経済

政府と日銀を連結した「統合政府」の債務管理が必要だ

安倍元首相の発言が論議を呼んでいる。発言の内容は「日銀は政府の子会社だから、国債の60年の満期が来たら借り換えられるので心配ない」とのことだが、これは安倍氏の持論で、間違いではない。

野党が「日銀の独立性を侵害する」と騒いでいるのは見当違いである。正しく理解しているのは、国民民主党の玉木代表だけだ。

中央銀行の独立性は普遍的なルールではなく、1970年代のスタグフレーションのとき、中央銀行が財政従属になり、政府の景気対策の財源を調達するために金融を過剰に緩和したことからできたルールである。

日本でも1980年代のバブルを日銀が止められなかったという反省から、1998年に日銀法が改正されたが、このときは政府機関に国会からの「独立性」を保障するのは憲法違反だという議論もあった。

しかし今は政府が「悪い円安」を恐れて「物価対策」の補正予算を組む一方で、日銀がインフレを起こすために量的緩和をやるという逆転が起こっており、日銀の独立性というルールは時代錯誤である。むしろ日銀が関東軍になるのを防ぐために、統合政府の債務管理が必要だ。

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赤字国債の禁止は「戦後レジーム」か

ウクライナ問題を受けて、来年度予算の防衛費増額が焦点になっているが、WiLL6月号の安倍元首相と北村滋氏(前国家安全保障局長)の対談の中に、ちょっとおもしろい話がある。安倍氏は「赤字国債の発行を禁じる財政法4条は戦後レジームそのものだ」というのだ。財務省の逐条解釈にはこう書かれている。

第四条は、健全財政を堅持していくと同時に、財政を通じて戦争危険の防止を狙いとしている規定である。

戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、我が国の歴史を見ても、公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである。公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。したがって、本条はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものであるとも言い得る。

安倍氏はこれについて2016年の衆議院本会議で、共産党の質問に対して「これは財政の健全性の規定であり、戦争の防止は立法趣旨ではない」と否定した。逐条解釈は役所の法令解釈だから、それを首相が否定するのは異例だが、この解釈は誤りである。

財政法4条で定めているのは、公共事業に使う建設国債(特例公債)である。それ以外の経費については、毎年国会で特別法を立法して国債を発行する。これが赤字国債であり、予算案とは別に議決が必要だ(財務省の解説)。

これも儀礼化した手続きなので、実務的には建設国債と赤字国債の区別は無意味だが、来年度予算では重要になる。防衛費は将来世代の資産になるので、社会保障のように今の老人が食いつぶす消費支出とは違い、公共事業に近いのだ。

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1ドル=150円の世界



1ドル=130円になったが、日銀の黒田総裁のきょうの記者会見は、円安を止める気がないことを示している。それは一つの考え方である。円安で輸入インフレが起これば、2%のインフレ目標は達成できる。任期があと1年の彼にとっては最後のチャンスだ。

もう一つの理由は、彼がインフレより円安の効果を重視しているからだろう。物価が2%上がってもほとんど生活に影響はないが、民主党政権時代の1ドル=80円が黒田時代に120円になったことは大きな影響をもたらした。日経平均は8000円から2万円になり、輸出産業は息を吹き返し、インバウンドで観光業は急成長した。

しかし130円以上の円安になると、輸入品の価格が上がって100円ショップはなくなり、電気代やガソリン代は大幅に上がるだろう。インフレ率は2%をオーバーシュートするが、黒田総裁は「安定的に2%」になるまで量的緩和をやめないだろう。

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ISバランス(兆円)と為替レート(右軸)

ここで円安予想が形成され、キャピタルフライトが起こると、2000兆円の家計金融資産の1割でも動けば、一挙に1ドル=150円ぐらいになる可能性もある。これは1985年のプラザ合意のあと「円高で大変だ」と騒がれた時期と同じで、それほど驚くべき水準ではない。では何かいいことがあるだろうか。

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「資源インフレ」を止めるには原発再稼動が必要だ

岸田政権の「物価高対策」が発表された。「インフレ対策」とか「円安対策」といわないところがポイントである。3月のコアCPIでも0.8%と、日銀のインフレ目標2%に達していないのに、なぜ物価高対策なのか。

参議院選挙の前にバラマキをやるため、当初は使い残している予備費でやろうとしたが、公明党が「補正」という形を求めたので、6.2兆円の事業規模になった。経済政策としては無意味な補正予算である。

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日本企業の生産性を低下させる「負の退出効果」

いま円安が起こっている原因は、ある意味では単純である。2年前のブログでも書いたように、日本が慢性的に貯蓄過剰(内需不足)で、経常収支の黒字(外需)がないと需要不足が埋められないからだ。この貯蓄超過は1ドル=130円では埋まらない。むしろ資源インフレで経常収支は赤字になったので、さらに円安は進むだろう。

では1ドル=150円になったら、アジアに逃げた生産拠点は日本に帰ってくるだろうか。残念ながら、そうは行かない。150円になったら人件費(単位労働コスト)は中国より安くなるが、問題は人件費ではなく、アジアの市場が成長しているからだ。人口の減る日本に投資するより、アジアで生産してアジアで売るほうが効率的である。

もう一つの原因は、日本の生産性(TFP)の低下である。その原因は技術だけではない。企業が撤退するとき、普通は古い工場をつぶして新しい工場を残すが、星岳雄氏の指摘するように、日本ではその逆に新しい工場が退出して古い工場を残す負の退出効果が強まっている。

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負の退出効果(権赫旭氏の調査)

その原因は、新しい工場の最新技術をもつ要員をアジアの生産拠点に配置転換し、古い工場は雇用維持のために残すからだ。その結果、国内工場の平均稼働期間が延び、ゾンビ化が進行しているのだ。

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超円安で「キャピタル・フライト」は起こるか



円が暴落している。1ドル=130円になるのは時間の問題だろう。鈴木財務相は「悪い円安」だといって協調介入を示唆している。日銀の黒田総裁は「急速な円安は望ましくない」というが、日銀が長期金利を0.25%に抑える「指し値オペ」を続けるかぎり、日米の金利差は拡大し、円安の流れは止まらない。

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資源インフレが「デフレ」を生み出す

ウクライナ戦争の影響で資源価格が大幅に上がってきたが、消費者物価は上がらない。企業物価指数(PPI)上昇率は9.5%という1980年以来の水準になったが、消費者物価指数(CPI)は0.9%。3月分の速報ベースでは1.3%とやや上がってきたが、依然として大きな差がある。

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このギャップの一つの原因が、企業間取引と最終財の違いだ。PPI上昇の最大の原因は原油やLNGなどの値上がりだが、これは企業間取引なので製品価格に転嫁しにくい。その結果、輸入インフレで所得の海外流出が起こり、GDPデフレーターが下がった。

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GDPデフレーター(日本経済新聞)

デフレーターはあまりなじみのない指標だが、名目GDP/実質GDPで、物価指数の一種である。普通はCPIと連動して上下するので、大して注目されないが、最近の特徴は、CPIが上がっているのにGDPデフレーターが下がっていることだ。

その原因は資源価格の上昇による交易条件の悪化である。次の図のように交易条件(輸出物価/輸入物価)は、2020年から原油価格の上昇で悪化し、2021年から脱炭素化でさらに悪化した。このため経常収支が赤字になり、円安になってさらに交易条件が悪化した。

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交易条件と実質実効為替レート

一次産品の価格は上がるが、輸出価格は下がるので賃金は上がらず、デフレーターは下がる。これは所得が日本から資源輸出国に移転され、日本人が貧しくなったことを意味するが、ほとんどの人は気づかない。それが何となく「デフレ」と感じる原因だろう。

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激安になった円は「均衡水準」に戻るか


為替は1ドル=125円をつけた後、やや戻して122円台になっているが、これで落ち着くと思っている人は少ない。日銀が指し値オペで、長期金利に0.25%という天井を設けているので、FRBが利上げするほど日米の金利差が開き、円安になるからだ。

しかし本質的な問題は金利ではない。それは短期の鞘取りの結果であり、購買力平価(PPP)でみると、円安はオーバーシュートしている。PPPの簡単な目安としておなじみのビッグマック指数でみると、日本では390円だが、アメリカでは5.8ドル(707円)。名目為替レート(円/ドル)は41.7%も過小評価されている。

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ビッグマック指数(Economist)

「円高で大変だ」と騒いでいた2010年の1ドル=80円ぐらいが、PPPでみると適正だった。これが昔の経済学で考えていた均衡水準(貿易財のPPP)に近いが、現実にはそこから大きく円安方向に振れたまま戻らない。

その一つの明らかな原因は、日米のインフレ率の差である。アメリカでは毎年2%ぐらい物価が上がり、最近では7%近いが、日本はほぼゼロ%のままだったので、それが積み重なって40%以上の差になったのだ。これはPPP(1ドル=約90円)に戻るだろうか?

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戦争がもたらした「超円安」はどこまで行くか



ウクライナ戦争が始まってから、為替レートは1ドル=115円から一時は125円と、1ヶ月で10円も上がり、超円安が止まらない。このきっかけは、25日の国会で、黒田総裁が「現時点で円に対する信頼が失われたということではない」と円安を容認する答弁をしたことだった。

その後、国債が売られ、長期金利0.25%で日銀が28日から2日続けて無制限に国債を買う異例の連続指し値オペを行ったことで、円が急落した。125円は「黒田ライン」といわれるので、市場は介入を警戒したのか、いったん値を戻したが、円の先安感は強い。

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墓場からよみがえったリフレ政策

ウクライナ問題でロシアを応援する橋下徹氏や鈴木宗男氏の発言で、日本維新の会が批判を浴びているが、経済政策もトンチンカンだ。

この日銀法改正案は第1条を「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、名目成長率の持続的な上昇及び雇用の最大化を図るため通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」とするものだ(強調が改正部分)。

まずわからないのは、金融政策でどうやって「名目成長率の持続的な上昇」が実現できるのかということだ。たとえば大和証券のウェブサイトの自然失業率という項目には、こう書いてある。

物価水準が安定し、実質賃金による労働市場の需給が調整された長期均衡状態における失業率。完全雇用が達成された状態での失業率に近いとされています。米経済学者のフリードマンは、財政金融政策によって自然失業率よりも失業率を低下させることはできないとしています。

これがマクロ経済学の常識である。金融政策でインフレにすれば景気がよくなるという話は、今は亡きリフレ派が提唱し、日銀に雇用の最大化を義務づける日銀法改正案もみんなの党が出したことがある。安倍政権と黒田日銀はリフレを実験し、完膚なきまでに失敗した。

4月にはインフレ率が2%を超えることは確実だが、喜んでいる人は誰もいない。500兆円を超える保有国債が、金利上昇で暴落する「時限爆弾」になったからだ。そんな時期に墓場からリフレ政策をよみがえらせようとする維新には、経済学の知識も政策のセンスもない。

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