では価格メカニズムが理解されていないことがよくわかる。平均金利が23%であるとき、上限を20%に規制したら、資金供給は変わらないで金利だけが下がる、と日弁連は主張し、メディアが同調する。そんなことをしたら市場から大量の債務者が締め出される、という金融庁の見解には「業界寄り」だという非難が浴びせられ、内閣府の政務官が「抗議の辞任」をする。彼に「借りられない人はどうするのか」と質問すると、「生活保護を受ければいい」・・・
本書でも、個々人は「非合理的」に動いているようにみえながら、マクロ的には価格メカニズムが働いている例がいくつもあげられている。交通渋滞をなくすには、直接規制するよりも「課税」するほうが効果的だ。ロンドンでは、市内に入る車に1日5ポンド渋滞課金したら、交通量が1年で1/3減った。欧米でも「労働者を搾取している国からの輸入は禁止すべきだ」といった「反グローバリズム」の主張がよくあるが、こうした保護主義は、結果的に途上国の労働者の職を奪うことになる。
『ヤバい経済学』は専門論文をもとにしているので、その素材はかなり特殊だが、本書の素材は身近で一般的だ。内容も、稀少性、限界費用、外部性、情報の非対称性、ゲーム理論など、経済学の標準的なトピックを幅広く取り上げており、大学1年生の副読本としてはちょうどいいだろう。ただし学問的に新しいことは書かれていないし、実証的なデータに乏しいので、ビジネスマンが読むには物足りないかもしれない。