贈与で協力を作り出す「一般エコノミー」

極限の思想 バタイユ エコノミーと贈与 (講談社選書メチエ)
バタイユは、古典派経済学のような生産と交換にもとづく限定エコノミーの概念に対して、浪費と贈与にもとづく一般エコノミーを提唱した。前者は、たかだかこの300年ぐらいの西欧圏にしか通じない経済学だが、後者は石器時代からの人類の経済行動を説明するものだ。

限定エコノミーで人々が求めるのは有用性(utilité)だが、一般エコノミーでは栄光(gloire)である。共同体の首長が村中の人を集めて宴会を開き、全財産を浪費するとき、彼は栄光を得て、人々に貸しをつくる。宗教的な儀礼にも有用性はないが、それに協力する人々は共同体のメンバーであることを確認する。

それは進化ゲーム理論でいうと、コミュニケーションで味方と協力し、敵とは戦う秘密の合言葉(secret handshake)と呼ばれる戦略である。この戦略は強力で、囚人のジレンマやチキンゲームを一般化した共通利益ゲームでは、つねに贈与で最適解が実現できる。贈り物は、この合言葉である。贈られた人は返礼の義務を負い、返さないと村から追放される。

このとき贈り物が有用である必要はない。むしろ村の外では価値のない土偶のような浪費が望ましい。有用な物は返礼しないで持ち逃げできるが、土偶を持ち逃げしても、村の外では役に立たないからだ。限定エコノミーで満たされるのは利己的な欲望だけだが、一般エコノミーでは社会を支える利他的な協力が生み出されるのだ。

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日本人はなぜ市場経済がきらいなのか



政府はチケットの転売を防ぐために、マイナンバーカードを使う方針だという。これは一体だれのためにやるのだろうか。消費者にとっては、転売されて原価より高くても、本当にほしかったら買う。いちばん高い価格をつける人が、本当にほしい人なのだ。

イベントの主催者にとっても高く売れた方がいいのだから、転売屋がもうけるのを防ぐには、最初からチケットの価格を高くつければいい。ところが日本では「本当にほしい人が買えない」といって転売屋がきらわれ、これを締め出す。その結果、外国人はチケットを買えなくなった。


この背景には、意外に根深い問題がある。日本では伝統的に、商人が蔑視されていた。士農工商といわれるように、商人は一番低い身分で、農民の労働の上前をはねる存在だと思われていた。その原因は、交換の起源が、モースも指摘したように贈与にあったからだ。

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巨大な古墳はなぜ生まれ、なぜ消えたのか

古墳とはなにか 認知考古学からみる古代 (角川選書)
日本古代史の大きな謎は、古墳である。全国に15万もあり、最大の大仙古墳(いわゆる仁徳天皇陵)は、全長486メートル。建設には20年かかり、当時のGDPの半分が費やされたともいわれる。

この巨大な墓に実用的な意味はまったくないが、3世紀に農耕が大規模化し、階層分化が起こった時期に生まれたので、豪族の権威を示すために巨大な陵墓がつくられたものと思われる。これを「**天皇陵」と呼ぶのは根拠がなく、大仙古墳がつくられた5世紀前半には、まだ各地に地方国家が分散していた。

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大仙古墳(大阪府観光局)

地方豪族の競争の中から、国家を代表する「倭王」と呼ばれる王が出てきて、その権威を誇示するために大きな墓をつくったものと思われる。ところが国家が統一されて倭王の権威が高まった5世紀後半から、古墳は縮小し、普通の墓になってしまう。それはなぜだろうか。

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コロナを「5類にする」ってどういうこと?

加藤厚労相は、新型コロナを5類に変更する「見直しに向けた検討を始める」といいました。これまでも何度も「見直し」や「検討」をしてますが、今度はほんとにやるんでしょうか。

Q. 今コロナはどういう位置づけなんですか?

新型コロナは、特措法で新型インフルエンザ等感染症に分類されています。これはわかりにくい名前ですが、季節性インフルエンザとはちがう「全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」です。

Q. 「国民の生命及び健康に重大な影響を与える」とはどういう意味ですか?

病状の程度が「季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以上」だという意味です(特措法15条)。この条件を満たさないと新型インフル等感染症とはみなされないので、特措法の対象にはなりません。

Q. コロナはインフルより病状の程度が重いんですか?

それはコロナとインフルの重症化率と致死率を比較すればわかります。財政制度等審議会の資料によれば、次のようにコロナ第7波(オミクロン株BA4・5)は60歳以上でも重症化率は0.14%、致死率は0.474%で、重症化率も致死率もインフルより低く、「季節性インフルとおおむね同程度以上」とはいえません。


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量的緩和からの出口は「永久国債」で

統合政府(政府+日銀)のバランスシートで問題なのは、資産と負債の差額「△534兆円」である。これは債務超過なので、今後のプライマリーバランス黒字の累計が534兆円以上ないと返せない。これは明らかに不可能だが、それが財政破綻の証拠なら、今ごろハイパーインフレになっているだろう。

普通の企業では、返す見込みのない借金を背負った企業の社債には、高い金利(リスクプレミアム)がつく。たとえば楽天グループが発行するドル建て社債の金利は12%だが、国債の金利はほぼゼロである。政府債務を完済する必要はなく、借り換えで将来世代に先送りできるからだ。

しかし世界的に金利が上がり、日銀もゼロ金利からの出口を考える時期になってきた。ここで問題は、日銀の保有国債や日銀当座預金の金利が上がることだ。これを避ける一つの方法は、岩村充氏の提案のように日銀の保有国債を永久国債で借り換えることだ。いま話題の「防衛国債」も、永久債にしてはどうだろうか。



これは実質的には政府紙幣を発行して日銀が買い取るのと同じで、日銀はそれを日銀券で買えば、統合政府のBSから消すことができる。問題は債券市場が、このような借り替えで政府の返済能力に疑問を抱き、市中に流通する国債の金利が上がることだ。

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デモクラシーは古代から現代まで「エスニックな共同体」

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源
近代デモクラシーの歴史は短く、合衆国憲法までさかのぼっても、230年あまりの歴史しかない。それと古代ギリシャのデモクラシーにはほとんど共通点がないが、一つあげられるのは、それがエスニックな共同体だということだ。

古代アテネで民会に参加できたのはアテネ市民だけで、外国人や奴隷は除外されていた。アメリカ独立宣言は「すべての人間は平等につくられている」と宣言したが、合衆国憲法では、先住民と黒人奴隷は「人間」から除外されていた。

大英帝国が世界を支配したときも、イギリス国民には同じ権利があったが、植民地の住民は同じ人間とはみなさなかった。この二重構造が、大英帝国の世界支配を可能にした。合衆国憲法はそれをまねたもので、英米型デモクラシーは白人の平等主義だったのだ。

この構造は20世紀前半まで続いたが、戦後のアメリカでは大きな変化が起こった。一つは高等教育の普及によって上昇する白人と没落する白人が分化したこと、もう一つは公民権運動などで黒人の地位が上昇し、白人と競合する労働者になったことだ。それを決定的にしたのが、1990年代以降のグローバリゼーションだった。

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文化を生んだのは言語ではなく「自己家畜化」

家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか
人間と類人猿をわける最大の特徴は言葉が使えるか否かだが、これは明らかに遺伝である。その原因も最近は特定され、FOXP2という遺伝子(塩基配列)と関連があることがわかっている。人間とチンパンジーのDNAでは、FOXP2の配列に2ヶ所の違いがあるのだ。

他方、家畜化(domestication)に関連するBAZ1Bと呼ばれる遺伝子があることも、最近わかってきた。これは神経堤幹細胞に関連し、家畜には少ない。人間でも、ある種の発達障害(ウィリアムズ症候群)の人には少ないが、彼らは極端に社交的で、お人好しでおしゃべりだ。

人類(ホモ・サピエンス)がネアンデルタール人との競争に勝った原因は言語だといわれていたが、最近、ネアンデルタール人の遺伝子にFOXP2が発見された。つまりネアンデルタール人も言葉を話す能力をもっていた可能性が高いが、BAZ1Bは他の霊長類と同じだった。

ところが人類のBAZ1Bには変異がみられ、これが自己家畜化と関連があると思われる。人類が生存競争に勝った原因は言語ではなく、自己家畜化による集団生活だったのかもしれない。言葉は一人で使っても役に立たないからだ。

他人と仲よくなるBAZ1Bの変異で、集団生活できるようになったホモ・サピエンスが、言葉でコミュニケーションするようになり、それが文化を生んで集団の結束力が強まり、自己家畜化がさらに進む…というループが起こったのかもしれない。

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気候変動は「脱炭素化」から「開発援助」の問題になった

エジプトで開かれていたCOP27が終わった。今回は昨年のCOP26の合意事項を具体化する「行動」がテーマで新しい話題はなく、マスコミの扱いも小さかったが、意外な展開をみせた。発展途上国に対して損害と賠償(loss and damage)の基金設立が決まったのだ。

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宗教は遺伝するか

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) (NewsPicksパブリッシング)
獲得形質は遺伝しないというのは、中学の理科で習う常識だが、最近の生物学では自明ではない。もちろん文化が遺伝子(DNA)を変えるわけではないが、どういう個体が多くの子孫を残せるかを決め、間接的に遺伝形質を変える。

たとえば人類(ホモ・サピエンス)の犬歯は、類人猿に比べて退化し、チンパンジーのように敵を噛み殺すことができない。これは石器の使用(200万年前)で敵を殺せるようになり、火の使用(100万年前)で肉が柔らかくなったことによる進化と考えられる。

もっと最近の例としては、外婚制(近親婚の禁止)がある。これは中国では数千年前からあるが、ヨーロッパでは古代後期からといわれている。その起源については長い論争があるが、外婚制によって親族以外との交流が深まり、国家や宗教ができたと考えられている。

外婚制と宗教には相関があり、大規模な社会ほど外婚制で、普遍主義的な宗教(道徳)をもっている。その典型がヨーロッパで、人口の移動で戦争が増えて親族集団の同一性が崩れたため、普遍主義的なキリスト教だけが共通の価値観になった。

それに対して多くの「未開社会」は内婚制(いとこ婚が可能)で、親族集団の相互交流が少ない。こうした社会では親族集団が閉じているので、キリスト教のような普遍主義的な宗教はできず、地域ごとにアドホックな神を信じることが多い。その典型が日本である。

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インボイスの挫折は「消費税の呪い」

財務省の宿願だったインボイス制度が、また骨抜きになりそうだ。今までの報道では「売り上げ1億円以下の事業者」はインボイスなしで税額控除する経過措置を設けるといわれているが、もともとこれは1989年に消費税が創設されたとき、施行される予定だった制度を2023年まで延期したものだ。

大型間接税は、多くの内閣を倒してきた「呪われた税」である。1979年に大平内閣が「一般消費税」の導入を閣議決定したが、総選挙で大敗して大平首相は退陣した。中曽根首相は「大型間接税はやらない」と約束して総選挙に勝ったあと、1987年に売上税法案を国会に提出したが、野党の反発で廃案になった。

1970年代に大蔵省が一般消費税を企画した最大の理由は、財政赤字への危機感だった。所得税や法人税を引き上げるのは限界に近づいており、捕捉率の高いEUの付加価値税(VAT)が理想だと考えて大蔵省は自民党に根回しした。ところが80年代後半にはバブルで税収が史上最高になり、図のように赤字国債(特例公債)の発行額はゼロになった。

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国債発行額の推移(財務省)

竹下内閣は余った税金の使い道に困り、全国の市町村に一律1億円を配った。他方で3%の消費税を創設したため、反対の大合唱が起こった。大蔵省は所得税を減税して税収中立にしたが、チェーンストア協会などが猛烈な反対運動を繰り広げ、1989年の参議院選挙では社会党が第一党になった。

竹下首相は満身創痍になり、リクルート事件で退陣した。これが政治的なトラウマになり、その後も消費税を上げるたびに内閣が倒れるジンクスができてしまった。続きを読む



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