![]() | 貧困の終焉―2025年までに世界を変える早川書房このアイテムの詳細を見る |
Time誌の「2005年の人」には、貧困に苦しむ途上国の「よき隣人」として、U2のボノとビル・ゲイツ夫妻が選ばれた。これまであまり「おしゃれ」な話題ではなかった途上国の貧困が、「ホワイトバンド」のような形でファッションになったのは、まぁ悪いことではない。そのボノが「教師」とあおぐのが、本書の著者ジェフリー・サックス(コロンビア大学地球研究所長)である。
著者は28歳でハーバード大学の教授になった秀才だが、その学問的な評価はわかれる。とくに彼が顧問として招かれたロシアの経済改革においては、エリツィン政権の経済顧問として、急速な市場経済化による「ショック療法」(彼はこの言葉をきらっているが)を提案し、ロシアを貧困のどん底にたたきこんだ張本人として知られている。
その後、著者は国連のアナン事務総長の特別顧問として、途上国とくにアフリカの貧困対策に努力する。本書の中心となっているのも、毎日1万人以上がエイズやマラリアで死んでゆくサブサハラ地帯の貧困問題だ。しかし、この問題に取り組む国連の「ミレニアム・プロジェクト」の予算は、イラク戦争につぎこまれた戦費の1/100にも満たない。彼は「援助は腐敗した政治家の隠し財産になるだけだ」というシニカルな意見に反論し、「よいガバナンス」は必要だが、成長率とガバナンスとの間には相関はほとんどなく、「地に足のついた援助」は効果を発揮すると説く。
著者の情熱とヒューマニズムには、だれしも脱帽するだろうが、途上国援助を批判する者がすべて「人種差別主義者」であるかのような一面的な主張には、いささか鼻白む。またブッシュ政権の単独行動主義を批判する一方、「反グローバリズム」のデモに一定の理解を示す姿勢には、党派的なにおいも感じるが、著者の扱っている問題が、テロや地球温暖化よりもはるかに重要であることは疑いない。