経済

「買い手独占」としての日本的雇用

「モノプソニー」という経済学者以外の人は聞いたこともない言葉が、ちょっと話題になっている。これはアトキンソンが最低賃金を上げる理由として提唱しているものだ。普通は最低賃金を上げると労働需要が減って失業が増えるが、企業(労働の買い手)が独占的な地位にある買い手独占(モノプソニー)の場合はそうならないのだ。

たとえばある町に、デパートが一つしかないとしよう。労働生産性は時給1000円だが、売り子の時給500円だとすると、夫が働いている主婦は、そんな時給ではばかばかしいので働くのをやめてしまう。

ここで最低賃金が1000円になったとしよう。これは労働生産性に見合うので、主婦はパートで働くようになり、デパートも損しないので雇用を増やす。このように労働者が職場を選べないときは、賃金を上げると雇用が増えることがある。アメリカでは多くの実証研究で、最低賃金を引き上げても失業率は上がらないことがわかっている。

日本ではあまり実証研究はないが、ある意味ではモノプソニーの大規模な実験が行われている。日本の労働者は終身雇用で会社を選べないので、賃金が労働生産性より低くても会社をやめることができない。こういう状況では人手不足でも賃金が上がらず、賃金は労働組合の交渉力に依存する。ところが正社員とパートタイム労働者の競争が激しくなると、労組は賃上げを自粛して雇用を守ろうとするのだ。

続きは8月3日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

財政政策をフリーランチにする金融政策

新型コロナに対して各国政府は巨額の財政支出を行い、政府債務のGDP比は歴史上かつてない大きさになった。これによるインフレの再燃を心配する声もあったが、物価も金利も落ち着いている。Economist誌によれば、これはマクロ経済政策に大きな転換を迫るものだ。

20200725_FBC315

通常のマクロ経済学では、財政支出はいずれ増税でファイナンスされるのでフリーランチはないと考える(リカードの中立命題)が、現実の個人はそんな遠い将来のことは考えない。その場合は財政支出はフリーランチになる。

Woodford-XieはDSGEにもとづいた精密なモデルで、この考えを肯定している。中立命題が成り立つのはすべての個人が無限の将来までの財政収支を考える場合の話で、個人の時間視野が財政収支計画より短い場合にはフリーランチが可能になる

これはMMTの主張に似ているが、MMTには金利の概念がないので、政府支出が増えて国債が暴落し、金利が上がったらどうしていいかわからない。Woodford-Xieはこれについて大胆な答を提案する。中央銀行が国債を買い入れてゼロ金利を維持するのだ。

今の中央銀行はインフレ目標を守るために金利を動かすが、これは1990年代以降の便宜的な政策で、インフレ目標には理論的根拠はない。中銀が一時的にインフレ目標を超えてもゼロ金利にコミットすれば、財政と金融の協調で経済を安定化できる、というのが彼らの理論である。

続きは7月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

プラスチックごみの「一括回収」に反対する

kk

政府はプラスチックごみの分別を強化するよう法改正する方針だ、と日本経済新聞が報じている。ごみの分別は自治体ごとに違い、多いところでは10種類以上に分別しているが、これを「プラスチック資源」として一括回収する方針だ。分別回収するのはペットボトルだけでなく、バケツや洗面器、キッチン用品などのあらゆるプラスチックを含む。

これは政府のプラスチック資源循環戦略で、2035年までにすべてのプラスチックを有効利用するという目標を掲げ、2030年までにプラごみを25%減らす計画の一環だが、何のためにプラごみを減らすのだろうか?

続きはアゴラで。

日本の新型コロナ死亡率はなぜ欧州の100倍も低いのか

日本の驚異的に低い新型コロナ死亡率が、世界の話題になり始めた。たとえばイギリスの累計死者数は約3万人で、日本は550人。人口比でみると100倍近く違う。この差は、自粛や生活様式では説明できない。イギリスのロックダウンは法的強制による外出禁止令なので、それよりゆるやかな日本の自粛でこんな差が出ることはありえない。

uk
ft.com

では原因は何だろうか。感染者数をx、回復者数をyとし、感染者数の変化率を実効再生産数Rtとすると、SIRモデル

Rt=Ro(1-x-y)x-x

と書ける。このモデルで計算してみるとわかるが、基本再生産数Roの影響が圧倒的に大きく、それ以外の変数をいじっても大した変化がない。これは微分方程式では変数より係数の変化の影響のほうがはるかに大きいという当たり前のことを示している。

ここでは所与のRoが社会全体に共通で永久に続くと仮定しているが、現実にはそんなことはありえない。一つの国で異なるRoの集団がある場合、その影響は自粛や生活習慣などの変数よりはるかに大きいので、集団ごとの減衰は大きく異なる。人口を老年・中年・若年の3世代モデルでシミュレーションしたのが、アセモグルのマルチリスクモデルである。

同じ計算は免疫力でもできる。たとえば(BCG接種で)自然免疫の強い人と弱い人の混合した集団ではRoが違うので、死亡率も大きく違う。これが日本の死亡率の一つの説明である。

続きはアゴラサロンで(今月中は無料)。

緊急事態宣言で失う命は救う命より多い

緊急事態宣言で命を大事にするのは結構だが、日本のコロナ死者はきのうまでに累計350人。これを増やさないために全国民が経済活動を自粛する意味はあるのだろうか。まず自粛で何人の命が救えるのか考えてみよう。


東洋経済オンライン(折れ線は7日移動平均)

きょう現在のコロナ死亡者は全国で累計376人だが、20日ごろピークアウトしたように見えるので、今がピークとすると合計750人。これは甘すぎるので、緊急事態宣言をやめるとその2倍になると見積もり、1500人が死亡すると考えよう。この場合は「8割削減」で約1000人の命が救われることになる。これは今シーズンの季節性インフルエンザの死者とほぼ同じである。

続きはアゴラで。

緊急事態宣言を解除すれば日本は世界経済をリードできる

西浦博氏の「8割の接触削減で新規感染者を8割減らせる」というモデルは、実数で緊急事態宣言の効果を予測しているので、実証的に検証(反証)可能である。これに実際の新規感染者数(東洋経済オンラインがGitHubで提供しているデータ)を重ねてみよう。


西浦モデル(専門家会議の資料を加工)

続きはアゴラで。

新型コロナ問題はICUベッド問題である

最近、医療崩壊という言葉がよく使われるが、これはミスリーディングである。日本の医療機関は世界的にみても整備されており、人口1000人あたりのベッド数は14床と世界一だから、医療が全面的に崩壊することはありえない。新型コロナで問題になっているのは、ICUベッドが足りないという特殊な問題である。

これは日本経済新聞も指摘するように、以前から関係者の心配していた問題で、ICU ベッドは全国で約6000床、人口10万人当たり5床と、先進国で最低レベルである。



続きはアゴラで。

なぜ人々は新型コロナをインフルエンザ以上に恐れるのか

私は新型コロナの感染が日本で始まった1月下旬から、一貫して「コロナはインフルエンザ未満の風邪だ」といってきた。一時はたくさん罵詈雑言が飛んできたが、このところおとなしくなった。現実がわかってきたからだろう。

4月12日現在の日本のコロナの患者数は4257人、死者は98人だが、今シーズンのインフル患者数は約700万人、死者は1000人を超えると推定されている。患者数はコロナの1600倍、死者は10倍である。インフル関連死を含む「超過死亡数」でみると、1998年には3万7000人が、昨シーズンは3000人がインフルで死んでいる。

続きはアゴラで。

新型コロナ対策は「平和憲法」の精神で

政府は7日にも、新型インフル特措法にもとづく緊急事態宣言を出すようだ。これによって都道府県知事は法的な自粛要請ができるようになるが、罰則はないので不連続な変化が起こるわけではない。

問題は「緊急事態」という概念にある。これは戦争のような「非常事態」をモデルにしたものだが、ウイルスとの戦いは主権国家の戦争とは違い、ゲリラ戦に近い。それもほとんど無限にいる目に見えないゲリラである。

続きはアゴラで。

東京都に「緊急事態宣言」は必要か


ネット上では、安倍首相が新型インフル特措法にもとづく「緊急事態宣言」を出し、小池都知事が東京都でロックダウンをやるという噂が流れている。そういう噂はこれが初めてではないが、今回は専門家会議の中核メンバーである西浦博氏が日本経済新聞で見せたシミュレーションが、いろいろな憶測を呼んでいる。

続きはアゴラで。








記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ