経済

「財政と金融の協調」へのレジームチェンジが必要だ

新型肺炎で自粛とパニックの連鎖が続いている。まだ正確な統計は出ていないが、観光業や外食業は壊滅的な状況だ。中国からの外需も大幅に減っており、日本経済へのダメージは大きい。昨年の第4四半期の成長率はマイナス1.6%(年率マイナス6.3%)だったが、今年の第1四半期は年率マイナス10%ぐらいになるのではないか。

日銀の黒田総裁は「必要があれば躊躇なく追加緩和する」とお決まりのコメントをしたが、マイナス金利の状況でこれ以上緩和しても何の意味もない。それより大型の補正予算を組む必要がある。名目は「新型肺炎緊急対策」 なら数兆円出せるだろう。そのためには国債の増発が必要だ。黒田総裁も認めた財政と金融の協調を実行するときである。

これは伝統的なポリシーミックスではなく、財政赤字を日銀が埋める財政ファイナンスであり、日銀はそれを明示的に宣言したほうがいい。従来の量的緩和の延長だと思われると市場は何も反応しないので、フィッシャーの提言するように「これは財政政策だ」という目的を明示すべきだ。

このとき最大のリスクは「財政赤字が無限に拡大する」と市場が判断して国債を売ることなので、それを防ぐために日銀が財政を監視するルールをつくってはどうだろうか。たとえば名目成長率の目標を3%と決め、そこに到達するまで財政赤字を拡大する。金利が急上昇した場合は補正予算の執行を停止する。その判断は日銀政策委員会が行なって財務省に助言する。

続きは2月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

自粛パニックで「新型コロナ不況」がやってくる



新型コロナウイルスの感染者はきのう100人を超えたが、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」を除くと、国内で陽性になった人数は1日10~20人で、激増しているわけではない。激増しているのは、集会やイベントなどの自粛による2次災害である。

コンサートや会議が中止になり、レストランやホテルがキャンセルされ、就活の面接まで中止された。加藤厚労相は「政府として一律の自粛要請はしない」といいながら「主催者に開催の必要性を改めて検討していただきたい」と実質的に自粛を求めた。

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黒死病が資本主義を生んだ

日本中が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で大騒ぎだが、こういう疫病は歴史的には珍しいものではなく、それがパンデミック(世界的流行病)になって歴史を変えたことも少なくない。史上最大の帝国を築いたモンゴル帝国が14世紀にあっけなく崩壊した一つの原因は、黒死病(ペスト)の大流行だと考えられている。

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地球の平均気温の推定(Wikipedia)

図のように地球は14世紀から小氷河期に入り、寒さで免疫力が低下し、農業生産も激減した。黒死病はアジアで発生したが、シルクロードを通ってヨーロッパに広がったので、それを伝えた遊牧民のモンゴル帝国は崩壊し、ヨーロッパの人口も黒死病で半減した。

この時期に生まれたのがプロテスタンティズムである。治療の方法もない疫病が多くの人を殺す時代には、誰が死ぬかは神があらかじめ決めた運命だというルターやカルヴァンの宿命論が説得力をもった。それを信じる者だけが天国に行けるという単純な教えは疫病のようにヨーロッパに流行し、凄惨な宗教戦争を生んだ。

この宗教戦争に勝ち抜いたのは重火器で武装した国であり、その経済力を支えたのが資本主義だった。黒死病は宿主を殺し尽くすと終わったが、資本主義は国家に寄生して世界に広がった。それはウォーラーステインのいうように富の追求という単純な原理で国家を包摂する世界=経済を築き、植民地に寄生する疫病になったのだ。

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グローバル化で格差は縮小する

2000年以降の日本で物価が上がらない最大の原因は、先進国の中で日本だけ名目賃金が下がったことだ。これは製造業の賃金が中国に引っ張られて下がり、生産拠点の海外移転が進んだからで、中国の人件費が上がって日中の単位労働コスト(ULC)は2012年ごろ逆転した。

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各国の単位労働コストの比較(経産省「ものづくり白書」)

名目賃金は日本が約2800ドル、中国(都市部)が約500ドルとまだ大幅な差があるが、賃金を付加価値で割ったULC(名目雇用者報酬/名目GDP)でみると、日本は中国より低くなった。これは2012年以降の人民元レート上昇の影響もあるが、2000年ごろ3倍以上だった日本と中国の賃金格差が、大幅に縮まったことは明らかだ。

これは1990年代から始まった大収斂の必然的な結果で、この傾向は逆転しないだろう。上の図でもわかるように、OECD諸国でもアジアでも、ULCが収斂する傾向は一貫している。「グローバル化で格差が拡大する」という通念とは逆に、賃金格差はグローバルには縮小しているのだ。

その結果、日本では中国と競合する単純労働者の賃金が下がり、中間層が没落して国内の格差が拡大している。このグローバルに生産要素が一物一価になる要素価格均等化の傾向を「デフレ」と誤解して、マクロ経済政策で止めようとしたことが安倍政権の失敗だった。

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ESG投資というモラルハザード


きのうこういう論争が、水野弘道氏(GPIF最高投資責任者)と山崎元氏(国家公務員共済組合連合会資産運用委員)の間で繰り広げられた。水野氏のいうようにESG(Environment, Social, Governance)投資が流行していることは事実だろう。

しかしそれが投資理論として成り立たないことは、山崎氏のいう通りである。少なくとも効率的市場仮説による限り、「環境にやさしい」などの収益以外の基準で運用の対象を制限して、収益を高めることはできない

たとえばあるファンドが収益最大化の基準で組んだ100社のポートフォリオから、ESG基準で石炭を使う10社を排除したとすると、残りの90社からなるポートフォリオが、もとの100社より継続的に高い収益を上げることはありえない。これは多くの実証研究のデータでもわかっており、ESGが収益を改善する効果は統計的に有意ではない。

もちろん地球環境を守ることには意義があるが、それは政府の仕事だ。ファンドマネジャーの社会的責任は投資家の収益を最大化することであり、投資家のカネを収益以外の目的に使うのはモラルハザードだというのが、フリードマンの指摘である。投資家が私企業の株主ならそういうセールストークで資金を集める営業もいいが、GPIFではやめていただきたい。

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「ヘリマネ型量的緩和」のすすめ

17日に発表された内閣府の経済見通しでは、プライマリーバランス(PB)の黒字化は2年ずれ込んで2027年になったが、政府債務のGDP比は図のように減っている。これは過去に発行した国債をゼロ金利の国債で借り替えたからで、名目成長率3%台の「成長実現ケース」では157%まで下がる。1%台の「ベースラインケース」でもほぼ横ばいだ。

コメント 2020-01-19 181915

PB黒字化は政府債務が発散しないための条件なので、それを自己目的化する必要はない。ゼロ金利では財政赤字を拡大する余地があるが、問題は何に使うかである。ゼロ金利が永遠に続くなら、激増する社会保障費に使うことが合理的だが、こういう長期支出は将来金利が上がったとき、減らすわけには行かない。むしろ非裁量的なバラマキが望ましいのだ。

それがヘリコプターマネーである。これは中央銀行が市中銀行から国債を買う「財政ファイナンス」と同義と考えられているが、本来のヘリマネは銀行を通さないで国民にばらまくものだ。ブランシャールは、中央銀行が直接、国民の銀行口座に入金する国民の量的緩和を推奨している。これは銀行を通さない「ヘリマネ型の量的緩和」ともいえよう。

続きは1月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

MMTって何?

このごろ日本でMMT(現代貨幣理論)という理論が流行しています。これは50年ぐらい前からある話で、現代的でも貨幣理論でもないのですが、アベノミクスが手詰まりになった日本で今ごろ話題になっています。

MMTは基本的にはケインズ理論の焼き直しで、目新しい点はありませんが、おもしろいのは内生的貨幣供給説です。これはお金の流通量は資金需要で決まるので、預金の制約を受けないという説です。

たとえばA社がB銀行に口座をもっているとしましょう。B銀行がA社に1億円貸し出すとき、1億円の札束を持って行くわけではありません。B銀行のA社の口座に、万年筆で「1億円」と書いたら終わりです。

これを万年筆マネーといいます。現代では「キーボードマネー」といったほうがいいと思いますが、ここでは銀行貸し出しは、預金がなくてもできるフリーランチのように見えます。

続きはアゴラで。

MMTで金利が上がったらどうなるか

MMTの流行も終わったと思ったら、日本では今ごろ本がいろいろ出てきた。この理論は日本ローカルの流行だが、その理由はよくわかる。MMTは金利のない理論なので、日本のようにゼロ金利がずっと続いている状態ではわかりやすいからだ。

レイは金利についてほとんど何も語っていないが「ゼロが望ましい」という。 MMTでは政府は絶対的に信頼できるので、国債にはリスクがない。したがって長期金利の均衡水準はゼロであり、政府債務はすべて中央銀行の発行する通貨でまかなえばいいのだ。

MMTには数式がないのでわかりにくいが、これはFTPLで説明できる。政府と日銀の統合バランスシートを考え、物価水準をP、マネタリーベースをM、市中で保有されている国債の評価額をB、財政黒字の現在価値をSとすると、物価=名目政府債務/財政黒字で、

  M+B
P=―――
   S

ここで日銀が量的緩和で国債を銀行から買い入れても、Mが増えた分だけBが減るので何も起こらないが、政府が国債を大量発行すると、Bが増えるのでPが上がる。つまりリフレはきかないが、財政赤字はきくのだ。

これがMMTの想定するゼロ金利の世界であり、今の日本には近似的に当てはまるが、金利がプラスになったらどうなるのかについてはMMTは何もいえない。金利の概念がないからだ。

続きは1月13日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「条件つきベーシックインカム」は可能か



前澤友作氏が100万円を1000人に配る実験が話題になっているが、これはベーシックインカムの実験にはならない。Universal Basic Income(UBI)は、すべての人に同じ金額を配る普遍性に意味があるので、1000人だけに配ってもしょうがない。

これはフィンランドの実験をまねたものだと思うが、あれはUBIではなく、失業者の中から抽選で2000人に毎月560ユーロ支給する失業給付の一種であり、財源がなくなって2018年に中止された。

UBIの最大の特長は複雑で不公平な社会保障を廃止してシンプルな定額給付に置き換えることだから、給付の対象を限定したら意味がない。たとえば「生活保護を受けている214万人だけに年100万円配る」と決めると、財源は214万×100万=2兆1400億円ですむが、それ以外の社会保障は今のままだ。

他方すべての国民にUBIとして100万円を配るには、1億2000万×100万=120兆円が必要になり、これは現在の社会保障給付の総額とほぼ同じだ。今の社会保障を廃止することは政治的に不可能であり、これがUBIの最大の障害となっている。

つまりBIは部分的に実施すると効果がなく、全面的に実施すると巨額の財源が必要になる。その中間の解はないだろうか。

続きはアゴラで。

銀行が安楽死する時代

今年はマイナス金利が日本から世界に広がった年だった。これを受けて「金利なんか気にしないで政府がバンバン借金すればいい」というMMTが流行したが、これは単に金利をゼロと仮定しているだけなので、ゼロ金利を説明できない。

マイナス金利の原因を自然利子率の低下と考えるサマーズやブランシャールの長期停滞論が大きな影響をもつようになったが、彼らもマイナス金利そのものを是正する政策を提言しているわけではない。金融政策がだめなら財政政策でという発想は、80年前のケインズ理論とほとんど変わらない。当時ケインズは、こう論じた。
資本主義の金利生活者的な側面を、それが仕事を果たしてしまうと消滅する過渡的なものであると私は見ている。そして金利生活者的な側面の消滅とともに、資本主義に含まれる他の多くのものが変貌を遂げるであろう。(『一般理論』)
イギリス経済がだめになったのは、リスクを恐れる金利生活者のおかげで投資が不足したためだ、とケインズは考えていた。だから政府が投資する必要があるが、資本主義が効率的になってリスクがなくなると金利はなくなり、銀行は消滅する。

21世紀の資本主義は、ケインズの予想に似てきた。そこで重要なのは物的資本ではなく、情報や権利などの無形資本なので、金利は価値の尺度にならない。資本は過剰なので物的投資は大きくないが、付加価値は大きい。資本主義がケインズの予想していた道をたどるとすると、銀行の安楽死する日が来るのかもしれない。

続きは12月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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