![]() | 開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済池尾和人このアイテムの詳細を見る |
著者と最初につきあったのは、10年前、住専問題についての番組をつくったときだった。そのときから著者は、実質的に破綻した銀行は破綻処理し、国費を投入して早急に処理すべきだ、と主張していた。しかし大蔵省も銀行も問題を先送りしているうちに、傷口はどんどん広がり、「失われた10年」は「失われた15年」になってしまった。
今年3月期の大手銀行の決算は、軒並み史上最高益を記録するなど、不良債権問題が峠を越えたことで、金融業界には楽観論が広がっている。しかし、本当の勝負はこれからである。政府が民間企業を先導して特定分野に資金を配分する「開発主義」的な金融システムがまだ残り、資本市場による「市場型間接金融」サービスの質は、世界的にみてきわめて低い。デリバティブや企業買収などの新しい金融技術の分野では、日本の銀行・証券は大きく立ち遅れている。
「市場主義」を批判する人は多いが、その代わりにどういう制度がいいのか示さない限り、こういう批判には意味がない。Rajan-Zingalesも指摘するように、市場はそれを支える多くの制度的なインフラがないと機能しないのである。これからの日本経済に必要なのは、市場を否定することではなく、グローバルに開かれ、不公正や格差拡大などの弊害を最小化する「質の高い市場」を構築することである。