「戦後レジーム」のねじれ

安倍晋三氏の死は、首相を8年近くつとめた後なのに「志なかば」という印象を与える。それは彼の窮極の目的が、戦後レジームからの脱却だったからだろう。GHQに武装解除された「戦後民主主義」を否定し、独立国としての主権を取り戻すことは、彼が岸信介から引き継いだ悲願だった。

戦後の日本政治では、奇妙にねじれた対立構造が続いてきた。他の西側諸国では、自由経済を掲げる保守政党と社会主義の影響を受けた社民政党(アメリカの民主党を含む)の政権交代があったのに対して、日本では社民が育たなかった。

その最大の原因は、GHQ民政局の社会主義的な戦後改革で、国の中核に社民主義を抱え込んだからだ。農地改革で大地主はいなくなり、財閥解体で資本家もいなくなった。憲法で武装解除して、米軍がずっと駐留する「属国」にしてしまった。

国家警察も解体されて自治体警察になり、国家神道も解体されて靖国神社は民営になった。いま問題になっている「弱い警察」や宗教法人の過保護も、半社会主義的な戦後レジームの一環である。安倍氏がその犠牲になったのは皮肉だった。

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原子力の軍事利用と平和利用の切っても切れない関係

日米〈核〉同盟 原爆,核の傘,フクシマ (岩波新書)
政府のGX実行会議の資料で、おやっと思ったのは、核燃料サイクルについての言及がなくなったことだ。高速炉は言及されているが、その見通しは書かれていない。日本は高速増殖炉(FBR)を放棄したからだ。

かつて核燃料サイクルは原子力政策の根幹であり、「次世代革新炉」は高速増殖炉だった。1956年に始まった原子力開発の長期計画でも、軽水炉は過渡的な技術であり、最終的にはFBRで消費した以上のプルトニウムを生産する核燃料サイクルが目標とされていた。

しかしプルトニウムは、核兵器の材料ともなる。中国でもロシアでも、高速炉はプルトニウムの生産装置である。1968年に核拡散防止条約(NPT)ができたのは1964年の中国の核実験がきっかけだが、そのとき米ソの「隠れた目的」は、日本と西ドイツの核武装を封じ込めることだった。NPTを強制する機関としてできたのがIAEAだが、その主な対象も日本だった。

外務省はNPTのそういう不平等性を知っていたので、これに抵抗した。条約に署名したのは発効直前の1970年2月、批准は1976年6月だった。「非核三原則」を唱えた佐藤栄作も、最初はNPTに反対だった。こういう日本政府の迷走がアメリカに「日本は核武装するのではないか」という疑惑を抱かせた。

最大の転機は、1977年にカーター政権が核拡散を防止するという理由で、再処理を放棄したときだ。アメリカは日本にも再処理をやめるよう求めたが、1975年には東海村の再処理施設が完成していた。石油危機で資源の枯渇リスクに直面した通産省は、高速増殖炉を頼りにして再処理の計画を続行した。

それまで原子力施設は個別にIAEAが査察していたが、それでは商用運転ができないので、日本は事前に一括して再処理に同意し、個別に査察しない包括的事前同意を求め、1988年に日米原子力協定を結んだ。これは非核保有国が再処理を行うNPTの唯一の例外である。続きを読む

「次世代革新炉」でエネルギー問題は解決するか

いろいろ話題を呼んでいるGX実行会議の事務局資料は、今までのエネ庁資料とは違って、政府の戦略が明確に書かれている。

その目玉は、岸田首相が「検討を指示」した原発の新増設である。「新増設」という言葉はこの資料にはないが、次世代革新炉という言葉が7回出てくる。10ページでは、次の図のように各国の原子炉を比較して、いくつかのオプションを示している。


各国の次世代革新炉(GX実行会議の資料)

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ペーパーテスト至上主義の生み出した陸軍の狂気

辻政信の真実 ~失踪60年--伝説の作戦参謀の謎を追う~(小学館新書)
大学入試を「人物重視」にしようという話がよくあるが、日本が近代化に成功した大きな原因はペーパーテストである。明治の元勲は、自分の子にその地位を世襲させなかった。伊藤博文の子も山県有朋の子も、政権には入らなかった。これは彼らが下級武士からの成り上がりで、世襲制度の不公平を実感していたからだろう。

このため帝国大学も高等文官も陸軍士官学校も、試験だけで選抜する厳格な客観テストを採用したので、人材が流動化した。特に陸士は学費が無料だったので、貧乏人の頭のいい子が入学したが、彼らは強い上昇志向と暗記力をもっていたため、日本軍の暴走する原因となった。

その失敗例が、陸軍最悪の愚将として有名な辻政信である。彼は石川県の山奥の炭焼きの子として生まれた。炭焼きは農地をもたない極貧の職業で、子供のころはガリガリにやせていたという。

だが小学校では優秀な成績だったので、教師のすすめで名古屋陸軍地方幼年学校に入学した。これは当時としては異例だったが、辻は首席で卒業した。東京の陸士も首席で卒業し、陸大は3位で卒業した。これで彼の出世は約束され、関東軍に赴任した。

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「超過死亡マイナス1万人」をどうみるか

マスコミは「コロナ死者が史上最多になった」と騒いでいるが、JBpressでも書いたように、これは速報ベースの死因であり、死亡診断書にもとづく正式の人口動態統計が出るまでは何ともいえない。

WHOの発表した2020~21年の世界各国の超過死亡率で、日本は10万人あたりマイナス8人、人口でいうとマイナス約1万人の過少死亡だった。

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世界の超過死亡率(Nature)

これは2021年のデルタ株までだが、今年に入って超過死亡が増える傾向もみられる。国立感染症研究所の超過死亡ダッシュボードでは、オミクロン株の超過死亡はかなり大きい。これをどうみるかは、今後の感染症対策を考える上で重要である。

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「防衛国債」は戦後レジームか

来年度予算の編成をめぐって防衛国債が焦点になってきた。これは安倍元首相の悲願だったが、岸田改造内閣では財務省寄りの浜田靖一氏が防衛相になってむずかしくなったと解説されている。問題になっているのは、財政法4条の次の規定である。
国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。

第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
この「公共事業費」に該当するのが建設国債とされているが、その範囲は財務省が法律で決める。たとえば海上保安部の巡視船は建設国債で調達できるが、海上自衛隊の護衛艦はその対象になっていない。

これは1947年に大蔵省の主計局長が「財政によって憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするもの」だという逐条解説をし、これを安倍氏が「財政の戦後レジームだ」と批判し、防衛費も建設国債で例外扱いする「防衛国債」とすべきだ、と主張したものだ.

結論からいうと、この議論は無意味である。国債にこんな区別を設けている国はない。借金に色はついていないので、建設国債にしたら金利が安くなるわけではないからだ。しかし将来世代の負担という観点から考えると、防衛費を国債で調達するか税で調達するかという問題には意味がある。

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冷戦の戦略拠点は日本と西ドイツだった

ジョージ・F・ケナン回顧録II (中公文庫)
アゴラの記事封じ込めという言葉は、今ではほとんど聞かないので、誤解があるようだ。これを提唱したのは、X論文として有名なジョージ・ケナンの論文である。

これは1947年に匿名でForeign Affairsに発表された論文だが、ケナンが国務省の政策企画本部長だったことから、アメリカの外交戦略を表明したものと受け取られた。これが冷戦の始まりとされているが、「封じ込め」はソ連を軍事的に包囲して侵略を防ぐという意味ではない。

これについて本書では、X論文に対する誤解を解く説明をしている。封じ込めの主要な目的は、軍事力のバランス維持だった。当時、近代的な兵器を量産できる工業力をもつ国は、5ヶ国しかなかった――アメリカ、イギリス、西ドイツ、ソ連、日本である。

このうち共産圏には1ヶ国しかないので、封じ込めの主要な仕事は、残りの4ヶ国が共産圏に入らないようにすることだ。したがって封じ込め戦略の戦略拠点は、日本と西ドイツだった。日本の占領統治は、冷戦の中でもっとも重要な位置を占めていたのだ。

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今こそ安倍晋三氏の「反共」の理念が必要だ

安倍晋三氏は、日本には珍しい「グランドデザイン」をもつ政治家だった。この暗殺事件のきっかけになった(と犯人が供述している)2021年9月12日のビデオメッセージを見ると、彼が単なるあいさつ以上の話をしていることがわかる。



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橋下徹氏が甦らせた「白旗・赤旗論」

長い江戸時代のおわり
朝日新聞の特集した豊永郁子氏の「白旗論」は目新しい話ではない。この元祖は、40年以上前に森嶋通夫の主張した「白旗・赤旗」論である。われわれの新著『長い江戸時代のおわり』の第6章から、これに関する議論を紹介しておこう。

池田  平和ボケの戦後第一世代からはずっと下なのに、ウクライナ戦争でトンチンカンなことを言って炎上したのは橋下徹さんです。大阪で政治家をやって日本維新の会を作ったころは、むしろ護憲派を批判するリアリストとして振る舞っていたのに、今回は「戦争で民間人が犠牲になるのはよくないから、ウクライナは降伏した方がいい」とか「戦争しないで『政治的妥結』すべきだ」などとTVやツイッターで繰り返しました。

ところが多くの人に批判されたら主張を180度急変させて、「ウクライナに『戦え』と言うなら、NATOは自ら参戦しろ」とか「政治家を民間人の人質と交換しろ」とか言い出す。支離滅裂で、何がいいたいのかわからない。

與那覇 私は今回の言動のおかげで、逆に橋下さんに一貫性を見出せるようになりました(笑)。最初は無抵抗主義の超ハト派で、途中から核戦争も辞さない超タカ派になったわけですが、これは「俺に後ろめたい思いをさせんなよ!」というメッセージでは一貫していると思うんですよ。

毎日ニュースで戦場となったウクライナの映像が飛び込んできても、なにもできない私たちとしてはただ後ろめたさを感じるしかない。そうした罪責感を消す方法の一つが、ウクライナが降伏して戦争が終わってくれること。もう一つが自分たちも直接参戦して当事者になり、「他の人に不条理を押しつけてはいませんよ」というポジションを獲得すること。その点ではハト・タカの垣根を超えて、彼が提示した二つの選択肢は一致しているわけです。

橋下さんはかつて、政策の面でも日本には珍しい「新自由主義」の政治家でしたが、多くの日本人が「新自由主義的」と見なして嫌っているのは、むしろそうしたエートスの方だと思うんですよね。とにかく自分が後ろめたく感じるのが嫌で、だからあらゆる詭弁や罵詈雑言を駆使して「俺は完璧に正しく、なにひとつ悪くない!」と強弁する。困窮している人を見たら「どうせ自己責任だ」、自分を批判する意見に対しては「利権で言ってるだけだろ」みたいな。

池田  彼に一貫性があるかどうかは疑問だけど、伝統的な左翼の護憲派とは違うという一方で、自民党の右派とも違うという差別化を考えてるんじゃないですか。かつて仲のよかった百田尚樹さんとか有本香さんのようなネトウヨとも決別してしまった。今度の選挙で野党第一党になるかもしれない維新がどういう立ち位置で戦うかを、彼なりに考えていたと思うんです。

ところが悲しいかな、外交・防衛についてはまるで予備知識がないものだから、テレビで行き当たりばったりに「そこは違う」などとコメントしているうちに、右でも左でも真ん中でもない、訳のわからない話になってしまった。日本維新の会の党としての見解は常識的なものですが、多くの人が橋下さんの意見を維新の方針だと思って、コアなファンが離れてしまった。これは維新としては大きな損失だと思います。
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テロに「意味」を与えるマスコミはテロリストの共犯者

安倍元首相の殺害事件は、本筋と無関係な統一教会(世界平和統一家庭連合)の霊感商法の話になり、自民党の政治家が統一教会に支援されていることが問題になっている。ここでは次の三つの問題が混同されている。
  1. 安倍元首相の暗殺
  2. 統一教会の違法行為
  3. 政治家と宗教の関係
今回の問題は1であり、2は無関係である。安倍氏を殺害した山上徹也が「統一教会が母親に多額の献金をさせて家庭が崩壊した」と供述したことは事実らしいが、それは彼の家庭の私的な問題であり、殺人の理由にはならない。安倍氏と統一教会を関連づけること自体が、犯人の思う壺なのだ。

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