「聖なるアナキスト」はいかにして救世主となったのか

偶像の黄昏/アンチクリスト:ニーチェ・コレクション (白水Uブックス/思想の地平線)
ニーチェは1889年、トリノで御者に鞭打たれる馬に抱きついて号泣し、それ以後、1900年に死去するまで狂気から回復しなかった。その原因は進行麻痺(梅毒による脳神経障害)と診断されたが、最近は統合失調症とする説もある。

発狂の直前に書かれた『アンチクリスト』は、未完に終わった大著『力への意志』の最初の部分となる予定だったが、後半には統合失調症を思わせる妄想と「キリスト教呪詛」(副題)ともいうべき激しい批判がくり返されている。

特にニーチェが強調するのは、歴史上のイエスの行動と聖書のパウロの教義が大きく異なる点である。これは聖書の文献考証がまだほとんどなかった当時は区別が困難だったが、共観福音書でイエス自身の言葉をある程度は確認できた。ニーチェはイエスを「聖なるアナキスト」と呼んだ。
かの聖なるアナキストは、下層の民衆、社会の除け者や「罪人」、ユダヤ教内の賤民などを煽動して、支配秩序に反抗するように仕向けた張本人であり、もし福音書を信用してよいなら、今日生きていたらシベリア流刑に処されるような言辞を弄した、一人の政治犯だった。(『アンチクリスト』27節)

その弟子にとっては、イエスが十字架という極悪人の刑罰で死んだことは深刻なパラドックスだった。彼らはユダヤ教に復讐するために、聖書に登場する「パリサイ人」をイエスを罠に陥れる卑劣な集団として描いた。だがパウロが考えたのは、そんな平凡な物語ではなかった。

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アゴラセミナー「日本経済はどこで間違えたのか:バブル崩壊からアベノミクスまで」

今年はプラザ合意から40年です。あれから始まった円高・株高・地価上昇の波は、あっという間に日本経済を飲み込み、それが崩壊したのは1990年。バブルと呼ばれた時期はたった5年間でしたが、その後遺症は続き、今も経済は低迷したままです。


ジュリアナ東京が開業したのは1991年5月(毎日新聞)

ところが国会でも自民党の総裁選でも、政治家はこの経済低迷の根本原因に手をつけず、現金給付や減税などのバラマキを競っています。経済を低迷させている構造問題が大きく、むずかしいからです。それはこの40年間に政治が何をし、何をしなかったかをみればわかります。

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仏教はなぜ<空>の思想なのか

空の思想史 原始仏教から日本近代へ (講談社学術文庫)
日本人は無宗教だといわれるが、これは宗教という言葉がよくない。これは明治時代に井上毅がreligionを訳したもので、西洋文明を見た彼は近代国家には国教が必要だと考え、キリスト教のような教義宗教をモデルにした。

しかし日本の伝統には真言宗や浄土宗などの「宗」はあったが、それは「教」として教えるものではなく、信者は経典も読めなかった。それは世界の大部分でも同じで、教義や経典をもつのは、約3000年前の枢軸時代以降にできた世界宗教だけである。

世界宗教には「2本の手」があったと著者はいう。1本は広域の農耕社会を支配するための社会的規範であり、ユダヤ教にはこっちの手しかなかった。しかしそれを批判して生まれたキリスト教には個人の救済という2本目の手があった。これが多様な民族の住む古代ローマ帝国全域に広がった原因だった。

古代インドでも、バラモン教にはカースト制を維持する1本目の手しかなかったが、それを批判した仏教には身分秩序の中で苦しむ民衆を救済する2本目の手しかなかった。仏教のコアが<空>の思想だというのも、この特徴によるものだ。

ユダヤ教もバラモン教も秩序を維持する宗教なので、絶対的な存在がないと民衆を支配できない。誰も神を見たことがないが、その存在を疑う者は国家から排除される。それに対して仏教は秩序を維持する必要がないので自由な思想が生まれ、世界には意味がないという事実を素直に受け入れた。

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金利が上がったら国債の価格が下がるのはなぜ?

日本の長期金利が上がっています。長短金利差(5年物~30年物)は2%以上も開き、主要国の中でも最大になりました。これは短期金利に対して国債のリスクプレミアムが上がっていることを示しています。

…といっても金利の意味を知らない三橋貴明さん(およびその信者)には何のことかわからないと思うので、小学生にもわかるように解説しましょう。

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【言論アリーナ】再エネで「グリーン成長」するという夢は終わった



三菱商事グループが洋上風力事業から撤退し、脱炭素化で日本経済が成長するという夢は終わりました。再エネで電気料金が上がる日本で成長を維持するには、エネルギー政策を転換する必要があります。

【出演】
山本 隆三(常葉大学名誉教授)
池田 信夫(アゴラ研究所所長)

ブッダは実在しない(アーカイブ記事)

ブッダは実在しない (角川新書)
仏教はゴータマ・ブッダという人物の教えをもとにした宗教だという理解が一般的だが、著者もいうように「ブッダ」というのは古代インドでは普通名詞で、複数形でも使われている。「キリスト」という個人が実在しなかったのと同じく、「ブッダ」という個人が実在したわけではない。

イエスは実在の人物と推定されている(最近はそれもあやしい)が、ゴータマという王子がいたかどうかは疑問で、著者は実在しなかったという立場をとる。そういう名前の人物はいたと思われるが、彼が一人で『スッタニパータ』に代表される「原始仏教」をつくったとは考えられない。

この点で、本質的な問題は「原始キリスト教」と似ている。イエスと呼ばれる預言者はいたが、彼の言葉として福音書などが伝える話の大部分は、それ以前からユダヤ教の預言者の言葉として伝わっていたものだ。「神の国」や「贖罪」などはイエスの言葉ではなく、キリスト教のコアはむしろパウロ主義と呼んだほうがいい。

同様に「原始仏教」を定義することにも大した意味はなく、そもそもBuddhismという名前は西洋の宗教学がつけたものだ。仏教は西洋的な意味での宗教ではなく、バラモン教からわかれた雑多な宗派の総称と考えたほうがいい。「神仏習合」も日本に特有の現象ではなく、すべての信仰はいろいろな宗派の習合したものだ。

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石器時代の経済学

石器時代の経済学 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)
現代のサラリーマンは、週40時間働く。これは人類の歴史の中では異常な長時間労働である。たとえば年収800万円のサラリーマンの家族が生活に必要なのは、300万円ぐらいだろう。それなら1日3時間働いたら、あとは休んだほうがいい。これからホワイトカラーの労働時間は、AIでますます短くなる。

ケインズは「2030年には所得は今の8倍になるので、労働時間は1日3時間になるだろう」と予言した。今の世界のGDPは彼の生きていた1930年代の20倍だが、人々は相変わらず1日8時間働き、余ったお金を貯蓄している。これは不合理である。

石器時代の人類は、ケインズの予告したような生活をしていた。今でもブッシュマンは毎週8~10時間ほど働き、1日暮らせる獲物がとれると仕事を終え、それを料理して食う。あとは世間話をしたり寝たりしている。生きていけるだけの獲物をとると休み、それ以上は遊んでいるのだ。これは現代人より合理的な生活である。

現代人と比べるとブッシュマンが貧しいことは事実だが、それは歴史的に狩猟採集民が農民より貧しかったことを意味しない。ブッシュマンの栄養状態はよく、遺跡から出てくる骨から推測すると、移動民の身長は農民より10cmぐらい高かったと思われる。

だから「狩猟採集で食えなくなったから農業を始めて定住した」という通念は誤りである。遺伝的には人類の脳も体も移動生活に最適化しているので、定住には向いていないのだ。日本では1万2000年前から定住生活が始まったが、農耕が始まったのは3000年前である。農耕が定住を生んだのではなく、その逆なのだ。

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大麻とタバコとアルコールの中でいちばん危険なのは?

サントリー会長だった新浪剛史さんが、大麻所持の疑いで家宅捜索を受けて会長を辞任しました。海外のメディアでは「日本では大麻で警察が出てくるのか」と驚く報道が相次いでいます。



大麻ってそんなに危険なものでしょうか。チャットGPTに聞いてみました。

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世界は1930年代に回帰するのか(アーカイブ記事)

昨日の世界〈2〉 (みすずライブラリー)
トランプ関税は、IEEPAを根拠にした部分は違憲判決でくつがえる可能性もあるが、自動車の25%関税は通商拡大法232条なので変わらない。世界各国で保護貿易の競争が始まるのは、1930年代のスムート=ホーリー法を思わせる。その結果は誰もが知るように世界経済の収縮と大不況と戦争だった。

今のところ世界大戦の兆候はないが、右派ポピュリストが勢力を拡大する傾向は共通である。ドイツではナチスを否定しないAfDが世論調査で第一党になり、イギリスでも移民を排斥するリフォームUKの支持率がトップになった。フランスでは極右の国民戦線と極左のトロツキストが政権を奪い合っている。

日本でも移民排斥を主張する参政党が躍進し、国民民主党も減税ポピュリズムで参政党に接近している。1930年代にも世界各国でファシストが躍進し、ドイツとイタリアで政権を取り、日本では全政党が大政翼賛会に合流した。

しかしこうした動きが世界の歴史を大きく変えると思う人は少ない。ツヴァイクは「歴史は同時代人には、彼らの時代を規定している大きなさまざまの動きを、そのほんの始まりのうちに知らせることはしない」という。

画家志望だったヒトラーが美術学校の入学試験に落ち、国家社会主義ドイツ労働者党という泡沫政党をつくったとき、だれも気にしなかった。暴動を起こして逮捕されたヒトラーが1930年に勢いを取り戻したときも、新聞は彼を相手にしなかった。「世界征服」や「ユダヤ人除去」などの荒唐無稽な約束は、実行できるはずがないと思っていたからだ。

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世界はなぜ意味を失ったのか

ニーチェ全集 12 (ちくま学芸文庫 ニ 1-12)
人生100年時代の長すぎる老後にとって重要なのは、金でも名誉でもなく「生きがい」である。自分の人生はこれでよかったのか。人生に意味はあるのか――そう自問しない老人はいないだろう。

この問いに明確にノーと答えたのはショーペンハウアーだった。それを継承したのがニーチェだが、彼はニヒリストではなかった。本書で彼が「ヨーロッパのニヒリズム」と呼んだのは、現象の背後に普遍的な本質を想定するプラトン以来の形而上学である。

それがキリスト教に乗っ取られ、プラトンのイデアは人を天国に導く神として大衆化した。世界の意味を追究するスコラ神学が発達し、神の摂理(法則)の探究が科学を生んだ。しかしニュートン力学が世界を隅々まで説明できるようになると神は不要になり、世界は意味を喪失した。

ニーチェが「すべての価値の価値転換の試み」と名づけた草稿は、彼の狂気によって完成せず、草稿が断片のまま遺された。本書は妹エリザーベトがそれを恣意的に編集したもので、彼女がナチスのイデオローグとして兄を利用したため、今日でも禁書に近い。だがニーチェがニヒリズムを克服するために独裁的な「権力への意志」を志向したという解釈は誤りである。

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