人類はいかにして不平等になったか

人類進化論―霊長類学からの展開
社会をゲーム理論の「囚人のジレンマ」にたとえる話がよくあるが、あれは厳密には正しくない。囚人のジレンマでは、支配戦略(すべての場合にとるべき行動)が裏切りしかないので、つねに裏切ることが合理的になる。協力を説明するには長期的関係などの条件が必要だが、大きな集団では一般にそういう条件は満たされない。

動物の行動を説明するのに使われるのは、チキンゲームである。次の図のように猿Aが攻撃して、猿Bが譲歩すると猿Aの利益は1(左下)になるが、逆の場合は-1(右上)になる。両方が攻撃して戦いが続く場合(左上)が最悪なので、それを避けるにはどちらかが譲歩するしかない。

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ほとんどの類人猿の集団では、このような序列ができる。この優劣は、母系集団では生まれつき決まっており、ニホンザルの猿山のような序列ができるが、チンパンジーのような非母系集団では、序列が安定しないため、互いにマウンティングをとろうとして争いが起こりやすい。それを避けるため、序列を固定する遺伝的なしくみができた。

これを伊谷純一郎は規矩と呼んだ。その端的なあらわれが、白目である。人間とチンパンジーの目を比べると、チンパンジーには白目がないので、どっちを向いているかわからない。チンパンジーが対面すると、優位な猿は顔を向けて相手をじっとにらみ、劣位の猿は顔をそむける。

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類人猿の脳には生まれたときからこのような規矩が刷り込まれているので、顔を向けてにらみつけることが優位を示す。ところが人間の目は白目がはっきりしていて、顔を向けなくても視線がわかる。これはなぜだろうか。

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文化もダーウィン的に進化する

A Story of Us: A New Look at Human Evolution (English Edition)
化石のDNA解析を使った考古学の技術革新は、人類の歴史を書き換えつつある。本書はその成果を物語として語った入門書だが、著者が強調するポイントは、文化もダーウィン的に進化するということである。

これはもちろん文化が遺伝するという意味ではない。遺伝的な突然変異はランダムに起こるので、遺伝形質が変化するのは1万年単位だが、文化や技術はあなたの生きている間にも大きく変化するので、これが遺伝形質を変える時間はない。

しかし百万年単位でみると、文化は遺伝形質に影響する。人類が300万年前に直立歩行するようになって手が自由になり、道具を使って動物を殺し、火を使って料理できるようになったため、歯が退化し、消化器は短くなった。文化が遺伝形質を変えたのだ。

他方、文化もすべて合理的に進化するわけではない。3万年ぐらい前の氷河期、アフリカから北上した人類は絶滅寸前で、世界全体で数千人まで減ったが、大型哺乳類を協力して殺す技術を身につけて生き延びた。このとき人類が身につけたのが、集団のネットワークをつくる技術である。

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本書より

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黒田日銀の「失われた10年」で発見したこと

政府が次の日銀総裁として雨宮副総裁に就任を打診したと日経が報じているが、驚く人はいないだろう。彼は一貫して本命とみられてきたし、誰が総裁になっても、やるべきことは同じだからだ。それは黒田総裁の超緩和路線の巻き戻しである。白川前総裁もいうように

(大規模緩和という)社会実験をやっても物価は上がらなかったし、潜在成長率は下がった。真の課題に社会のエネルギーが向かわなかったという意味で、10年間という時間を明らかに無駄に費やした

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洋上風力の入札ルールを変えた秋本真利議員は洋上風力会社の株主だった

再エネ議連の事務局長、秋本真利議員をめぐる週刊文春の報道が話題を呼んでいる。

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日銀が「債務超過」になると何が起こるか

日銀が保有する国債に、昨年末時点で約8.8兆円の評価損が出た。これは最近のYCC修正にともなう日本国債の空売りに対して、価格維持のために日銀が今月だけで23兆円も国債を買い入れたことが大きな原因である。

日銀の純資産は4.7兆円、引当金が7.5兆円あるので、実質的な自己資本は12.2兆円。あと3.4兆円以上の評価損が出ると、バランスシート上は債務超過になるが、日銀は保有国債の評価方法として償却原価法(簿価)を採用しているので、評価損が発生しても期間損益には影響しない。

問題は短期金利である。日銀当座預金の残高は563兆円。今はゼロ金利だが、これが長期金利0.5%以上になると、日銀の保有国債と逆鞘になる。1%ポイントの逆鞘が発生すると、毎年5.6兆円の損失がキャッシュで発生し、3年で本物の債務超過になる。これは政府が資本増強する必要があるが、その規定が日銀法にはない。

本質的な問題は、民間金融機関にある。民間にも日銀と同規模の評価損が発生する。こっちは時価会計なので、1998年のような取り付けが起こるおそれがある。これは預金保険機構が救済し、その損失を一般会計で埋めるしかないが、このとき統合政府の支払い能力に疑念が生じると、25年前より深刻な金融危機が起こる可能性がある。

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秋本真利議員の洋上風力疑惑についての国会質問

きのう国会の予算委員会で、自民党の秋本真利議員の疑惑について、立憲民主党の源馬謙太郎議員が質問した。

最大の疑惑は、秋本議員が国交省の政務官になる前に買っていた洋上風力業者「レノバ」の株式である。図のように秋本議員が国交省の政務官になる前の2018年初めには200円程度だったが、2021年に洋上風力の落札が確実といわれていた時期には、6000円に値上がりした。

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秋本議員がレノバの株式を2600株もっていたとすれば、約1500万円の値上がり益が出たはずだが、2021年12月にレノバが落札に失敗すると、株価は1200円に急落した。続きを読む

「大学無償化」は社会的な浪費である

大学なんか行っても意味はない?――教育反対の経済学
東京都や大阪府が大学を無償化するが、この問題についての経済学者の意見はほぼ一致している:大学教育の私的収益率はきわめて高いが、社会的には浪費である。大卒で高い所得を得られるのは教育で能力が上がるからではなく、学歴のシグナリング効果である。これは親が子供にアクセサリーを買ってやるのと同じなので、公的支援は正当化できない。

本書はこういう理論・実証研究をまとめたもので、原題は『教育に反対する理由』。大学教育の収益率は明らかにマイナスだが、高校教育も(それに投じられる公費以上に)役に立つ証拠がない。小中学校は役に立つので、その外部性(誰もが字を読めるなど)を考えると公的投資は正当化できるかもしれない。

先進国でも途上国でも、教育投資と成長率は無関係である。20代前半まで多くの子供が学校に行くのは、社会的には大きな損失である。多くの途上国では子供は10代前半から働くが、学校教育の長さとGDPに有意な相関はみられない。

ほとんどのスキルは職場で身につけるので、学校教育は効率的ではないが、多くの人が子供への教育投資を増やしているので、世界中で学歴のインフレが拡大している。欧米では修士以上でないとエリートになれないが、学歴エリートの労働者としての能力は低い。

だから大学無償化は、そのねらいとは逆の結果をもたらす。子供を大学に進学させる親は平均より豊かなので、所得は逆分配になる。学歴のインフレが激しくなり、必要のない子供が長期間、教育を受けるので効率は落ちる。これに比べれば、非裁量的な児童手当のほうがましだ。

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N分N乗で「130万円の壁」はなくなるのか

国会で珍しく税と社会保障についての中身のある議論が行われた。少子化対策として所得税のN分N乗方式について、自民党の茂木幹事長が言及し、維新と国民民主も同じ趣旨の提案をした。これは所得を家族の数N人で割り、それぞれの税額をN倍して課税するものだ。

次の図は国民民主の案だが、夫の年収が1200万円だと、社会保険料や給与所得控除などを引いた課税所得が762万円。これに23%の税率を適用すると、所得税額は112万円となる。これに対してN分N乗では、妻を1人、子供を0.5人とカウントする。



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日銀は賃上げを実現できるのか


令和臨調なるものをきょう初めて知ったが、次の日銀副総裁とも目される翁百合氏が共同座長とあって注目され、ドル円が午前中に急落した。その原因は、2013年に結ばれた政府と日銀の共同声明を見直し「2%を長期の物価安定目標として新たに位置付ける」という緊急提言が金利上昇をほのめかしたためらしい。

この提言は、全体としては財務省=日銀主流派の理論で、「大政奉還」ともいえる内容だが、気になるのは政府と日銀の共通目標として「生産性向上、賃金上昇、安定的な物価上昇が起こる持続的な経済成長が実現するための環境を作る」と書かれていることだ。「日銀が賃上げを実現する」というのは黒田総裁の謎理論だが、具体的に何をするのだろうか。

メンバーには経済学者もいるのでわかっているはずだが、賃金は労働生産性の従属変数であり、それ自体を政府が目標とすべきものではない。生産性向上も定性的な目標としてはわかるが、中央銀行のミッションではない。中央銀行の目的は次の二つである:
  1. 最後の貸し手として金融システムの安定をはかること
  2. 物価や資産価格を安定させ、経済の変動を減らすこと
このうち日銀の中の人にとっては1が圧倒的に重要だが、それ以外の(黒田総裁を含む)人にとっては、日銀の態度は過剰に慎重にみえるようだ。この対立が、ここ20年の不毛な政策論争の原因だった。

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マフィアとソーシャルキャピタル

イタリア・マフィア (ちくま新書)
イタリアはソーシャルキャピタル(社会関係資本)の教科書である。ミラノなど北部はパトナムの『哲学する民主主義』が描いたように都市国家以来の市民的公共性が成立し、豊かな工業地帯があるが、シチリアなど南部にはソーシャルキャピタルが欠如し、犯罪が多く貧しい。

その原因は、南部が中世にながくスペインの支配下にあったためだ。スペインはイタリア人の反乱を恐れてコミュニティを徹底的に分断した。その結果、村の対立抗争が起き、治安を守る広域的な警察がなかったため、財産権の保護が成立しなかった。この空白を埋めるため、私的な警察としてマフィアができたのだ。

しかし安全という公共的なサービスを市場メカニズムにゆだねることは危険である。安全が達成されるとサービスへの需要がなくなるので、市場を維持するためにつねに危険を作り出す。マフィアは顧客の競争相手を暴力的に排除し、抗争を起こすことによって安全への需要を作り出すのだ。

公共インフラがこのように私的に独占されると、すべての人々がマフィアに従わないと生きていけなくなる。警察も教会も、マフィアの暴力には勝てない。検事にも裁判官にも、容赦ないテロが繰り返される。それと対決すべき政府の首脳にも、ベルルスコーニのようなマフィアと関係のある人物が就任し、「マフィアとの共存」を呼びかける。

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