経済

年金危機は予定より早くやってくる

参議院選挙の前に出るはずだった年金財政検証がようやく出たが、予想されたほど数字が悪化していない。実質成長率がマイナス0.5%という「ケースⅥ」でも、所得代替率が50%になるのは2043年と、前回の最悪のケースより遅くなっている。

財政検証

これには一見すると気づかないトリックがある。ここでは「マクロ経済スライドを機械的に続ける」と書いているが、これは正確ではない。マクロ経済スライドは所得代替率を徐々に下げて将来世代の負担を下げるしくみだが、これには名目下限措置があるので、年金支給額は名目的には減らないのだ(図で年金額が減るのは実質に直しているため)。

名目下限措置というのは「名目賃金が上がったときは年金支給額を上げるが、名目賃金が下がっても支給額を下げない」という非対称なルールで、インフレで賃金が上がるときは問題ないが、最近のように名目賃金が下がったときは所得代替率は上がってしまう。西沢和彦氏によれば、次の図のように所得代替率は2014年までに59.3%から62.7%に上がった。

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これは今年の改正で61.9%に下がったが、それでも大幅な過剰給付になっている。このままでは所得代替率が50%になるのは、2040年代より先になるだろう。それはいま年金をもらう世代にとってはいいことだが、年金積立金を先食いするので、積立金が枯渇する年金危機は予定より早く(おそらく2030年代に)やってくるのだ。

続きは9月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日本政府は「小さな規模で大きな負担」

世界的に金融政策がきかなくなり、これからは財政政策の出番だというのが常識になりつつあるが、問題は財政支出を何に使うかだ。短期的には財政で失業を減らして効率を上げる効果もあるが、長期的には「大きな政府」の浪費で効率が落ち、潜在成長率が下がるというのも常識である。

こういう議論では、政府の「大きさ」の基準を明確にする必要がある。国民負担率(税・社会保険料)でみるとGDPの43.9%、政府債務を含めると約50%だ。これが超高齢化で2040年ごろには60%を超えると予想され、日本は今のフランス並みの世界最大規模の政府になるだろう。

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図1 国民負担率(内閣府調べ)

しかし公務員数(特殊法人などの準公務員を含む)は436万人。これは図2のように人口の3.67%で、先進国で最小である。つまり日本政府は「規模は小さいが負担の大きな政府」なのだ。これはなぜだろうか?

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図2 公的部門の職員数(内閣人事局調べ)

続きは7月29日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

MMTは「日銀流理論」である



ケルトンが帰国してもMMTをめぐる話題は尽きないが、いまだにその中身はほとんど理解されていない。MMTは財政赤字の理論ではなく、インフレの理論でもない。そのコアは、マネーストックは資金需要で決まるという内生的貨幣供給理論である。

たとえば銀行が企業に1億円貸し出すとき、金庫から1億円の札束を出して企業に渡すわけではない。銀行がその企業の預金口座に「100,000,000」と書いた瞬間に、貸し出しが行われる。つまり預金が信用乗数で増えて銀行貸し出しになるのではなく、預金は銀行貸し出しで生まれるのだ。これはMMT独特の理論ではなく、異端でもない。
企業や個人が保有する現預金の総量は、金融機関や企業・個人の意思決定の結果として決まるものであるが、信用乗数理論ではロボットのような金融機関行動が想定されている。現実の金融機関はロボットではなく、それが利益の拡大につながると判断してはじめて行動を変化させる。
これは白川元日銀総裁の『中央銀行』の34ページの記述である。こういう話は日本では日銀流理論とバカにされたが、世界の中央銀行では白川氏の理論がスタンダードである。たとえばイングランド銀行のホームページでも、信用乗数理論を明確に否定している。
もう一つの一般的な誤解は、中央銀行がマネタリーベースをコントロールして経済における貸し出しと預金の量を決定するという、いわゆる信用乗数アプローチである。

続きは7月29日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

MMTはアベノミクスを否定する

MMTはマクロ経済学的には新しい話ではないが、正しい点もある。ケルトンも日本で明言したように、ゼロ金利では量的緩和でマネーは増えないということだ。MMTは預金が「信用乗数」で増えて信用創造が行なわれるという通説を否定し、信用創造は資金需要で決まるという。これは内生的貨幣供給説と呼ばれる理論である。

教科書的な説明では、中央銀行がマネタリーベースを増やすと、マネーストックはそれに信用乗数をかけた分だけ増える。つまり

 マネーストック=マネタリーベース×信用乗数

だから信用乗数が安定している短期では、マネーストックはマネタリーベースにほぼ比例して増えるはずだ。これに対してMMTによれば、マネーストックは資金需要で決まるので、マネタリーベースを増やしてもマネーストックは増えず、信用乗数(マネーストック/マネタリーベース)が下がるはずだ。これはデータで検証できる命題だが、どっちが正しいだろうか?

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信用乗数の変化(三井住友アセットマネジメント調べ)

この図で明らかなようにMMTが正しい。日銀がマネタリーベースを激増させた2013年以降も、マネーストックはあまり増えず、信用乗数が大幅に下がった。つまりマネーの量は資金需要で決まるので、日銀の量的緩和は無意味である。MMTはアベノミクスを否定しているのだ。続きを読む

バブルはなぜ一挙に崩壊するのか

日本経済の停滞は1990年から始まった。最初は「失われた10年」といわれ、そのうち「失われた20年」といわれたが、最近は「長期停滞」といわれるようになった。先進国でも2008年の世界金融危機から「失われた10年」が始まっているからだ。

しかしサマーズやブランシャールのように、それを標準的なマクロ経済理論で理解することには限界がある。日本の1990年には、欧米の2008年のような決済機能の崩壊は起こらなかった。むしろ大手銀行はかなり早めにバブルの処理を始めていた。イトマンやEIEの処理が始まったのは1990年である。

不動産バブルが起こっていたことは明らかなので、公定歩合を引き上げた日銀の対応は正しかったが、それもすぐきいたわけではない。日銀が公定歩合を上げても、地価も株価も上がり続けた。1990年初めからの下げも、当初は一時的な調整だと思われていた。その流れを変えたのが、1990年3月に大蔵省の出した不動産融資の総量規制だった。

だがこれは結果論である。当時の新聞論調は「地価バブルを完全につぶそう」(朝日)、「居座り許せぬバブル地価」(毎日)、「地価対策の手綱を緩めるな」(読売)、「地価は落ち着いても楽観できない」(日経)という感じだった。NHKもバブルつぶしのキャンペーンを張ったが、誰もバブルがあれほど一挙に崩壊するとは思わなかった。

続きは7月22日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「利上げしたらインフレになる」ケルトンの珍理論

MMTの提唱者であるステファニー・ケルトンが日本に来て、マスコミ各社を集めた記者会見を開いた。質問が集中したのはインフレの部分だ。彼女は「20年デフレが続く日本でインフレの質問ばかり出てくる」と笑っていたが、それは彼女のインフレについての説明が破綻しているからだ。



続きはアゴラで。

世代間格差は「誤解」ではない

朝日新聞が「年金、誤解の果ての不信」という記事を電子版で掲載している。何かと不安をあおる朝日には珍しく、政府の年金政策を擁護する記事だ。何が誤解かというと、公的年金を「払った分受け取れる私的年金と混同」しているのだというが、そんな誤解をしている人がどこにいるのか。

世代間格差を問題にしている多くの経済学者は、公的年金を私的年金と同じにしろといっているのではない。今の賦課方式の年金制度が、超高齢化する社会では将来世代との受益と負担の格差を拡大するといっているのだ。

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朝日新聞(少なくともこの記事を書いた太田啓之という記者)の考え方は厚労省の年金マンガと同じだが、厚労省も世代間格差がないとはいっていない。格差はあるが、公的年金は保険だから金銭の損得で判断してはいけないというのだ。これは奇妙な話である。保険を金銭で判断しなかったら、何で判断するのだろうか。

朝日新聞は「世代間格差は受け入れざるを得ない副産物」だというが、これは嘘である。年金制度としては積立方式もある。積立方式だと原理的には世代間格差をなくすことができるが、別のコストが発生する。それは費用対効果の問題である。賦課方式のメリットは、将来世代との生涯所得1億円の格差に見合うのだろうか。

続きは7月22日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「素朴ケインズ主義」に転向するアベノミクス

アベノミクスの指導者である浜田宏一氏が、MMTを意外に高く評価している。MMTは彼が1970年代に教えていた(私も学生として聞いた)素朴ケインズ主義である。おもしろいのは、彼がリフレ派を卒業したと明言していることだ。
金融緩和の効果がいろんな意味で薄れてきているのは事実です。デフレ脱却では、金融政策だけでなく財政政策も両方が必要なことは、私も「シムズ理論」にふれるまでは、十分、理解していたわけではありませんでした。
そして「私も国際的なマネタリズムという視点でみてきたわけですが、なかなか貨幣の需給だけでは説明が十分でないところが出てきています」という。「国際的なマネタリズム」という言葉は初めて聞いたが、たぶんかつて彼が力説していたマンデル=フレミング理論のことだろう。

これは「変動相場制では財政政策はきかないが金融政策はきく」という理論だが、実際に起こったのはその逆だった。その原因は単純である。金利がゼロに張りついた状況では、利下げで円安にもインフレにもできないからだ。彼もようやくそれを認めたわけだが、こうして誠実に間違いを認める人は少ない。

リフレ派は今、MMTを否定する分派と転向する分派で大混乱だ。財政政策の効果を認めない原理主義的リフレ派は旗色が悪く、間違いを認めないで「本当のMMTはリフレ派と同じだ」と称して転ぶ上念某のような手合いが多い。今後アベノミクスも「第2の矢」の財政政策に重心を移すだろう。

続きは7月22日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

どうやって「減らない年金」にするの?

参議院選挙で年金問題がよく話題になりますが、肝心の年金制度をどう改革するのかという政策がはっきりしません。ただ一つ「年金を減らさない」と明確に公約に掲げているのが共産党です。どうやって減らない年金にするんでしょうか?

それは簡単です。年金を減らすマクロ経済スライドという制度を廃止するのです。これによって「年金が7兆円減るのを防げる」と共産党は主張しています。マクロ経済スライドという言葉は何のことやらわからないと思いますが、日本年金機構の説明によると次のような制度です。
賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
これでもよくわかりませんね。簡単にいうと、これは共産党のいうように年金を減らし続けるしくみです。図1のように、本来は上がるはずの年金支給額(実質)を減らすのがマクロ経済スライドですが、役所が「減らす」という言葉を使わないのでややこしいのです。

図1

続きはアゴラで。

誰も負担しない「見えない賃金税」

今度の参議院選挙の最大の争点は年金問題だが、公約で「マクロ経済スライド廃止」という方針を明確に打ち出している共産党以外は、どう改革するのか(あるいはしないのか)わからない。自民党に至っては、金融審議会の「年金が2000万円足りない」という報告書の受け取りを拒否して、事実も認めない。

その一つの原因は、今の公的年金の負担感が少ないためだろう。国民年金は税で補填されるので年金保険料より給付のほうが多いが、厚生年金にはトリックがある。その保険料は2017年に18.3%で打ち止めになったが、サラリーマンの源泉徴収票に出てくる数字はその半分、つまり9.15%である。

ところがサラリーマンの実際の負担はそれより大きい。次の図は鈴木亘氏の試算だが、ざっくり言って今の50歳以下は年金の払い損になる。これは保険料というより賃金税と考えたほうがいいが、その負担感は実際より小さい。

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このトリックのタネは単純だ。社会保険料の半分を事業主負担としてサラリーマンを雇う会社が負担しているからである。しかし会社からみると事業主負担も人件費なので、そのほとんどは労働者に転嫁される。つまり社会保険料の分だけ手取り賃金が下がるのだが、その負担の半分は見えない。

続きは7月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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