政府債務比率とデフォルト確率は無関係

石破首相の「ギリシャ発言」で、超長期の国債市場が大きく動いたが、日本の財政がどこまで危ないのかについては諸説ある。よくいわれるのは日本の政府債務のGDP比が世界一高いという話で、首相はこれを「ギリシャより悪い」と表現したのだろう。

しかしギリシャというと世界の投資家が連想するのは、ユーロ危機で事実上デフォルトした事件である。2009年の政権交代で、財政赤字がGDPの4%だという前政権の数字が嘘で、実際はEU参加条件の3%をはるかに上回る15%だとわかり、投資家がギリシャ国債を投げ売りした。2012年に長期金利は30%になり、欧州の銀行は協調してギリシャ政府に対する債権を約50%免除した。

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ギリシャの長期金利(CEIC)

海外ファンドは、石破首相が日本政府のデフォルトについて秘密の重大情報をもっていると疑ったのだろうが、それは単なる失言だった。政府債務残高1323兆円という数字は大きすぎるので、その物差しとしてGDPをよく使うが、政府債務(ストック)をフローのGDPで割っても意味がない。ギリシャが債務免除を受けたときの政府債務はGDPの172%で、当時の日本の200%より低かった。

つまり債務残高とデフォルト確率は無関係なのだ。では何が財政リスクを示すのか。これについてはいろんな考え方がある。

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日本の財政は「ギリシャよりよくない」のか

石破首相の「日本の財政はギリシャよりよくない」という発言が話題になっている。



我が国の財政状況は間違いなく、きわめてよろしくないと。ギリシャよりもよろしくないという状況でございます。そして税収は増えているけども社会保障の費用も増えているわけで、そこにおいて減税を行い、財源は国債で賄うという考え方には賛同いたしかねる。

この「ギリシャよりもよろしくない」という言葉がロイター

"Japan's fiscal situation is worse than that of Greece at the height of the European debt crisis"

と尾ひれをつけて配信され、世界をかけめぐった。首相は「欧州債務危機の最中のギリシャ」とは言っていないが、海外ではギリシャというと2012年の事件(投資家が債務の約50%を帳消しにした)を連想する人が多い。

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「愛子天皇」はなぜ許されないのか

読売新聞が女系天皇に道を開く皇室典範の改正を提言して話題になっている。これは男系男子の皇室典範を守ると、皇室が絶えてしまうという心配によるものだ。

皇位を継承できる男性は秋篠宮親王、悠仁親王、常陸宮親王の3人しかいないが、秋篠宮は今年60歳、常陸宮は90歳になる。このままでは皇室が絶えるおそれがあるので、将来は女系天皇を認めようという読売の提言はもっともだ。

しかし与党だけでなく野党からも反発が出ている。その理由は、有識者会議で男系男子を守る方向で議論が集約され、今国会で結論を出すからだというが、そんなことは理由にならない。読売はまさにそのタイミングをねらって提言を出してきたのだ。

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「マイルドなインフレ税」が維持できれば年金問題は解決する

消費減税をめぐる議論は、意外な展開を見せてきた。当初は全野党が減税の大合唱で、石破政権も何か減税を打ち出さざるをえないだろうと思っていたが、今のところ森山幹事長も小野寺政調会長も「消費税は社会保障の貴重な財源なので減税できない」という正論で一致している。

他方、国民民主党は比例代表候補の「四人衆」が悪評サクサクで、失速ぎみだ。特に山本太郎氏と一緒にバラマキ路線を走っていた須藤元気氏を立候補させるのは「いよいよ国民民主もれいわと同じ無責任バラマキ路線か」という憶測を呼び、コア支持層が離反している。

根本的な問題は、国民民主党が掲げている社会保障改革と消費減税が矛盾していることだ。これから高齢化で社会保障支出は毎年3兆円増えるともいわれているのに、その財源となる消費税を毎年13兆円も減らしたら、社会保障財政は破綻してしまう(減税が2年で終わる保証はどこにもない)。

特に危機的なのは、未納が半分を超えてボロボロの国民年金である。これを放置すると、就職氷河期世代が大量に無年金老人になる。解決する一つの方法は、厚労省の年金改悪法案のように厚生年金積立金を流用することだが、これは自民党にも拒否された。野党がこれを復活しろと要求しているのは、とんでもない話である。



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日本にはなぜ「宦官」がいなかったのか

宦官 改版 側近政治の構造 (中公新書)
読売新聞の提言で、また「男系の皇統」が話題になっているが、これは明治時代に井上毅が皇室典範で決めたルールであって「古来の伝統」ではない。『日本書紀』は、継体天皇を垂仁天皇の女系の子孫とし、それ以前の天皇は男女の別も書いていない。継体以降は男系が続いたが、それは側室の産んだ子の中から男子を選んだだけで、男系を定めた文書はない。

日本に男系の皇統がなかったことは、宦官がいなかったことでも明らかだ。中国では男系男子の皇統が厳格に決められ、歴史上も例外は一人(則天武后)だけだ。後宮は男子禁制で、皇帝や側室の世話をする宦官は去勢し、皇帝が側室とセックスした日付を記録して産まれた子の血統を確認した。その子が皇帝の子であることを証明し、帝位を簒奪しようとする者が「この子は俺の子だ」と主張できないようにしたのだ。

しかし日本の御所には皇族以外の男も自由に出入りでき、側室の産んだ子は誰の子かわからなかった。天皇には権力がなかったので、その血統は問題ではなかったのだ。ただ家が絶えると困るので、天皇以外の父親の子でもよかった。島田裕巳氏も指摘するように、歴史上は天皇家以外の「不義の子」ではないかと噂された天皇もいる。第57代の陽成天皇である。

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陽成天皇

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日本国債は「合理的バブル」である(アーカイブ記事)

バブルの経済理論 低金利、長期停滞、金融劣化
貨幣はバブルである。これは150年前にマルクスが「商品の物神性」として指摘したことだが、今も正しい。1万円札の使用価値は20円しかないので、その価値はバブルだが、人々がそれを1万円の商品と交換する限り続く。中央銀行は「国営バブル」を維持する機関ともいえる(2021年8月1日の記事の再掲)。

ゼロ金利の状況では国債も貨幣と同じであり、余剰資金を社会的に循環させる合理的バブルである。これには次のような特徴がある。
  1. 長期金利(r)が名目成長率(g)より低い限りバブルは維持できる
  2. r<gのときバブルは効率的である(将来世代との利害対立が発生しない)
  3. 必要な安全資産の総量は一定なのでバブルは代替する
ここで重要なのは3の条件である。1980年代後半にも、都心の地価は収益還元価格を超え、その利回りはマイナスだったが、それは安全資産として保有された。これをGDP比でみると、90年代以降、土地と国債を合計した安全資産の比率はほとんど変わっていない。つまり土地が国債にバブル代替されただけなのだ。

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バブルの代替(本書より)

国債がこのような安全資産になったのは、実はそう古い話ではない。日本でr<gになったのは、2013年に黒田日銀の量的緩和が始まってからの10年足らずである。この不等式が逆転してr>gになると、国債バブルは終わるのだ。

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長期金利と名目成長率続きを読む

生成AIに「知性」はないのか?

Noam_Chomsky_portrait_2015GPTは人間と同じような言葉を使うが、それは人間と同じように考えているわけではない。たとえば「東京の人口は何人か?」と質問すると、GPTは地理の本で調べるのではなく「東京、人口、何人」という言葉(トークン)を入力し、その次に出てくる言葉の確率を計算する。その結果、

2025年5月1日現在、東京都の推計人口は 14,170,275人 です。

という答が返ってくるが、これは質問を聞いて考えているのではなく、入力された言葉の出てくる数万の文を検索し、その中に出てくる言葉の確率分布の分布行列から、次に出てくる言葉の確率を計算するのだ。これは人間が脳内でおこなっている思考とはまったく違う。

チョムスキーはこれを批判して「GPTには知性はない」という。人間にはわずかな情報から世界を効率よく説明する能力があるが、AIは大量のデータからパターンを学び、言葉を統計的に再現しているだけで、何も考えてはいないという。

確かにAIに思考力はないが、チョムスキーが70年かかってもできなかった「文を自動的に生成する」という作業をGPTは瞬間的にやってしまう。それは鳥がどうやって飛ぶかを知るために飛行機を調べるようなもので、決して知性の本質にはたどりつけないというが、そうだろうか?

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消費税の呪われた歴史

消費税 政と官との「十年戦争」 (新潮文庫)
また消費税が政局の焦点になってきた。欧州の付加価値税(VAT)はフランスの左翼が創設し、タックスヘイブンで節税する金持ちにも課税できる平等主義の税制だったが、日本ではれいわ新選組のような左翼が反対し、自営業やフリーターが支持する。その原因は消費税の制度設計に欠陥があったからだ。

大型間接税の議論は1970年代に始まる。高度成長期のあり余る財源で田中角栄はバラマキ福祉を始めたが、石油ショックで財政が行き詰まり、財政法で禁じる赤字国債(特例公債)を出すことになった。

財政法では起債のたびに特別法を国会に出すことになっており、もし野党が多数派になって反対すると国債が発行できず、デフォルトになってしまう。そこで大平正芳は安定財源を求めて欧州の付加価値税(VAT)のような一般消費税を公約に掲げたが、政局に利用されて1979年の総選挙で大敗した。

中曽根康弘は国会で「流通の各段階で投網をかけるように総合的に税金をかける考えは持っていない」とVATを否定したが、結局1987年に卸・小売に5%課税する売上税の法案を国会に提出した。これは製造業にはかけない「日本型付加価値税」だったが、国会で野党に「嘘つきだ」と批判を浴びて廃案になった。

そこで大蔵省は田中派の政治力に期待し、消費税ができたのは竹下内閣の1989年4月だった。これは大平内閣の原点に戻ったVATで、税率も3%とスモールスタートだったが、運悪くリクルート事件に遭遇し、満身創痍の竹下首相は法案成立と引き替えに退陣した。このとき国会で税法改正してからわずか4ヶ月で増税したため、制度にいろいろな穴があいたままの見切り発車だった。

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野党は740万人の「パート大増税」を許すのか

自民党は13日の総務会で年金制度改革法案を了承し、政府は16日にも法案を閣議決定して国会に提出する予定だ。法案の骨格だった「基礎年金の底上げ」には「厚生年金の流用だ」との批判が強く、これでは参院選を戦えないと判断した。

「年収106万円の壁」をなくしてパート労働者に厚生年金を適用拡大する制度は残したが、中小企業の事業主負担に難色を示す声が党内で強く、拡大完了を次の財政検証の時期以降に先送りした。



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「金利のある世界」で消費減税すると国債バブルが崩壊する

消費減税は政局の焦点になってきたが、世論調査では圧倒的に減税派が多い。どこの社でも6割を超え、特に気になったのは、NHKの調査では40歳未満で消費減税+廃止が75%と、圧倒的な支持を得ていることだ。



これはSNSの影響だろう。XでもYouTubeでも、減税派が圧倒的だ。TikTokには財務省解体や消費税廃止やれいわ新選組の動画があふれている。

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