経済

バラマキ財政の正しいばらまき方

政府は「アベノミクスのエンジンを再点火する」という経済対策の案を与党の会合で提示した。財政措置(財政投融資を含む)で13兆円、事業規模で25兆円。「真水」と呼ばれる財政支出(国・地方の歳出)は7~8兆円だが、大不況というわけでもない時期に、これほど大規模な補正予算を組むのは異例である。

ところが野党やマスコミから「バラマキ財政だ」とか「財政規律が失われる」という、いつもの批判がほとんど聞かれない。桜を見る会で手一杯なのかもしれないが、MMTなど最近の「反緊縮」の動きが影響を与えているのかもしれない。

マクロ経済学的には、長期金利がマイナスの状態で国債を増発するリスクは大きくない。日銀が財政ファイナンスで金利リスクを負担してくれる限り、国債増発はフリーランチである。問題はその中身だ。

提示された政府案では、堤防強化・遊水池整備・電線地中化など、災害対策と称する土木事業が多いが、こういう裁量的支出をどさくさまぎれに補正予算で支出することは好ましくない。マクロ経済対策としては、全国民に一律5%ポイント還元するような無差別のバラマキが望ましいのだ。

続きは12月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

フリードマンはどこで間違えたのか

ミルトン・フリードマンの日本経済論 (PHP新書)
20世紀前半を代表する経済学者がケインズだとすれば、20世紀後半を代表するのはミルトン・フリードマンだろう。しかし彼の金融理論には、致命的な弱点があった。古典的な貨幣数量説は、

 MV=PY

という式であらわされる(Mは貨幣量、Vは流通速度、Pは物価水準、YはGDP)。フリードマンはこれに依拠して「Mの増加率を一定に保てば物価は安定する」と主張した。これが有名な「k%ルール」だが、政策としては失敗した。

その原因は単純である。中央銀行は「貨幣量」をコントロールできないからだ。Mを中銀の供給するマネタリーベースと考えると、Vが大きく変動するので貨幣数量説は成立しない。Mを市中に流通するマネーストックと考えると、これは民間の信用創造で決まるので中銀が直接コントロールできない。

しかしフリードマンは「マネーサプライ」という曖昧な言葉を使い、その意味を状況によって使いわけた。これがマネタリスト論争の混乱した原因だが、日本のリフレ論争はその戯画である。本書は晩年のフリードマンがリフレ派を応援していたというが、その結果は明らかだ。Mを増やしてもV(信用乗数)が大きく下がったので、量的緩和はきかなかったのだ。

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信用乗数の変化(三井住友アセットマネジメント調べ)


続きは12月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「真水で10兆円」の大型補正がやってくる

国会は5500万円の「桜を見る会」で大騒ぎだが、 年末に出る今年度の補正予算では真水で10兆円という数字が取り沙汰されている。これは自民党の二階幹事長と世耕参院幹事長が言及した数字だが、2012年以来の大型補正である。大不況でもないのにこんな大規模な財政出動が行われるのは異例だが、その背景には金融政策の挫折がある。

だが日銀の大規模な量的緩和のおかげで長期金利までマイナスになり、財政出動がやりやすくなった。マクロ経済的には、企業が大幅な貯蓄過剰になっている現状では、政府が金を使うのは合理的である。財政赤字が高金利やインフレを招くという批判は、マイナス金利では説得力をもたない。

かつて財政支出は政治腐敗の温床になると批判されたが、今は公共事業などの裁量的支出の比率は低下しており、一般政府でみると財政支出の半分以上を占めるのは社会保障である。これは長期の所得再分配であり、ケインズ的な財政政策にはなじまない。所得再分配を短期的にコントロールするしくみは可能だろうか。

理論的には可能である。いま政府のやっている「5%のポイント還元」を、すべての店舗に拡大して、全国民に配る「ヘリコプターマネー」にすればいいのだ。それを止めるのは財源と関係なく、たとえば「インフレ目標2%に達するまでポイント還元を続ける」と決め、その財源は日銀が国債を買い取ってファイナンスする。

続きは11月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

財政政策と金融政策の協調が必要だ

日銀の黒田総裁が記者会見で「政府が財政政策をさらに活用するなら、財政あるいは金融政策を単独で実施するよりも(政策)効果は高まる」と語った。これまで日銀が財政政策に口出しすることはタブーだったが、彼もようやく財政政策と金融政策の協調に向けて踏み出したようだ。

黒田総裁はこれを「財政ファイナンス」と呼ばれるのをきらって「ポリシーミックス」と表現しているが、いま世界的に議論されているのは、昔のケインズ的なポリシーミックスとは似て非なるものだ。

続きはアゴラで。

中央銀行は「財政ファイナンス」をコントロールできるか

日本ではまだMMTなどという古い話にこだわっている人がいるようだが、世界的にはそんなものは問題になっていない。大論争になっているのは、ブランシャールやサマーズの提案した財政と金融の協調である。この論争にスタンリー・フィッシャー(元FRB副議長)も参加した。

従来のマクロ経済学では、景気安定化策に財政政策を使うのは効率が悪く、金融政策でやるべきだと考えられていたが、2010年代の先進国経済(DM)は流動性の罠に陥って、金融政策がきかなくなった。他方で図のように、財政支出の余地(実質金利-実質成長率)は大きい。

fischer

このため財政支出を増やすべきだという議論が高まっているが、財政インフレをコントロールする手段がはっきりしない。MMTのいうような増税は簡単にできない。フィッシャーの提案は、これを中央銀行が長期国債の買い入れでコントロールしようというものだ。

中銀は財政支出とインフレ率の目標を決め、イールドカーブがフラットになるまで長期国債を買い入れる。予想インフレ率が目標を上回ったら、買い入れをやめる。これは明示的な財政ファイナンスで、日銀のやっているイールドカーブ・コントロールに近い。しかし長期金利で財政はコントロールできるのだろうか。

続きは11月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

防災インフラ整備は地元にまかせてはいけない

台風19号の被害が堤防やダムで防げたことで、インフラの役割が見直されている。特に民主党政権が完成を遅らせた八ッ場ダムが、完成直後の試験貯水で洪水を防いだという評価が高い。利根川の流域全体の水量からみると大きな差がなかったという意見もあるが、ないよりあったほうがいいことは明らかだ。

こういう公共事業に反対するのが、10年ぐらい前まで流行した。田中康夫知事が「脱ダム」を打ち出した長野県が千曲川の氾濫で大きな被害を出したことが批判を浴びているが、大部分のダムは農業用水のための利水ダムだったので、治水設備としては効率が悪い。

治水は100年に1度ぐらいの洪水にそなえるものだから、自治体の防災対策は99年は空振りになり、過少投資になりやすい。だが日本全体としてみると、去年の西日本豪雨に続いて今年と、大型の台風や集中豪雨はほぼ毎年、全国のどこかに来る。

つまり国レベルで考えると、ほぼ確率1で起こる出来事にそなえる災害予算を組めばよい。政府の一般会計予算で治山・治水費用は約1兆円あるから、これを水害の被害の大きい都市部の堤防に優先的に配分すればいいのだ。このとき地元の意見を聞いてはいけない。

続きはアゴラで。

消費税を10%で凍結すると何が起こるか

きょうから消費税が10%に上がった。軽減税率やらポイント還元やらで、コンビニのレジは大混乱になるかと思ったら意外とそうでもない。POSシステムの対応はもう終わっているので、淡々と精算するだけだ。

安倍首相は「今後10年は消費税を上げる必要がない」と明言しているが、今後増える社会保障の財源はどうするのだろうか。その方法としては、次の5つが考えられる。
  1. 法人税の増税
  2. 所得税の累進性強化
  3. 社会保険料の増税
  4. 相続税の増税
  5. 国債の増発
続きはアゴラで。

最低賃金の引き上げで中小企業を減らせ

国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか (講談社+α新書)
労働人口が毎年1%減る日本でGDPを維持するには、労働生産性を高めるしかない。これは算術的に自明で、アトキンソンもかねて主張してきたことだが、どうやって生産性を高めるかは自明ではない。それについて本書は、中小企業を減らすという具体的な政策を提案している。

その理由は単純である。中小企業が多すぎるからだ。その原因を著者は「1964年問題」に求める。戦後日本の企業の平均従業員数は25人程度で推移してきたが、1964年から大きく減り始め、1986年には12.9人まで減った。この原因は明らかで、図のように労働人口の増加以上のペースで企業の数が増えたからだ。

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1964年に日本は OECD に加盟して資本の自由化を義務づけられ、100%外資企業が認められることになった。これに対して日本の企業は株式の持ち合いを進め、非上場の中小企業を増やした。1963年には中小企業基本法が制定され、中小企業には税の優遇策がとられた。法人税率は40%だったが、資本金1億円以下の中小企業の税率は28%だった。

このように税制で優遇され、補助金や規制で手厚い保護が行われたため、高度成長期に増えた労働人口の受け皿として中小企業が激増した。特に地方の小売業・サービス業の規模が拡大しないまま、大型店に反対して経営の効率化が立ち遅れた。サービス業では中小企業の労働生産性は大企業のほぼ半分で、賃金もそれに見合っている。それが日本のサービス業の生産性が低い原因だ。

これを打開するために著者が提案するのは、最低賃金の引き上げである。安倍政権も、最低賃金を全国一律1000円に引き上げることを検討している。これには地方の中小企業が強く反対しているが、それが著者のねらいである。最低賃金も払えない非効率な中小企業を退場させ、経営統合を進めるのだ。

続きは9月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「正社員」はグローバル化できない

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)
小熊英二氏の本はいつも冗漫だ。本書も新書なのに600ページもある。「日本社会のしくみ」と銘打っているが、中身は日本的雇用慣行の話で、ほとんどは経済学の文献サーベイだ。おさらいとしては便利だが、経済学を学んだ人が読む価値はない。

終身雇用・年功序列などと呼ばれる日本的雇用慣行は、普遍的なものではない。日本の労働政策は大企業の正社員を理想としているが、こういう「大企業型」の雇用形態は労働者全体の25%程度で、それ以外の「地元型」(中小企業)が35%、「残余型」(非正規)が40%である。

その待遇の差は大きく、大企業型以外の労働者は雇用を保障されていない。正社員と非正社員の賃金格差は(時給ベースで)ほぼ2倍というのが、戦後の定型的事実である。 これが「二重構造」として多くの労働経済学者が批判してきた問題だが、正社員はメンバーシップなので、社員が会社に人的投資するには、レント(競争的な水準を超える賃金)が必要だ。

こういう本書の労働観は、もう一昔前の話だ。グローバル化やITで正社員の価値は下がり、大企業型の必要な仕事はもう労働人口の1割もないだろう。それでも厚労省は正社員を理想とし、安倍首相は「非正規という言葉を一掃する」という。この言葉は逆の意味で実現するだろう。雇用規制をきらう大企業は海外に出て行き、非正社員はコンピュータに置き換えられ、正社員を抱える中小企業は消えてゆくからだ。

続きは9月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

年金はゼロサムゲームではない



懸案の年金財政検証が出たが、野党は批判しない。批判すると、今より年金を減らせという話にしかならないからだ。マクロ経済スライドはほとんど実施されていないため、今の年金は大幅な過剰給付になっている。今のままだと積立金は2030年代に枯渇し、年金は完全な賦課方式になるだろう。

そうなると年金を一般会計とは別の特別会計で管理する理由はない。賦課方式の年金は国債と同じ将来世代からの借金だから、社会保障支出はすべて一般会計に計上し、一元管理すべきだ。そうすると当初予算の半分以上が社会保障費になり、「財政とは社会保障である」ということが可視化されるだろう。

年金純債務は今でも1300兆円あり、これを将来世代が負担すると大幅な増税(あるいは社会保険料の増額)が必要なので、年金は世代間のゼロサムゲームになるが、政治的にはもっと楽な方法がある。年金会計の赤字を国債で埋めるのだ。それを社会保障国債と名づけ、建設国債のように財政法で認めれば、合法的に財政赤字が増やせる。

オフバランスの年金債務を一般会計に計上すると、政府債務は2500兆円を超えるが、債務残高そのものは大した問題ではない。マイナス金利が今後もずっと続くとすると、借り換えで借金が減るのでネズミ講が可能になり、将来世代も利益を得る。しかし金利が上がって国債が暴落すると、金融危機が起こるだろう。つまり年金財政はゼロサムゲームではないのだ。

続きは9月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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