「AI氷河期」がやってくる

生成AIで世界はこう変わる (SB新書)
「AIで仕事がなくなる」という類の話はずっといわれているが、日本は完全雇用で、むしろ人手不足である。その原因はAIがまだほとんど普及しておらず、その性能も人間の代わりにはならなかったからだ。

しかしチャットGPTはその状況を変えた。ホワイトカラーのやっている単純な文書作成は、8割以上が大規模言語モデル(LLM)で代替できる。今まで対象のはっきりしなかったAIの用途が、文書作成として明確化されたのだ。

これがもたらす社会的な影響は大きい。次の表は本書にも引用されている"GPTs are GPTs"という調査の結果だが、通訳、世論調査、広報宣伝などは60~80%、数学者、税理士、ウェブデザイナーなどは100%がGPTで代替できると予想している。

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GPTで代替される職業(GPTs are GPTs)

しかし日本では、これとはまったく違う結果になるだろう。文書作成は文系ホワイトカラーのコア業務であり、それをGPTに代替すると彼らは失業するが、日本の企業は彼らを解雇できない。彼らを定年まで飼い殺しにし、その代わり給料は上げない。そして雇用調整は新卒採用を絞っておこなう。

つまり1990年代に起こった就職氷河期と同じAI氷河期がやって来るのだ。4月4日から始まるアゴラセミナー「AIは世界を変えるか」では、AIのもたらす社会の変化についても考える。続きを読む

減税して国債を発行しても将来世代の負担にならない?

石破首相は「消費税の食品の軽減税率を5%に下げることを検討している」と言及し、これに国民民主党の玉木代表が「一律5%に下げてはどうか」と応じました。

このごろネット上では、減税=善で増税=悪という図式が流行していますが、減税は課税の延期にすぎない。問題はその財源です。これを「国債でまかなうと将来世代の税負担になる」と批判すると、「国債は将来世代の負担にならない」という人がいますが、これは本当でしょうか。チャットGPTに聞いてみました。

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Q. 「減税して国債を発行しても、将来世代の負担にはならない」というのは本当ですか?

これはアメリカの経済学者アバ・ラーナー(MMTの元祖)が唱えた機能的財政論にもとづく議論の一つです。

ラーナーは1940年代に「財政赤字や国債発行の是非は、それが経済にどんな影響を与えるか(失業やインフレを防ぐのに役立つか)という観点から判断すべきだ」と主張しました。これが機能的財政論です。彼の主張には、次のようなロジックがあります:

政府の債務=国民の資産
国債は政府の「借金」ですが、それを保有しているのは国民(またはその世代)です。つまり内国債の場合は政府が償還する義務と、国民がその国債から得る利子や元本の権利が国内で完結しているという点に注目します。

世代間の資源移転は生じない
将来、国債を償還するために増税しても資源の量は同じなので、税は同じ世代の中で移転されるだけです。したがって「将来世代全体」が損をするわけではありません。

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トランプ政権を乗っ取った「加速主義」のリバタリアン

暗黒の啓蒙書
イーロン・マスクはトランプ政権で連邦政府をリストラして世界に大きな波紋を呼んでいるが、その思想はリバタリアンである。彼にもヴァンス副大統領にも影響を与えているのがピーター・ティールの加速主義(accelerationism)である。

ティールはマスクと一緒にペイパルを創業し、会社を売却してベンチャーキャピタルを立ち上げた(このときの部下がヴァンス)。彼は政治活動にも関心をもち、2016年にトランプが大統領選挙に立候補したとき、巨額の献金をしてその選挙運動の中心となった。

加速主義の教祖がニック・ランドである。本書は最初ウェブ上で公開され、少数の熱狂的なファンを集めたが、危険思想とされて出版できなかった。彼は人々のvoiceを集計するデモクラシーを否定し、エリートが意思決定して人々がexitによって国家を選択する新官房学(neo-cameralism)を提唱する。

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これは国家を企業のように運営する思想で、ウェブ上にPraxisという仮想都市をつくるようなお遊びだったが、加速主義がアメリカ合衆国の連邦政府を乗っ取ったのだ。

続きは3月31日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

日本のソーシャル・キャピタルは「最古層」にある

『平和の遺伝子』では日本の将来について悲観的なことを書きすぎたので、楽観的な未来も書いておこう。

日本人の最大の幸運は、おそらく世界でもっとも戦争の少ない島国で平和に暮らしてきたことだ。おかげで伝統が継承され、人々は礼儀正しく、古い文化が残っている。他にも次のような特徴がある:
  • 都市の治安がよく、清潔だ
  • 食事が多様でおいしい
  • 公共交通が整備され、時間通り来る
  • 医療制度が充実し、寿命が長い
  • 上下水道・道路・電気などのインフラが整っている
これは社会学的にいうとソーシャル・キャピタルが蓄積されているということだ。それはGDPのように計測できないが、たとえばSocial Capital Indexでは次のように日本が世界一である。

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続きは3月31日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

ブランシャールもシムズも提案した「インフレ税」は可能か

2月の消費者物価上昇率(帰属家賃を除く)は4.3%になったのに、加藤財務相は「まだデフレを克服していない」と語り、石破首相は当初予算とは別に「強力な物価高対策」を打ち出すと決意表明した。

国民民主党は、参議院の公約にまた「基礎控除178万円」を打ち出し、維新や立民も減税ポピュリズムに合流している。日銀もトランプ関税などの様子見で及び腰なので、このインフレは当分続くだろう。



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山本太郎はヒトラーになるか

最近、れいわ新選組の躍進が著しい。フジ産経グループの世論調査では、次の表のように若年層では立民を抜いて第3位、全体でも維新を抜いて第4位である。



これは何といっても、次のような山本太郎代表の動画が拡散し、そのカリスマ的な影響力が強いからだろう。れいわ信者はそれを素朴に信じて、こういう動画を拡散している。これは50万インプレだ。

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GPTの語る「幻覚」は統合失調症に似ている

GPTの訓練データはインターネットで検索した結果を蓄積しているので、最新のニュースについての質問は苦手だ。それだけならいいのだが、間違った情報をもとに幻覚(hallucination)を語ることがたまにある。さっきそれに遭遇した。

Q. 石破首相はインフレについてどう発言していますか?
GPT:現時点(2025年3月)では、石破茂氏は首相ではありません。もし仮に「石破茂氏が首相だったらどう発言するか?」という仮定の話でしたら、それに沿ってお答えできます!

■ 現実の立場(2025年3月時点)
  • 石破茂氏は自民党の実力者の一人で、過去に何度も総裁選に挑戦してきましたが、岸田文雄首相が政権を維持しています。
  • 現在は閣僚でもなく、あくまで党内のベテラン議員という立場です。
■ 石破氏の物価やインフレに関するスタンス(過去の発言などから)

石破氏は、比較的国民生活に寄り添った視点を強調することが多く、以下のようなスタンスが見られます(以下略)

ここには大規模言語モデル(LLM)の限界があらわれている。GPTは訓練データの中から質問に似た言葉を探してくるだけで意味を理解していないので、データの中で「石破氏は首相ではない」という古い情報を見つけると、他の情報でチェックしないで、それにもとづく物語を語り始める。

これはフロイトの扱った有名な「シュレーバー症例」とよく似ている。ドレスデンの控訴院議長だったD.P.シュレーバーは、幻覚や妄想を語って精神病院に収容され、その入院生活を語る詳細な『回顧録』を書いた。それは理路整然と書かれているが、「私は女である」という妄想にもとづく膨大な記録だった。

続きは3月31日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

本源的な財源は「徴税権」である

MMTはゴキブリみたいなもので、つぶしてもつぶしてもTLに出てくる。それも同じ嘘を繰り返す。その一つが「税は財源ではない」という話で、田母神さんまで信じている。


まず単純な疑問として、税が財源ではないのなら、赤字国債が初めて発行された1961年まで、日本政府は何を財源にしていたのだろうか?

彼がいいたいのは、財政赤字を気にしないでバンバン国債を発行して防衛費を増やせということだが、そんなことをしたら財政赤字が増えて、インフレになる。そのときには増税すればいいというのがMMTのいいわけだが、トルコのように政府の信用が失われると、増税しても利上げしてもインフレは止まらない。

元祖MMTも「税が財源ではない」とは言っていない。レイは法定通貨を本源的な財源と考え、税は通貨供給によるインフレを調整するものだと書いているが、これは逆である。通貨は徴税権を担保にしているから有効なので、もし政府に徴税権がなかったら誰も国債は買わない。本源的な財源は通貨発行権ではなく徴税権なのだ。

以上で話は終わりだが、最近は「肩たたき券」というバージョンもある。これもあほらしい話だが、実は経済学にはこれを高度にしたバージョンがあり、それは一概には否定できない。


続きは1月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

減税ポピュリズムはインフレ率40%のトルコをめざす

このごろ国民民主党やれいわ新選組から財務省解体デモに至るまで、「減税は善」という思い込みが多い。立民党も消費税減税の勉強会を開いたが、減税そのものは善でも悪でもない。それは現在の税負担を将来世代に先送りする課税の延期にすぎない。


イスタンブール市長の拘束に抗議する反政府デモ(ロイター)

この先送りは、無限に続けることはできない。減税派は「自国通貨建て国債はデフォルトにならない」というが、これは都市伝説である。1998年にはロシアの国債がデフォルトになった。中南米では自国通貨建ての国債がデフォルトになるのは珍しくない。

逆に自国通貨を発行できないEU(欧州連合)では、フランスでもドイツでもデフォルトは起こらない。デフォルトは国家の債務整理だから自国通貨かどうかとは関係なく、問題は政府の信用なのだ。

続きはアゴラ

石破商品券はポケットマネーではなく「官房機密費」の疑いが強い

石破首相が新人議員15人に渡した10万円の商品券は「ポケットマネーから出した」と説明しているが、その証拠はない。同様に10万円の商品券を政務官30人に配った事例が岸田内閣でもあり、これは官房機密費から支出された疑いが強い。



続きはアゴラ


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