![]() | トリックスター:「村上ファンド」4444億円の闇東洋経済新報社このアイテムの詳細を見る |
村上ファンドについて、早くから問題を指摘してきた『週刊東洋経済』の取材チームによる本。「表の顔」として資本市場に緊張感を与えた功績は認めながら、「裏の顔」としては、日本の企業風土の厚い壁に阻まれ、結局「仕手筋」のような古い株屋の世界にからめとられていった、というストーリーだ。
ライブドアなど一連の事件の仕掛人が村上氏だったという見方は、大鹿靖明『ヒルズ黙示録』と同じだが、結論は対照的だ。大鹿氏が村上無罪の可能性もあるとし、「国策捜査」説をとるのに対して、本書は「かりに検察にそういう意図があったとしても、違法行為があったことはまちがいない」とし、「社会的に重要な事案を重点的に捜査するのは当然だ」という専門家のコメントもついている。
しかし社会的に重要な違法行為があっても、検察が意図的に見逃すケースがある。1990年代、銀行は「分割償却」という名の粉飾決算を行い、ダミー会社をつくって「不良債権飛ばし」を行った。ライブドアをはるかに上回る違法行為があったことは、経営が破綻したあとで捜査を受けた長銀と日債銀をみても明らかだ。しかし検察は当時、都市銀行を捜査しなかった。それは、この粉飾決算を指導した「主犯」が大蔵省だったからだ。最近の日歯連事件でもわかるように、「巨悪」が巨大すぎると、捜査できないのである。
本書では村上氏の人脈も取材していて、興味深い。なかでも重要なのは、林良造・元経済産業政策局長を頂点とする旧通産省の人脈である。だが参議院議員の松井孝治氏(元通産研総括主任研究官)やウッドランド社長の安延申氏(元電子政策課長)など、村上氏に連なる人々は、ほとんどが通産省を辞めている。しかも村上氏自身(元通産研主任研究官)を含めて、この全員が通産研(およびRIETI)の関係者だ(*)。
これは偶然ではないだろう。通産省(経産省)には、産業政策を復活させようとする「ターゲティング派」と、政府は競争の枠組づくりだけにすべきだという「フレームワーク派」があるといわれる。橋本政権のころまではフレームワーク派が優勢で、省庁再編を仕掛けたのも通産省だった。しかし再編が失敗に終わって、権限が減ることを恐れるターゲティング派が巻き返し、これに対して改革派の牙城としてつくられたのがRIETIだった。
しかし結局、改革は挫折し、事務次官が確実とみられていた林氏は退官、RIETIも解体された。そしてダイエー騒動で産業政策の復活を企んで恥をかいた北畑隆生氏が事務次官に就任し、「日の丸検索エンジン」など時代錯誤の官民プロジェクトが登場している。今回の検察の捜査の背景にある国策が、小泉政権の「小さな政府」の流れを否定し、明治以来の「官治国家」に引き戻す国家意志にあるというのは、うがちすぎだろうか。
(*)林氏はRIETIコンサルティングフェロー、安延氏も2003年まで同じ。