自民党だけがなぜ選択的夫婦別姓に反対するのか

立民党が法務委員長を取ったことで、国会に夫婦別姓の選択を認める民法改正案が提出されることが確実になった。自民党以外は(公明党も含めて)全党派が賛成しており、自民党も党議拘束はかけないと思われるので成立は確実だ。


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大乗仏教は東洋と西洋を超える「惑星的思考」か

身体化された心―仏教思想からのエナクティブ・アプローチ
大乗仏教は近代の西洋哲学に似ているが、その類似点を拾い出しても意味はない。大事な問題は、大乗仏教が西洋哲学の問題を解決したのかということだ。フランシスコ・ヴァレラはそう考えた。

彼はニューロサイエンスの先駆者だが、彼のオートポイエーシス(自己組織化)理論は、神経細胞の認識が外界からの刺激と1対1に対応していないことを見出した。たとえば次の図形は、ある被験者には若い女性に見え、別の人には老婆に見える。どっちに見えるかは、図形からは導けない。

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このような実験を重ねた結果、ヴァレラがたどりついたのは認識論的ニヒリズムだった。人間の認識は身体と環境の社会的な相互作用で自己組織化されるのであり、主観とは独立の実在も、対象から独立の自我も存在しない。彼はこのような思想を大乗仏教の「空」の哲学に見出す。

その先駆として本書があげるのは、西谷啓治である。彼はハイデガーに学び、その影響を受けてニヒリズムを生涯のテーマとしたが、日本に帰国してからは大乗仏教を研究した。そこにはニーチェで行き詰まった西洋哲学を乗り超え、ハイデガーが追求した東洋と西洋の違いを超える「惑星的思考」があるという。

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資本主義を生んだのは海賊のエートスだった

海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで (中公新書 2442)
世界史上の大きな謎は、ヨーロッパの西端の小さな島国だったイギリスが、世界最大の帝国を築いたのはなぜかということだ。その一つの答は、彼らの先祖がバイキングだったことにある。

農民は一生、生まれた土地にしばられるが、海賊は遊牧民と同じように移動しながら獲物をさがす。それは現代では犯罪だが、歴史上の大部分ではそうではなかった。今でもイギリスや北欧には、海賊の伝統が生きている。

大航海時代に多くの国が遠洋航海で貿易をしたのに対して、後発の小国だったイギリスは海賊を国家が雇った。海賊フランシス・ドレークはエリザベス1世にその強盗の腕を見込まれて、王室海軍の副司令官になった。

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フランシス・ドレーク

彼らのねらいは新大陸やアジアから財宝を積んで帰ってくる商船だが、イギリスの海賊はスペインの無敵艦隊にはかなわないので、船に火を放って相手の艦隊に突っ込ませる「火船攻撃」で無敵艦隊を全滅させ、大西洋の制海権を握った。海賊は正式のイギリス艦隊に格上げされ、ドレークは爵位を与えられた。

彼らは新大陸で奴隷を使ってタバコや麻薬などのプランテーションをおこない、それをヨーロッパに売った利益で奴隷を買う「三角貿易」で巨額の利益を上げた。これが資本主義の始まりである。資本主義を生んだのはプロテスタンティズムではなく、世界を移動しながら獲物を奪う海賊のエートスだったのだ。

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ネット選挙を事実上禁止する公選法



兵庫県知事選挙は思わぬ展開を見せ、折田楓社長が選挙運動を有償で請け負ったとすれば、斎藤元彦氏が失職する可能性が出てきた。きのうの弁護士の会見は穴だらけで、次のような疑問に答えていない。
  • 「SNS戦略の企画立案などについて依頼をしたというのは事実ではありません」というが、彼女のnoteでは斎藤氏に対するSNS戦略の提案(9月29日)の写真とともに10月から11月17日(投票日)まで一連のスケジュールを示し、「広報全般を任せていただくことになりました」と書いている(今は削除)。

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  • その後も折田氏は選挙演説の横でインスタライブを撮影し、Xアカウントで情報発信している。これは単なる事務ではなく、主体的な選挙運動だと思われるが、それについて斎藤氏が「何も依頼していない」ということは常識的には考えられない。

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  • 10月31日付で出された請求書には、チラシやポスターなどの代金71万5000円が書かれ、折田氏が斎藤氏に見せた「SNS戦略」については何も書かれていないが、支払い期日が11月末日となっており、選挙運動全般の報酬と考えられる。

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    スポニチより

以上の証拠から、少なくとも折田氏が選挙期間中にSNS活動を仕切ったことには疑問の余地がない。問題はこれが有償で依頼された業務か個人的なボランティアかということだが、削除されたスケジュール表では一連の業務として書かれており、社員も動員している。ところが弁護士は、この削除された部分を見ていなかった。

陣営側は選挙運動の依頼が違法だと認識して請求書の内訳を実費だけにしたと思われるが、折田氏は違法性をまったく意識せず、自分が広報活動(選挙運動)を任されたと明言している。この認識の齟齬が今後の争点になるだろう。

根本的な問題は「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭の供与」をしたときは、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処するという公選法221条1項の規定が、ネット選挙を事実上禁止していることだ。

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死ぬまで元の取れない厚生年金に強制加入させる年金法改正案

厚労省は25日、年金法の改正案を審議会に提示した。これは「年収106万円の壁」をなくし、すべての企業に厚生年金を強制するものだ。日経新聞などは「基礎年金の3割底上げ」と報じているので、結構なことだと思う人が多いだろうが、これには複雑なからくりがある。

この背景には、マクロ経済スライドの失敗がある。これは年金財政の収支が均衡するように支給額を下げる制度だが、政治的な事情でほとんど実行されず、これから実行すると国民年金が3割下がる。そこで2057年までかけて支給額を3割減らす予定だったが、これでは最低限度の生活ができないので、底上げしようというのが今回の改正案のねらいだ。



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心理的な「年収の壁」は100万円にある

税制と経済学: その言説に根拠はあるのか
国民民主党の問題提起で「年収の壁」が話題になっているが、基礎控除の引き上げで自治体が減収になるという反対論が出ている。そこで与党では、所得税の基礎控除48万円を上げる一方、住民税の基礎控除43万円を据え置く案が検討されているという。これで「働き控え」は減るのだろうか。

本書も指摘するように103万円は所得税がかかるだけだが、それを壁と呼ぶとすれば、もっと高い壁が年収100万円にある。これを超えると住民税10%がかかるのだ。これは所得税5%より重い。そしてパートの主婦はこの年収100万円の壁を意識しているのだ。

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パート主婦の年収とその比率(ニッセイ基礎研)

上の図は主婦の年収とその人数をみたものだが、年収95~100万円のグループが7~8%と突出して多い。つまり100万円までしか働かないように調節している。これは心理的バイアスだが、この住民税の課税最低限度額が変わらない限り、働き控えは減らないだろう。

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国民民主党の所得減税の財源は年金控除12兆円にある

自民・公明と国民民主党の協議で「年収103万円の壁」を引き上げることが合意されたが、その中身ははっきりしない。特に問題なのは財源である。財務省の計算では基礎控除・給与所得控除を103万円から178万円まで上げると、所得税が7.6兆円の減収になるという。特に住民税・住民税が4兆円減るため、全国知事会が反対を表明している。

これに対して国民民主は「財源は政府が考えろ」と開き直っているが、これは「対決より解決」のスローガンに反する。責任野党なら、財源についても対案を示すべきだ。私はその財源として公的年金控除をあげたい。

図のように所得税の対象額270兆円のうち、半分以上の150兆円が所得控除され、課税ベースが極端に狭まっているため、財務省は所得控除を減らす方針だ。特に昔から問題になっているのが、年金控除12兆円である。



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大乗仏教はポストモダンを超えるか

唯識の思想 (講談社学術文庫)
西洋哲学がプラトンに始まりニーチェで終わったとすると、20世紀以降の哲学はそのオマケみたいなものだが、大乗仏教の歴史はその終わった地点から始まっている。これは偶然ではない。インド=ヨーロッパ語族は主語・述語の論理で考えるので、大乗仏典のロジックは西洋哲学と似ているのだ。

中観派(ナーガールジュナ)は客観的実在を否定して「空」の思想を創造した。そこではカントより1500年以上早く、「存在は有から生じない」などのアンチノミーを使って素朴実在論から矛盾が導かれることを明らかにしているが、積極的な世界像はない。この点はポストモダンに似ている。

そういうニヒリズムを超えようとしたのが唯識派である。それは単に実在を否定するのではなく、それを成り立たせる本質は意識だと考える主観的観念論だった。これは独我論に近いが、世界を成り立たせているのは個人の意識ではなく、阿頼耶(アーラヤ)識と呼ばれる集合的無意識である。

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保険料が減って年金が増える(?)年金法改正のからくり

河野太郎氏が年金法改正に疑問を呈している。

これは一般論としてはその通りで、いま国民年金を払っている労働者は、次のように本人負担だけみると1万9100円が1万2500円に減る。負担が減って年金受給額が増えるというおいしい話のように見える。


厚労省の資料

しかしいま負担ゼロのパートの主婦(第3号被保険者)は、106万円の壁がなくなると第2号になるので、負担が15%増える。

また事業主負担は企業にとっては人件費として賃金と一体だから、「社保倒産」を避けるには賃金に転嫁する必要がある。たとえば今のように3%のインフレのとき賃上げしなければ、実質賃金は3%下がる。こうして長期的には、社会保険料はほぼ100%賃金に転嫁されるというのが、経済学の常識である。

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厚労省の資料

今回の年金法改正には、このように給付を手厚くする効果もある。これは図のように4590万人の厚生年金被保険者を増やし、赤の部分200万人に適用を拡大する。その発想はいいのだが、これは財政的にボロボロの国民年金の赤字を厚生年金で埋める結果になる。

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「年収106万円の壁」って103万円の壁と違うの?

国民民主党の問題提起で「年収103万円の壁」が話題になっていますが、このごろ年収106万円の壁が来年4月からなくなることが問題になっています。まぎらわしいので、わかりやすく説明しましょう。



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