ネット株の心理学小幡績このアイテムの詳細を見る |
これまで経済学者の書いた投資のガイドブックといえば、有名な『ウォール街のランダム・ウォーカー』のように、市場に勝つことはできないので、インデックス投信のようなバスケットを長期保有してファンダメンタルズでもうけよ、と教えるものが多い。この立場からは、デイトレーディングはリスクの高いギャンブルであり、株式市場で使われている罫線分析などは、まったくナンセンスな占いみたいなものだ、ということになる。
こういう「効率的市場仮説」では、情報はすべて株価に織り込まれているので、値動きは外的なショックによって生じる予測不可能なランダム・ウォークになるはずだ。しかし現実の値動きはランダムではないので、短期的には株価を予想することは不可能ではなく、罫線分析も一定の意味をもつ。なぜなら、それは人々の「心理」の動きを示しており、短期的な株価を決めるのは企業業績ではなく、投資家の心理だからである。
著者は「行動ファイナンス」の専門家であり、デイトレーダーとして実際の取引も行っている。本書には、その体験にもとづいた具体例がいろいろあっておもしろい。たとえば、バリュークリックジャパン(後のライブドア・マーケティング)の株式が100分割されたとき、その高値のピークで買うべきか、といった例をもとに、常識の裏をかく投資テクニックが紹介される。
重要なポイントは、常識とは逆に、短期の「鞘取り」に徹し、もうかっても損しても、その日のうちに手仕舞うことだ。こういう投資行動は、実はデイトレーダーだけではなく、外為市場でもみられる。彼らの扱う金額はデイトレの数万倍だが、どんなに大きな損が出ても、その日のうちにポジションを閉じるのが鉄則である。従来は取引手数料が高かったため、個人投資家にはこういう取引ができなかったが、ネット証券で手数料が非常に安くなったため、プロと同じリスクヘッジが可能になったのである。
行動ファイナンスは、従来の「合理主義的」な投資理論よりも実証的な説明力が高く、実際の取引にも使われるようになっている。こうした行動経済学は、アドホックな「心理主義」という批判を浴びることもあるが、集計的なレベルでは値動きがベキ分布に従うといった規則性もみられるので、ここから新しい経済理論が出てくる可能性もある。