日本でも原則は「解雇自由」である(アーカイブ記事)

日本経済の長期停滞の最大の原因が労働市場にあるとの認識は、最近多くの人に共有されるようになり、解雇規制を緩和すべきだという意見がようやく公に議論されるようになった。

しかし実は、法律上の解雇の制限という意味では、日本の解雇規制はそれほど厳格ではなく、OECDの基準でも平均よりややゆるやかである。民法では、契約自由の原則で一方の当事者が申し出れば雇用契約は終了するので、解雇は自由である。

労働基準法では「30日の予告」を定め、組合活動などによる不当解雇を禁止しているぐらいだが、労働契約法16条では解雇権濫用法理が明文化された。これがほぼ唯一の実定法による解雇権の制限である。

最大の問題は、判例で整理解雇が事実上、禁止されていることだ。特に整理解雇の4要件が労基法と同等の拘束力をもっているので、事業部門を閉鎖するまで解雇できない。

大企業の人事部はそれを知っているから、指名解雇はしないで「肩たたき」で希望退職させる。これは解雇ではなく自己都合退職なので解雇規制とは関係ないが、他社でつぶしのきく人から退職し、やめさせたい人は残ってしまう。続きを読む

「謎の大量死」は終わったが、その原因は何だったのか

ネット上ではいまだに「謎の大量死」という言葉が使われるが、状況はもう変わった。

今年6月の死亡数は117.6万人。昨年の3.6%増である。これは高齢化のトレンドで、特に大量死したわけではない(超過死亡数は独自集計)。

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啓蒙の弁証法(アーカイブ記事)

啓蒙の弁証法―哲学的断想 (岩波文庫)気候変動問題は、ある意味でフランス革命以来の啓蒙思想の極北である。それは世界を(人間には変えられない)神の秩序と考えたキリスト教に代わって、人間が神になって世界を改造する思想である。

啓蒙的な合理主義は、神話のように世界の意味を説明するのではなく、テクノロジーで自然を改造して支配する。そこで重要なのは自然の支配から逃れることではなく、それを人間が支配するための有用な知識であり、世界のどこでも有効な普遍性である。

それは大きな成功を収め、今や啓蒙的な西欧圏とそれ以外の差は歴然たるものだ。それよりはるかに古い歴史と伝統をもつ中国も、論文引用数でアメリカと争うようになった。そして現代を人間が地球を改造した「人新世」と呼び、ついには大気の組成を変えて地球の生態系を救おうとするドン・キホーテ的な活動家も出てきた。

アドルノとホルクハイマーがこれを見たら哄笑するだろう。人間がテクノロジーで自然を改造できるという啓蒙思想こそ、20世紀前半に悲惨な世界大戦をまねいた人間中心主義だからである。それはかつての大戦のように、人類に取り返しのつかない惨禍をもたらすだろう。

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「夫婦同苗字」の強制は家父長制の遺物

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自民党総裁選では、石破茂氏と河野太郎氏が「選択的夫婦別姓を容認する」と明言した。小林鷹之氏と高市早苗氏(まだ出馬表明していない)は夫婦別姓反対派なので、総裁選の争点になるだろう。ここで歴史のおさらいをしておこう。

小林氏も高市氏も知っているように、武士の伝統は夫婦別姓である。これは公文書もたくさん残っており、疑問の余地はない。源頼朝の妻は北条政子であり、源政子と名乗ったことは一度もない。

百姓は苗字を名乗れなかった。宗門人別改帳には、世帯主は「杢兵衛」とだけ書かれている。圧倒的多数の百姓にとっては、夫婦同姓も別姓も伝統ではなかったのだ。

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ただ寺の過去帳には苗字が書かれている例もあり、一族を非公式の字(あざな)あるいは屋号で呼んでいた百姓は少なくなかったようだ。このため明治政府が1876年に太政官指令で妻は別姓と定めても、ほとんど守られなかった。

正式に「夫婦同氏」と決まったのは1898年の民法だが、これはドイツのファミリーネームをまねたもので、長男だけが相続権をもつ男尊女卑の制度だった。「夫婦同苗字」の強制は、家父長主義の「家社会」の遺物なのだ。

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「男系男子」の天皇は藤原氏の傀儡政権

持統天皇と男系継承の起源 ――古代王朝の謎を解く (ちくま新書)
島田裕巳氏の「国民は悠仁天皇より愛子天皇を望んでいる」という記事が話題を呼んでいる。批判する人は相変わらず「男系の皇統」を根拠にしているが、これは明治時代に井上毅のつくったフィクションであり、江戸時代までそんな伝統はなかった。

天皇家の系図がたどれるのは継体天皇からだが、『日本書紀』は継体を垂仁天皇の女系の8世の子孫としている。持統天皇の女系の孫が文武天皇、元明天皇の女系の娘が元正天皇、元正天皇の女系の甥が聖武天皇である。

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天皇家の系図(赤は女帝)

男系の皇統を主張する人は、女帝は男系で継承する中継ぎだったというが、それは逆である。少なくとも持統の時代までは、女系(あるいは双系)で継承するのが本筋だった。それは持統の時代に編纂された『古事記』で、アマテラスが女神であることからもわかる。そのモデルは持統天皇で、持統の名は「高天原広野姫」である。

ところが藤原不比等の編纂した『日本書紀』では、過去のオオキミにすべて「**天皇」という謚(おくりな)をつけ、あたかも男系で継承したかのように系図を書き換えた。これは藤原氏が実権を握るためだった。藤原氏は天皇になれないが、娘が天皇の妻になれば、天皇の義父として意思決定を支配できるからだ。

そのためには、天皇は男系男子でなければならない。その妻に必ず藤原家の娘が入ることで、つねに藤原氏が実権を握ることができる。男系男子の天皇は、藤原氏が傀儡とするために生まれたのだ。

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金融村が「国債バブル」を守って財政を維持してきた

自民党総裁選では財政タカ派かハト派かが争点の一つだが、これは大した問題ではない。今の日本で財政破綻が起こる可能性はないからだ。そもそも統合政府のバランスシートでみると、日本政府はすでに696兆円の債務超過である。日銀の債務超過どころではない。


統合政府のバランスシート(桜内文城氏)

しかし国債をあわてて売る人はなく、長期金利は1%弱である。それは投資家が日本政府を信用しているからだ。これは自明ではない。トルコ政府のように信用がないと、金利を50%にしても国債が売れない。

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「日銀の債務超過」で空騒ぎする人は日銀の迷惑

きのうの国会の閉会中審査は、植田総裁がジャクソンホールを欠席して出席した割には不毛な会議だった。そもそも日経平均は暴落前の8月2日を上回っており、あれは一時的な相場のブレだった。

ところが「時期尚早だった」という議員がいる一方で、維新の藤巻健史議員は相変わらず「日銀の債務超過」について演説している(1:24~)。



マーケットでは誰も相手にしていないが、まず私のツイートを貼っておこう。


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トランプ政権になったら日本は核武装できる

青森県六ヶ所村の再処理工場の完成がまた延期された。これで27回目である。その理由ははっきりしている。完成して再処理を始めたら、プルトニウムが増えて日米原子力協定を守れなくなるからだ。

この問題は河野太郎氏の持論とも関係があり、今までも何度も書いたが、今回は一つだけ、今までと違う点がある。日本は核武装する技術をもっており、その材料(プルトニウム)もある。制約は核拡散防止条約(NPT)だけだが、韓国がこれを脱退する可能性を検討しているのだ。

Economist誌によれば、韓国の尹錫悦大統領は2023年に「核武装を検討している」と公言し、世論調査でも70%が核武装を支持した。米バイデン大統領はこれに強く反対して韓国を「核の傘」に入れる拡大抑止宣言に署名し、尹大統領もトーンダウンした。

しかし来年トランプ大統領になったら、状況は変わる。彼は米軍がアジアで過大な負担をしており、日本や韓国に核武装させて米軍を縮小したいと考えている。韓国が核武装して在韓米軍の撤退を認めるなら、NPTからの脱退を認めるだろう。それが可能なら日本も核武装できる。

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小泉進次郎氏はエネルギー政策を撤回してゼロから出直せ

毎日新聞によると、菅元首相が小泉進次郎氏の支持を決めたらしい。支持者が40人いるとも伝えられ、イメージの悪化した自民党の「選挙の顔」としては最適だろう。しかし小泉氏といえば誰もが思い出すのは、環境相のころのレジ袋有料化とこれだ。



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イエスとその時代(アーカイブ記事)

イエスとその時代 (岩波新書)
荒井献氏が死去した。本書は学生時代に読んで教会の説教とはまったく違う新鮮なイエス像に感動した名著である。ながく絶版だったが、Kindleで復刊された。

12月25日がイエスの誕生日だというのは、聖書のどこにも書いてない。これは民俗信仰の冬至の祭である。新約聖書の冒頭にはイエスの父ヨセフがダビデの子孫だという系図が書かれているが、イエスは処女懐胎で生まれたのだから、父親が誰の子孫だろうと意味がない。イエスは自分を「神の子」とも「キリスト」とも呼んだことがない。

・・・などイエスについての伝説はさまざまで互いに矛盾するものも多く、ほとんど信用できない。本書は聖書を教典としてではなく史料として読む「史的イエス」の研究成果を解説したものだ。

イエスについてわかっている史実は、紀元前4年ごろナザレに生まれ、ガリラヤを拠点として説教を続け、30歳ぐらいのときエルサレムに出てきて、神殿を壊そうとして逮捕され、十字架にかかって処刑されたことぐらいだ。その活動期間は1~3年程度と推定され、彼に帰せられる言葉伝承がどこまで彼自身のものかはわからない。

しかし共観福音書などの資料を詳細に検討した結果、浮かび上がってくるイエスの像は、パウロなどが神格化した「キリスト」ではなく、当時のユダヤ教の律法主義を批判して、貧しい人々や差別される人々を救おうとした一人の伝道者である。

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