今週のメルマガについて、きょうの経済塾でおもしろい質問が出たので補足しておこう。メルマガではこう書いた:

次の図は2008年8月を1とした昨年11月までの就業者数の変化ですが、サービス業がやや増えているのに対して製造業は1割近く減っています。これまで経済を牽引してきた輸出産業は、新興国との競争にさらされているため、効率を極限まで追求して雇用を増やさず、海外生産などに移行するからです。


それによって余った労働力は、サービス業などの「内需型産業」に行くしかない。したがって日本経済全体としては、生産性の高い製造業から低い非製造業に労働人口が移動するため、平均付加価値は下がります。このとき賃金と労働生産性が均等化するメカニズムが働くと、非製造業の賃金にかなり強い低下圧力が働き、賃金も抑制されるのです。これはすでに起こっており、日本の実質賃金は2000年代に下がっています。

これはアメリカの80年代の状況によく似ています。当時、アメリカの製造業はドル高や日本などの追い上げで国際競争力を失い、雇用が失われました。こうした労働人口はサービス業に吸収されて、90年代にアメリカ経済は回復しましたが、労働の超過供給によって賃金は下がり、労働生産性(付加価値額/賃金)が上がったのです。


私の論旨は「小泉改革で格差が拡大したというのは嘘で、今の不公平な雇用慣行を改革しないと世代間格差が拡大する」というものだが、「こういう傾向があるとすると格差は拡大するのではないか」という質問があった。その通りである。構造改革を徹底すると生産性は上がるが、所得格差は拡大するおそれが強い。上の図のように、生産性(賃金)の高い製造業の雇用が減り、低いサービス業の雇用が増えているからだ。

これはある意味で当然である。単位労働コストが半分の中国と競争するには、賃金を切り下げるか、仕事を海外に移転するしかない。それによって国内に生じた過剰雇用は、国際競争にさらされないサービス業に移行するしかないが、労働の供給過剰で賃金は下がる。結果的に、単純労働者の賃金は新興国に近づくだろう。これはグローバルな大収斂の結果であり、万有引力の法則のようなものだ。

かつてアメリカで起こったのも、単純労働の賃金をアジア並みに切り下げることだった。GMの労働者がレイオフされ、ウォルマートに再就職して賃金が半分になり、労働者の減った製造業も賃金の下がった流通業も生産性が上がったのだ。日本の「デフレ」と呼ばれる現象は、このように複合的な原因で起こるグローバルな賃下げ圧力の結果であり、日銀がお金を配れば解決するような簡単な問題ではない。それでもアメリカには金融とITが残ったが、日本には何が残るのだろうか・・・