財務省から出てきた「医療費の窓口負担一律3割」の提案

財務省が医療費のタブーに踏み込み、70歳以上も一律3割負担とする改革案を打ち出しました。政治家が避け続けた“聖域”に、財務省が本気でメスを入れ始めたのです。

「減価償却費の一括計上」は法人税改革の第一歩

政府の「日本成長戦略会議」で減価償却費の一括計上が議論された。これは自民党総裁選挙で茂木候補があげた公約だが、単なる投資減税ではなく、法人課税の全面的改革の第一歩になる可能性がある。

チャットGPTの解説:減価償却の廃止(一括計上)という提案は、Alan J. Auerbachらが提唱する税制改革の理論的帰結の一つです。以下で体系的に解説します。

法人所得税はゆがみが大きい

現在の法人所得税は会計操作の余地が大きく、日本では企業の60%以上が赤字法人で税を払っていないなど、ゆがみの大きい税として知られています。法人所得は海外移転などで減額できるため、租税回避を促進します。

特にゆがみが大きいのが減価償却です。法人税は投資の時点で支出した資本財(設備など)を減価償却で分割して控除しますが、これは投資のタイミングによって課税の現在価値が変わり、過少投資になります。

また減価償却には裁量の余地が大きいため企業の会計操作に使われやすく、税務当局の裁量も大きいので、租税特別措置のような特定の企業の優遇措置として使われます。

「キャッシュフロー税」で減価償却を廃止する

Auerbachは、これを根本的に修正するためにキャッシュフロー税(CFT)を提唱しました。その基本原理は課税対象をキャッシュフロー(現金の流入-流出)に変えるものです。つまり:

 •投資も現金流出なので即時一括控除。
 •減価償却の概念が不要(廃止)。
 •課税ベースは「営業収入-経費-投資支出」。

AuerbachとDevereuxは、さらにこのCFTを貿易取引に適用して、DBCFT(Destination-Based Cash Flow Tax)を提案しました。これは「どこで生産したか」ではなく「どこで消費されたか」に基づいて課税します。

これによって法人所得税はなくなり、VATのようなキャッシュフロー課税に一元化され、大幅に簡素化されます。政府の裁量や会計操作の余地が少なくなり、法人税の国際的な租税競争を回避できます。

ただし現行の法人所得税のもとで投資を一括償却すると、法人税がゼロになったり、財政赤字が増えたりして大きな問題が起こります。政府の提案は設備投資減税として出ているようですが、税制の整合性という点で疑問があります。

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政治が「強すぎる円」を生み、空洞化が「弱すぎる円」を生んだ

円ドル戦争40年秘史 なぜ円は最弱通貨になったのか (日本経済新聞出版)
ミルトン・フリードマンが1950年代に変動為替相場を提案したとき、それをまじめに受け取る人は少なかった。為替レートは物差しのようなもので、それが毎日、伸びたり縮んだりしては貿易はできない。

それが1970年代にドルが弱くなって金・ドルが兌換停止になり、なし崩しに変動相場制になった。フリードマンは通貨価値がその購買力に等しい水準に決まると考えたが、実際の為替レートは購買力平価(PPP)とはほど遠い。今の円のPPPはBISによれば1ドル=約95円だが、名目為替レートは154円で、その60%である。

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歴史上、これほど大きくPPPと名目レートが離れた例は少ない。円高方向に大きく外れたのは1995年で、ピーク時には79円台を記録した。これはクリントン政権のドル安誘導で政治的につけたレートだったが、意外に大きな影響をもたらした。この時期から所得収支の黒字が増え始めたのだ。

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これは初期には、円高による製造業の資本逃避だった。不良債権問題で弱った日本の通貨価値が史上最高になったのは明らかに過大評価だったので、海外生産を増やしたのだ。その後クリントン政権の方針転換で円は下がり、金融危機の起こった1998年には140円まで下がったが、空洞化は止まらず、今では経常収支の黒字はすべて所得収支である。

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ワトソンの不都合な真実(アーカイブ記事)

二重らせん (ブルーバックス)
ジェームズ・ワトソンが死去した。97歳。本書は、彼とクリックが「遺伝子」の正体がDNAの二重らせんという単純な構造にあることを発見するまでを描いた、20世紀最高の科学読み物である。ただワトソンの役割が誇大に描かれ、最初に二重らせんを発見したロザリンド・フランクリンの業績を無視しているなど、学問的には問題が多い。

ワトソンは陽キャラで、その後もいろんな問題を引き起こした。大スキャンダルになったのは、2007年に「黒人の知性は白人と同じではない」と発言し、国際的なブーイングの嵐を巻き起こしたことだ。彼は全面的に謝罪したが、所長をつとめるコールド・スプリング・ハーバー研究所の理事会は、彼を停職処分にすると発表した。

問題のインタビューを読むと、たしかに軽率にしゃべった印象はまぬがれない。世界一有名な分子生物学者のコメントとあれば、当然科学的な根拠のある話だろうと読者は思うが、彼はこの点も「科学的根拠がない」とあっさり引っ込めてしまった。

しかしIQと遺伝子には明らかな相関があり、その遺伝子の一部も同定されている。また、かつて大論争を巻き起こした"The Bell Curve"のように、黒人のIQが平均して白人より低いとする実証研究は多く、学問的には認められている。カリフォルニア大学などでは、ハンディキャップをつけないとアジア系が圧倒的多数を占めて、黒人がほとんど入学できないという実態もある。

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日本の検索サービスは2003年に死んだ

NTTの検索サービス「goo」が今月25日にサービスを終了する。これは1997年にロボット型の検索エンジンとしてサービス開始したもので、Googleより1年早かった。

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当初gooはNTTが開発した検索エンジンinfobeeを使っていたが、文化庁が「検索サービスは違法の疑いがある」と行政指導した。検索エンジンでは効率的に検索するため、コンテンツをキャッシュ(一時記憶)に保存するが、これが無断複製にあたるというのだ。コンテンツにインデックスを付けて表示することは編集に該当し、検索結果の表示は自動公衆送信で権利者の許諾が必要だとされた。

当時の著作権法には検索についての規定がなく、これは文化庁の官僚の解釈だったが、NTTはそれに従い、バックエンドの検索サーバをアメリカのInktomiに切り替えた。その後2002年にInktomiの経営が破綻し、Yahoo!に買収されたため、gooは2003年からGoogleの検索エンジンを採用した。

その後もソフトバンクなどが検索サービスを立ち上げようとしたが、著作権法でグレーになっていたため法務部が認めなかった。著作権法で検索インデックスが合法化されたのは2009年の改正だが、そのときは世界の検索マーケットはGoogleの独占状態になっていた。

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AIで「逆淘汰」される中高年アナログ社員



パナソニックの人員整理で驚いたのは1万人という規模ではなく、その人員構成だ。バブル前の黄金時代に採用した50歳以上がほぼ半分を占める。これまでもパナは希望退職を募集したが、これでは若い社員が応募して中高年社員が残るので、こんな年齢構成になってしまった。

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今回の募集は40~59歳の社員に限ったが、それでも他社でつぶしのきく人材が転職し、昔テレビやVTRをつくっていたころのアナログ社員が残る。海外ではAIで不要になるホワイトカラーの人員整理が進んでいるが、日本ではAIに対応できない人材が残る逆淘汰が始まっているのだ。

これは深刻な問題である。政府の「日本成長戦略本部」はAIへの対応をトップに掲げているが、政府がAI投資をする意味はない。それより大事なのは、解雇の金銭解決を法制化し、AIに対応できないホワイトカラーを整理することだ。

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30年前に死にそこなった「ゾンビ企業」が今も日本経済を呪う



アトキンソンさんと話して思ったのは、不良債権処理はまだ終わっていないということだ。彼が徳政令を提案したころは20兆円ぐらいだった不動産の評価損は、2003年には112兆円に拡大したが、清算したのは不動産だけで、それ以外の不良債権の処理は先送りした。

2000年代に日銀がゼロ金利にしたのも、こうしたゾンビ企業(営業利益で金利を払えない企業)を延命するためだった。ゾンビ企業は金利をゼロにすれば生きながらえる。それを清算して人的・物的資源を再配分すると生産性は上がるのだが、大量のマネーを供給して企業のサンクコストを守ったのがアベノミクスである。

企業はあり余る資金を貯蓄に回し、貯蓄過剰になった。図のように1997年まで投資主体(マイナス)だった企業が、98年から貯蓄主体に変わり、今に至っている。これがいわゆる内部留保で、今は累計600兆円にのぼる。

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資本主義は企業が金を借りて投資するシステムだから、企業が貯蓄していては成長するはずがない。これが日本経済の最大の構造問題である。その原因は、企業が継続してきたサンクコストを大事にする日本企業の体質である。

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日本はなぜ「属国」になったのか(アーカイブ記事)

歴史としての日米安保条約――機密外交記録が明かす「密約」の虚実
高市首相のふるまいを「属国しぐさ」と批判すると、ネトウヨから「属国で何が悪い」とか「対米従属しか日本の生きる道はない」といった反応が来る。属国でいいなら、憲法改正も安保法制も必要ない。左翼が反米なのはわかるが、右翼まで自民党の結成された目的を知らない時代になったのか。

自由党と日本民主党が1955年に保守合同した最大の目的は、占領状態を脱却して再軍備し、安保条約を日米相互防衛条約にして米軍を撤退させることだった。米軍基地を残したままのサンフランシスコ平和条約は属国条約であり、基地が治外法権になっている不平等な安保条約を改正し、日米が対等の同盟国になることが自民党の悲願だった。

1955年8月に鳩山一郎内閣の重光葵外相が訪米し、ダレス国務長官に相互防衛条約の日本案を見せた。その第4条まではNATOなどと同じ共同防衛の規定だが、第5条には「日本国内に配備されたアメリカ合衆国の軍隊は、この条約の効力発生とともに、撤退を開始するものとする」と書かれていた。

これに対してダレスは「現憲法下において相互防衛条約が可能であるか。日本は米国を守ることができるのか。たとえばグワムが攻撃された場合はどうか」と質問した。重光は「自衛である限り協議が出来るとの我々の解釈である」と答えたが、ダレスは「それは全く新しい話である。日本が協議に依って海外派兵できると云う事は知らなかった」と驚いてみせた。

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プライドさえ捨てれば「愛人」は気楽で安上がり

トランプ大統領を迎えた高市首相のふるまいは、見ていて恥ずかしかった。サッチャーもメルケルも、メローニでさえあんなはしゃぎ方はしなかった。あれも一種の演技かもしれないが、世界に「日本はアメリカの属国だ」と発信したようなものだ。



2017年にトランプが来日したとき、大統領専用機で米軍横田基地に降り立った。それまで日本を訪問した米大統領は羽田空港に降りたが、トランプは米軍基地に直接来て、しかも軍服を着て演説したのだ。これはおれたちが日本を守ってやっている(だから金よこせ)というパフォーマンスだろう。

同じように基地に降り立ったアメリカの指導者がいる。1945年8月に海軍の厚木飛行場に降りた、マッカーサー連合国軍最高司令官である。それ以来80年、日本は占領時代と変わらない属国だ。その状態から脱却するため1955年に保守合同で自由民主党が結成されたが、その宿願だった憲法改正と再軍備はいまだにできない。

だが属国からの脱却を本気でめざしたのは安倍首相までだろう。世界最強の軍事大国の核の傘で守ってもらうコストは「思いやり予算」ぐらいだ。基地も空母も治外法権で、首都の上空は米軍の管制空域だが、それを屈辱だと思う人は少ない。

高市首相のふるまいを「愛人のようだ」という人が多いが、主権国家のプライドさえ捨てれば、愛人ほど気楽で安上がりなものはない。

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サッチャーの金融資本主義がイギリスを英国病から救った

サッチャー 「鉄の女」の実像 (中公新書)
高市首相はサッチャーを尊敬しているそうだが、両者は女性という以外に共通点がない。サッチャーは何よりも財政バラマキや政府の民間への介入をきらう、小さな政府を信念とする政治家だった。それは既得権保護を党是とするイギリス保守党では異端の思想だった。

1970年代のイギリスは労働党政権のもとで、10%を超えるインフレ率と失業率の続く「英国病」に悩まされていた。これに対してサッチャーなどの右派は、完全雇用を目標とするケインズ主義から、マネーサプライを制御してインフレを抑制するマネタリズムに転換すべきだと主張した。

これはフリードマンの理論で、サッチャーがそれを理解していたかどうかは疑わしいが、1979年に首相になると、彼女は政治的信念からマネタリスト的な経済政策をとった。その最初の政策が、為替管理を廃止する資本移動の自由化だった。これは国際資本移動を自由化し、イギリス金融資本が海外進出した。

国内でもマネーサプライを一定に保つために金利を上げ、長期金利は15%になったため、スタグフレーションが激化した。だがサッチャーは「レディは振り返らない」と宣言して、財政支出を大幅に削減する緊縮予算を出した。これによって失業率は上がり、ストライキが頻発して政権は危機に瀕した。

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