処理水問題の10年で日本が失ったもの

処理水の放出は、いろいろな意味で福島第一原発の事故処理の一つの区切りだった。それは廃炉という大事業の第1段階にすぎないが、そこで10年も空費したことは、今後の廃炉作業の見通しに大きな影響を与える。



続きはアゴラ

CO₂の恩恵はその害より大きい

地球温暖化の一つの原因はCO₂濃度の増加だといわれるが、それは有害なのだろうか。IPCCはその問題を避けているが、最近ノーベル賞受賞者John Clauserが理事になって話題を呼んだCO₂ Coalitionは、CO₂の恩恵はその害より大きいと主張するNGOである。

図1のように1960年代から今までにCO₂排出量は4.5倍になり、穀物生産は5倍になった。その理由は単純である。植物はCO₂が多いほど生長するからだ。CO₂濃度が300ppm増えると、果物の収穫は60~70%増える。

CO2_8
図1(CO₂ Coalition)

このようにCO₂のメリットは明白だが、問題はその害がメリットより大きいかどうかである。一般にはCO₂排出量の増加が地球温暖化をもたらすと思われているが、その因果関係は明らかではない。図2のように温暖化は1700年ごろから一貫して続いており、それは1800年までの小氷河期から温暖期への変化と考えられる。

CET
図2(CO₂ Coalition)

CO₂排出量が環境に影響を与えるほど増えたのは、第2次大戦後の1950年代以降だが、これ以前も以後も温暖化のトレンドは一定で、加速していない。つまり1850年との比較を「工業化以降」と呼んだIPCCの基準が誤りで、工業化と温暖化は無関係なのだ。

続きはアゴラサロンでどうぞ(初月無料)

日本人の「無宗教」は普遍的である

日本人と神 (講談社現代新書)
処理水の海洋放出を前に、またトリチウムをめぐる騒ぎが盛り上がっているのは、それが日本人の「古層」にあるケガレの感覚に訴えるからだろう。だがそれは日本人の特殊性ではない。メアリ・ダグラスの古典でも知られるように、排泄物や死体などをタブーとして便所や墓地に隔離することは、定住社会で感染症から身を守る重要な慣習だった。

しかし人類の大部分は狩猟採集民として移動生活を送っていたので、子供は排泄物を始末する行動を遺伝的に身につけていない。これを教え込むためにケガレの観念ができ、汚れていないカミ(神=上)の信仰が生まれた。これは初期には祭祀に使われる土偶や土器のような物だったと思われ、縄文時代には多くの土器や土偶が出土している。

カミは大小便や血などのケガレとは無縁の清い存在なので、その御神体は山の中に置かれ、人々はそこに集まった。それは環境汚染からの自衛策だったが、集落の規模が大きくなるにつれて観念的なタマ(魂)が崇拝の対象になり、その代理人としてシャーマン(巫女)が出てきた。天皇はその延長上で生まれたヒトガミの集約だった。

日本人は「無宗教」だといわれるが、宗教という言葉は明治時代にキリスト教をモデルにしてつくられたもので、このような日本人の信仰を表現するには適していない。というよりキリスト教と仏教以外のほとんどの宗教は、僧侶や教団などの組織をもたない点で宗教とはいえない。むしろ日本人のカミのほうが普遍的なのだ。

続きはアゴラサロンでどうぞ(初月無料)

楽天が「一発逆転」するたった一つの方法



きのうはホリエモンや中田敦彦さんなどと一緒に、いま話題の楽天について話した。8月10日に発表された今年上半期の最終損益は1400億円の赤字だったが、その最大の原因は半期で1850億円にのぼる楽天モバイルの赤字である。

続きはアゴラ

日本語も日本人も普遍的である

日本語と西欧語 主語の由来を探る (講談社学術文庫)
日本人は自分が特殊な民族と思いがちだが、最近わかってきたのは、日本人の特徴は意外に普遍的だということだ。その一つの例証が言語である。日本語は「主語が不明で曖昧だ」といわれるが、文に不可欠なのは述語であり、主語を明示しない言語が世界では多数派である。

人類の歴史の99%以上を占める石器時代の集団生活では、集団から離れて生きることは不可能だったので、主語はつねに「われわれ」であり、誰が行動するかを明示する必要はなかった。英語でも古英語には主語はなかったが、1066年のノルマン征服でフランス語が公用語になり、多くの民族が混じる中で、主語が文頭で明示されるようになった。

日本語では、いまだに「あなた」や「彼」という人称代名詞を使うことがほとんどない。能動態と受動態の区別もない。「れる・られる」は受け身だけでなく、尊敬・可能・自発などの意味で広く使われる中動態(中動相)である。

どっちが普通なのか。世界的には、日本語のほうが圧倒的多数派である。主語を明示するのは、インド=ヨーロッパ語族の一部であり、世界のほとんどの言語には主語がない。今ごろ中動態を発見するのは、「私は散文で話していたのか」と驚くモリエールの貴族のようなものだ。

続きは8月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

共産主義って何?

このところツイッターのトレンドにずっと「共産主義」が上がっています。もとをたどると私のツイートのようですが、いろいろ誤解されているので、解説しておきましょう。

続きはアゴラ

中国バブルはなぜ崩壊しないのか

中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?
中国経済はバブルだから今年は崩壊する、と(期待をこめて)毎年予言されるが、いまだに崩壊しない。それはなぜだろうか。本書はその原因として、次のような特徴をあげる。
  1. 経済成長の「伸びしろ」がある:中国は「世界第2の経済大国」とよくいわれるが、一人あたりGDPは1.4万ドル。まだアメリカの17%の発展途上国である。1980年代の日本の一人あたりGDPがアメリカの80%を超え、20世紀のうちにアメリカを超えるといわれた状況とは違う。

  2. 貯蓄が多く金融システムが安定している:「一人っ子政策」で子供が減って消費が減り、社会保障も不備なので、貯蓄率は50%近い。外国為替が制限されているので資本逃避もできず、余剰資金は銀行に預金されている。大手銀行は国有なので、政府のコントロールがききやすい。

  3. 危機に対して超法規的な対応がとれる:民主国家と違って、独裁政権は法の制約を受けない。特に習近平は政治局からライバルを追放し、独裁の傾向を強めている。行政は地方に分権化されているが、官僚は優秀で政権に忠実だ。言論の自由がないので批判もなく、危機管理がしやすい。
しかしこういう長所は、その弱点ともなる。本書も指摘するように、今の中国は1990年代の日本とよく似ている。続きを読む

大阪府の高校無償化は教育を補助金漬けにする「学校社会主義」

大阪府が2024年度から、私立高校の授業料を全面無償化する方針を決めた。これを私が批判したところ、橋下徹氏から次のような反論が来た。



彼はバウチャーの意味を取り違えているようだが、これは保護者に金券を配ることではない。実務的には府が学校に(親の人数分)払うが、公立学校の授業料と同じである必要もない。大事なのは、すべての保護者に公立も私立も一律の直接給付をすることである。

続きはアゴラ

ウォール街のランダム・ウォーカー

ウォール街のランダム・ウォーカー<原著第13版> 株式投資の不滅の真理 (日本経済新聞出版)
今や定番となったゴードン・マルキールの投資ガイドの第13版。全世界で50年間に200万部以上売れたベストセラーだが、その主張は初版から一貫している。株式市場に勝つことはできないので、投資信託よりインデックスを買えという原則である。

1977年にインデックスファンドが初めて売り出されたとき、それを1万ドル買った人の資産は、配当もインデックスに再投資したとすると、50年後には214万ドルになった。それに対して、プロの運用する投資信託(アクティブ投信)は148万ドルである。

この原則の理論的な背景は、市場がすべての情報を織り込んでいるという効率的市場仮説(EMH)で、その原理は次の二つである。
  • 株式市場では、新しい情報はすみやかに株価に織り込まれる。
  • 高いリスクを取ることなしに、高いリターンを上げることはできない。
当たり前の話みたいだが、これはあくまでも仮説で、現実の株式市場が効率的かどうかは、50年前にはわからなかった。これを精密に理論化したのがCAPMで、本書のコアはCAPMのやさしい解説である。

続きは8月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

洋上風力の第2ラウンド入札は白紙に戻して仕切り直せ

秋本真利議員が東京地検特捜部の強制捜査を受けたのは、洋上風力疑獄の始まりにすぎない。捜査が今後どこまで進展するかは、今の段階ではわからないが、彼が逮捕されるのは時間の問題である。



渡された現金は合計3000万円。秋本議員は受託収賄罪で起訴される可能性が高い。経緯を時系列で整理しておこう。
  • 2019年4月:再エネ海域利用法が制定され、洋上風力の開発が始まる
  • 2020年11月:秋田県沖・千葉県沖など3ヶ所の入札(第1ラウンド)の公募を開始
  • 2021年12月24日:第1ラウンド入札をすべて三菱商事連合が落札
  • 12月28日:第2ラウンドの公募開始(〆切は22年6月10日)
  • 2月17日:秋本が国会質問で入札の審査基準の変更を萩生田経産相に要求
  • 2月22日:日本風力発電協会が審査基準の変更を求める提言書を経産省に提出
  • 3月18日:政府は入札〆切を延期
  • 5月22日:政府が基準変更案を提示
  • 7月14日:パブリックコメント募集
  • 10月27日:新入札基準の公表
  • 10月28日:秋本が日本風力開発から1000万円受け取る
  • 12月28日:第2ラウンド入札の公募を再度開始
  • 23年6月30日:入札〆切
  • 8月4日:秋本議員の事務所などに家宅捜索
続きはアゴラ
cover


スクリーンショット 2021-06-09 172303
記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ