経済

財政ファイナンスの何が悪いのか

日銀の若田部副総裁が国会で、日銀による長期国債の買い入れについて「物価2%目標の実現に向けた金融政策上の目的で行っている」とし、「政府による財政資金の調達を助けることを目的とする、いわゆる財政ファイナンスではない」と語った。これは彼の過去の言論と矛盾する。

彼は『ネオアベノミクスの論点』で、「デフレからの脱却には、財政ファイナンス的な政策がじつはもっとも効果的なのです」(p.96)と書いた。財政ファイナンスが効果的なら、日銀がそれをやらないのは職務怠慢である。財政ファイナンスで日銀が国債をすべて買えば「無税国家」ができ、納税者もハッピーだ。

続きはアゴラで。

なぜインフレが望ましいのか


これはもっともな疑問だが、教科書的なマクロ経済学(DSGE)には「物価上昇が望ましい」という理論は存在しない。日銀の黒田総裁も「インフレ目標2%がグローバル・スタンダードだ」というだけで、その根拠は説明したことがない。それが望ましいのは、次のような「異常事態」が起こっている場合だ。

 1.名目賃金の下方硬直性が強い
 2.自然利子率がマイナスになっている
 3.コーディネーションの失敗が起こっている

1は初等マクロ経済学の教科書にも書いてあるが、名目賃金が労使交渉で決まる場合、賃下げは困難なので、インフレで実質賃金を下げ、労働生産性の上がった労働者だけ賃上げすることで調整がやりやすくなる。ただ定常的なインフレになると、労働者はそれを織り込んで賃上げを要求するので効果はなくなる。

2の自然利子率というのは経済に中立的な金利で、これがマイナスになっていると、名目金利がゼロ以下にならないときは「意図せざる金融引き締め」になる可能性がある。こういう場合はインフレで実質金利をマイナスにする意味があるが、最近の日銀の計測では、自然利子率は0.3%程度であり、マイナス金利も可能なので、インフレにする意味はない。

3がおそらく黒田総裁の想定しているケースで、「ピーターパンが空を飛べないと思うので飛べない」という均衡と「飛べると思うので飛べる」という複数均衡があるとき、だれもが空を飛べると期待すると飛べる可能性がある。問題は空を飛ぶ能力があるのかどうかである。

続きは6月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ゼロ金利が日本企業をダメにした



昨夜の言論アリーナは、宇佐美さんの新著の「先送り」がテーマだったが、意思決定がなぜ先送りされるかはおもしろい問題だ。先送りはオプション価値をもつ。たとえば値下がりした土地を時価で売ると損が出る場合、ずっと保有していると、そのうち値上がりするかもしれない。先送りすると値上がりしてから売るオプションをもっているので、そういう権利を証券化したのがオプション証券だ。

他方、先送りにはコストも発生する。借金して土地を買ったとすると、先送りによって金利が発生する。つまり金利は先送りの機会費用とも考えることができるので、先送りのオプション価値と金利のどっちが大きいかで意思決定が決まる。

1998年以降の日銀の超低金利政策は、最初は不良債権問題で破綻した企業を救済するためだったが、そのうち企業がゼロ金利を前提にして行動するようになった。常識的には金利がゼロならどんどん借りて投資するだろうと思う(日銀も経済学者もそう思った)が、実際には逆だった。企業の貯蓄が増えたのだ。

続きは6月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

東大経済学部の「科学革命」を実現した学問政治

日本の大学の文系学部がダメになった一つの原因は、人事が硬直化して親分子分の関係が強いことだ。特に戦後かなり長い時期、マルクス主義が社会科学の主流を占めたので、左翼的な教授が左翼を後継者にし、憲法学のようにガラパゴス化する傾向が強い。ところがマルクス主義の総本山だった東大経済学部には、今ほとんどマルクス経済学の教授はいない。

東大のマル経は戦前に人民戦線事件で摘発された栄光の歴史があり、近代経済学を「ブルジョア経済学」とバカにしていたが、1960年代から留学生が帰国してアメリカの経済学を輸入し始めた。経済学部でも近経のポストを確保しようという動きが強まったが、マル経から近経への転換は天動説から地動説への転換のような「科学革命」だった。

マル経の教授が近経の助教授を採用するはずがないので、パラダイム転換には「外圧」が必要だった。経済学は理系をまねて業績主義になったが、マル経では国際ジャーナルに載る論文は書けない。こういう国際競争が一つの要因だが、財界からは「マル経の学生は使い物にならない」という批判が強かった。そういうアメリカや財界の外圧を利用して、人事を動かしたのが大石泰彦である。彼は学問的業績は何もなかったが、学問政治の達人だった。

続きは6月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

問題は消費税ではなく法人税だ

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アメリカ経済が好調だ。失業率は3.8%とここ20年で最低水準になり、株価も回復してきた。大統領選挙のときはトランプを全面否定していたEconomist誌が、トランプ政権の経済政策をかなり高く評価している。

この1年半でトランプの実行した最大の政策は、大幅減税である。これは共和党の伝統的な政策だが、今までは増税(連邦消費税)とワンセットだったので民主党が反対し、ずっと実現しなかった。それをトランプは法人税率を21%に下げる一方、増税はしないという乱暴な方法で実現した。この結果、図のように国内投資が大幅に増えた。

トランプは経済理論なんか知らないので、財政赤字は大幅に増える見通しで、長期的にどういう効果をもたらすかはわからない。金利が上がり、労働分配率は上がっていないが、トランプ政権が安倍政権より結果を出したことは明らかだ。その違いは安倍首相が消費税にこだわったのに対して、トランプが法人税に焦点を絞ったことだ。

続きは6月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「日本だけ成長していない」という迷信

世の中には「日本だけ成長していない」と思い込んでいる人が多いようだ。それを根拠に「もう成長できない」とか「脱成長」という人々がいる一方、「財政出動でもっと成長しろ」という人々もいる。これは本当だろうか。世界経済のネタ帳で調べてみよう(原データはIMF)。



続きはアゴラで。

バカでもできる円安目標

インフレ目標に行き詰まった日銀が、外債を買うという話が出ている。理論的には、黒田総裁が1ドル=200円にペッグすると宣言して米国債を買い、日本国債を売れば、円安・インフレが起こる。これはスヴェンソンが2000年に提案したバカでもできる方法(Foolproof Way)の応用だ。もちろん政治的には不可能だが、どうなるかは容易に予想できる。

 1.円は暴落して200円に近づく
 2.国債の相場も暴落する。
 3.市中銀行が大きな評価損を抱えて金融危機が起こる
 4.財政インフレが起こって物価が急上昇する
 5.日銀が一転して市中銀行の国債を買い、米国債を売る

続きはアゴラで。

働き方改革はドイツに学べ



安倍政権の「働き方改革」関連法案から、裁量労働制の適用拡大の法案が切り離されることになった。「不適切データ」が原因だが、このデータには意味がない。裁量労働制と残業時間は無関係だからだ。「企業が裁量労働制を悪用してタダ働きさせる」というのは裁量労働制の問題ではなく、社員がノーといえない「正社員」の問題である。

今回の法案は、成立しても大した効果はない。コンセプトが混乱しているからだ。普通は雇用改革でもっとも重要なのは雇用の流動化だが、今回の改革には含まれていない。雇用を流動化すべきだという財界と正社員を守ろうとする労働組合が対立し、改革としては裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナルだけが残った。

続きはアゴラで。

「働き方改革」は霞ヶ関から

キャプチャ

JBpressの記事で私も誤解していたので、補足しておく。厚労省の調査に「不適切データが117件あった」という数字は、それだけ見ると大きなミスのようだが、これは「全国の1万1575事業場を労働基準監督官が訪問した聞き取り調査のうち87事業場」の個票の数で、全体の0.75%である。

上の写真のように「1日に45時間残業した」という記入ミスを1件と数えているが、普通はこんな数え方はしない。統計の合計が間違っていたら、全体で1件である。数字を改竄したなら重大だが、個票には記入ミスも計算ミスもある。原データまですべて洗い出したら、国会答弁には膨大なミスがみつかるだろう。

国会で出てくる質問は氷山の一角で、ほとんどの答弁資料は準備したまま使われない。野党の質問通告は直前なので、官僚はみんな徹夜して資料づくりをやる。その中に一つでも間違いがあったら、今回のように答弁の撤回や厚労相の進退問題にまで発展するからだ。まず改革すべきなのは、こういう霞ヶ関の異常な働き方ではないか。

続きは2月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

「恐怖指数」の恐怖

日米の株価が暴落した原因は、株価の変動率を示すVIX(volatility index)だという見方が強まってきた。VIXは株価の変動が大きくなると上がる指数で、次のチャート(アメリカの株価)でいう「恐怖指数」だが、2月5日はこれが前日の2倍以上になった。

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VIXは「株価が大きく変動する」という指数だから、その逆指数オプションを買うと「株価があまり変動しない」という賭けをすることになる。それを組み入れたファンドの想定を上回って大幅に株価が下がるとVIXが上がり、コンピュータで自動的に株が売られて株価が下がり、それによってVIXが上がる悪循環になるという。

その長期的な影響はまだわからないが、機関投資家のもっているVIX逆指数ファンドの残高は、IMFの調べでは1500億~1750億ドルにのぼるという。VIXが大きく上昇したということは、VIX逆指数ファンドをもつ投資家に、かなり大きな含み損が出ていることになる。

続きは2月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越します)






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