エネルギー

「ゼロリスク」を求める合理的な感情

原子力をめぐる誤解の最大の原因は、リスクが確率的な期待値だということを理解できない人が多いことだ。リスク(期待値)=ハザード(被害)×確率である。原発事故のハザードは大きいが、あなたがそれに遭遇する確率は低いので、原発事故で死ぬリスクは、戦後60万人以上が死んだ交通事故よりはるかに小さい。これは自明だが、小林よしのり氏から河野太郎氏まで、リスクの意味を理解できない人が多い。

なぜこんなにリスクを理解できない人が多いのか、という問題は自明ではない。その原因は、人間が恐怖という感情でリスク管理をしているからだろう。あなたが道を歩いていて、工事中のビルから大きな棒が落ちてきたら、それが何か確認しないで、とっさによけることが正しい。それが鉄筋だったら、死ぬこともあるからだ。他方、逃げて損するコストは小さい。落ちてきたのがボール紙だったとわかっても、笑い話ですむ。

だから恐怖は反射的に起こる感情で、理性的な計算を介さない。そういう恐怖をもたない人間は、進化の中でとっくに淘汰されたはずだ。つまり「ゼロリスク」を求める恐怖は合理的な感情であり、それはすべての人にそなわっている。他方で確率を計算できる人は1%もいないので、すべての人のもつ恐怖にアピールするマスコミは正しいのだ。

続きは12月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「鉄腕アトム」の夢はなぜ消えたのか

原子力の歴史を振り返ると、初期には無限の夢が語られていた。1954年に原子力委員会(AEC)のストラウス委員長は原子力によって「電気代は測るには安すぎる(too cheap to meter)ようになるだろう」と述べ、1968年にシーボーグAEC委員長は「2000年までに世界のほとんどの国の電力は原子力で発電されるようになるだろう」と語った。

Di3lNo2U0AARY8J原子炉は内燃機関よりはるかに効率が高く、高速増殖炉でエネルギー源は無限に供給できる。人類は「原子力駆動」の宇宙船で火星旅行し、原子力で冷暖房完備の地下都市で暮らすようになるだろう、とシーボーグ(ノーベル物理学賞受賞者)は予言した。原子力エンジンが小型化されれば、船や自動車やロボットにも搭載されるだろう。

1952年に生まれた鉄腕アトムの動力は核融合で、10万馬力。トランジスタが集積回路になって劇的にコストが下がったように、原子力のコストも低下すると予想され、原子力船や原子力自動車が開発された。原子力のポテンシャルは化石燃料の100万倍以上であり、安全装置に多少カネがかかっても、その優位性がゆらぐことはない、と物理学者は考えた。それが挫折したのはなぜだろうか。

続きは12月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

原子力に「次世代」はあるのか



次世代の原子炉をめぐって、政府の方針がゆれている。日経新聞によるとフランス政府は日本と共同開発する予定だった高速炉ASTRIDの計画を凍結する方針を決めたが、きのう経産省は高速炉を「21世紀半ばに実用化する」という方針を明らかにした。他方で経産省は小型モジュラー炉(SMR)の開発も検討しており、戦略の方向が定まらない。

先月の言論アリーナでも議論したように、原子力産業が生き残るためには「次世代」の技術が必要だが、現状ではその展望はない。澤田哲生さんは高速炉に未来があると考えているようだが、私は高速炉をあきらめるべきだと思う。それは技術的には理想かもしれないが、ビジネスとして成り立たないからだ。

続きはアゴラで。

地球温暖化を止める確実だが危険な技術

IPCCは10月に出した1.5℃特別報告書で、2030年から2052年までに地球の平均気温は工業化前から1.5℃上がると警告した。これは従来の報告の延長線上だが、「パリ協定でこれを防ぐことはできない」と断定したことが注目される。

温暖化を防ぐ手法として、IPCCは大気の組成を変える「気候工学」の技術をいろいろ検討しているが、その中でもっとも安価で効果的なのはSAI(成層圏エアロゾル注入)である。IPCCも、SAIで確実に1.5℃上昇に抑制できると認めている。



続きはアゴラで。

世界の環境は改善されている

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2030年までに世界の平均気温が産業革命前より1.5℃(現在より0.5℃)上昇すると予測する特別報告書を発表した。こういうデータを見て「世界の環境は悪化する一方だ」という悲観的な話があるが、これは誤りである。世界の環境は大幅に改善されているのだ。

続きはアゴラで。

泊原発の再稼動には「判断基準」が必要だ



北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万kW)が使えないため、北電の電力供給計画が「片肺飛行」になっていることだ。

泊を再稼動すれば、この冬に大停電が起こるリスクはほぼなくなるが、マスコミはこの問題を避けている。それは安倍政権が「原子力規制委員会が安全と認めた原子炉を再稼動する」という方針をとっているため、安全審査でもめている泊をこの冬に再稼働することは問題外だと思っているのだろう。

これは間違いである。これまで何度も書いたように、安全審査は原発を運転しながら行うことが現行法のルールなのだ。審査と運転は別の概念であり、安全審査のとき運転を止めろとは、法律のどこにも書いてない。定期検査も、原子炉以外の部分は運転しながらできる。その原則を民主党政権が逸脱したことが、今の混乱の原因である。

続きはアゴラで。

いびつな「電力自由化」が大停電を生んだ

JBpressの記事はやや荒っぽいので、補足しておく。今回の大停電の原因は、短期的には泊原発を止めたままにしていることだが、本質的な問題は、いびつな電力自由化にある。今まで電力会社は地域独占で供給責任を負ってきたため、日本の電力品質は高いが、電気料金は世界最高水準だ。これが2020年4月から発送電分離されると、送電部門は別会社になり、発電は禁止される。系統運用は送電会社の責任になるので、発電会社は送電責任を負わない

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火力発電所は太陽光や風力などデコボコの多い発電所の負荷(超過需要)を調整しているが、発送電分離されると調整は送電会社の役割になる。その調整は今の電力会社の設備を使うが、分離されることがわかっている電力会社には、競合他社の負荷を調整する投資のインセンティブがない。だから設備投資は「効率化」されてぎりぎりになり、今回のような事故が起こりやすくなるのだ。

私は原則として電力自由化には賛成だが、日本の自由化は経産省が3・11のあと、東電の政治力が弱った時期に、民主党政権を利用して火事場泥棒的に決めたものだ。おまけに原子力が動かない状態のまま発送電分離するので「片肺飛行」になり、今回のような事故が再発するリスクもある。このまま分離して大丈夫なのか。

続きは9月17日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

苫東の停止がなぜ大停電に発展したのか

北海道大停電について「出力ではなく周波数が問題だ」というデマが流れているので、テクニカルな話だが、事故の経緯をくわしく見てみよう。苫東厚真の3基は一挙に止まったわけではなく、地震直後には1号機が動いていた。読売新聞によると
地震発生直後の6日午前3時8分頃、2号機と4号機が地震の揺れで緊急停止。1号機は稼働を続けていた。電力は需要と供給のバランスが崩れると、周波数が乱れて発電機が損傷する恐れがある。このため、北海道電は、失われた供給分(約130万キロ・ワット)に見合うように一部の地域を強制的に停電させて需要を落としバランスの維持を試みた。
つまり地震直後には大停電は起こっていなかったのだ。

続きはアゴラで。

北海道大停電の責任は安倍政権にもある

今回の大停電では、マスコミの劣化が激しい。ワイドショーは「泊原発で外部電源が喪失した!」と騒いでいるが、これは単なる停電のことだ。泊が運転していれば、もともと外部電源は必要ない。泊は緊急停止すると断定している記事もあるが、泊は震度2で、苫東厚真とは送電系統が別なので緊急停止しない。

原発は出力を調整できないベースロード電源なので、24時間フル稼働する。泊の207万kWが動いていたら、深夜3時の消費電力300万kWを供給するには、あと約100万kWあればいい。実際のオペレーションがどうなっていたかはわからないが、次の表のように北電の火力は406万kWあるので、その1/4の出力を各発電所に分散して運転することはむずかしくないだろう。


続きはアゴラで。

泊原発の「活断層問題」には法的根拠がない

きょう菅官房長官がようやく「泊原発を直ちに再稼動することはありえない」という見解を記者会見で表明した。それは「世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると認められた原発のみ、原子力規制委員会の判断を尊重して再稼働を進める」というのが安倍政権の方針だから当然だが、この方針には法的根拠がない。

安念潤司氏など多くの法律家が指摘するように、原子炉等規制法は「これらの許認可に関する審査を、原子炉の運転を継続しながら行う仕組み」をとっており、審査が終わらなくても運転できる。それどころか炉規制法には「発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」(したがって規制委員会に認可する権限はない)という政府答弁書が出ているのだ。

泊で争点になっている活断層問題にも、法的根拠がない。2012年に改正された設置許可基準には「耐震重要施設は、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない」と規定され、それが「後期更新世以降(約12~13万年以前以降)の活動が否定できない断層」の問題になっているが、これは新設する原発の基準である。

それを過去に建設された原子炉に遡及適用するバックフィットは、法的に規定すれば可能だが、炉規制法にはその具体的な規定がない。「新規制基準に適合すると認められた原発のみ再稼働を進める」というのは政治的リップサービスであり、安倍首相が「変更する」といえばいつでもできるのだ。もちろんそれは大きな反発を招くだろうが、原子力規制委員会は反対できない。それは彼らの権限ではないからだ。

続きは9月17日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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