大乗仏教の<空>の思想は人工知能の遠い先祖

言葉と無意識 (講談社現代新書 871)
ヘレン・ケラーが言葉を覚えたエピソードは有名である。サリバン先生がケラーの手のひらに水を注いで"water"という文字を指で綴ったとき、ケラーは初めてそれが水という液体を意味すると知った。ここではwaterという言葉が水という意味に1対1に対応しているようにみえる。

手のひらの液体は飲料水かもしれないし雨水かもしれないが、確かなことはそれにwaterという名前がついていることだけだ。つまり本質が言葉を生むのではなく、言葉(シニフィアン)が意味(シニフィエ)を生み出すのだ。その関係は恣意的であり、発音と意味には因果関係はないというのが、ソシュールの構造言語学の重要な発見である。

それとほぼ同じことを、その2000年近く前にナーガールジュナ(龍樹)が書いている。彼は『中論』で「すべてのものの原因となる自性は認められない」という。自性は自己完結的な本質という意味で、これは「世界に因果関係や本質はない」という<空>の思想である。これは世界が存在しないと言っているのではなく、その意味が一義的に決まらないというソシュールの恣意性と同じだ。

ではその意味は何で決まるのか。それは縁起で決まるというのが中観派の思想だが、これは因果関係ではなく相互依存関係である。意味はその本質ではなく、外界や身体との相互作用や他の言葉との関係で決まる。たとえばwaterの意味はoilとの差異で決まるのだ。

本書は1987年の本なのでそれ以上は書いてないが、このような大乗仏教の関係主義は、ヴァレラも指摘するようにニューラルネットの思想と似ている。それは1990年代以降の人工知能の重要な発見だった。

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社会保険料と消費税を「社会保障税」に

最近は石破首相も全世代型社会保障とか歳出改革とかいい始めたが、具体策は何もない。問題があまりにも大きく複雑な利害対立がからむので、どこから手をつけたらいいかわからないからだ。

そこで改革の第一歩として、社会保険料を社会保障税と改称してはどうだろうか。労働者が給与から払う保険料は、英米では給与税(payroll tax)と呼ぶ。年金は「長生き保険」などといわれるが、長生きはリスクではない。医療保険の40%以上が老人医療に使われているが、老化もリスクではない。



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地球は氷河期になる(アーカイブ記事)

IPCCのリーダー、スティーヴン・シュナイダーは、"Atmospheric Carbon Dioxide and Aerosols: Effects of Large Increases on Global Climate" (Science 173, 138-141)で、次のように述べた:
今後50年間で、大気汚染の可能性は 6~8倍に増加すると予測されている。この注入率の増加により、大気の背景不透明度が4倍に上昇すると、われわれの計算では地球の気温が3.5℃も低下することが示唆される。地球の平均気温がこのような大幅な低下を数年間にわたって継続すると、氷河期を引き起こすのに十分だと考えられる。
彼の予測によれば、大気汚染で太陽光線が遮断される効果によって地表の温度は今後50年間に3.5℃も下がり、地球は氷河期に入るおそれが強い。凍死者の数は温暖化による死者の10倍にのぼるので、これは温暖化よりもはるかに重大な問題だ。続きを読む

地球温暖化が加速した原因は中国とインドの大気汚染の減少

2024年の世界平均気温は1.6℃で、パリ協定の努力目標1.5℃を超えた。これについて日経新聞を初めとするマスコミは「脱炭素化の加速が必要だ」と騒いでいるが、それは科学的に正しくない。

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2%を超えるインフレが続いているのに日銀はなぜ金利を上げないのか?

チャットGPTにきいてみた。

Q. 2%を超えるインフレが3年も続き、政府は「物価高対策」に何兆円も使っているのに、日銀はなぜ政策金利を上げないのですか?

GPT:日本においてインフレ率2%が必要とされる理由は、経済の安定と持続的な成長を目指す政策目標に基づいています。以下のような主な理由があります。

1. デフレ脱却:日本は長期間デフレに苦しんでおり、物価が下がり続けることで消費や投資の停滞が生じました。インフレ率2%は、物価の適度な上昇を通じて、こうしたデフレの悪循環を断ち切る目標として設定されています。

2.実質金利の調整(糊代):実質金利がゼロより低い場合は、名目金利の下限がゼロなので金融政策がききません。インフレ率がある程度高い(例えば2%)と、実質金利がマイナスでも名目金利がプラスになるので、それを下げることによって投資を促進する「糊代」になります。

3. 債務の実質的軽減:インフレは、実質的に債務の価値を軽減する効果があります。特に、日本のように政府債務が多い国では、インフレ率2%が維持されることで実質的な公的債務の負担が軽減され、日銀の保有資産の価値も維持されます。

Q. でも今はインフレなんだから「デフレ脱却」の必要はないでしょ?

GPT:その通りです。現在、日本はデフレではなくインフレ状態にあります。物価上昇率が2%を超える水準で推移しており、特にエネルギー価格や食品価格の上昇が影響しています。しかし、日本が「インフレ率2%」を政策目標として掲げ続ける背景には、単なる現状の物価動向だけでなく、経済全体の基調的な課題が関係しています。

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ChatGPTとウィトゲンシュタイン:言語哲学とAIの対話

こういうテーマでChatGPTに記事を書くように頼んでみた。

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人工知能(AI)と哲学は、表面上は異なる領域に見えるが、言語を中心とした議論では深い接点がある。特に、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)と、20世紀を代表する哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの言語哲学は、比較されることで新たな視点を提供する。この記事では「ChatGPTとウィトゲンシュタイン」というテーマを通じて、AIと哲学の接点を探る。

1.ウィトゲンシュタインの言語哲学

後期ウィトゲンシュタインの『哲学探究』では、言語の役割は世界を描写するだけではなく、人々の社会的活動や文脈に深く根ざしていると主張された。彼は言葉の意味を使用によって定義し、言語は固定されたルールではなく、文脈や状況に応じて異なるルールを持つ言語ゲームとして捉えた。これにより言語の意味は単なる記号の組み合わせではなく、その使われ方に依存するものとされた。

2. ChatGPTの仕組み

ChatGPTは、膨大なテキストデータをもとに学習し、入力に基づいて文脈に適した応答を生成する大規模言語モデルである。言語モデルはデータ内の単語やフレーズの統計的な関係性を学習し、それを用いて確率的に最適な出力を予測する。このプロセスにおいて、ChatGPTは明確な意図や理解を持たず、あくまでパターン認識による応答生成を行う。

3.ChatGPTとウィトゲンシュタインの接点
  • 言語の文脈依存性:ウィトゲンシュタインが後期哲学で説いたように、言葉の意味は文脈によって変わる。ChatGPTもまた、文脈を考慮して応答を生成する。たとえばbankという単語は、会話の文脈が金融機関についてなのか、川岸についてなのかによって意味が異なる。ChatGPTは前後の入力から文脈を推測し、適切な応答を生成することで、ウィトゲンシュタインの哲学的な洞察を技術的に体現している。

  • 言語ゲームとChatGPT:言語ゲームは、言語が特定の状況や社会的活動の中でどのように使用されるかを示す概念だ。ChatGPTは、対話の場面ごとに異なる「ゲーム」に参加しているように見える。たとえば、学術的な質問に答える場合と、日常会話のジョークに応答する場合では、異なるルールに従う。この柔軟性は、言語が文脈によって異なるルールを持つというウィトゲンシュタインの考えを彷彿とさせる。

  • 意味の構築:ウィトゲンシュタインは、意味は固定されたものではなく、文脈と使用によって構築されると述べた。ChatGPTもまた、入力に基づいて動的に応答を生成するが、その意味は訓練データに基づくものであり、固定されていない。これにより、ChatGPTはあたかも意味を構築しているように見える。

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就職氷河期世代が「無年金老人」になると都市がスラム化する

国民民主党の減税案は迷走しているが、その次に玉木さんが打ち出そうとしている「就職氷河期世代」の対策は、それより重要だ。

氷河期世代とは1990年代から2000年代前半までに就職活動した人々で、約2000万人。この時期の新卒就職率は低く、1998年には大卒で55%だった。残り半分の学生は非正社員として雇われ、そのまま高齢フリーターになっている人も多い。

彼らは国民年金に入ることになっているが、その未納・免除率は高く、最近では50%を超えている。国民年金の被保険者(第1号)は約1500万人なので、その半分が未納・免除とすると、氷河期世代が60代になる時期には800万人の無年金老人が出現する。

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ブッダの<空>の思想はなぜ民衆の支持を得たのか

初期仏教 ブッダの思想をたどる (岩波新書)
『平和の遺伝子』を書いてわかったのは、日本人は特殊ではないということだ。進化心理学の最近の知見によれば、小集団の利益を最大化する日本人の偏狭な利他主義は普遍的で、利己主義や法治主義で行動する未開社会はない。

そういうヨーロッパ的な価値観が普遍的にみえるのは、単にキリスト教国が世界を植民地支配し、資本主義が経済的に成功したからだ。そこでは利己的な欲望を肯定する一方、社会の秩序を維持する<制度>が必要だった。

枢軸時代の世界宗教はそういう制度だったが、仏教だけは例外だった。その母体となったバラモン教は身分制度だったが、ブッダが創始したのは個人を<救済>する宗教だった。それは当時の時代背景と関係がある。

紀元前500年ごろガンジス川流域にはアーリア人の小規模な地域国家がたくさんあったが、西域から進出してきたアケメネス朝ペルシャとの戦争の中で滅びた。この戦乱の時期に多くの宗教が花開いた。中でも仏教はすべての制度を<空>として否定する一種のアナーキズムだった。

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国民民主の減税案は「納税者から年金生活者への所得移転」

自民党が少数与党に転落してから、日本の政治にも少し変化がみえてきた。特に国民民主党の躍進で玉木雄一郎氏は「納税者のヒーロー」になったようだが、冷静に考えてほしい。国民民主の要求している所得減税は、本当に納税者の利益になるのだろうか?



国民民主の案では今の年収103万円の課税最低限度額(壁ではない)を178万円に上げるが、これによって最大の恩恵を受けるのは年金生活者2000万世帯である。

公的年金の世帯あたり平均受給額は年額約170万円で、今は基礎控除48万円と公的年金控除110万円の合計158万円が所得控除されている。この基礎控除が合計178万円になると、年金控除との合計288万円が課税最低限度になり、年金生活者はすべて住民税非課税世帯になる。

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戦争の「バスに乗り遅れるな」とあおった毎日新聞(アーカイブ記事)

今年は戦後80年でもあるが、この毎日新聞の記事には唖然とした。

筆者は毎日新聞の栗原俊雄記者。「為政者の嘘を暴けなかった」などと、まるで新聞が被害者のような書きぶりだが、東京日日新聞(毎日新聞の前身)は加藤高明が社長をつとめた御用新聞として主戦派の論陣を張り、1940年に日独伊三国同盟を推進した急先鋒である。

当時ドイツ軍はヨーロッパで快進撃を続け、北欧やフランスを占領して、イギリスの陥落は時間の問題だと思われていた。松岡洋右外相は三国同盟の締結に奔走し、東京日日新聞ロンドン特派員は「バスに乗り遅れるな」と書いて三国同盟をあおった。これが流行語になり、三国同盟が結ばれたときの新聞は、祝賀一色だった。

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