日本が大量の難民を受け入れるときが来る


埼玉県の川口市で、クルド人の暴動が相次いでいる。川口や蕨にはクルド人が集団で住み、スラム街ができている。暴動のほとんどは仲間内の喧嘩だが、警官に暴力を振るうケースもあり、市内の病院には約100人が搬送されている。

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そして世界に不確定性がもたらされた

そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命
戦間期のウィーンは、20世紀の科学の方向を決める重要な発見を生み出した。シュレーディンガーが波動方程式を発見したのはウィーンであり、同じ時期にドイツでハイゼンベルクが不確定性原理を独立に発見し、両者は数学的に同一であることが証明された。敗戦で混乱と貧困のどん底にあったドイツとオーストリアで、20世紀の物理学がほとんど完成されたのはなぜだろうか?

本書は、この謎の答を決定論の放棄に求めている。物理学者は、それは時代状況とは無関係な論理的必然だったというだろうが、シュレーディンガーなどが数学的に定式化した実験的事実は、第一次大戦前にすべて発見されていた。量子力学を完成するために必要なのは、実験ではなくアイディアだった。ファインマンは、有名な講義のなかでシュレーディンガー方程式を説明したあと、こう述べている。

この方程式はどこから得られたのか。どこからでもない。これを諸君の知っているどんな事実からも導き出すことはできない。これはシュレーディンガーの精神から生まれたものである。

事実から理論は帰納できない。量子力学は、戦争ですべてを失い、実験もできないウィーンの研究室で、観念として結晶したのだ。量子力学は、古典力学的な素朴実在論では理解できない。物理量は確率分布としてしかわからないという波動関数や、物質の位置と運動量は一義的には決まらないという不確定性原理は、古典的な物質の実在や因果関係の概念をくつがえすものだった。

その理論が、すべての価値が崩壊した戦間期のウィーンで生まれたのは偶然ではない。ウィーンは19世紀の知的遺産が集まる焦点となり、そこから20世紀の新しい文化が生まれた都市だった。戦災とハイパーインフレで破壊されたウィーンで、人々は永遠の未来まで予見可能なニュートン的秩序が崩壊し、世界は本質的に不確実で、人間の意志で運命を決めることはできないと知ったのだ。

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ヒトラーの「ケインズ政策」はなぜ成功したのか

ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)
今夜から始まるアゴラ経済塾「インフレ時代に資産を守る」パート3(まだ受け付け中)の一つのテーマは、ケインズである。彼の理論は1936年に急に出てきたのではなく、1929年以降の大恐慌の中で均衡財政を守るマクドナルド内閣に対して赤字財政を求める政治的なメッセージだった。

しかし『一般理論』は難解で、イギリスでは採用されなかった。アメリカでもルーズベルトはケインズの論文を読んでいなかった。ニューディールは普通のインフラ投資であり、1936年に終わってしまった。ケインズ理論の最大の「成功例」はナチ・ドイツである。

ヒトラーが政権を掌握した1933年以降、大量失業やハイパーインフレがなくなり、失業者は1932年の557万人から1939年には12万人へと激減した。原田泰氏は日銀の審議委員だったとき、これを「ヒトラーの財政・金融政策は正しかった」と述べて批判を浴びたが、彼はその原因を知らなかった。

ナチはアウトバーンなどの公共事業と、毎年100万人以上の徴兵で雇用を創出した。軍事費は1933年の8倍以上に膨張し、軍需生産は工業生産の40%に達した。ヒトラーはケインズを知らなかったが、それは結果的にケインズ理論と一致していた。このような極端な赤字財政は、民主国家では不可能だった。ナチの経済政策は戦時経済だったのだ。

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マイナンバーとマイナンバーカードはどう違うの?



マイナンバーカードをめぐって混乱が続いていますが、河野太郎デジタル相が「マイナンバーとマイナンバーカードは違うので、マイナンバーカードという名前はやめた方がいい」と発言し、さらに混乱しています。いまだにその区別もわからない人が多いので、やさしく解説しましょう。

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「掃除魚」がフリーライダーを罰する警官になる

「協力」の生命全史: 進化と淘汰がもたらした集団の力学
最近、話題になるマイナカードとインボイスと不法滞在と再エネには共通点がある。社会のコモンズにただ乗りすることだ。マイナカードやインボイスに反対する人々の本当の理由は税金逃れである。不法滞在の目的は社会保障へのただ乗りであり、再エネの目的は電力インフラへのただ乗りである。

このようなコモンズの悲劇は昔からよく知られている。ただ乗りは合理的行動であり、数が少ないときは大した問題ではないが、再エネのようにフリーライダーが多くなるとコモンズが侵食され、だれも電力インフラに投資しなくなる。

これはゲーム理論では多人数の囚人のジレンマとしておなじみだが、それは人間の行動であり、相手の行動を知らない動物とは無縁な現象だと思われていた。ところが著者の実験で、ソメワケベラという魚にもコモンズを有効利用する行動がみられることがわかった。

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ソメワケベラの掃除(Wikipedia)

ソメワケベラは亜熱帯の海に住む体長12cm程度の魚だが、上の写真のように大きな魚(ホスト)の鱗についた寄生虫を食う掃除魚として知られている。ここではホストの体がコモンズで、ソメワケベラは寄生虫を取り除くwin-winの関係を築いているが、数が多くなるとホストの鱗を食うフリーライダーが出てくる。そんなことをするとホストは逃げてしまう。

おもしろいのは、そこからである。掃除作業にただ乗りした魚(ほとんどは雌)を雄がしつこく追いかけ、尾びれをかじったりして嫌がらせするのだ。こういう攻撃を受けた雌は、雄に協力するようになる。

これは裏切り者を処罰しているようにみえるが、追いかける雄には何も利益がない。いわばコモンズを守る警官の役割を演じているのだが、このシステムはどうやって維持されているのだろうか。

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マイナンバーカードに反対する人が恐れる本当の理由

マイナカードをめぐる騒ぎが続いている。確かに設計に問題があり、システムが複雑でわかりにくいが、この背景には国民総背番号をきらう人々の反発を恐れていろんな役所がばらばらに制度をつくり、挫折した長い歴史がある。



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「グリーン成長」の夢が終わってトレードオフの現実が始まる

スクリーンショット 2023-06-30 152445世間の人はほとんど使わないが、経済学者だけが使う言葉にトレードオフがある。これは予算制約があるとき、一つの目的に資金を使うと他の目的に使う資金が減るという当たり前の話だが、これを理解できない人が多い。

それは日本だけではなく、世界的にも「脱炭素化で成長できる」という夢を売り歩くマスコミや投資ファンドが後を絶たない。ひところ日経新聞が激しく展開した「カーボンゼロ」キャンペーンもその一種だが、今週のEconomist誌は、そういうグリーン成長は幻想だと指摘している。

この手の夢物語の特徴は、気候変動対策でGDPが増えると想定することだ。たとえば政府が水素・アンモニアに補助金を出して価格をLNG以下に下げると、それを輸入する商社や燃やす電力会社はもうかるだろう。経産省は今後15年間で水素・アンモニアに7兆円の補助金を出す予定だが、これは納税者に負担を移転しているだけで、GDPは減る。環境と成長はトレードオフなのだ。

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2030年には世界のCO2の半分以上は途上国(中国を除く)から排出されるようになるが、彼らにはそれを削減する財政的余裕がない。図のように世界の気候投資の8割は欧米やアジア太平洋で行われ、南米やアフリカにはほとんど投じられない。洪水などで最大の被害を受ける国にはインフラ投資する資金がないのだ。

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「戦争の国営化」の歴史が逆転する

The Modern Mercenary: Private Armies and What They Mean for World Order (English Edition)
最近のロシアの状況を見て思い出したのは、世界の戦争の歴史は傭兵の歴史だったということである。ワグネルのような民間軍事会社(PMC)は新しい現象ではなく、ウェストファリア条約以前の戦争は、傭兵の戦いだった。英語のsoldierの語源は、古代ローマで使われた通貨ソリドゥスである。

ワグネルが示しているように、軍は金で雇われた組織暴力であり、古代の戦争は民営だった。中世の戦争は短期契約の傭兵によって行なわれたが、戦争が日常的に行なわれるようになると、傭兵は金で敵国に転ぶので危険だった。戦争に勝ち残ったのは、徴兵制で市民を戦争に動員し、租税でそのコストを徴収した租税国家スペインやイギリスだった。

地上戦では城壁が発達するにつれて、それを破壊する武器は重火器しかなくなり、巨額の資本を調達できる国が勝ち残った。イタリアのような都市国家の傭兵では、物量の戦争には勝てなくなり、フランスのように国民に「国を守る」というナショナリズムをもたせて戦争に動員する国民国家が最強になった。

戦争に動員される成年男子が投票で指導者を選び、彼らが租税で軍事費を負担する近代国家は、戦争の国営化だった。ワグネルのようなPMCを見ていると、その歴史が逆転して傭兵に回帰しているのかもしれない。今のところ彼らの兵力は2万5000人程度で、ロシア正規軍の85万人にはとてもかなわないが、PMCが核兵器をもてば情勢は変わる。

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混沌からの秩序

混沌からの秩序
プリゴジンという名前が毎日メディアに出るので、何の関係もないが、ノーベル賞を受賞した物理学者イリヤ・プリゴジンの古典を紹介しよう。スペルは違うが、こっちのプリゴジンもロシア生まれなので、ロシア系の名前なのだろう。

彼の最大の業績は非平衡系の熱力学で、カオスとか自己組織系の先駆である。熱力学の第2法則ではエントロピーは増大するので、秩序が混沌になることはあっても、その逆はないが、現実には混沌から秩序が発生することがある。

その身近な例は水の沸騰である。水は水温が上がったら連続的に気化するのではなく、100℃になるとすべて気体になり、泡や対流が不連続に発生する。このように外部から熱が加わる開放系では、新たな秩序への相転移が起こるのだ。有名な例はベロウソフ・ジャボチンスキー反応で、臭化物イオンを触媒としてカルボン酸を臭素化すると、物質の濃度や色が周期的に変化する。



銀河系も地球も生物も、こうした非平衡系の自己組織化である。プリゴジンはそこから宇宙全体に通じる法則を見出そうとしたが、結果的にはその逆を証明した。自己組織化はきわめてまれな現象で、開放系でも定常的にエネルギーが流入しないと秩序は維持できないので、高等生物が宇宙で生まれる確率はゼロに近いのだ。

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2022年 超過死亡倍増の謎



これは22日に収録した討論会だが、3時間41分もあり、内容も未整理で、このままでは聞くに堪えない(最初の1時間は飛ばしたほうがいい)。ただ噛み合わない議論の中で、一つだけわかったことがある。それは2022年に超過死亡が倍増した原因がいまだにわからないということだ。

一つの仮説はコロナ感染者が増えたということだが、このうちコロナ死者は4万人しかいない。あとの7万3000人のうち、最大の死因は老衰である。これ以外にも、誤嚥性肺炎やアルツハイマーやパーキンソンといったコロナと無関係な慢性疾患の死者が激増した。
この原因として次の3つが考えられる。
  1. ワクチン接種の影響
  2. 長期間隔離されて体力が落ちた
  3. コロナ偏重の医療体制で慢性疾患が放置された
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