アゴラセミナー「AIは世界を変えるか」

2022年11月に発表されたチャットGPTは、世界に大きな反響を呼びました。従来は画像処理や音声認識などの特殊な仕事に使われていたAI(人工知能)が言葉を理解し、どんな質問にも答えられるようになったからです。そのユーザーは4億人を超え、世界は生成AIで大きく変わろうとしています。

ITの社会的影響は今まで論じ尽くされていますが、自然言語処理はその限界でした。コンピュータが人間を超えるシンギュラリティはSFの世界で、機械が人間と同じレベルになるのは2060年ごろともいわれていましたが、GPTはそれを一挙に実現したようにみえます。

しかしそのしくみは、人間の脳の処理とはまったく異なるものです。GPTは大規模言語モデル(LLM)という技術でインターネットから膨大なデータを集めて人間の言葉をまねているだけで、言葉の意味は理解していません。

ただ文書作成の能力は人間よりはるかに高く、そういう事務労働はホワイトカラーの仕事の大部分を占めます。公務員や銀行員、あるいは弁護士や会計士などの文書作成業務は生成AIで代替できるでしょう。

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トランプの関税戦争を指南するスティーブン・ミランの支離滅裂な理論

トランプ米大統領の関税引き上げに対抗して、カナダやEUが報復関税を発表しました。まるで100年前のような関税戦争が始まりましたが、トランプは何を考えているのでしょうか。その鍵を握るのが、スティーブン・ミランという謎の人物です。

Q. トランプの関税引き上げの目的は何ですか?

トランプ大統領は就任初日に「アメリカ第一主義の通商政策」を発表し、関係閣僚に対して不公正貿易慣行の是正や貿易赤字の削減に向けた具体的な施策の検討を指示しました。

2025年3月12日からは、1962年通商拡大法232条にもとづき、鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の追加関税を課す措置を実行に移しました。 彼が関税引き上げを打ち出す目的は、多岐にわたりますが、主な狙いは以下のとおりです。
  1. 国内製造業の活性化:輸入品に関税を課すことで、国内製品の競争力を高め、特に自動車産業などの製造業の復活を促進する

  2. 貿易不均衡の是正:関税引き上げとドル安政策を組み合わせ、国際貿易のバランスを取り戻す

  3. 国家安全保障の強化:関税を通じて半導体などの重要産業を保護し、国家安全保障を確保する

  4. 政府歳入の増加と財政赤字の削減:関税収入を増やすことで、連邦予算の均衡化や財政赤字の削減を図る
しかしこれらの関税政策には、物価上昇や貿易相手国からの報復関税といったリスクがあります。

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トランプ政権の怪人が提案する「マールアラーゴ合意」の危ない内容

スクリーンショット 2025-03-12 104059トランプ米大統領の関税政策は、カナダなどの報復をまねき、それに対してアメリカが50%の関税をかけるなど大混乱になっているが、彼の理論武装となっているのが、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長になったスティーブン・ミランという人物の「最適関税」理論である。

彼はボストン大学を出てハーバード大学で博士号を取り、ヘッジファンドのシニアアナリストになった。経済学者としてのキャリアはなく、その理論は常識では理解できないが、まずその内容を紹介しよう。

彼の理論を包括的に書いているのが、2024年11月に発表したグローバル貿易システムを再構築するための手引き、通称マールアラーゴ合意である。彼はこの論文で持続的ドル高がもたらす経済不均衡の是正に向けたロードマップを提示した。

アメリカの貿易赤字は24年に1.2兆ドルと史上最高を記録した。その原因はドルの過大評価だ、とミランはいう。ドルは各国で外貨準備として保有されているため、つねに貿易収支が均衡する水準より高い。

これを是正するのは、通常の多国間協定では不可能だ。そこで彼は、アメリカがその超大国としての地位を利用して、他国の外貨準備を減らす第2のプラザ合意を提案する。その方法は控えめにいって奇想天外である。

続きは3月17日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

AIが人間を超える「シンギュラリティ」は実現するか

シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき
著者の2005年の本『シンギュラリティ』は物笑いの種だった。シンギュラリティ(特異点)とはAIが人間を超える点で、それを超えるとコンピュータがコンピュータを作り出し、人間を支配する「人工超知能」ができる、というテクノ・オプティミズムだった。だがAIの学会では2018年になっても、機械が人間レベルの知能を獲得するのは2060年ごろだろうと予測していた。

しかし2024年に出版された本書は、もう笑い物ではない。それは2022年に発表されたチャットGPTのインパクトが大きかったからだ。機械学習はニューラルネットで画像や音声のパターン認識をするだけだったが、GPTの大規模言語モデル(LLM)は、ニューラルネットを自然言語処理に応用して、人間と同じ文章が書けるようになった。

この経済的なインパクトは大きい。ホワイトカラーの仕事の大部分は文書作成なので、GPTで代替できる。公務員や銀行員の8割はGPTで代替できるだろう。弁護士や会計士は、AIに免許を与えれば100%代替できる。AIのもっているデータは人間よりはるかに多いので、文書作成においては人間を超えたといっていい。

では著者のいうようにAIは人間を超えるだろうか。それは定義の問題である。古典的なチューリングテスト(人間と区別がつかない)では、GPTの書く文章は人間と区別できず、その情報量は人間をはるかに超えているので人間を超えたといってもいい。

しかしGPTの言語処理は人間の脳内でおこなわれている処理とは違い、意味を理解していない。このため最初は見当違いな答しか出さなかったが、2020年ごろ大きなブレイクスルーが起こった。ベクトルの次元を示すパラメータが1000億を超えたときGPTは突然、賢くなったのだ。それはなぜか。

続きは3月17日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

維新は無能な働き者だが、国民民主は有能な卑怯者

維新と国民民主の予算案への対応は対照的だった。維新は早々に前原共同代表が高校税金化を「満額回答」として予算に賛成してしまい、それを前提にして自民党と交渉した結果、高額療養費制度の負担増まで賛成してしまった。

これに対して国民民主は、玉木代表が役職停止中に自民党の「年収123万円」の基礎控除引き上げという提案を蹴っておきながら、あとになって復活折衝した。今度は自民党に蹴られて公明党が老人優遇の修正案を出し、玉木氏は敗北宣言を出した。


結束すれば予算を大幅に修正できるチャンスにバラバラに行動した点は共通しているが、維新が簡単に自民に取り込まれたのに対して、国民は「年収178万円」という高い球にこだわって玉砕した。

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世界を男女関係で語る本居宣長の「もののあはれ」

本居宣長―「もののあはれ」と「日本」の発見―(新潮選書)
夫婦別姓反対から男系天皇に至るまで、自称保守の誇る「日本の伝統」は、賀茂真淵のいうますらをぶりである。これは儒学の男性中心の伝統であり、わが国の伝統ではない、と本居宣長は批判した。

真淵が依拠したのは日本書紀だったが、宣長の依拠したのは古事記だった。両者は同時期に書かれたが、大きな違いがある。日本書紀の基調は「日本」という国を中国や朝鮮半島などとの対比で描くナショナリズムだが、古事記には日本という国号さえ出てこないのだ。

宣長がそれに対置したのは、女性的なたをやめぶりだった。彼は古事記をやまとことばに翻訳した『古事記伝』によって、その深層にある古来の伝統は、中国から輸入した「からごころ」とはまったく違う「やまとごころ」だと指摘した。彼は日本という国号も拒否し、天皇が詔勅で使う「大八洲」という国号を使った。

ではやまとごころとは何か。これについて宣長は、有名な歌を詠んだ。

 敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花

これは戦時中に「大和魂」の表現としてよく使われた歌だが、宣長の意図はその逆である。この「敷島」は日本の別称だから、前半は「日本の思想とは何か」という問いだが、それに対して彼は「朝日に匂ふ山桜花」という具体的な美を対応させている。

これが彼のもののあはれの思想を象徴する歌である。皇帝の権力を正統化する儒学が学問の本流だった中国とは違い、日本には世界の本質を探究する学問は生まれなかったが、知識人は膨大な和歌を詠んだ。古今和歌集に表現されているのは、世界を男女関係で語る関係主義である。
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参謀本部はどうすれば日米戦争に勝てると思っていたのか

今年は戦後80年。石破首相は「戦後80年談話」を出すつもりらしい(8月まで彼が首相なら)。きょうも国会で猪瀬直樹氏の著書『昭和16年夏の敗戦』の「価値は不滅」だと語った。

こんな認識で80年談話を出すのはやめてほしい。猪瀬氏の本に書かれている「総力戦研究所」の図上演習は、実際の開戦決定とは無関係な頭の体操であり、そこで出た結論(日米の戦力差が大きいので戦争には勝てない)はもともと陸海軍の共通認識だった。

実際の日米戦争の指針となった「対米英蘭蒋戦争終末促進ニ関スル腹案」でも、日米戦争に勝つ戦略は書かれていない。そこではドイツと提携してドイツがまずイギリスを屈服させ、あわせてソ連も打倒すれば、アメリカは継戦意志を失うだろうという願望が書いてあるだけだ。

陸軍作戦部長 田中新一 なぜ参謀は対米開戦を叫んだのか? (文春新書)
ここでは日米の戦力差が10倍以上あることは大前提で、最初に南方の資源地帯を占領して石油などを獲得して持久戦の「自給態勢」をとることになっていた。日本が単独でアメリカに勝てないことは東條首相も軍幹部も知っていたのだ。

東條も陸軍省の武藤軍務局長も対米交渉で妥協しようとしたが、参謀本部の田中新一作戦部長が強硬な方針を出して譲らなかった。彼を中心とする参謀本部の強硬論が、最終的に開戦に突入した決め手だった。では田中はどうすれば日本が勝てると考えていたのか。

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インフレの最中にガソリン減税を主張する国民民主と維新は国民の敵

ガソリン減税(暫定税率の廃止)を今年4月に前倒ししろという国民民主党の主張に、維新が賛成する方針を決めた。

暫定税率はリッター当たり25.1円で、この廃止が国民民主党の従来からの主張だった。昨年12月の自公国3党合意で、2026年4月からの実施が決まったが、国民民主はこれを今年4月に前倒ししろと主張し、それに維新も合意した。

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ラピダスは田中角栄のかけた「開発主義の呪い」

西村康稔氏が産業政策(たぶんラピダスを念頭に置いて)の意義を訴えている。

これは誤りである。潜在成長率は資本と労働と生産性(TFP)で決まるので、政府投資が潜在成長率を高めることはありえない。このようなターゲティング政策は、終戦直後の鉄鋼産業や石油化学工業の育成では成功したが、1970年代以降の大プロ(大型プロジェクト)はほとんど失敗した。

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アメリカとヨーロッパとロシアの別離のとき

大地のノモストランプ・ゼレンスキー会談は決裂し、アメリカはウクライナから手を引く方針だ。これでトランプの予定通り、ウクライナはプーチンに売り渡されるだろう。それを批判することは容易だが、それ以外の選択肢はあったのだろうか。

プーチンの領土拡大の背景にあるのは、ヨーロッパに対する大ロシア(ロシア・ウクライナ・ベラルーシ)である。ロシアは地理的には東欧に分類されるが、アジア的専制という点では中国に近い。シュミットも指摘するように、ヨーロッパというラウム(圏)は近世以降の概念であり、プーチンの世界とは違う。

南北アメリカ大陸も一つのラウムである。これは1823年のモンロー主義宣言で決まったもので、第一にすべてのアメリカ諸国の独立、第二に植民地化の拒絶、第三に域外列強の不干渉だった。それは孤立主義ではなく、南北アメリカの連帯の宣言だった。

シュミットがラウムという概念を発想したヒントはモンロー主義だったが、ここから考えるとアメリカとヨーロッパとロシアが別々のラウムになることが自然だ。アメリカがヨーロッパを守るNATOのコストの7割を負担するのは割に合わない。NATOから脱退したいというトランプの欲求は歴史的に自然である。

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