このところ放送業界は、YouTubeの話題で持ち切りだ。フジテレビは「ワッチミー!TV」という投稿ビデオサイトを作り、サイバーエージェントは"Ameba Vision"を作った。しかし放送局の多くは、こうしたサイトに懐疑的である。「コンプライアンス」がうるさくいわれる昨今、合法か違法かよくわからないビデオを出すのはリスクが大きいし、グレーなサイトにはスポンサーもつかない、というわけだ。
しかし、形式的には同じことが普通のウェブサイトにもいえる。1990年代後半、インターネットが普及し始めた初期には、「著作権法違反のファイルをホームページに載せている」としてISPが警察の家宅捜索を受け、ハードディスクが押収されるといった事件がよくあった。こうした問題については、2001年にプロバイダー責任制限法ができ、ISPは著作権者から申し出があってその事実を知った場合には削除する責任を負うが、知らなければ著作権侵害の事実があっても賠償責任は負わないと定められた。
アメリカのDMCAの規定も、ほぼ同じだ(というか、こっちが先)。YouTubeも、この免責条項(セーフハーバー)を根拠にして、「YouTubeはISPなので賠償責任は負わない」と主張している。しかしNapster訴訟では、「NapsterはISPではないので、セーフハーバーは適用されない」として、Napster側が敗訴した。その理由は、Napsterのサイトは「接続を提供していない」のでISPではないというものだった。今度、もしもテレビ局が訴訟を起こしたとすれば、YouTubeがISPかどうかが争点になるだろう。この点、YouTubaはサーバで「接続を提供している」ので、ISPとみなすという解釈もできるかもしれない。
しかし、本質的な問題は法律ではない。たとえ違法であっても、権利者が出そうと思えばコンテンツは出せるし、合法であっても権利者に出す気がなければ出てこない。要は、権利者にとってメリットがあるかどうかなのである。法的には、たとえば全世界のホームページをキャッシュしているグーグルを著作権法違反(無断複製)で訴えることもできるが、だれもそんな訴訟は起こさない(*)。何のメリットもないからだ。逆に、MovieLinkなどのダウンロード・サービスが鳴かず飛ばずだったタイム=ワーナーは今、P2Pで映画を配信し始めている。そのほうが伝送効率がいいからだ。
音楽のネット配信によってP2Pがデビューしたのは、不幸な偶然だった。音楽ファイルは、著作権侵害の事実が同定しやすく、複製を差し止める法益が大きいという点で、特殊なコンテンツだからである。普通のHTMLファイルでは、プロが書いた文章とアマの文章を区別することは困難だが、音楽の場合には、ほとんどのMP3ファイルはプロの作ったものだから、「P2Pで送られるファイルの大部分は違法だ」という主張が成り立ちやすい。この点、映像はむしろ文章に近い。アマチュアの作った曲は、まず聞くに耐えないが、YouTubeのユーザーの作ったビデオ・クリップは、素材さえおもしろければ、十分楽しめる。
最初にNCSA Mosaicを見たときの衝撃は、忘れられない。それは一目で革命的な技術とわかるものだった。私がそれと同じような衝撃を受けたのは、Napsterのときだけである。ブラウザをWeb1.0とすれば、Web2.0と呼べる革命的な技術はP2Pだった。それは、すべての「ホスト」を同等に扱うインターネットのE2Eの構造に回帰するという点でも重要だった。しかし、P2Pサイトは「接続を提供していない」(それが最大のメリットなのに)という理由で、Web1.0を想定したセーフハーバーによって守られず、幻の技術になってしまったのである。
私の経験では、いまインターネットは、1993年にMosaicが登場したとき、1999年にNapsterが登場したとき以来の、3度目の岐路にあるような感じがする。1度目の危機は、ウェブが急速に広がって既成事実になったことで乗り越えたが、2度目はそれを「教訓」としたレコード産業が迅速に対応したため、P2Pはつぶされた。3度目の今、テレビ局や映画会社はレコード産業の失敗に学んでいるようにもみえるが、YouTubeがどっちへ転ぶかは、まだわからない。レコードやVTRのような技術は、短期的には音楽・映画産業の敵のようにみえたが、長期的にはこうした複製技術によって娯楽産業は成長してきた。重要なのは、法廷ではなくビジネスによって問題を解決することである。
(*)これは間違い。グーグルのキャッシュをめぐる訴訟は過去にも起こされている。
しかし、形式的には同じことが普通のウェブサイトにもいえる。1990年代後半、インターネットが普及し始めた初期には、「著作権法違反のファイルをホームページに載せている」としてISPが警察の家宅捜索を受け、ハードディスクが押収されるといった事件がよくあった。こうした問題については、2001年にプロバイダー責任制限法ができ、ISPは著作権者から申し出があってその事実を知った場合には削除する責任を負うが、知らなければ著作権侵害の事実があっても賠償責任は負わないと定められた。
アメリカのDMCAの規定も、ほぼ同じだ(というか、こっちが先)。YouTubeも、この免責条項(セーフハーバー)を根拠にして、「YouTubeはISPなので賠償責任は負わない」と主張している。しかしNapster訴訟では、「NapsterはISPではないので、セーフハーバーは適用されない」として、Napster側が敗訴した。その理由は、Napsterのサイトは「接続を提供していない」のでISPではないというものだった。今度、もしもテレビ局が訴訟を起こしたとすれば、YouTubeがISPかどうかが争点になるだろう。この点、YouTubaはサーバで「接続を提供している」ので、ISPとみなすという解釈もできるかもしれない。
しかし、本質的な問題は法律ではない。たとえ違法であっても、権利者が出そうと思えばコンテンツは出せるし、合法であっても権利者に出す気がなければ出てこない。要は、権利者にとってメリットがあるかどうかなのである。法的には、たとえば全世界のホームページをキャッシュしているグーグルを著作権法違反(無断複製)で訴えることもできるが、だれもそんな訴訟は起こさない(*)。何のメリットもないからだ。逆に、MovieLinkなどのダウンロード・サービスが鳴かず飛ばずだったタイム=ワーナーは今、P2Pで映画を配信し始めている。そのほうが伝送効率がいいからだ。
音楽のネット配信によってP2Pがデビューしたのは、不幸な偶然だった。音楽ファイルは、著作権侵害の事実が同定しやすく、複製を差し止める法益が大きいという点で、特殊なコンテンツだからである。普通のHTMLファイルでは、プロが書いた文章とアマの文章を区別することは困難だが、音楽の場合には、ほとんどのMP3ファイルはプロの作ったものだから、「P2Pで送られるファイルの大部分は違法だ」という主張が成り立ちやすい。この点、映像はむしろ文章に近い。アマチュアの作った曲は、まず聞くに耐えないが、YouTubeのユーザーの作ったビデオ・クリップは、素材さえおもしろければ、十分楽しめる。
最初にNCSA Mosaicを見たときの衝撃は、忘れられない。それは一目で革命的な技術とわかるものだった。私がそれと同じような衝撃を受けたのは、Napsterのときだけである。ブラウザをWeb1.0とすれば、Web2.0と呼べる革命的な技術はP2Pだった。それは、すべての「ホスト」を同等に扱うインターネットのE2Eの構造に回帰するという点でも重要だった。しかし、P2Pサイトは「接続を提供していない」(それが最大のメリットなのに)という理由で、Web1.0を想定したセーフハーバーによって守られず、幻の技術になってしまったのである。
私の経験では、いまインターネットは、1993年にMosaicが登場したとき、1999年にNapsterが登場したとき以来の、3度目の岐路にあるような感じがする。1度目の危機は、ウェブが急速に広がって既成事実になったことで乗り越えたが、2度目はそれを「教訓」としたレコード産業が迅速に対応したため、P2Pはつぶされた。3度目の今、テレビ局や映画会社はレコード産業の失敗に学んでいるようにもみえるが、YouTubeがどっちへ転ぶかは、まだわからない。レコードやVTRのような技術は、短期的には音楽・映画産業の敵のようにみえたが、長期的にはこうした複製技術によって娯楽産業は成長してきた。重要なのは、法廷ではなくビジネスによって問題を解決することである。
(*)これは間違い。グーグルのキャッシュをめぐる訴訟は過去にも起こされている。