日本国債は「合理的バブル」である(アーカイブ記事)

バブルの経済理論 低金利、長期停滞、金融劣化
貨幣はバブルである。これは150年前にマルクスが「商品の物神性」として指摘したことだが、今も正しい。1万円札の使用価値は20円しかないので、その価値はバブルだが、人々がそれを1万円の商品と交換する限り続く。中央銀行は「国営バブル」を維持する機関ともいえる(2021年8月1日の記事の再掲)。

ゼロ金利の状況では国債も貨幣と同じであり、余剰資金を社会的に循環させる合理的バブルである。これには次のような特徴がある。
  1. 長期金利(r)が名目成長率(g)より低い限りバブルは維持できる
  2. r<gのときバブルは効率的である(将来世代との利害対立が発生しない)
  3. 必要な安全資産の総量は一定なのでバブルは代替する
ここで重要なのは3の条件である。1980年代後半にも、都心の地価は収益還元価格を超え、その利回りはマイナスだったが、それは安全資産として保有された。これをGDP比でみると、90年代以降、土地と国債を合計した安全資産の比率はほとんど変わっていない。つまり土地が国債にバブル代替されただけなのだ。

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バブルの代替(本書より)

国債がこのような安全資産になったのは、実はそう古い話ではない。日本でr<gになったのは、2013年に黒田日銀の量的緩和が始まってからの10年足らずである。この不等式が逆転してr>gになると、国債バブルは終わるのだ。

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長期金利と名目成長率続きを読む

生成AIに「知性」はないのか?

Noam_Chomsky_portrait_2015GPTは人間と同じような言葉を使うが、それは人間と同じように考えているわけではない。たとえば「東京の人口は何人か?」と質問すると、GPTは地理の本で調べるのではなく「東京、人口、何人」という言葉(トークン)を入力し、その次に出てくる言葉の確率を計算する。その結果、

2025年5月1日現在、東京都の推計人口は 14,170,275人 です。

という答が返ってくるが、これは質問を聞いて考えているのではなく、入力された言葉の出てくる数万の文を検索し、その中に出てくる言葉の確率分布の分布行列から、次に出てくる言葉の確率を計算するのだ。これは人間が脳内でおこなっている思考とはまったく違う。

チョムスキーはこれを批判して「GPTには知性はない」という。人間にはわずかな情報から世界を効率よく説明する能力があるが、AIは大量のデータからパターンを学び、言葉を統計的に再現しているだけで、何も考えてはいないという。

確かにAIに思考力はないが、チョムスキーが70年かかってもできなかった「文を自動的に生成する」という作業をGPTは瞬間的にやってしまう。それは鳥がどうやって飛ぶかを知るために飛行機を調べるようなもので、決して知性の本質にはたどりつけないというが、そうだろうか?

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消費税の呪われた歴史

消費税 政と官との「十年戦争」 (新潮文庫)
また消費税が政局の焦点になってきた。欧州の付加価値税(VAT)はフランスの左翼が創設し、タックスヘイブンで節税する金持ちにも課税できる平等主義の税制だったが、日本ではれいわ新選組のような左翼が反対し、自営業やフリーターが支持する。その原因は消費税の制度設計に欠陥があったからだ。

大型間接税の議論は1970年代に始まる。高度成長期のあり余る財源で田中角栄はバラマキ福祉を始めたが、石油ショックで財政が行き詰まり、財政法で禁じる赤字国債(特例公債)を出すことになった。

財政法では起債のたびに特別法を国会に出すことになっており、もし野党が多数派になって反対すると国債が発行できず、デフォルトになってしまう。そこで大平正芳は安定財源を求めて欧州の付加価値税(VAT)のような一般消費税を公約に掲げたが、政局に利用されて1979年の総選挙で大敗した。

中曽根康弘は国会で「流通の各段階で投網をかけるように総合的に税金をかける考えは持っていない」とVATを否定したが、結局1987年に卸・小売に5%課税する売上税の法案を国会に提出した。これは製造業にはかけない「日本型付加価値税」だったが、国会で野党に「嘘つきだ」と批判を浴びて廃案になった。

そこで大蔵省は田中派の政治力に期待し、消費税ができたのは竹下内閣の1989年4月だった。これは大平内閣の原点に戻ったVATで、税率も3%とスモールスタートだったが、運悪くリクルート事件に遭遇し、満身創痍の竹下首相は法案成立と引き替えに退陣した。このとき国会で税法改正してからわずか4ヶ月で増税したため、制度にいろいろな穴があいたままの見切り発車だった。

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野党は740万人の「パート大増税」を許すのか

自民党は13日の総務会で年金制度改革法案を了承し、政府は16日にも法案を閣議決定して国会に提出する予定だ。法案の骨格だった「基礎年金の底上げ」には「厚生年金の流用だ」との批判が強く、これでは参院選を戦えないと判断した。

「年収106万円の壁」をなくしてパート労働者に厚生年金を適用拡大する制度は残したが、中小企業の事業主負担に難色を示す声が党内で強く、拡大完了を次の財政検証の時期以降に先送りした。



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「金利のある世界」で消費減税すると国債バブルが崩壊する

消費減税は政局の焦点になってきたが、世論調査では圧倒的に減税派が多い。どこの社でも6割を超え、特に気になったのは、NHKの調査では40歳未満で消費減税+廃止が75%と、圧倒的な支持を得ていることだ。



これはSNSの影響だろう。XでもYouTubeでも、減税派が圧倒的だ。TikTokには財務省解体や消費税廃止やれいわ新選組の動画があふれている。

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消費減税は「金持ち減税」その混乱は食料品非課税で大きくなる

いま消費減税は最大の話題である。野党は消費減税の要求で一致し、内閣不信任案も出せる情勢だ。石破首相は減税を否定したが、森山幹事長は「勉強会」を始めた。

党内の旧安倍派グループや公明党からも減税要求が強いので、与野党の妥協点として維新や立民の提案する食料品の非課税が出てくる可能性が高い。そこでチャットGPTにシミュレーションしてもらった。

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ことばをつくる

ことばをつくる―言語習得の認知言語学的アプローチ
20世紀の哲学や人文科学の潮流を言語論的転回と呼んだのはローティだが、その言語中心主義の頂点がチョムスキーの生成文法だった。そこでは言語の本質は人類に共通の普遍文法で、それを発見することが言語学の使命だったが、それから70年たっても普遍文法は見つからない。

子供の言語習得については刺激の貧困と呼ばれる問題があり、子供が親の貧困な語彙を聞くだけで短期間に話せるようになるのは、脳内にあらかじめ普遍文法をもっているからだというのがチョムスキーの仮説だった。しかしトマセロはこの仮説を多くの実験結果をもとにして全面的に否定する。

子供の刺激は貧困ではない。与えられる音声や映像の刺激は膨大で、子供はそこから家族の顔や習慣などを覚えていく。言葉もそういう習慣の一つである。それは体系的な普遍文法を応用するのではなく、多くの試行錯誤の中で断片的な言葉を徐々に長い文にしてゆく

試行錯誤で正解に近づく上で重要なのは、意図の共有である。最初はカタコトを発している子供が、1歳ぐらいで空気を読んで親の言葉をまねるようになる。これは他の霊長類にはない能力で、大規模言語モデル(LLM)で言葉の意味を文脈から推測するのと似ている。

もう一つはパターンの発見である。親の言葉を繰り返し聴いているうちに、そこに同じパターンを見つけてまねるようになる。ここには句構造や生成規則などのルールはなく、繰り返しの中から共通のパターンを推測する。これもLLMがパターンを見つけるのと同じだ。

続きは5月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

消費減税の財源は「永久国債」で出せる(アーカイブ記事)

消費減税は貴重な社会保障財源を減らす愚策だが、財源には対応策がある。日銀のバランスシートから国債を消せばいいのだ。その方法として今まで提案されたのは次の3つである。
  1. 日銀が償還を求めないと宣言する
  2. 政府が国債を永久債で借り替える
  3. 政府が財政赤字を増やしてインフレ税をかける
1は日銀が保有国債の償還を求めないで、すべて塩漬けにするものだ。これは国債を日銀券に置き換えるだけなので、国民がすべて合理的なら、ほとんど何も起こらない(ややインフレになる)というのがブイターの理論である。

日銀が正式に債権放棄すると減損処理が必要になるので、暗黙の約束でいい。今でも満期までに売却することはないので、これは日銀が正直になるだけだ、というのがターナーの黒田総裁への提案だった。

「ヘリコプターマネー」は永久国債と同じ

2はターナーがヘリコプターマネーという奇抜な名前で提案して話題になったが、これはもともとフリードマンの言葉で、それほど奇想天外な話ではない。玉木氏の提案も論理は同じである。

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消費減税で「日本版トラスショック」は起こるか

超長期国債の市場に異変が起こっている。売買の過半数が海外ファンドになったのだ。

40年物国債(13回債)の価格は史上初めて50円を切った。
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賃金デフレを生んだ原因は「ゾンビ社員」を守る労働組合だった



長期金利が連日、史上最高を更新し、きょうは40年債の価格が50円を割った。この原因は消費減税の大合唱で、遠からず石破政権も減税を検討するという観測が出ているからだろう。インフレのとき全野党が減税を大合唱する光景をみると、日本は資本主義の後進国だと痛感する。

物価を考える デフレの謎、インフレの謎 (日本経済新聞出版)
本書も黒田総裁以来の異次元緩和を振り返り、日本の特殊性を強調している。日本の「デフレ」が20年以上も続いた原因は、資本主義の常識では理解できない。その原因は、ひとことでいうと自粛だという。

デフレの中で賃上げすると企業収益が悪化するので、労働組合は賃上げ要求を自粛する。このため企業は値上げを自粛し、横並びの価格より少しでも値上げするとパッタリ売れなくなるので値上げしない…という悪循環になる。

これはよくある説明だが、そもそも労組がなぜ賃上げ要求を自粛するのかがわからない。労働生産性が低いならわかるが、日本の労働生産性上昇率はG7の平均程度だ。これが河野龍太郎氏も取り組んだ「デフレの謎」である。

著者の答は財界の賃上げ自粛要求である。1995年に日経連が出したレポート「新時代の日本的経営」では、日本の賃金がドルベースで世界最高になったことを指摘し、中国に比べて日本の賃金が高いことが日本企業が国際競争力を失った原因だと主張して賃上げの自粛を求めた。これは事実だが、その悪循環が30年も続いたという説明には無理がある。

河野氏はその原因は資本家の「収奪」だというが、これも根拠薄弱だ。答はもっと単純だと思う。正社員ギルドである労組は雇用を守るために賃上げを自粛し、企業は中高年の正社員の雇用を守るために新規採用をやめてパートを雇ったのだ。それが就職氷河期の悲劇を生んだ原因でもある。続きを読む


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