経済

若者は老人より豊かになる

世代間格差が生涯所得で1億円あるというと「若者は老人より貧しくなる」と思い込む人が多いが、これは錯覚である。この数字は財政学の世代会計で社会保障などによる個人の国に対する超過負担を計算したもので、個人が絶対的に貧しくなることを意味するわけではない。個人の豊かさを何で示すかはむずかしいが、簡単な指標として家計金融資産を考えよう。

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家計金融資産の残高(日銀調べ)

日銀の資金循環統計によると、2018年4~6月期の家計金融資産は1848兆円。2008年以降は438兆円増えて、史上最高になった。負債を引いた純資産ベースでみても1530兆円。資産が増えた大きな原因は株価の上昇なので、今後もこのペースが続くかどうかはわからないが、金融資産を相続する子が親より豊かになることは確実だ。

これに対して一般政府債務は1296兆円、純債務ベースでは794兆円だから、家計純資産から一般政府純債務を引くと736兆円。ストックでみると、国の借金を引いても将来世代は現在世代より豊かになるのだ。フローでみると、将来世代の超過負担が増えて可処分所得は下がるが、これも高齢者の受ける給付と相殺すると、国民全体としては豊かになる。問題はその富の分配に大きなゆがみが生じることだ。

続きは10月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

【再掲】ローマーの内生的成長理論

ポール・ローマーが、スウェーデン国立銀行賞を共同受賞した。彼の「内生的成長理論」はソロー以来の成長理論のイノベーションで、1990年代には一世を風靡した。今は使われないが、歴史的には妥当な授賞だろう。成長の要因を「知識の外部性」に求める発想は重要で、「生産性」の意味を考える上で政策的な含意も大きい。続きを読む

国債が相続されたら世代間格差はなくなる?

ダイヤモンド・オンラインで、塚崎公義氏が「相続を考えると世代間格差は存在しない」と論じている。日本の政府債務は1100兆円だが、家計金融資産は1800兆円ある。日本国民を一つの家族と考えると、親が子供から1100兆円借金しているが、その遺産(国債を含む)1800兆円は子供が相続するので、純資産でみると子供は700兆円豊かになる。

これは会計的には正しい。債権と債務はつねに等しいので、相続税がゼロで国債がすべて次世代に無償で相続されるとすると、将来世代の負担は発生しない。逆に相続税が100%で、遺産がすべて国に没収されても負担は発生しない。日本国民を一つの家族と考え、「借金も税金も資金移動としては同じ」と割り切れば、世代間格差は問題にならないのだ。

もちろん日本国民は一つの家族ではないので、借金と税金は同じではない。現在世代は一般会計予算100兆円に対して税金を60兆円しか払っていないので、残り40兆円の課税は将来世代に延期され、国債を相続した人と納税者の格差が拡大する。このように国民の資産を政府が再分配することによる不公平と非効率が、国債の負担なのだ。

続きは10月8日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

世界の金余りが逆転するとき

過剰債務というと政府債務ばかり問題になるが、Financial Timesによると、民間を含む世界の総債務は247兆ドルと史上最大になった。過剰債務は2008年の世界金融危機の前と似ているが、債務の規模は1.5倍だ。

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このうち最大の伸びを示しているのは、新興国の非金融セクターである。これは2010年代の金融緩和で資金が新興国にばらまかれたためだが、先進国ではインフレにならない一方で、新興国ではトルコの通貨危機のような危険な兆候が見えている。この状況でFRBが利上げし、ECBが今年中に量的緩和を終了すると「リスクオフ」で新興国から資金が引き上げ、金余りが逆転するだろう。

これまで世界の景気回復は、先進国の銀行が低利で借りた資金を新興国に投資することで維持されてきたが、それが巻き戻されると、債務危機に発展するおそれがある。こういう危機は非対称で、巻き戻されるときは速い。図のように2000年から2008年まで続いた金余りが逆転したのは、わずか半年ほどの出来事だった。

続きは8月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

軽減税率は「税金のサマータイム」

サマータイムには賛否両論というより反対論しか出てこないので、「まさか実現しないだろう」という楽観論が多いが、油断できない。同じように「海外では実施したが後悔している」制度が、来年実施される予定だ。消費税の軽減税率である。アゴラ研究所にも税務署から「よくわかる軽減税率制度」というパンフレットが来た。

軽減税率は2017年4月に消費税率を10%に引き上げる法律で決まったが、増税が再延期されて2019年10月になった。増税は今年の骨太方針で明記されたので、再々延期されなければ、軽減税率も実施される。対象は酒類・外食を除く飲食料品と、週2回以上発行される新聞である。



続きはアゴラで。

医師に免許は不可欠か

超高齢化社会になる中で、最大の問題は医療費の膨張である。団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」を控え、医療費を抑制しないと社会保障は維持できなくなる。医師不足も深刻になり、特に勤務医の労働条件が悪化している。これは医師が絶対的に足りないのではなく、都市や特定の診療科目に偏在していることが原因だ。

それを是正する一つの対策は、医師免許とは別に「準医師」の資格を認定し、看護師や薬剤師に医療行為を認めることだ。たとえば医師が一度、処方した薬を、その後も続けて処方するのは、看護師や薬剤師の判断でできるだろう。患者には選択権を与え、準医師は保険単価を安くすればいい。

こういう職業免許から資格認定への改革は、ミルトン・フリードマンが『資本主義と自由』で提案したが、それから半世紀以上たっても前進しない。特に医師免許の緩和は、賛成する人が少ない。「無免許医師の誤診で命を落としたら取り返しがつかない」と考えるからだが、それは本当だろうか。

続きは8月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

あなたがソロスだったら確実にもうかる方法

Zerohedgeは、金融業界では有名なブログである。いつも悲観的なので、その予言が当たることは少ないが、「なぜ日本が次の危機の発火点になるかもしれないか」という記事で、おもしろい指摘をしている。



この図は日本国債の金利のボラティリティを示したものだ。最近、急に値動きが激しくなったのは、投機筋が入ってきたことを示唆している。Zerohedgeは「日銀が長期金利の上昇を容認したことは、いま国債を保有している投資家が確実に損することを意味する。彼らが売るのは当然だ」と書いている。

続きはアゴラで。

出口戦略は総力戦

日銀が金融政策決定会合で長期金利の上限を引き上げたことを受けて、きのうは長期金利が0.12%まで上がり、きょうの寄り付きは0.145%で始まった。日銀が長期金利の変動幅を「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるもの」とし、0.2%程度まで容認したと市場が見たためだ。

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2016年から始まった「イールドカーブ・コントロール」で、日銀は長短金利をコントロールする方針を打ち出した。普通の金融政策では短期金利(政策金利)をコントロールするが、長期金利まで中央銀行がコントロールするのは異例である。今回の措置は、それを緩和して「出口」をさぐったものだろう。

しかし長期金利をコントロールできるというのは錯覚だ。日銀が無理に相場を支えると、変化のマグマが貯まって、投機筋が売り崩すチャンスになる。そのうち相場が暴落すると、日銀にも市中銀行にも評価損が出る。もし日銀が債務超過になると、一般会計からの支出が必要だ。政府と日銀のバランスシートを統合して「総力戦」でのぞまないと、危機は乗り切れない。

続きは8月6日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

中小企業が多すぎる

移民に消極的だった安倍政権が、新しい在留資格による外国人労働者の受け入れ拡大に舵を切った背景には、深刻な人手不足がある。経済界から自民党に突き上げがあり、参議院選挙をにらんで来年4月スタートという急な話になったのだろう。

人手不足の原因は複雑だが、ある意味では明らかだ。賃金が低すぎるからである。労働市場で需給が一致する賃金を経営者が払わないから、いつまでも超過需要が続くのだ。こういう現象は地方の中小企業に片寄っている。その解決策も明らかだ。需給が一致するまで賃金を上げれば、中国やベトナムから募集しなくても、国内から労働者が集まるだろう。

逆にいうと賃上げできないのは、適正な水準まで賃上げしたら利益が出ないからで、それは中小企業の生産性が低いからだ、というのがアトキンソンの見立てである。日本の企業の平均社員数は、高度成長期に半減した。1975~95年に企業は170万社増えたが、その88%が社員10人以下の中小企業だった。

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続きは8月6日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

自然利子率はなぜ大きく下がったのか

日銀があすから行う金融政策決定会合で、物価見通しを下方修正するという観測を受けて、長期金利が1年ぶりに0.1%台に乗せた。「イールドカーブ・コントロール」などというのは幻想で、金利が本格的に上がったら、日銀がいつまでも買い支えることはできない。長期的な物価水準を決めるのは政府だからである。FTPLの物価決定式でいうと、

 物価水準=名目政府債務/実質財源

ここで分子の名目政府債務は割引現在価値で、それを割り引くのは名目金利だが、分母の実質財源(プライマリー黒字)を割り引くのは実質金利で、その均衡水準を自然利子率と呼ぶ。これが下がると分母が増え、物価が下がる。微小な金利の変化でも、長期の現在価値は大きく変わる。自然利子率が、たとえば3%下がると、今後20年の現在価値でみた均衡物価水準は45%下がる。

次の図は日銀が推計した自然利子率の推移だが、1990年代に日本の自然利子率は3%以上も下がった。これが長期にわたるデフレの最大の原因である。自然利子率は実物変数であり、日銀が動かすことはできない。それがこれほど大きく下がったのはなぜだろうか。

自然利子率


続きは7月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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