量的緩和からの出口は「永久国債」で

統合政府(政府+日銀)のバランスシートで問題なのは、資産と負債の差額「△534兆円」である。これは債務超過なので、今後のプライマリーバランス黒字の累計が534兆円以上ないと返せない。これは明らかに不可能だが、それが財政破綻の証拠なら、今ごろハイパーインフレになっているだろう。

普通の企業では、返す見込みのない借金を背負った企業の社債には、高い金利(リスクプレミアム)がつく。たとえば楽天グループが発行するドル建て社債の金利は12%だが、国債の金利はほぼゼロである。政府債務を完済する必要はなく、借り換えで将来世代に先送りできるからだ。

しかし世界的に金利が上がり、日銀もゼロ金利からの出口を考える時期になってきた。ここで問題は、日銀の保有国債や日銀当座預金の金利が上がることだ。これを避ける一つの方法は、岩村充氏の提案のように日銀の保有国債を永久国債で借り換えることだ。いま話題の「防衛国債」も、永久債にしてはどうだろうか。



これは実質的には政府紙幣を発行して日銀が買い取るのと同じで、日銀はそれを日銀券で買えば、統合政府のBSから消すことができる。問題は債券市場が、このような借り替えで政府の返済能力に疑問を抱き、市中に流通する国債の金利が上がることだ。

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デモクラシーは古代から現代まで「エスニックな共同体」

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源
近代デモクラシーの歴史は短く、合衆国憲法までさかのぼっても、230年あまりの歴史しかない。それと古代ギリシャのデモクラシーにはほとんど共通点がないが、一つあげられるのは、それがエスニックな共同体だということだ。

古代アテネで民会に参加できたのはアテネ市民だけで、外国人や奴隷は除外されていた。アメリカ独立宣言は「すべての人間は平等につくられている」と宣言したが、合衆国憲法では、先住民と黒人奴隷は「人間」から除外されていた。

大英帝国が世界を支配したときも、イギリス国民には同じ権利があったが、植民地の住民は同じ人間とはみなさなかった。この二重構造が、大英帝国の世界支配を可能にした。合衆国憲法はそれをまねたもので、英米型デモクラシーは白人の平等主義だったのだ。

この構造は20世紀前半まで続いたが、戦後のアメリカでは大きな変化が起こった。一つは高等教育の普及によって上昇する白人と没落する白人が分化したこと、もう一つは公民権運動などで黒人の地位が上昇し、白人と競合する労働者になったことだ。それを決定的にしたのが、1990年代以降のグローバリゼーションだった。

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文化を生んだのは言語ではなく「自己家畜化」

家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか
人間と類人猿をわける最大の特徴は言葉が使えるか否かだが、これは明らかに遺伝である。その原因も最近は特定され、FOXP2という遺伝子(塩基配列)と関連があることがわかっている。人間とチンパンジーのDNAでは、FOXP2の配列に2ヶ所の違いがあるのだ。

他方、家畜化(domestication)に関連するBAZ1Bと呼ばれる遺伝子があることも、最近わかってきた。これは神経堤幹細胞に関連し、家畜には少ない。人間でも、ある種の発達障害(ウィリアムズ症候群)の人には少ないが、彼らは極端に社交的で、お人好しでおしゃべりだ。

人類(ホモ・サピエンス)がネアンデルタール人との競争に勝った原因は言語だといわれていたが、最近、ネアンデルタール人の遺伝子にFOXP2が発見された。つまりネアンデルタール人も言葉を話す能力をもっていた可能性が高いが、BAZ1Bは他の霊長類と同じだった。

ところが人類のBAZ1Bには変異がみられ、これが自己家畜化と関連があると思われる。人類が生存競争に勝った原因は言語ではなく、自己家畜化による集団生活だったのかもしれない。言葉は一人で使っても役に立たないからだ。

他人と仲よくなるBAZ1Bの変異で、集団生活できるようになったホモ・サピエンスが、言葉でコミュニケーションするようになり、それが文化を生んで集団の結束力が強まり、自己家畜化がさらに進む…というループが起こったのかもしれない。

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気候変動は「脱炭素化」から「開発援助」の問題になった

エジプトで開かれていたCOP27が終わった。今回は昨年のCOP26の合意事項を具体化する「行動」がテーマで新しい話題はなく、マスコミの扱いも小さかったが、意外な展開をみせた。発展途上国に対して損害と賠償(loss and damage)の基金設立が決まったのだ。

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宗教は遺伝するか

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) (NewsPicksパブリッシング)
獲得形質は遺伝しないというのは、中学の理科で習う常識だが、最近の生物学では自明ではない。もちろん文化が遺伝子(DNA)を変えるわけではないが、どういう個体が多くの子孫を残せるかを決め、間接的に遺伝形質を変える。

たとえば人類(ホモ・サピエンス)の犬歯は、類人猿に比べて退化し、チンパンジーのように敵を噛み殺すことができない。これは石器の使用(200万年前)で敵を殺せるようになり、火の使用(100万年前)で肉が柔らかくなったことによる進化と考えられる。

もっと最近の例としては、外婚制(近親婚の禁止)がある。これは中国では数千年前からあるが、ヨーロッパでは古代後期からといわれている。その起源については長い論争があるが、外婚制によって親族以外との交流が深まり、国家や宗教ができたと考えられている。

外婚制と宗教には相関があり、大規模な社会ほど外婚制で、普遍主義的な宗教(道徳)をもっている。その典型がヨーロッパで、人口の移動で戦争が増えて親族集団の同一性が崩れたため、普遍主義的なキリスト教だけが共通の価値観になった。

それに対して多くの「未開社会」は内婚制(いとこ婚が可能)で、親族集団の相互交流が少ない。こうした社会では親族集団が閉じているので、キリスト教のような普遍主義的な宗教はできず、地域ごとにアドホックな神を信じることが多い。その典型が日本である。

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インボイスの挫折は「消費税の呪い」

財務省の宿願だったインボイス制度が、また骨抜きになりそうだ。今までの報道では「売り上げ1億円以下の事業者」はインボイスなしで税額控除する経過措置を設けるといわれているが、もともとこれは1989年に消費税が創設されたとき、施行される予定だった制度を2023年まで延期したものだ。

大型間接税は、多くの内閣を倒してきた「呪われた税」である。1979年に大平内閣が「一般消費税」の導入を閣議決定したが、総選挙で大敗して大平首相は退陣した。中曽根首相は「大型間接税はやらない」と約束して総選挙に勝ったあと、1987年に売上税法案を国会に提出したが、野党の反発で廃案になった。

1970年代に大蔵省が一般消費税を企画した最大の理由は、財政赤字への危機感だった。所得税や法人税を引き上げるのは限界に近づいており、捕捉率の高いEUの付加価値税(VAT)が理想だと考えて大蔵省は自民党に根回しした。ところが80年代後半にはバブルで税収が史上最高になり、図のように赤字国債(特例公債)の発行額はゼロになった。

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国債発行額の推移(財務省)

竹下内閣は余った税金の使い道に困り、全国の市町村に一律1億円を配った。他方で3%の消費税を創設したため、反対の大合唱が起こった。大蔵省は所得税を減税して税収中立にしたが、チェーンストア協会などが猛烈な反対運動を繰り広げ、1989年の参議院選挙では社会党が第一党になった。

竹下首相は満身創痍になり、リクルート事件で退陣した。これが政治的なトラウマになり、その後も消費税を上げるたびに内閣が倒れるジンクスができてしまった。続きを読む

日本の物価はなぜ上がらないのか

世界インフレの謎 (講談社現代新書)
世界的にインフレが進行しているが、日本の消費者物価上昇率は、先行指標の東京都区部の10月の総合指数でも3.5%。円安で輸入インフレになるといわれたが、輸入物価は1年で50%近く上がったのに、消費者物価はほとんど上がっていない。

このように日本の物価だけが上がらない原因はいろいろ考えられるが、著者はデフレ予想が最大の原因だと考える。次の図のように日常的に買う商品のほぼ4割の価格が変わらないので、消費者はデフレ予想をもち、企業も価格を上げない。他の企業が上げないと自社だけ上げるわけにはいかない…というループに入る。

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これは「日本人の国民性」ではない。1970年代に石油価格が上がったときは、日本の物価も海外と同じように上がった。今回の特徴は、エネルギー価格が上がったのに、それが最終財に転嫁されていないことだ。それはなぜだろうか。

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資本主義は「剰余」を生み出して破壊する

呪われた部分 (ちくま学芸文庫)
岸田首相の「新しい資本主義」から斎藤幸平氏の「脱成長」に至るまで、資本主義を敵視する人は多いが、そのほとんどは19世紀的な温情主義で、思想としては取るに足りない。資本主義が剰余を生み出して共同体を破壊するメカニズムを原理的に批判したのはバタイユである。

マルクスは剰余を生み出す労働者を資本家が搾取すると考えたが、バタイユは人間はもととも消費する以上の剰余を生産する能力をもっていたと指摘する。狩猟採集社会では、1日4時間ぐらい働いたら生活できる程度の獲物がとれたが、獲物は貯蔵できないので、人々はそれ以上働かなかった。

人間が定住して農業を営むようになると、穀物は貯蔵できるので剰余が生まれ、不平等が発生した。それを防ぐには、剰余をすべて消費する必要がある。バタイユは、北米の先住民がその財産を使い果たすポトラッチを、剰余を蕩尽するしくみだと考えた。一部の人に富が偏在すると、その分配をめぐって紛争が発生するので、全財産を村中に贈与して秩序を維持するシステムを人類は構築してきたのだ。

しかし産業革命以後の資本主義は、爆発的なスピードで剰余を作り出し、不平等を生み出し、共同体を破壊した。その剰余(利潤)を社会に還元するしくみが市場だが、剰余はしばしば市場で処理できる限度を超えて蓄積されるので、それを定期的に破壊するシステムが必要になった。それが恐慌であり、戦争である。

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なぜコロナ死者の2.5倍も「超過死亡」が出たのか



国立感染症研究所が発表した今年8月の超過死亡は、1万~1万7000人と、超過死亡統計史上で最大だった。 これはまだ超過死亡のダッシュボードに反映されていないが、毎週平均3800人で、7月31日の週の最大1193人の3倍である。


週ごとの超過死亡数(国立感染症研究所)


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政局で決まる日本の安全保障

戦後日本の安全保障-日米同盟、憲法9条からNSCまで (中公新書 2697)
葉梨法相が更迭された。理由はつまらない失言だが、統一教会騒動で国会が止まり、このままでは補正予算が成立しないため、野党との取引でクビにしたのだろう。このように政局が政策を動かすのは今に始まったことではなく、戦後の安全保障も国内の政局の駆け引きで決まった。

といっても終戦直後は政府の相手は野党ではなくGHQで、憲法第9条は第1条(象徴天皇制)を残すための取引だった。連合国の中では天皇を廃位して共和制にすべきだという意見が強かったが、マッカーサーは天皇制がなくなると共産主義革命が起こることを恐れ、吉田茂も同じ意見だった。そこで第9条で日本軍が復活しないことを保証し、天皇を残したのだ。

この取引は、アメリカにとって高くついた。本来はアメリカに代わって日本が極東の安全保障体制の要になるはずだったが、軍備は「警察予備隊」という中途半端なものになり、再軍備するための憲法改正もできなかったので、平和条約と同時に日米安保条約という奇妙な条約を結ばざるをえなかった。

それは日米を守る条約ではなく、日本を守るために米軍が駐留する条約だったので、日本国内で米軍が基地を自由に使うのは当然だった。これは日本にとっても屈辱的な占領状態の延長だったので、自民党は不平等条約を改正しようとしたが、それを阻止したのも政局だった。

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