トランプ関税は法的に止められないのか?

トランプ関税は史上最大の経済的自殺行為だ、とサマーズ元財務長官は批判した。

全世界で反トランプのデモがおこなわれたが、トランプは意に介さないで休日ゴルフをしている。関税執行を止めるのは法律だけだからだ。



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トランプ関税はフーバー大統領の「清算主義」に似ている

エガートソンがトランプ関税についておもしろいスレッドを書いているので、Grokに訳してもらった。


トランプ大統領の関税引き上げが、米国史上最悪の政策失策の一つと広くみなされている1930年のスムート=ホーリー関税法以来最大規模であることは興味深い。この法律は大恐慌の始まりに制定された。

スムート・ホーリー法はもともと、デフレと生産量の急減の際に物価を支え、国内産業を保護することを目的としていた。

直感的に言えば、関税は輸入品に消費税を課すのと同じように価格を上げるはずであり、これは私たちが今予想していることだ。しかし、スムート=ホーリー関税は価格下落を激化させ、工業生産は崩壊した。

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関税収入も減少したが、どのようなメカニズムで価格が下がったのだろうか? そして、同じメカニズムが今も関係している可能性はあるか?

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訴訟、インフレ、外交危機…トランプ関税に世界が揺れる

トランプ関税に異議を唱える訴訟(NYタイムズ)


■ 関税差し止め訴訟の開始
  • 保守系団体「新市民自由連盟(NCLA)」が、国際緊急経済権限法(IEEPA)を使った中国への関税は違法とし、連邦政府を提訴。
  • IEEPAはもともと「経済的緊急事態」対応のための法律であり、「関税の導入には使えない」と主張。

■ 新制度の仕組み
  • ほぼすべての国に10%の基礎関税。
  • さらに「貿易赤字に基づく計算」で国別に1〜40%の追加関税。
  • 例)中国:+34%(累積79%)、ベトナム:+46%、カンボジア:+49%。

■ インフレと生活コスト
  • 食品価格がすぐに上昇:果物、コーヒー、エビ、アルミ缶のビールなど。
  • 低所得層ほど打撃大。平均で家庭ごとに年$2,100の追加負担(イェール大学調査)。小規模メーカー(例:香辛料輸入企業など)は原材料コスト高騰で苦境。

■ 市場と企業の反応
  • S&P500が4.8%、ナスダックが6%下落(コロナ禍以来の大幅下落)。
  • アップル、ナイキ、デル、ビール業界、食品企業などに大打撃。
  • 自動車メーカー(フォルクスワーゲン、ステランティス)は価格転嫁や生産停止へ。

■ 報復と政策転換
  • 中国:34%の報復関税を即日発表。
  • カナダ:25%の報復関税をアメリカ車に課す。
  • メキシコ:報復せず、国内生産強化で対応(食料・エネルギー・繊維など)。
  • EU:交渉継続を希望するが警戒強化。

■ 関税は交渉カードではない
  • トランプ氏:「関税は国家緊急事態への対処。交渉ではない」。
  • 財務長官ベセント:「企業と話す方が国と話すより重要」



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世界に逆襲するラストベルトの「忘れられた白人男性」



トランプ関税が4月9日に決行されるかどうかはまだわからない。上院では大統領が独断で関税を決めるのは憲法違反だという緊急法案が、超党派で提出された。株価が暴落しているので、2008年のTARPのように議会が撤回する可能性もあるが、関税案はまだ上院共和党で多数の支持を受けているらしい。

常識で考えると、この関税はアメリカ経済にも大損害を与え、何のメリットもないが、たぶんトランプのねらいはそこではない。これは「おれの言うことをきかないと罰を与えるぞ」という脅しであり、取引の材料だろう。いったん決行して世界経済を大混乱に陥れてから「このへんでやめといたるわ」となるのではないか。

それはこの暴力的な政策が、トランプ再選をもたらしたラストベルトの白人男性のルサンチマン解消という面もあるからだ。ヴァンス副大統領の書いたベストセラー『ヒルビリー・エレジー』の世界である。

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トランプ関税の背景にある「グローバリゼーションの逆説」

クルーグマンもサマーズもブランシャールも、トランプ関税には怒っているが、この程度はトランプの想定範囲内だろう。彼はまわりにイエスマンを集め、彼らのいうことしか聞かないからだ。

この「相互関税」の論理は支離滅裂である。図1のようにトランプのいう関税率なるものは「貿易赤字÷輸入額」という無意味な数字だ。中国に高率の関税をかけるという結論に合わせてひねり出したもので、平均関税率2.5%の日本に24%も関税をかける。これは相互的でも報復でもない一方的な攻撃である。

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第5世代コンピュータ(アーカイブ記事)

渕一博氏は、1980年代の国策プロジェクト「第5世代コンピュータ」を進める新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)の研究所長だった。私もICOTは何回か取材したが、発足(1982)のころは全世界の注目を浴び、始まる前から日米で本が出て、欧米でも似たような人工知能(AI)を開発する国策プロジェクトが発足した。ところが、中間発表(1984)のころは「期待はずれ」という印象が強く、最終発表(1992)のころはニュースにもならなかった。

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ICOTの唯一の成果PIM(並列推論マシン)

1970年代に、通産省(当時)主導で行われた「超LSI技術研究組合」が成功を収め、日本の半導体産業は世界のトップに躍り出た。その次のテーマになったのが、コンピュータだった。当時はIBMのメインフレームの全盛期で、その次世代のコンピュータは、AIやスーパーコンピュータだと考えられていた。通産省の委員会では、国産のAI開発をめざす方針が決まり、第5世代コンピュータと名づけられた。これは、次世代の主流と考えられていた「第4世代言語」(結局そうならなかったが)の先の未来のコンピュータをめざすという意味だった。

ICOTには、当初10年で1000億円の国家予算がつき、国産メーカー各社からエースが出向した。その当初の目標は、自然言語処理だった。プログラミング言語ではなく日本語で命じると動くコンピュータを目的にし、推論エンジンと知識ベースの構築が行われた。システムは、Prologという論理型言語を使ってゼロから構築され、OSまでPrologで書かれた。これは、Prologの基礎になっている述語論理が、生成文法などの構文規則を実装する上で有利だと考えられたからである。

エンジニアたちは、当初は既存の言語理論をソフトウェアに実装すればよいと楽観的に考えていたが、実際には実用に耐える自然言語モデルがなかったので、言語学の勉強からやり直さなければならなかった。彼らは、文法はチョムスキー理論のような機械的なアルゴリズムに帰着するので、それと語彙についての知識ベースを組み合わせればよいと考えていたが、やってみると文法解析(パーザ)だけでも例外処理が膨大になり、行き詰まってしまった。続きを読む

言葉の意味は「身体」で決まる(アーカイブ記事)

肉中の哲学―肉体を具有したマインドが西洋の思考に挑戦する
20世紀の社会科学のスターが新古典派経済学だとすれば、人文科学のスターは言語学だった。チョムスキーの生成文法は言語をアルゴリズムに置き換え、自動翻訳や自然言語理解を可能にすると思われた。1980年代には、日本の第5世代コンピュータを初めとして、全世界で人工知能に生成文法を実装する国家プロジェクトができたが、すべて失敗に終わった。

挫折の原因も新古典派経済学と似ている。数学的に記述できる統辞論は言語のごく一部で、大部分は意味や文脈などの例外処理なのだ。それを処理するデータをアドホックに手作業で入力すると、そのコストが膨大になって行き詰まってしまう。

それを批判したのがレイコフだった。彼は1960年代にチョムスキーを批判し、自然言語を記号論理で書き換える「生成意味論」を提唱したが、70年代には一転して、言語の本質は論理ではなくカテゴリーだという認知意味論を提唱した。本書はこの理論にもとづいて、プラトン以来の西洋哲学を批判する。

これ自体はポストモダンによくある「ロゴス中心主義」批判だが、ポストモダンの場合は知的アナーキズムで決定不能になってしまう。言語の意味が相対的だとすれば、なぜ多くの人が同じ意味を共有するのか。それを決めるのがカテゴリーだとすれば、そのカテゴリーはどうやって決まるのか。遺伝的な普遍文法がないとすれば、経験からどうやって言葉が生まれるのか。

本書は、基本的カテゴリーは身体のメタファーで決まるという。脳は思考のためにできたのではなく、身体を動かすために進化したので、その機能は身体の各器官と結びついている。子供は外界を認識するとき、それを自分の身体の一部として認識するので、日常語には「顔をつぶす」とか「手先になる」というように、身体をメタファーにした表現が多い。そういう空間・時間認識が言語の原型になるというのだ。続きを読む

トランプ関税は保護主義ではなく戦略である

とうとう関税戦争が始まった。アメリカでは300人の経済学者が反対の署名をしたが、トランプは意に介さない。関税は彼が選挙運動で売り物にしていたからだ。そのブレーンとされるOren Cassは、これを擁護している。



彼はアメリカの中国に対する貿易赤字が国内の雇用を奪っていると信じているようだ。これは1980年代にレーガン政権が日本を攻撃しときと同じ錯覚で、経済的にはナンセンスである。貿易赤字は資本収支の黒字すなわち対米投資が大きいことを示す数字で、善でも悪でもない。

彼の設立したAmerican Compassというシンクタンクの報告書は、関税についてこう述べている:
1. 関税は「保護主義」ではなく「戦略」である
  • 関税を単なる保護主義と否定するのは誤り。国家の産業基盤や雇用を守るための正当な政策手段である。
  • 中国のような国家主導経済に対抗するためには戦略的な貿易管理が必要。
  • グローバル競争は多くのアメリカ産業を脆弱にした。関税は、国内企業が公平に競争できるようにするための手段だ。
2. 製造業の再生のための関税活用
  • 長年にわたり、安価な輸入品(特に中国や東南アジア)によってアメリカの製造業は空洞化。
  • 関税をかけることで、国内産業への投資を促進し、雇用の回復を図る。
  • 特に鉄鋼、半導体、医療機器など戦略的産業には積極的な関税政策を。
3. 「自由貿易信仰」からの脱却
  • 1990年代以降のアメリカ政策は、自由貿易を絶対視しすぎていた。
  • NAFTAや中国のWTO加盟は、結果としてアメリカの製造業喪失と地域社会の崩壊を招いた。
  • 新しい貿易政策は、国民経済の強靭性と自立を重視すべき。
4. 政策提言
  • 戦略的セクターへの恒常的な関税:特定の国内産業(例:鉄鋼・半導体)を守るための長期的な関税
  • 中国製品への強化関税:不公正な補助金や国家介入に対抗する
  • 供給網の再構築支援:国内生産に切り替える企業に対し、関税と補助金を組み合わせて支援
つまりアメリカの製造業の空洞化が労働者(プアホワイト)の没落を招いたという批判である。これは事実だが、それを関税で止めることはできない。問題は悪化するだけだ。

続きは4月7日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

トランプ関税は「不確実性」で世界経済を大混乱に陥れる

トランプが「相互関税」を発表した。中国には34%、EUには20%、日本に対しては自動車などに24%の関税をかけるという。



ブランシャール(IMF元理事)が、トランプ関税の影響を予想している。

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AI時代に言語学の存在の意味はあるのか?

AI時代に言語学の存在の意味はあるのか??認知文法の思考法
AIブームは人工知能という言葉が生まれた1950年代から3回あった。第1のブームは1980年代の古典的人工知能だったが、これは完全な失敗に終わった。第2は2000年代に深層学習(ニューラルネット)が話題になったときで、画像処理や音声認識ができるようになった。

しかし人間の知能のコアは言語であり、言葉を理解する自然言語処理はニューラルネットではできなかった。東大の入試問題を解かせようとした東ロボくんも挫折し、自然言語処理には絶対的な限界があると思われていた。

ところが本書が出版された2023年に登場したチャットGPTは、その状況を大きく変え、第3のブームを生んだ。ニューラルネットで自然言語を処理する大規模言語モデルが実用化したのだ。本書はそのインパクトを言語学の立場から語っている。

ここ半世紀の言語学は、チョムスキーの生成文法とそれ以外の異端派の戦いだったが、異端派は1990年代から認知言語学と名乗るようになった。その特徴は
  • 文法と語彙の区別を認めない
  • 言葉の意味は文脈で決まるという使用ベースモデル
  • 文法は経験的なパターン認識で決まるというスキーマ理論
これはLLMとまったく同じである。それは認知言語学の影響を受けたのだろうか。GPTに聞いてみた。続きを読む


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