経済

池尾和人 1953-2021

なぜ世界は不況に陥ったのか
池尾さんが死去した。他人事とは思えない。私と同じ年で、生まれも育ちも同じ京都。私がNHKにいたころ番組でお世話になってから、ずっと付き合いが続き、一緒に本も書いた。アゴラにも何度も原稿を書いてもらった。

不良債権問題のときは、彼は早期処理を主張する「過激派」だったが、政治は自民党政権、非自民連立政権、自社さ連立政権と混迷を続け、そんなリスクを取れる状況ではなかった。処理を先送りしているうちに、1997年末からハードランディングが始まった。

それがデフレの時代の始まりだった。初期には日銀が流動性を供給すれば解決するという楽観論もあったが、池尾さんは一貫してゼロ金利では金融政策はきかないという正統派の立場だった。それは不幸にして正しく、今も日本の金融政策はきかないまま、財政ファイナンスに移行している。

池尾さんは狭い意味での金融政策にできることはないと見切りをつけ、経済システム改革に関心を移した。明治以来続いてきた政府中心の「開発主義」システムを成熟した市場経済に変えることが彼の目標だったが、いま時代はそれとは逆方向に回転している。

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感染被害を「コロナ死者数」でみるのは誤りだ

このごろ日経新聞やNHKなどで取り上げている東大経済学部の仲田泰祐氏と経済産業研究所の藤井大輔氏の緊急事態宣言の経済損失シミュレーションには疑問が多い。最大の疑問は、この図のように感染の人的被害をコロナの累計死亡者数で考え、今後1年で1万人~2万5000人と予想していることだ。

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今後1年の感染被害と経済損失(経済産業研究所)

緊急事態宣言による自粛や休業要請はコロナだけではなく、すべての感染症を抑制するのだから、人的被害はコロナとその他の感染症を合計したすべての感染症の超過死亡数でみなければならない。昨年の死亡数は平年の予想より3万人ぐらい少なく、超過死亡の閾値と比べると4万人以上少なかった。これはコロナの死者の6~8倍である。

上の図で感染症対策が最小で経済損失がGDPの1.5%のとき、コロナの累計死亡者数が2万5000人出るとしても、他の感染症の死者はそれ以上減るので、超過死亡はマイナスになる。つまり緊急事態宣言で大きな経済損失が発生するが、そのメリットはほとんどないのだ

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無形資産が経済を支配する

無形資産が経済を支配する―資本のない資本主義の正体
資本蓄積が成熟すると成長率は下がるが、中央銀行が金利を下げると、投資が増えて景気は回復するというのが、伝統的な資本主義のルールだった。ところが金利は下がり続け、ゼロになったのに投資は増えない――これが2000年代に日本で起こり、2010年代に先進国で起こった長期停滞である。

これを説明する理論はいろいろあるが、有力なのは有形資産が無形資産にシフトしたという説明だろう。コンピュータの性能は1990年代から100万倍になり、資本コストは大幅に下がった。本書は、欧米では2010年代に無形投資が有形投資を逆転したと推定している。

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ソフトウェアや個人情報やブランドなどの無形資産への投資の多くは経費として扱われるので、企業のバランスシートに残らない。国民所得勘定に出ないのでGDPも増えない。その特徴は次の「4S」である。
  • スケーラビリティ:投資を拡大すると単価が下がるので収穫逓増が起こる。
  • サンクコスト:人的資本への投資が多いので、回収や取引がむずかしい。
  • スピルオーバー:コピーしやすいので外部性が大きい。
  • シナジー:補完的な情報を組み合わせると規模の経済が大きい。
これは知的財産権を無形資産と言い換えたもので、それほど独創的な洞察とはいえない。これまでにも経済学で指摘されたように、無形資産は外部性が大きく収益が見えにくいので、過少投資が起こりやすい。このため無形資産を可視化し、その価値を正しく評価することがビジネスとって重要である。

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「コロナ専門病院」と一般病院を行政が分担させるべきだ


きのうの緊急事態宣言の記者会見での菅首相の発言が話題になっているが、「国民皆保険」の部分は単なる言い間違いで、それを見直すなどとは言っていない。

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「医療崩壊」の原因は非効率的な病院経営

7日に政府が緊急事態宣言を出す理由は「医療崩壊を防ぐ」ということになっているが、多くの人が指摘しているように、医療資源は全国的には余裕がある。一都三県で医療が逼迫しているのは絶対的な不足ではなく、医療資源の配分のミスマッチである。これを放置して飲食店をスケープゴートにしても、問題は解決しない。

日本の病床数は人口1000人あたり13.7床で世界一だ。なぜ欧米よりはるかに少ないコロナ患者で医療が崩壊するのか――という問いは逆である。分母と分子を逆にすると病床あたり人口が世界一少ないので、病院経営の効率が悪いのだ。病院の7割は赤字である。

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資本主義の「脱物質化」で人類の未来は明るい

新年おめでとうございます。今年も年賀状は出さないので、ブログでごあいさつ。

人類の未来についての暗い予言は、昔からたくさんあります。1972年、ローマクラブは『成長の限界』というレポートで、石油、石炭、天然ガスなどの天然資源が2004年までに枯渇すると予言し、大きな反響を呼びました。しかしそれから50年たった今、どの資源の可採埋蔵量も当時より増えています。

2013年に国連IPCCの第5次評価報告書は、2100年までにCO2排出量が最大で現在の3倍以上に増えると予想しました。ところがIEAの世界エネルギー見通しでは、2020年の世界のCO2排出量は前年より8%減り、今後もほぼ横ばいと予想しています。


IPCCとIEAのCO2排出量の見通し

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高齢化でゼロ金利の時代は終わる

第3次補正予算の「真水」は19兆2000億円、来年度予算と合計で30兆6000億円になる見通しだ。これはGDPの約6%で、現在の需給ギャップにほぼ見合うので妥当なところだろう。しかし来年度以降、政府支出が増えると、どうなるかわからない。

日本でMMTに人気がある最大の(ほぼ唯一の)原因は、ゼロ金利がこの20年続いていることだろう。MMTは金利はつねにゼロと想定する理論なので、「政府はどんどんお札を印刷すればいい」というのは正しい。国債に金利が発生しない限り、財政赤字はフリーランチなのだ。しかしゼロ金利は永遠に続くのだろうか。

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マイナス金利って何?

銀行預金には金利がつくものですが、よい子のみなさんは金利というものを知らないんじゃないでしょうか。ここ20年ぐらい日本の金利はほぼゼロで、今も普通預金の金利は0.001%。100万円を1年預けても、10円しか金利がつきません。

この原因は、日本銀行の政策金利がマイナスになっているからです。政策金利というのは日銀が決める短期金利で、具体的には銀行などが日銀に預ける日銀当座預金の金利ですが、この一部がマイナス0.1%になっているのです。

これは銀行が日銀に1億円預けると、10万円の手数料をとられるということで、みなさんがATM(現金自動預け払い機)で手数料をはらうのと同じです。銀行はみなさんから預かった預金を日銀に預けるので、預金金利も本当はマイナスにしたいのですが、そんなことをしたら預金が引き出されるので、預金金利はゼロにしているのです。

おかげで銀行は、預金者からゼロ金利で預かった預金をマイナス金利で日銀に預ける逆ざやになって困っています。特に地方銀行の経営が苦しくなって、最近は合併が相次いでいます。最近は日銀も一部の地銀にプラスの金利を払うようになりました。

今年度はコロナ対策で国債が100兆円以上も発行されるので、買い手がなくなって金利が上がるのではないかといわれましたが、10年物国債でも金利は0.03%。なぜこんな状態が20年も続いているのでしょうか?

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期限つき「デジタル政府紙幣」がバラマキの歯止めになる



期限つきで通貨を発行する提案は、私が初めて考えたものではない。1914年にシルビオ・ゲゼルは、1ヶ月で価値のなくなるスタンプつき紙幣を提案し、ケインズは「未来はマルクスの精神よりもゲゼルの精神から多くを学ぶだろう」と高く評価した。

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ITによる投資不足を社会保障の赤字が埋めた

いまマクロ経済学の主流は「ニューケインジアン」と呼ばれているが、その中身はケインズとは無関係な新古典派の均衡理論である。サマーズはこれを否定し、「新しいオールドケインジアン経済学」が必要だという。

ニューケインジアンは経済はつねに均衡に戻ると想定し、それが価格硬直性で一時的な不均衡状態にあるだけだと考える。しかし日本でこの20年、欧米ではこの10年続いてきたゼロ金利(マイナスの自然利子率)は、この投資不足(貯蓄過剰)が一時的なものではないことを示している。その原因としてサマーズがあげるのは、次のような構造的要因である:
  1. 高齢化による耐久消費財や住宅の需要不足
  2. 情報技術革新による資本財の価格低下
  3. 巨大企業の独占による新規投資の阻害
  4. グローバル化による所得格差の拡大
このうちケインズの時代にもみられたのは3ぐらいで、あとは21世紀に固有の現象だ。特に2から4は1980年代に始まったIT革命の影響である。蒸気機関や電力のような汎用技術の影響が社会全体に広がるには半世紀ぐらいかかるのが経験則だが、ようやくITの社会的影響が(意図せざる形で)出てきたのかもしれない。

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Rachel-Summersは、これを計量分析で明らかにしている。それによると図のように1980年代から民間部門の投資不足は増加しており、先進国全体で自然利子率は3%ポイント下がった。もし公的部門の財政赤字(特に社会保障)がなかったら、7%ポイント下がっただろうと推定している。

続きは11月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。








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