サンクコスト を含む記事

「原子力公社」は検討に値する

竹内純子さんの出演した「あさイチ」を見て思ったが、原子力のリスクはもう民間企業には持ちきれないのではないだろうか。この番組で柳沢解説委員は「原発のコストが高い」理由として、福島第一原発の廃炉などに21.5兆円かかるという話をあげているが、これは初歩的な錯覚である。

廃炉費用は1回の事故のサンクコストであり、今後のリスクを計算するには、同じような事故がどれぐらい起こるかという確率をかける必要がある。それが政府の想定(500炉年に1回)ぐらいだとすると、苛酷事故のリスクは1基あたり140億円。原発の建設・運用費の1~2%で、保険でカバーできる。

ただ電力会社としては、火力発電のような普通の発電所とは違う。いくら確率が低くても、起こったら経営が破綻する。各地方のエリートである電力会社には、悪者扱いされるダメージは耐えられない。本当は電力会社の経営者も火力発電のほうが好きだが、国策として無理やり続けているのだ。こういう状態で原発の新設は無理だし、産業が衰退して人材も枯渇する。

特に東電が「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」という形で事実上、国有化されている無責任体制はよくない。東日本のBWR(沸騰水型原子炉)を国が買収して「原子力公社」にする案は、以前から関係者が話題にしているが、まじめに検討してもいいのではないか。続きを読む

サンクコストから所有権が生まれた

所有権が法的に確立したのは近代ヨーロッパだが、既得権を守るしくみは昔からあった。それを身体の自由と結びつけて「自己労働の所有」として正当化したのはジョン・ロックだが、彼の論理は破綻している。特に、明らかに労働の成果ではない土地の所有権をどう正当化するのかが不明だ。

それがサンクコストから生まれた、というのがボウルズなどの説である。これは進化ゲーム理論の応用で、次のようなおなじみの「チキンゲーム」を考える。相手がタカだったら自分はハトになり、相手がハトだったらタカになる複数均衡が存在し、ある土地で複数の個体群が争うとき、タカになったほうが支配し、ハトはそれに従うので、土地の支配権をめぐって戦いが起こる(ペイオフは対称)。

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このとき自分が最初にいたらタカになり、あとから行ったらハトになる戦略(所有権)を加えると、図のようにこれが進化的に安定する。今まで巣をつくったり子供を育てたりしたサンクコストを守ることが(個体群としては)合理的なのだ。こういう例は動物でもたくさん見つかっており、サンクコストを守る人間の心理(賦存効果)の一部は、遺伝的なものとも考えられる。

続きは8月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

失敗の法則:日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか

失敗の法則 日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という。これはプロ野球の野村克也元監督の言葉として知られているが、もとは江戸時代の大名、松浦静山の剣術書である。勝つときは偶然勝つこともあるが、負けるときは必ず理由があるという意味だ。
 
ビジネススクールの授業やビジネス本には「不思議の勝ち」を説明する結果論が多い。たとえばコイン投げのギャンブルで、あなたが表だけに賭けて30回続けて勝つ確率は10億分の1だが、そのとき「コイン投げで勝つ秘訣は何ですか?」ときかれたら、あなたは「表に賭けることです」と答えるだろう。
 
こういう錯覚を「生存バイアス」と呼ぶ。どんなゲームにも(偶然で)勝ち続ける人は少数いるので、その原因を結果論で説明しても、大して役には立たない。それに対して、負ける人は多いので、その原因を分析することは意味がある。一つ一つはつまらない失敗でも、集めると法則性が見えてくる。続きを読む

効率性とインセンティブのトレードオフ

アゴラの記事が誤解を招くといけないので、ややテクニカルな補足をしておこう。銀行を無差別に救済することは事後的には望ましいが、事前のルールとしては望ましくない。これは一般的には、次のような債権者と債務者のゲームと考えることができる。

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いま債権者(銀行)が、あるプロジェクトに500億円を投資したとしよう。これが成功したら何の問題もないが、失敗して投資はすべてサンクコストになったとする。債務者(企業)を清算するとすべてゼロになるが、追い貸しして救済すると資産価値は400億円に下がってプロジェクトは続行できるとする。この場合、債権者はどうすべきだろうか?

図からも明らかなように、事後的には救済することが効率的(Pareto efficient)である。しかし事前にそれがわかっていると、債務者は過大なリスクをとり、失敗したらコストを債権者に押しつけるモラルハザードが起こる。このような効率性とインセンティブのトレードオフは普遍的な問題で、いろいろな解決法が提案されている。

続きは5月1日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

時間はなぜ未来から過去へ流れないのか

確実性の終焉―時間と量子論、二つのパラドクスの解決
安倍政権は去年「未来への投資を実現する経済対策」を閣議決定したが、「過去への投資」はあるのだろうか。首相官邸のスタッフと、サンクコストを再稼動の費用に計上する反原発派の脳内には、あるのかもしれない。原発の建設工事を完全に逆転できるならすべて可変費用になり、東芝の経営危機は簡単に解決できる。

それは冗談だが、物理学では時間は逆転できる。たとえば落体の法則は、落下距離をv、重力の加速度をg、時間をtとすると、v=½gt2だが、この式はtをマイナスにしても成り立つ。ボールが落ちるビデオを逆転しても、そのボールは古典力学の法則に従っているのだ。それは量子力学でも同じで、シュレーディンガー方程式は時間について対称である。

ではなぜ日常生活では、時間は未来から過去へ流れないのだろうか。わからない、というのが物理学の標準的な答である。これは直観に反するので「時間の矢」が本質的だと考えたのが、プリゴジンの非平衡系の熱力学だが、それも古典力学の特殊な場合だった。よくある反論が「熱力学の第2法則では時間は不可逆だ」という話だが、それは違うのだ。

続きは2月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

政府は東芝を救済すべきか

GEPRの記事は結論だけ書いたが、巨額のサンクコストが発生した企業を政府が救済すべきかというのは重要な問題なので補足しておく。事実関係は経営陣が説明するまでわからないが、一般論としては救済することが合理的だ。
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図で括弧の中の左は債権者(銀行)、右は債務者(東芝)の資産とする。原発1基あたりの投資が5000億円で、プロジェクトが成功した場合は銀行が1000億円、東芝が2000億円の利益が出るとする(これは問題ない)が、規制強化で1000億円コストが増えたとしよう。

清算して原発の建設を中止すると両者の資産はゼロになるが、銀行が救済すると資産が減損処理されて4000億円になるとする。この場合は銀行は1000億円損するが清算するよりましなので、融資を維持することが合理的だ。債務者にとってはもちろん融資の維持(1000億円の利益)が望ましいので、事後的には両者にとって救済が合理的(パレート効率的)である。

東芝の損失7000億円の最大の原因も、福島事故後の規制強化による固定費(追加投資や工事の遅れ)だといわれる。原発はほとんど完成しており、運転すればキャッシュフローは大きな黒字が見込まれるので、向こう20年ぐらいを考えれば銀行は融資を回収できるだろう。債務超過かどうかは、サンクコストの問題だから破綻処理とは無関係だ。

普通の銀行にはそういう長期的な融資は困難だが、政投銀なら融資できる。図のように1000億円損しても、「公益」1000億円を足せば合計5000億円でマイナスにはならない。国費を投入するには何らかの「けじめ」が必要だろうが、会社更生法がいいのか私的整理がいいのかはわからない。確実にいえるのは、完成した原発は運転すべきだということだ。続きを読む

豊洲移転の中止はコストが大きすぎる


毎日新聞によると、東京都の小池知事は豊洲移転について、こう答えている。
--豊洲には既に6000億円をつぎ込んでいる。築地市場をもう一度活用するとか、あるいは第三の場所の検討は。
(小池)これまで都も、ありとあらゆる方策を考えてきたのだろう。豊洲という場所に決めたことには私自身、もともと疑義がある。サンクコストにならないためにどうすべきか客観的、現実的に考えていくべきだ。
ここで彼女は「サンクコスト」の意味を取り違えているが、これはすでに発生して回収できないコストなので、豊洲の移転費用のほとんどはすでにサンクコストになった。設備に再利用可能なものは少しあるだろうが、特殊な建物なので、再移転費を考えると6000億円と大きく違わないだろう。

続きはアゴラで。

もんじゅの死刑宣告



高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉がやっと決まった。私も昔から言ってきたように、今までいくら投資したかはサンクコストで、考えるべきではない。しかしこの番組で澤田さんも言っているように、研究開発拠点としてのもんじゅには意味がある。もんじゅが問題を起こすのは運転しているためで(広義の)高速炉の研究開発に純化すればよい。

ただ核燃料サイクル全体をやめるかどうかは別の問題だ。サンクコストを忘れて今後のキャッシュフローだけ考えても、化石燃料の消費をこれから増やすべきかどうかは疑問がある。たとえば炭素税を5000円/トンぐらいにすれば、原発のほうが火力発電より安い。

続きは9月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

東芝問題と丸山眞男

きょうのアゴラ経済塾では、竹内健さん(中央大学教授)をお招きして東芝問題について話を聞く。私は一次情報をもっていないが、マスコミの報道では、西田厚聡社長の時代にやったウェスティングハウス(WH)の買収で大きな損失を抱えたことが「不適切会計」の原点にあるという点で一致している。

西田氏は、その現役時代には「選択と集中」を実現するカリスマ的な経営者として知られた。「原子力ルネサンス」といわれていた時代の中で、東芝はWHを6600億円で買収し、「2015年までに原発を39基受注し、原子力部門の売り上げを1兆円にする」という野心的な目標を立てたが、その計画は3・11で挫折する…

おもしろいのは西田氏の経歴だ。早稲田大学の政治経済学部を卒業し、東大大学院の政治学研究科で福田歓一のゼミに所属して政治思想史の博士課程まで行った。修士課程のときイラン人留学生と結婚し、彼女が東芝のイラン現地法人に勤務した縁で、イランで東芝に採用されたのだ。

そのイラン人留学生ファルディン・モタメディは、丸山眞男の『「文明論之概略」を読む』に登場する。彼のゼミを希望する理由を「日本は西欧の帝国主義的侵略の餌食とならず、19世紀に独立国家の建設に成功した東アジア唯一の国家であった。私はその起動力となった明治維新を知りたい」と語って丸山を感動させた彼女は、夫にも影響を与えただろう。続きを読む

未来は過去に影響するか

サンクコストの概念はとても簡単なものだが、心理的には非常にわかりにくい。たとえば大島堅一氏は、立地費用を原発のコストに含めて計算しているが、こういう固定費は再稼動には無関係なサンクコストだ。しかし新たに原発を立地する場合には、コストに含まれる。つまり未来の方針が過去のコスト評価に影響するのだ。

日本で原発を新規立地する余地はないので大島氏の計算はナンセンスだが、再処理工場の場合は微妙である。青森県六ヶ所村にある再処理工場にはこれまで3兆円近いサンクコストが投じられたが、これは操業すればするほど赤字になるので操業しないほうがいい。しかしここまで大きな投資をすると、これを何とか生かしたいと考える。

それは帳簿上は可能だ。再処理工場を操業開始すると、使用ずみ核燃料は再利用可能な資産なので、帳簿上は黒字が出る。しかし再処理をしないと、これは「核のゴミ」になって費用に計上しなければならないので、再処理工場を運営している日本原燃は債務超過になってしまう。これが再処理をやめられない大きな原因だが、これはサンクコストの評価を変えるだけで、キャッシュフローは変わらない。

電力会社も経産省も錯覚しているが、再処理工場の採算性と過去の投資は関係なく、重要なのは再処理以外の技術の機会費用である。たとえばウランがあと30年で枯渇するとすれば、再処理してできるMOX燃料のコストが高くても、キャッシュフローがプラスになる可能性がある。しかしその機会費用は、下がる可能性が強いのだ。

続きは10月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。







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