近代人は遊びを忘れて幸福になったのか

ホモ・ルーデンス (中公文庫 ホ 1-7)
本書は20世紀を代表する歴史家ホイジンガが、その研究成果を晩年に「遊び」というテーマでまとめた古典である。ホモ・ルーデンスとは「遊ぶ人」という意味だ。学生時代に読んでよくわからなかったが、ベラーの本を読んで、その意味がようやくわかった。

遊びは多くの動物にも見られる。類人猿はいたずらしたり、からかったりする。鳥は空中で競争し、鳴き声を競う。これは天敵に見つけられやすいが、そういう遊びが多くの動物に残っていることは、生存競争で有利になることを示す。

遊びは衣食住などの生活の役には立たないが、すべての子供は遊ぶ。だが人間も動物も、見知らぬ相手とは遊ばない。競技のためには、ルールを共有しないといけないからだ。遊びは互いが同じ集団に所属することを確認する共同行動なのだ。

遊びは日常生活の中に非日常を作り出し、文化を生み出す。音楽もダンスも絵画も、人類の歴史とともに古い。縄文式土器と一緒に出てくる膨大な数の土偶には実用的な意味はないが、祭や儀式に使われたと思われる。それが制度化され、宗教になった。

しかし大人が遊びを忘れるように、近代人も遊びを忘れてしまった。それは資本主義の発達で、労働が遊びより重要になり、かつて人々が遊んでいた時間にも働くようになったからだ。それによって人間は幸福になったのだろうか。

続きは10月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

残業規制の緩和で潜在成長率が上がる



かつて「働き過ぎ」といわれた日本人だが、今では一人あたり労働時間はOECDの平均なみで、総労働時間は1990年代から20%以上も減っている。

g0501_02

この原因は時間外労働の規制と非正規労働者の増加である。これが1990年代以降、日本の潜在成長率の下がった一つの原因だ。特に2010年代の安倍政権の「働き方改革」で労働時間が減ったことが、潜在成長率の大きなマイナス要因になっている。

G32Q3scXQAAk74e

2019年の労基法改正で、週45時間以上の残業が(36協定を結んでも)禁止になったことは、建設・運輸などの業界で深刻な人手不足の原因である。この上限を上げて、供給制約を緩和する必要がある。

続きは10月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

片山財務相に期待したい生活保護のコストカット

高市新内閣で最大の注目を集めているのは、片山財務相である。彼女は財務省では1982年入省組のトップで、将来の事務次官候補ともいわれていた。そういう本流のOBが財務相になるのは珍しい。ただこのポストが最後まで決まらなかったのは、高市氏と片山氏のトーンの違いがあるのではないか。



片山氏は女性初の主計官になり、防衛庁の予算を大幅にカットして問題になったこともあるコストカッターである。中でも大きな話題を呼んだのが、生活保護の不正受給をめぐる問題だった。

2012年にお笑いタレントの河本準一の母親が生活保護を受給していた問題が起きた際、片山氏はこれを問題視し、親族の扶養義務を強化すべきだと主張した。それをきっかけに生活保護バッシングが始まり、2013年からおこなわれた生活保護費の大幅引き下げのきっかけになった。

続きは10月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

衆議院は完全小選挙区、参議院は完全比例代表にする「政治改革2.0」

維新が自民と連立政権をつくると合意した。問題の議員定数には国民民主の玉木代表が「賛成」だと言っているので、法案は国会に提出されるだろうが、他の全野党が絶対反対で紛糾し、通るとは思えない。



こんな党利党略で議員定数をいじるのはよくないが、これが「改革の入り口」という吉村代表の話はわかる。やるなら議員定数だけでなく、選挙制度を改正すべきだ。

続きはアゴラ

「コストプッシュ・インフレ」という謎理論をまじめに考えてみた

「インフレの最中に減税とか財政出動するのはおかしい」というと、「コストプッシュ・インフレには財政出動がきく」と反論してくる人がいる。自民党の西村康稔氏もその一人だ。

ところがこの「コストプッシュ・インフレ」という言葉は、経済学の教科書や専門書をさがしても出てこない。しょうがないので、チャットGPTに聞いてみた。

続きはアゴラ

バブルは2度崩壊した

バブル経済事件の深層 (岩波新書)
バブルを考えるとき大事なのは、「あのときこうすればよかった」という結果論は無意味だということである。本書はバブル崩壊とその後処理について、同時代に取材した朝日新聞社会部の記者が書いたものだが、これを読んで気づくのは、銀行が不良債権を処理し始めたのは早かっ意外にたということだ。

イトマン事件で住友銀行の磯田一郎会長が辞任したのは1990年10月、長銀の破綻の原因になったEIEが銀行管理になったのは1990年12月、日債銀が関連ノンバンクの財務内容を調査する「特別スタッフ」を審査室に設けたのは1991年1月である。

しかしバブルという言葉がマスコミに出てくるのは1991年以降で、それが大不況の原因だという認識が一般的になったのは、1995年の「住専国会」で、政府が農協系金融機関に6850億円贈与するという異常な事件が起こってからだが、このときまだ日本の成長率はプラスだった。

成長率が大幅なマイナスになったのは、1998年である。90年代前半がゆるやかなバブルの収縮だったとすれば、このとき初めてバブルが不連続に崩壊し、金融危機になった。バブルは2度崩壊したのだ。

続きは10月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

維新は社会保障改革を捨てて高市自民党に埋没するのか

維新が自民と連立する方向に踏み出した。自民+維新で231議席なので、あと2議席で過半数。これで首班指名では高市首相になることが確実だが、その後はどうなるのか。吉村代表は「維新が消滅するリスクもある」というが、彼らの主張する政策はどうなるのか。

イノベーションは「積極財政」では起こらない

創造的破壊の力―資本主義を改革する22世紀の国富論
今年のスウェーデン銀行賞(ノーベル経済学賞)は、J. MokyrとP. Aghion、P. Howittの3人が受賞した。その授賞理由は「イノベーションによる経済成長」の研究である。

Aghion-Howittの研究は1990年代から数多く発表され、経済学界の共有財産である。本書はそれを一般向けに書いた入門書だが、日本にはいまだに「積極財政でイノベーションを起こす」とか「ターゲティング政策で成長する」とかいう政治家がいるので、そういう人々には本書を読んでほしい。

続きはアゴラ

戦争と植民地支配が近代科学を生んだ(アーカイブ記事)

A Culture of Growth: The Origins of the Modern Economy (Graz Schumpeter Lectures)
今年のノーベル経済学賞にJoel Mokyrが選ばれた。彼は経済学者というより歴史家だが、本書はイノベーションの起源とその意味を明らかにした経済史の記念碑的な著作である。

人類の歴史の大部分で世界最高の文明国だった中国で「産業革命」が起こらず、なぜヨーロッパの小国イギリスで起こったのか、というのは歴史の謎である。その一つの要因が近代科学だが、中国の技術的知識はヨーロッパよりはるかに進んでいたのに、それが「科学革命」に結びつかなかったのはなぜだろうか。

それは中国が文明として完成していたからだ、というのが本書の答である。中国の学問は四書五経を解釈することであり、エリートの条件は古典を暗記することだった。論理は重視されたが、その論証の根拠は古典の記述であり、事実で古典を否定することはできなかった。ここではオリジナリティは重視されず、イノベーションには価値がなかった。

ヨーロッパ中世でも最高の知識人は、聖書やアリストテレスを読んだ聖職者だったが、それを変えたのは16世紀以降の植民地支配と戦争だった。特にイギリス人が自国よりはるかに広い新大陸を支配し、多くの異民族を統治するには、古典は役に立たなかった。フランシス・ベーコンは古典より観察や実験にもとづく科学を主張し、それを未知の大陸を発見するコロンブスの航海にたとえた。

続きは10月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

バブル崩壊の「戦犯」は大蔵省だった

スクリーンショット 2025-10-13 130559

私は1992年11月に「追跡・不良債権12兆円」というNHKスペシャルをつくった(これはそのニュースハイライト)。これは住専(住宅金融専門会社)が巨額の不良債権を抱えているという番組で、不良債権というタイトルをつけた番組は日本で初めてだった。

当時、住専の最大手、日住金(日本住宅金融)が取引先に出した「回収不能な債権が4500億円」と書かれた秘密報告書が、銀行業界に大きな衝撃を与えた。これを私がNC9で報じたところ、翌日の日住金の株価がストップ安になって冷やっとした。

スクリーンショット 2025-10-13 125153

それでも当時は不良債権が総額で12兆円といわれていたが、不動産バブルは予想を超えるスピードで崩壊した。最終的に2003年に清算が終わったときの純損失は112兆円で、そのうち46兆円を公的資金で埋めた。

最大の「戦犯」は大蔵省だった。1990年3月の3業種規制(不動産融資の総量規制)がバブル崩壊のきっかけだったが、1992年の住専危機で、銀行は不良債権を清算しようとしたのに、大蔵省の寺村銀行局長がそれを阻止した。続きを読む


note1
スクリーンショット 2021-06-09 172303
記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ