イノベーションに必要なのは「否定的知識」

推測と反駁-科学的知識の発展-〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス 95)
生成AIがバブルの様相を呈しているが、それはしょせん事務員を代替する機械学習であり、いくらビッグデータを集積してもイノベーションは生まれない。ポパーは経験を帰納して科学理論が生まれるという「帰納主義」を否定し、新しい理論を生むのは経験ではなく仮説だとした。

タレブはポパーの否定的知識(subtractive knowledge)を高く評価し、イノベーションに必要なのはビッグデータではなく、既存の常識を否定することだという。そういう自由な学問が初めて生まれたのは、古代ギリシャだった。

ソフィストと呼ばれるソクラテス以前の自然哲学者は互いを自由に批判し、タレスやアナクシマンドロスは弟子が師匠を批判することを奨励した、とポパーは書いている。彼らは原子論やピタゴラスの定理などの自然哲学を生んだ。クセノパネスはこう書いている。

 神が万物を明らかにするのではない
 われわれが自分の探究によって
 時とともに学び、知識を深めてゆくのだ

しかし古代ギリシャの自然哲学は、ローマ帝国に継承されなかった。それがイスラム圏を通じて中世ヨーロッパに伝えられ、自然科学を生んだのは、その1700年も後だった。なぜかくも長い間、古代ギリシャのイノベーションは忘れられたのだろうか。

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財政タカ派の逆襲が始まったが、財政再建の目標が的はずれ

自民党の裏金事件のゆくえは混沌としているが、今の段階で一つだけはっきりしていることがある:これまで質量ともに自民党の中心だった安倍派が解体され、第2次安倍政権以来の金融・財政バラマキ路線が終わることだ。その象徴的な出来事が、財政健全化推進本部の新体制である。



これまでも自民党内では財政タカ派の健全化本部と「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が併存していたが、安倍派を中心とする後者が圧倒的に優勢だった。それが今回の騒ぎで空中分解し、健全化本部の本部長が古川禎久、本部長が小渕優子、幹事長が青木一彦という茂木派からの脱藩組で占められた。

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地球温暖化で先進国の死亡率は減る

昨年の地球の平均気温は観測史上最高だったが、日本では何の被害もなかった。寒さで死ぬ人は暑さで死ぬ人の9倍なので、温暖化で全世界の死者は減った。これを示したのがZhaoらのLancet論文で、世界の死者は温暖化で0.3%減った。



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宇宙はなぜ人間のために「微調整」されているのか

宇宙とは何か (SB新書)
物理学の観測問題と並ぶ難問として微調整問題がある。これは宇宙の構造を決めるパラメータが、人間の生存に適した値に微調整されているという事実である。

たとえば量子力学のプランク定数はゼロに近いごく小さな定数だが、それがゼロだと電子は原子核に吸い込まれて消滅する。宇宙定数と呼ばれる真空のエネルギー(斥力)は10-123とゼロにきわめて近いが、ゼロだと宇宙は重力で収縮して消滅する。

普通の液体は固体になると体積が小さくなるが、氷は水素結合で中心に六角形の空間ができるため、体積が大きくなって水より軽くなる。こういう物質は自然界には水だけだが、この性質が生命の誕生にとって決定的だった。もし氷が水より重かったら、氷河期には海底から凍ってゆき、海はすべて凍結して生物は死んでしまう。氷が海面に浮いて太陽光を遮断したから、生物は水の中で生きていけたのだ。

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その他にも生物の生存に必要な値をとっているパラメータは少なくとも40あるが、それがなぜその値をとるのか、また互いにどんな関係にあるのかはわからない。それは偶然と考えるしかないが、そんなに多くの微調整が独立に起こる確率はゼロに近い。それを説明する論理が人間原理(anthropic principle)である。

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長期停滞はマクロ経済政策で変わらない

日本の経済政策 「失われた30年」をいかに克服するか (中公新書)
中公新書は先月、リフレ派の飯田泰之氏に財政・金融政策の本を書かせたと思ったら、今月は財政タカ派の小林慶一郎氏に経済政策を書かせている。それなりにバランスを取ったのだろうが、人選がよくない。

飯田氏はリフレ派がなぜ間違えたのか反省しないで「積極財政」を語り、小林氏は『ハイパーインフレがこの国を滅ぼす』などという本を書いたことを反省しないで、相変わらず緊縮財政を説いている。

「失われた30年」といわれる長期停滞の原因を考える上で、金融政策が役に立たないことは自明である。それはもともと短期の「需要の先食い」だから、いくら続けても成長率は上がらない。ましてゼロ金利では、通常の政策手段はない。黒田日銀の「異次元緩和」の目的は「人々のインフレ期待を動かす」というものだったが失敗した。

では財政政策はどうか。これについては財政赤字が増えるとインフレが起こって持続可能ではないと考えられていたが、2000年代にこれを見直す動きが出てきた。ゼロ金利なら国債はフリーランチであり、財政赤字を増やしてもインフレにはならないが、持続的な成長には結びつかない。

要するに長期停滞はマクロ経済政策ではどうにもならないことがわかったわけだが、著者はその原因は財政の「将来の不安」だという。

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統合政府は608兆円の債務超過

また高橋洋一氏が嘘を繰り返しているので、訂正しておこう。

これは一昨年の記事で私が指摘したことだが、そもそも彼のいうバランスシートは、資産と負債がバランスしておらず、BSになっていない。日本政府は、1661兆円も国債を発行していない。

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太陽光のコストは蓄電を含めると原子力の15倍

原子力に世界の投資家の注目が集まっている。COP28では、日本を含む22ヶ国が原子力を3倍にするという宣言文書に署名し、ウランの価格は1年で55%上がり、福島第一原発事故以来、最高になった。この背景には、ウクライナ戦争以来の化石燃料価格の上昇がある。

もう一つは再エネを補完するコストが大きくなったことだ。再エネがマイナーなエネルギーだったときは稼働率は問題にならなかったが、もし再エネ100%になると、夜間などにはその電力を蓄電して発電しなければならない。蓄電池のコストは約10万円/kWhで、火力の1万倍。連系線の強化にも莫大なコストがかかるが、これは再エネ業者の負担すべきものだ。続きを読む

日本は30年前に光を見た

最近の政局の混乱をみると、30年前に永田町を取材していたころを思い出す。政治資金スキャンダルが表面化し、その捜査の結果、大物政治家が逮捕をまぬがれたことに国民が怒り、それをごますために自民党が「派閥解消」を言い出すのも同じだ。



1993年6月に宮沢内閣の不信任案が可決されたとき、Economist誌は「日本は光を見た」という記事を書いた:

自身の党を分裂させて政府を崩壊させることを目的とした反乱を主導した羽田孜氏は6月18日、宮沢喜一首相に向かい、皮肉ではなく頭を下げた。驚異的な経済的成功や不可解な政治と同様に、その絶妙な礼儀正しさにおいて、日本は長い間他の国とは異なっているように見えてきた。

いま羽田氏・小沢氏と彼の反逆者たちは、日本の独自性の主な特徴の一つ、つまり自民党を38年間連綿と政権の座に保ち続けてきた政治システムに風穴をあけた。日本人の中には、自民党の崩壊をベルリンの壁の崩壊にたとえる人もいる。日本では確かに革命が起きているのかもしれない。

やがて一枚岩の自民党の解体と政治の開放が、その背後にある変化を加速させるだろう。日本の有権者が自分たちの要求をよりオープンに表現するようになれば、日本の政治家も彼らの利益をより明確に反映するようになるだろう。それは古いシステムを操作していた少数の人々から、新しいシステムにもっとアクセスできる多くの人々へと影響力を広げることにつながる可能性が高い。

あのとき私を含めて多くの日本人が、永遠に続くかと思われた自民党政権が崩壊したことにあっけにとられ、日本が変わると思った。私がサラリーマンをやめようと思ったのは、あの日、国会で不信任案の可決を中継したときだった。

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政策活動費って何?

自民党の裏金問題をめぐって、政治資金規正法にいろんな抜け穴があることが話題になっています。そのうち最大の穴が政策活動費だといわれています。チャットGPTに聞いてみました。

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岸田首相の「安倍派追放」で30年前に似てきた政局

自民党の裏金問題をめぐって、岸田首相が岸田派を解散し、安倍派に離党を求めるなど強硬な方針をとり、政局がにわかに風雲急を告げてきた。これは私がNHKで政治番組の現場にいた30年前の政局と、そっくりの展開である。
  1. 自民党の幹部が検察の捜査を受ける:1988年に竹下内閣でリクルート事件が起こり、検察は大規模な捜査をしたが、起訴した国会議員は藤波元官房長官と公明党の池田議員だけで、他の議員は会計責任者の略式起訴だけだった。

  2. 国民の怒りが高まり、政局が流動化する:竹下内閣が倒れ、宇野内閣も倒れて、海部内閣になり、1991年に懸案の政治改革三法案を閣議決定して国会に提出したが自民党内の反対が強く廃案となり、海部内閣も倒れた。

  3. 竹下派が分裂:1992年に宮沢内閣になったが、8月に金丸信副総裁が東京佐川急便から5億円の政治献金を受け取っていたことが判明。これも政治資金規正法違反で罰金20万円に終わったため、検察庁の入口の石碑に何者かが黄色いペンキをかけた。金丸は失脚し、竹下の後継者をめぐって内紛が始まった。

  4. 小沢グループの離党:当初は竹下の後継者とみられていた小沢一郎が、金丸をめぐる検察との取引の失敗の責任を問われ、竹下派の内紛が拡大。後継者に小渕恵三が選ばれたことに反発した小沢グループが派閥を離脱した。

  5. 内閣不信任案の可決:1993年6月18日、小沢グループを含む39人が野党の提出した宮沢内閣不信任案に賛成して可決。宮沢首相は衆議院を解散。

  6. 細川内閣の成立:総選挙では自民党はほぼ改選前の議席を維持したが、過半数には届かず、新生党を核とする非自民・非共産の8会派が細川護煕を首相に立て、自民党政権が38年ぶりに終わった。
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