The Wealth of Networks: How Social Production Transforms Markets And FreedomYale Univ Prこのアイテムの詳細を見る |
著者には、レッシグと一緒に会ったことがある。「電波コモンズ」の提唱者としての功績は大きいが、それ以外のLaw Journalの論文は凡庸だ。本書についてレッシグは、当然のことながら裏表紙で
In this book, Benkler establishes himself as the leading intellectual of the information age. Profoundly rich in its insight and truth, this work will be the central text for understanding how networks have changed how we understand the world.と絶賛しているが、率直にいってそれほどの本ではない。私の感想は、Publisher's Weeklyの
Though Benkler doesn't really present any new ideas here, and sometimes draws simplistic distinctions, his defense of the Internet's power to enrich people's lives is often stirring.という書評に近い。
著者は法学者だが、本書のコアになる議論は、オープンソースやWikipediaなどのネットワークによる「社会的生産」が、市場に匹敵する自律的なメカニズムかどうかという経済学の問題である。著者は、Tiroleなどの議論を参照して、オープンソースが経済メカニズムとして成立することを説明し、行動経済学の文献を援用して、知的労働には金銭的な「インセンティヴ」よりも内的な「モチベーション」のほうが重要だと指摘する。
そこまではいいのだが、そのあとが続かない。「IBMではライセンス料よりもオープンソースの収入のほうが多くなった」といったアドホックな例がいろいろ出てくるだけで、論理が展開しない。本書が示しているのは、たかだか「市場とは別の情報生産・流通システムが存在する」ということまでで、そのメカニズムは明らかでないし、それが市場とどういう関係にあるのかもわからない。
しかし、これはないものねだりというものだろう。当の経済学者が、この問題を系統的に説明できないのだから、法学者にそれを求めるのは酷だ。おそらく、その答にもっとも近いところにいるのは、オープンソースについても行動経済学についても論文を書いているTiroleだろうが、彼でさえ決定的な答は出せていない。これは21世紀の社会科学にとってもっとも重要な問題のひとつだと思うが、21世紀のうちに答が出るかどうかもわからない。
追記:本書の中身は全部、著者のサイトからPDFファイルでダウンロードできる。ただし500ページもあるのでご注意を。