今年は終戦後77年。明治維新から敗戦までと同じである。この起点を一種の「革命」と考えると、そこには単なる偶然以上の一致がある。
戦後でいうと、1950年代まではアメリカのまねをしているだけで成功した。自民党は何もせず、役所も規制しなかったので民間は自由に実験し、そのうちトヨタやソニーなど、ごく一部が大成功したが、それを政府のおかげだと思って民間に過剰介入し、経済が停滞してしまった。
共通しているのは、日本が成功したのは(きわめて低い確率の)幸運だったが、それを実力と錯覚して同じ路線を取り続けたことだ。
戦後の高度成長も、当事者はほとんど予想できなかった。本書で印象的なのは、全国総合開発の中心人物だった下河辺淳(国土庁長官)が「日本の高度成長は政府のおかげですか」という質問に「いやそこは微妙だ」と答えたことだ。
下河辺氏には私も取材したことがあるが、三全総についてオンカメラのインタビューを受けてくれなかった。「私は黒子だから表に出たくない」といっていたが、それは謙遜ではなく、政府の予想以上の成長が実現したことをうまく説明できなかったのだろう。
ところが自民党はこれを成功体験と勘違いし、通産省の産業政策で世界をリードするとか、国土開発で内需拡大するとかいう夢を追った。それはバブル崩壊で挫折したのだが、いまだに何が間違っていたのかわからない。
池田勇人が「所得倍増」を掲げたとき、誰もそんなスローガンを信じていなかった。日本は極東の小国で、戦争にボロ負けし、焼け跡から立ち上がるのが精一杯だった。アメリカも日本がライバルになるとは思っていなかったから、冷戦の中でアジアの橋頭堡にするために在日米軍の駐留を続けた。
しかし日本経済は、誰も予想していなかった高度成長を遂げた。1950年代から60年代にかけて、GNPは年平均10%という世界史上最高の成長を遂げ、所得は倍増どころか、10年で3倍増になったのだ。その原因は日本人の努力だけではなく、日本を占領したのがアメリカだったという幸運である。
ところがこの運を実力と錯覚し、政府主導で成長できると主張する人々が絶えない。それでもちょっと前までは財政ではなく金融でやるべきだという節度があったが、アベノミクスの挫折後は、コロナ対策のようなあからさまな財政バラマキに回帰している。
今回の「防衛増税」はそれを収拾しようとする財務省の戦略だろうが、自民党の国防族はMMTで抵抗している。それが満州事変のような戦争をまねくことはないだろうが、日本のゆるやかな停滞を急速な衰退に変える可能性はある。
- 混乱期:革命後の大混乱の中で、訳もわからず西洋のまねをした(明治維新~日清戦争)
- 成長期:予想外の成功を遂げ、アジアの大国になった(日露戦争~第1次大戦)
- 侵略期:調子に乗って大陸を侵略し、大失敗する(満州事変~敗戦)
- 敗戦~60年安保
- 高度成長~不動産バブル
- バブル崩壊~現在
戦後でいうと、1950年代まではアメリカのまねをしているだけで成功した。自民党は何もせず、役所も規制しなかったので民間は自由に実験し、そのうちトヨタやソニーなど、ごく一部が大成功したが、それを政府のおかげだと思って民間に過剰介入し、経済が停滞してしまった。
共通しているのは、日本が成功したのは(きわめて低い確率の)幸運だったが、それを実力と錯覚して同じ路線を取り続けたことだ。
親の予想以上に育った子
本書でもいうように、日露戦争で日本が勝った最大の原因は、戦争中にロシアで革命が起こったという偶然であり、ポーツマス条約は予想以上の大戦果だった。しかし国民はそれを不満として日比谷焼き討ち事件を起こし、政府が本当のことをいわなかったので、軍も自分の実力を過大評価するようになった。戦後の高度成長も、当事者はほとんど予想できなかった。本書で印象的なのは、全国総合開発の中心人物だった下河辺淳(国土庁長官)が「日本の高度成長は政府のおかげですか」という質問に「いやそこは微妙だ」と答えたことだ。
実はどうも赤ん坊にしては大きな赤ん坊が生まれてきて、その大きな赤ん坊に合わせるようにいっぱい洋服をつくった。そうしたら赤ん坊は金太郎さんで、もっと大きくなっていった。しかし民間の努力で経済成長しました、と言ったら政府の顔が立たないから、官民協力体制の下で一生懸命やったから成長したんだ、という話にした。
下河辺氏には私も取材したことがあるが、三全総についてオンカメラのインタビューを受けてくれなかった。「私は黒子だから表に出たくない」といっていたが、それは謙遜ではなく、政府の予想以上の成長が実現したことをうまく説明できなかったのだろう。
ところが自民党はこれを成功体験と勘違いし、通産省の産業政策で世界をリードするとか、国土開発で内需拡大するとかいう夢を追った。それはバブル崩壊で挫折したのだが、いまだに何が間違っていたのかわからない。
池田勇人が「所得倍増」を掲げたとき、誰もそんなスローガンを信じていなかった。日本は極東の小国で、戦争にボロ負けし、焼け跡から立ち上がるのが精一杯だった。アメリカも日本がライバルになるとは思っていなかったから、冷戦の中でアジアの橋頭堡にするために在日米軍の駐留を続けた。
しかし日本経済は、誰も予想していなかった高度成長を遂げた。1950年代から60年代にかけて、GNPは年平均10%という世界史上最高の成長を遂げ、所得は倍増どころか、10年で3倍増になったのだ。その原因は日本人の努力だけではなく、日本を占領したのがアメリカだったという幸運である。
ところがこの運を実力と錯覚し、政府主導で成長できると主張する人々が絶えない。それでもちょっと前までは財政ではなく金融でやるべきだという節度があったが、アベノミクスの挫折後は、コロナ対策のようなあからさまな財政バラマキに回帰している。
今回の「防衛増税」はそれを収拾しようとする財務省の戦略だろうが、自民党の国防族はMMTで抵抗している。それが満州事変のような戦争をまねくことはないだろうが、日本のゆるやかな停滞を急速な衰退に変える可能性はある。