経済

小売店はなぜ人気商品を値上げしないのか

転売騒動は一段落したが、この問題は昔から論じられており、一般論としては答が出ている。転売屋がもうかるときは超過需要が発生しているのだから、それがゼロになるまで小売店が値上げし、メーカーが増産すればいい。それをしないで、抽選にしたり転売屋を取り締まったりするから混乱が起こるのだ。

ではなぜ小売店は値上げしないのか。この問題は自明ではない。この手の話は海外でもあり、行列ができることでプレミアム感を出すなどの理由があげられているが、日本の場合はそれとは違う。日本では小売店が零細でメーカーの価格支配力が強く、「業界秩序」を守るためにメーカーが値上げを許さないのだ。

昔は、全国に「町の電気屋さん」があった。松下電器はナショナルショップだけに商品を卸し、安売りを許さなかった。ダイエーが安売りをしたため、松下はダイエーに出荷せず、訴訟を起こされて松下が負けたが、幸之助が死ぬまで出荷しなかった。これは系列店を生かさぬよう殺さぬように維持して、定価販売を守る知恵だった。

今も日本の小売店は零細で、労働生産性がアメリカのほぼ半分である。そのかなりの部分はコンビニで系列化されたが、コンビニでも定価販売(ヤミ再販)というカルテルが行われている。この流通機構の非効率性が、日本経済の停滞する大きな原因である。

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転売はユーザーの利益になる

先週から話題になっているホビージャパンの問題が、社員を解雇するという処分に発展した

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長期金利>名目成長率という「ブラックスワン」

WSJが気になるコラムを書いている。アメリカの物価連動国債インデックスの利回りが8%を超えたというのだ。これは1990年代以来だという。

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物価連動国債というのは「インフレ投機」である。物価が上がれば元本が上がり、インフレになればなるほどもうかる。現実のCPIは5%を超えたので、債券市場はインフレがさらに加速するとみているわけだ。FRBは「インフレは一時的な現象だ」としているが、このように当局とマーケットの意見が食い違う場合は、たいていマーケットが正しい。

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日本では誰も(日銀も)インフレを予想していないが、上の図のように日本の予想インフレ率(BEI)も、ゆるやかに上がり始めている。この背景には唐鎌大輔氏の指摘するようにISバランスが極端な貯蓄過剰になり、インフレのマグマが貯まっている状況がある。これもアメリカと似ている。

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この10年の世界経済(この20年の日本経済)の前提は長期金利r<名目成長率gだったが、それを提唱したサマーズでさえ、バイデン政権のインフレ政策は危険だと警告している。r>gの世界は、マクロ政策のすべての前提がくつがえる「ブラックスワン」なのだ。

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フェアな政府かアンフェアな政府か

西村大臣の事件は、日本社会の意外に大きな変化を示していると思う。今までだったら、役所が行政指導で銀行を使って飲食店をいじめるという話は、ありふれていてニュースにもならなかっただろう(初期にはマスコミも取り上げなかった)。

それが玉木雄一郎氏と山尾志桜里氏がツイッターで取り上げたら、ネット民の怒りが爆発し、政府は全面撤回に追い込まれた。これは役所が許認可権や補助金を脅しに使って業界を締め上げる伝統的な行政指導がきかなくなったことを示している。



これはきのう日本維新の会の2人と話したベーシックインカムとも関係する。BIには二つの考え方がある。一つは1960年代にフリードマンが提案した負の所得税で、もう一つは1970年代に新左翼の提案した平等主義的なBIだが、両者は算術的には同じである

このように政治的には両極の思想から、同じ提案が出てくるのは偶然ではない。すべての個人に一律に最低所得を保障するという考え方が、今の社会保障とは根本的に異なるからだ。

初期の社会保障の対象になったのは成年男子の労働者で、年金も医療も世帯が単位である。女性や子供は「被扶養者」としてしかカウントされていなかったが、これでは単身世帯や母子家庭などの貧困層が救済できないので、生活保護などの裁量的な給付が建て増しされ、複雑で不公平な社会保障制度ができた。

しかし超高齢化で、現役世代の負担は大きくなる一方だ。これは世代間格差だけではなく、もっと根深い対立を生んでいる。これからは「小さな政府か大きな政府か」ではなく、フェアな政府かアンフェアな政府かという問題が大きくなるだろう。

続きは7月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

ワクチンの配分にオークションを

河野ワクチン担当相のブログが話題になっている。これは(名指しを避けているが)中島岳志氏の一連のツイートに反論したものだ。河野氏は、さっそく昨夜の報道ステーションに出演して「これは計画経済と自由経済の違いだ」と説明した。

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この図の赤い線が予定の供給数だったが、政府が「1日100万回」と号令をかけたおかげで、自治体の接種が予想以上に進んで青い線のように供給を超え、大阪や北海道などでは不足している。国はその「調整枠」を設けて過不足を解消する方針だというが、これも計画経済では限界がある。

ワクチンは無料なので、自治体は過大申告して余っても困らない。他方で過少申告して不足すると困るので、過大申告するバイアスがある。これを避けるために調整枠のワクチンに価格をつけ、国がオークションをやるのだ。

これには中島氏のように「ネオリベだ」といちゃもんをつける人がいるかもしれないが、目的は国がもうけることではなく、ワクチンの最適配分である。すべてのワクチンに価格をつけるわけではなく、調整枠以外は無料とする。この価格は最終ユーザーに転嫁できないことにすれば、自治体は財政負担になるので、それほど高い価格はつかないだろう。

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日本の自動車メーカーは生き残れるか

EVと自動運転 クルマをどう変えるか (岩波新書)
アゴラシンポジウムでも話題になったように、日本の製造業の最後の砦になっている自動車がEV(電池駆動車)になるかどうかは、製造業のみならず日本経済の今後を左右する問題である。

重要なのはガソリン車と電気自動車の違いではなく、ハイブリッド車(HV)とEVの違いだ。HVは基本的にはエンジンだが、EVはモーターである。今や中国は毎年2500万台以上を販売する世界最大のEV大国だが、すべての自動車がEVになるだろうか。

それを予想する上で、本書のあげているブラウン管と液晶のケースは示唆的である。かつて日本のテレビは世界を圧倒する競争力を誇っていたが、ブラウン管から液晶に転換した1990年代に覇権を失い、今はテレビの90%以上が輸入品になってしまった。

その原因は技術ではない。初期には液晶の技術で日本の電機メーカーが世界をリードしていたが、それはブラウン管より劣る技術だった。カラー液晶のコントラストは悪く、解像度も低く、応答速度が遅かった。価格もブラウン管のほうが安く、液晶テレビの価格は1インチ1万円以下には下がらないといわれていた。

しかし液晶の価格は2002年ごろ1万円/インチを切り、今では1000円以下である。テレビはすべて液晶になり、日本の電機メーカーは敗れた。その最大の原因は日本の技術が劣っていたためではなく、技術力が高すぎるためだった。

続きは7月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ(初月無料)。

カーボンニュートラルの勝者は中国



きのうのアゴラシンポジウムでは、カーボンニュートラルで製造業はどうなるのかを考えたが、やはり最大の焦点は自動車だった。政府の「グリーン成長戦略」では、2030年代なかばまでに新車販売の100%を電動車にすることになっているが、これはバッテリー駆動の電気自動車(EV)だけでなくハイブリッド車(HV)を含む。

しかしEUは2030年代にHVも禁止し、バッテリー駆動のEVしか認めない方針だ。ライフサイクル全体でみるとHVのほうがCO2排出量が少ないが、EUがEVにこだわる理由は、ヨーロッパの自動車メーカーにはHVをつくる技術がないからだ。

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国営ネズミ講はフリーランチか

来週からアゴラ経済塾「超高齢化時代の財政と社会保障」が始まる(申し込みはまだ受け付け中)。社会保障は地味な話だが、超長期のリスク管理という意味では新しい問題で、財政タカ派も反緊縮派もそれを理解していない。

賦課方式の社会保障は、今の高齢者の生活費を今の現役世代が負担するネズミ講だが、これは新たに子孫が生まれてくる限り維持できる。それが世代重複モデル(OLG)の考え方である。これは図のように人生を2期(働く若年と引退する老年)にわけ、若いとき働いて貯蓄し、それを引退してから取り崩して消費すると考える。

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麻生良文氏のスライドより

ここで賦課方式の年金を導入する。年金制度が始まった世代1は、保険料を払わないで世代2から年金をもらえるので、丸もうけである。世代2は若いとき保険料を払い、引退してから世代3の払う年金をもらう。世代3は…というように負担を先送りしていけば、世代1は利益を得る一方、損する人はいない。

だからネズミ講でみんなハッピーになるフリーランチがある、というのがOLG理論だが、これは本当だろうか?続きを読む

年金財政は破綻しないが個人の生活は破綻する

年金「最終警告」 (講談社現代新書)
「反緊縮」で騒ぐ政治家に、会計士や税理士が多いのは偶然ではない。彼らは単年度の「期間損益」しか知らないからだ。MMTも一種の会計理論で、「バランスシートの借方と貸方は同額である」という恒等式をややこしく表現しているだけなので、金利が変化したら投資をどう変えるかという長期の意思決定については何もいえない。

彼らがまったく語らないのが、社会保障である。これは金利の無視できない超長期のリスクだからである。日本経済の最大の問題は短期の財政赤字ではなく、巨額の所得移転が「保険」というフィクションで行われていることなのだ。

日本の年金制度は積立方式で始まったが、戦後の高度成長期に現役世代の保険料をあてる「修正賦課方式」になった。賦課方式の年金は、同時代の現役から老人への所得移転なので、税と同じである。2017年度では、年金給付総額52兆円のうち、「保険料収入」72%、「税金」24%、残りの4%が「積立金の取崩し等」となっている。わずかに残った積立金も、著者の計算では2043年に枯渇するという。

しかし年金財政が破綻するわけではない。厚労省の「100年安心プラン」は、つねに年金財政が均衡するようにできているので、積立金が枯渇すると、年金支給の減額か支給開始年齢の引き上げ(あるいはその両方)が起こる。現役世代は、今の高齢者に比べて多くの保険料を払って、それより少ない年金を受け取る。公的年金は、必ず損する金融商品なのだ。

特に問題なのは、国民年金である。著者の計算によれば、(免除・滞納を含めた)国民年金の未納率は被保険者の48.4%にものぼる。未納の人には支給しないので、これは年金会計としては問題ではないが、未納で年金をもらえない人は生活保護を受けなければ生きていけない。

今の生活保護支給額は年間4兆円程度だが、今後このような無年金の「高齢フリーター」が生活保護を受けると、支給額は20兆円以上増える。これだけで一般会計の2割になるので、どこかで生活保護もバッサリ切るしかない。年金財政は破綻しないが、個人の生活は破綻するのだ。続きを読む

「国営ネズミ講」が国を腐らせる

The Socialist System: The Political Economy Of Communism (Clarendon Paperbacks)
昨今の「反緊縮」をめぐる論争は、ある意味では一点に集約される:政府には予算制約があるのか、ないのかということだ。これについてMMT派のビル・ミッチェルの答は明快である。
MMTは政府の予算制約(Government Budget Constraint)では始まらない。我々はその概念を明らかに拒絶している。[…]政府の購入能力は金融的に無限である

政府(中央銀行)はいくらでも通貨を発行できるので、その予算に金融的な限界はない。制約は「実物的なインフレ」だけなので、インフレにならない限り、政府支出はいくら拡大してもいい――これは荒唐無稽にみえるが、短期の理論としては成り立っている。問題は、政府支出と債務が際限なく膨張したら、長期的に何が起こるかということだ。

MMTの世界は、コルナイの描いた初期の社会主義に似ている。そこではモノバンクと呼ばれる一つの国営銀行がすべての企業に資金を供給したので、決済機能がなかった。企業の経営が悪化すると、モノバンクは際限なく融資し、その資金を返済する義務もなかった。政府が価格統制したので、インフレも起こらなかったが、経済は破綻した。それはなぜだろうか。続きを読む





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