戦争と植民地支配が近代科学を生んだ(アーカイブ記事)

A Culture of Growth: The Origins of the Modern Economy (Graz Schumpeter Lectures)
今年のノーベル経済学賞にJoel Mokyrが選ばれた。彼は経済学者というより歴史家だが、本書はイノベーションの起源とその意味を明らかにした経済史の記念碑的な著作である。

人類の歴史の大部分で世界最高の文明国だった中国で「産業革命」が起こらず、なぜヨーロッパの小国イギリスで起こったのか、というのは歴史の謎である。その一つの要因が近代科学だが、中国の技術的知識はヨーロッパよりはるかに進んでいたのに、それが「科学革命」に結びつかなかったのはなぜだろうか。

それは中国が文明として完成していたからだ、というのが本書の答である。中国の学問は四書五経を解釈することであり、エリートの条件は古典を暗記することだった。論理は重視されたが、その論証の根拠は古典の記述であり、事実で古典を否定することはできなかった。ここではオリジナリティは重視されず、イノベーションには価値がなかった。

ヨーロッパ中世でも最高の知識人は、聖書やアリストテレスを読んだ聖職者だったが、それを変えたのは16世紀以降の植民地支配と戦争だった。特にイギリス人が自国よりはるかに広い新大陸を支配し、多くの異民族を統治するには、古典は役に立たなかった。フランシス・ベーコンは古典より観察や実験にもとづく科学を主張し、それを未知の大陸を発見するコロンブスの航海にたとえた。

続きは10月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

バブル崩壊の「戦犯」は大蔵省だった

スクリーンショット 2025-10-13 130559

私は1992年11月に「追跡・不良債権12兆円」というNHKスペシャルをつくった(これはそのニュースハイライト)。これは住専(住宅金融専門会社)が巨額の不良債権を抱えているという番組で、不良債権というタイトルをつけた番組は日本で初めてだった。

当時、住専の最大手、日住金(日本住宅金融)が取引先に出した「回収不能な債権が4500億円」と書かれた秘密報告書が、銀行業界に大きな衝撃を与えた。これを私がNC9で報じたところ、翌日の日住金の株価がストップ安になって冷やっとした。

スクリーンショット 2025-10-13 125153

それでも当時は不良債権が総額で12兆円といわれていたが、不動産バブルは予想を超えるスピードで崩壊した。最終的に2003年に清算が終わったときの純損失は112兆円で、そのうち46兆円を公的資金で埋めた。

最大の「戦犯」は大蔵省だった。1990年3月の3業種規制(不動産融資の総量規制)がバブル崩壊のきっかけだったが、1992年の住専危機で、銀行は不良債権を清算しようとしたのに、大蔵省の寺村銀行局長がそれを阻止した。続きを読む

自民党と公明党の勝者なき「チキンゲーム」はどこへ行く

公明党は9日夜の中央幹事会で、連立継続か離脱かの最終判断を斉藤鉄夫代表・西田実仁幹事長に一任した。10日(金)午後に自民党(高市早苗総裁)との党首・幹事長会談で結論を出す段取りだ。(毎日新聞)

連立協議が難航し、首相指名や新体制発足の国会日程にも影響が出始めているとの見方が強い。(ブルームバーグ)どちらも妥協しないと、自公連立政権は崩壊する。このチキンゲームの結果はどうなるのだろうか。



続きはアゴラ

バブルは崩壊するまでわからない

バブルが続いているときは、誰もそれをバブルとは思わない。日本でバブルという言葉が使われるようになったのは、1990年に株価が下がり始めてからだ。地価が下がり始めたのは1991年からで、バブルの象徴として有名なジュリアナ東京が開業したのは、1991年5月である。

スクリーンショット 2025-10-10 110518
ジュリアナ東京

私が最初に地価上昇の番組をつくったのは1985年で、「神田の古本屋街に地上げ屋という恐いおじさんが出入りしている」という話題ものだった。そのころはまだ珍しかった地上げ屋が古本屋を買収して神保町を大オフィス街に改造しようとしたのだが、その途中でバブルが崩壊して失敗した。

80年代後半に地上げ屋が最大の猛威をふるったのは、西新宿6丁目だった。当時は都庁が西新宿に移転してから再開発が進んでいたが、ビルの谷間に平屋の木造家屋が密集し、権利関係が複雑で用地買収が進んでいなかった。

G2j_QNmbAAA0IQg
再開発前の西新宿6丁目

そこに登場したのが、最強の地上げ屋、最上恒産だった。1986年の申告所得は前年度の380倍の186億円になり、業界を驚かせた。会長の早坂太吉は、エセ同和の尾崎清光を病院で殺した容疑者で逮捕され、無罪になったが、その前科を売り物にしていた。

続きは10月13日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

円安・債券安の次に来るのは株式バブルの崩壊だ

円安が急速に進行している。高市総裁が決まってから、5日間で5円もドルが上がった。



この最大の原因は高市氏のバラマキ路線である。今年の初めにドルが160円まで上がったのは、日米の金利差が開いたためだった。図のように金利差とドル円はほぼパラレルに動いていたが、今年の夏から金利差とは逆に円安になってきた。この原因は、参院選で国民民主党などが「財源を考えないで減税しろ」とバラマキ財政を主張したからだ。

スクリーンショット 2025-10-09 175753

それだけではない。ドルも金(ゴールド)に対して大幅に下がっており、金は史上最高値を記録した。つまり円だけが下がっているのではなく、ほとんどの先進国の通貨(ユーロを除く)が下がり、金本位制に回帰しているのだ。

2025-09-Frame-1915_121418

この原因は、トランプ大統領がドル安政策を取り続けていることだ。彼は「アメリカはドル高で他国に富を奪われている」という被害妄想を抱き、ドルの基軸通貨としての地位を捨てようとしている。実際にトランプのやった関税はドル高政策だが、こういう支離滅裂な政策で基軸通貨としてのドルの信認が失われ、ドルからの資本逃避が起こっている。

続きは10月13日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

【更新】臨時国会で「玉木首相」は実現するか:3つのシナリオ

高市早苗氏が自民党総裁になりましたが、野党はこれに対抗して臨時国会の首班指名で「玉木首相」を指名しようとしています。これは算術的には可能です。どうなるか、チャットGPTに計算してもらいました。

Q. もしも臨時国会の首班指名で、立民・維新・国民・れいわ・共産が「玉木雄一郎」と書いたらどうなりますか?

非常に興味深い仮定ですね。衆議院の勢力は次のようになっています。



臨時国会の首班指名選挙で、立憲民主党・日本維新の会・国民民主党・れいわ新選組・共産党の議員全員が「玉木雄一郎」と書いた場合、憲法と国会法の手続き上、以下のような展開になります。

続きはアゴラ

高市早苗氏は「日本のサッチャー」になれるか?

高市早苗氏は「サッチャーを尊敬している」とたびたび言っており、サッチャーの回顧録が愛読書だという。サッチャーといえば、1979年に保守党の党首に選ばれたとき、ハイエクの『自由の条件』を掲げて「これが私の信じているものだ」と宣言したのが有名である。


Sora2で作成

高市氏がサッチャーに似ているかどうか、チャットGPTに聞いてみた。

続きはアゴラ

サッチャーの「保守革命」は異端だった(アーカイブ記事)

マーガレット・サッチャー―政治を変えた「鉄の女」―(新潮選書)
自民党総裁になった高市早苗氏はサッチャー元首相を尊敬し、その自叙伝を愛読しているらしいが、その政策はサッチャーとはまったく違う。サッチャーが「小さな政府」をスローガンとしたのに対して、高市氏は減税とバラマキの「大きな政府」である。それはサッチャーの登場する前の「英国病」に似ている。

ただサッチャーの政策が、それほど首尾一貫していたわけではない。のちにマネタリズムと呼ばれる政策を彼女が実行したのは、1970年代に英国病が完全に行き詰まった状況で、他に手段がなかったためだ。最大の敵は長期にわたってストライキを繰り返す労働組合、特にその中核である炭鉱労組だった。

スクリーンショット 2025-10-06 081912

イギリスの保守党は、文字通り保守的な地主と貴族の党で、雑貨屋の娘であるサッチャーは異端の右派だった。保守党の政治手法も既得権を守って妥協するもので、本流のヒース首相は炭鉱労組との対決を回避し、石油ショックに対して財政出動と価格統制で対応した。このためイギリス経済は、インフレ率が20%を超える大混乱に陥った。

そんな中で保守党の党首選挙が行われ、なり手のいない状態で、異端のサッチャーが保守党の党首にかつぎ出された。1979年に彼女が党首に指名されたとき、ブリーフケースからハイエクの『自由の条件』を出し、「これがわれわれの信じているものだ」と宣言したエピソードは有名である。

続きは10月13日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

インフレ税は資源配分をゆがめず所得分配を公平にする「最適課税」

自民党総裁が、高市早苗氏に決まった。これで今までは空想的な話だと思われていたインフレ税が、よくも悪くも実現する可能性が出てきた。



インフレ税を最初に提案したのは、Lucas-Stokeyの有名な論文である。これは合理的期待という理想的な条件のもとでは、インフレは(ラムゼーの意味で)最適課税であることを証明した。これは金融資産を減価させて所得分配も公平にするが、それには条件が必要である。

インフレ税は金融資産への一律課税だから、資源配分をゆがめないという意味の効率性は高いが、それが事前にわかっていると、金持ちは海外資産に逃避する。国際資本移動が完全だとするとインフレ税は無効になるが、実際の投資家は合理的ではないのでインフレ税は有効だ。問題はどうやってインフレにするかである。

続きはアゴラ

宗教は「まじめな遊び」である

Religion in Human Evolution (English Edition)
本書は宗教社会学の世界的権威ロバート・ベラーの最後の大著だが、そのテーマは「遊び」である。宗教といえば聖職者がまじめに祈祷や儀式をするものだが、著者は(ホイジンガに従って)遊びはまじめの対義語ではなく、宗教はまじめな遊びだという。

多くの霊長類に見られる遊びは、グルーミング(毛づくろい)である。猿は起きている時間の3割をグルーミングについやす。これはダンバーのいうように、毛づくろいで親近感を表現し、相手はそれを許す(背中を見せる)ことで信頼感を示す儀式である。

類人猿の集団内の序列は生まれたとき決まっているが、それは下位の個体のストレスとなる。それを解消するために、上位と下位の個体が互いに毛づくろいし、集団意識を高めるのだ。グルーミングは生存の役に立たないという意味では遊びだが、集団を維持するためには必要な行動である。

宗教の原型も、こういう集団維持のための遊びだったと考えられる。毛づくろいは最大でも十匹ぐらいしかできないが、言葉を使えば世間話で100人程度までの集団が互いに仲間であることを確認できる。このような世間話が神話として多くの部族社会で語り伝えられ、宗教が生まれた。

遊びは労働時間以外の「暇つぶし」だが、一緒に遊ぶためには同じルールに従う合意が必要である。部族社会の祭や儀式はこの合意を確認する集団行動で、音楽やダンスなどの娯楽を含んでいる。生存に必要ない音楽がすべての民族にあるのも、このためである。遊びは楽しくないと続かないからだ。

続きは10月6日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)


note1
スクリーンショット 2021-06-09 172303
記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ