経済

コロナ不況のあとに来るのはインフレかバブルか

あまり注目されていないが、今年に入ってマネーストック(M2)が前年比8%以上増えた。この原因はコロナ対策で数十兆円の給付金が支給されたことだが、消費者物価指数はほとんど反応していない。このように大幅にマネーストックが増えたのは初めてではない。図のように1980年代後半にもM2は10%以上増えたが、物価はほとんど上がらなかった。

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マネタリーベースとマネーストック(M2)の前年比増加率(日銀)

この図からもう一つわかるのは、マネタリーベースとマネーストックの増加率にはほとんど相関がないということだ。2013年以降、日銀の黒田総裁はMBを激増させたが、M2は反応せず、物価も上がらなかった。

これは80年代後半にM2の増加率がMBを上回ったのと対照的である。当時は公定歩合が自然利子率より低かったため、貨幣の大幅な超過需要が発生してM2が増えた。それに対して2000年代以降はゼロ金利になって貨幣需要が増えなかったので、日銀の量的緩和には効果がなかった。

しかしM2が80年代後半以来の増加率になったのは危険信号である。まだコロナ不況で総需要が低迷しているので物価は上がらないが、需要が回復すると資産バブルが起こる可能性がある。80年代後半も円高不況で物価はほとんど上がらなかったが、そこには落とし穴があった。

続きは9月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

東大法学部が日本経済を「国営化」した

内閣改造に比べると扱いが小さいが、今井尚哉首相補佐官、佐伯耕三首相秘書官、長谷川栄一内閣広報官が退任した。いずれも経産省出身の「官邸官僚」と呼ばれた人々である。他の秘書官は留任したので、菅首相の経産省との絶縁ともいえよう。特に今井氏は経済政策だけではなく最近は外交も仕切る司令塔だったので、この影響は大きい。

今井氏といえば多くの人が思い出すのが、2016年の伊勢志摩サミットのプレゼンである。安倍首相はサミットで各国首脳にこの図を見せて「商品価格がリーマンショック前後での下落幅である55%と同じ」で「リーマン級の経済危機の再燃を警戒する」と説明した。

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日本の組織はなぜ縦割りなのか

菅政権のスローガンは「縦割り打破」だが、役所が縦割りなのは日本だけではない。民間も含めて、官僚組織が部門別にわかれるのは当たり前だ。問題は、日本では各部門を統率するリーダーの力が弱く、現場がその命令を拒否することである。

たとえばコロナの情報を手書きのファックスで送る県に、厚労省が「メールに統一してください」というと、「ファックスしかない保健所がある」と拒否されるという。この問題は、日本人の行動様式を象徴している。

脳の主要な機能は集団内の紛争処理だが、その方法には2種類ある。身近な小集団の中で人間関係(利他的感情)で調整する古い脳と、大組織の中で法律や論理で処理する新しい脳である。古い脳はハードウェア、新しい脳はソフトウェアのようなものだ。

日本型システムはファックスやガラケーみたいなもので、ほとんどの調整をハードウェアで処理し、残りの決まらない部分をソフトウェアで処理するので、消費するエネルギーが少ない。これに対して欧米型システムはPCやスマホのようにハードウェアは単純で、ほとんどの処理をソフトウェアで行う。これは計算機資源を食い、電池の寿命が短い。

両者は一長一短ある。処理能力が貧弱なときはハードウェア(古い脳)で処理することが経済的だったが、システム変更が困難なので現場の発言力が強く、縦割りになりやすい。今はコンピュータやインターネットで脳の処理能力が大幅に拡大したので、なるべくソフトウェア(新しい脳)で処理することが合理的だ。縦割り打破とデジタル化は表裏一体なのだ。

10月からのアゴラ読書塾「古い脳と新しい脳」では、こういう問題を行動経済学や脳科学の成果をもとに考えたい(申し込み受け付け中)。

アベノミクスの通信簿

安倍内閣の支持率が高かった要因としては「景気がよくなった」という印象があるのだろう。これは間違いではない。「アンチビジネス」だった民主党政権に比べれば、自民党政権の「プロビジネス」で景気がよくなったことは明らかだが、全体として「アベノミクスの成果」といえるものがあったのかどうかは疑問である。

まずアベノミクスの看板だった「異次元の量的緩和によるデフレ脱却」の成果は、図のように-0.5~0.5%の消費者物価上昇率で、これは不可である。2014年の初めだけ瞬間風速でインフレ率が2%を超えたが、これは急激なドル高による輸入物価の上昇で、その後、原油価格が下がったため元に戻った。

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消費者物価上昇率(総務省統計局)

アベノミクスを弁護する人々がよくいうのは「雇用が改善した」という話だが、失業率の低下は世界金融危機からの回復にともなう循環的な現象で、民主党政権の2009年から始まっている。これは図のように主要国でほぼ共通で、日本だけが大きく改善したわけではないのでだろう。

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世界の失業率(社会実情データ図録)

雇用はGDPの従属変数であり、それだけ取り出して論じても意味がない。日本の一人あたりGDPはG7の中でイタリアに次いでビリから2番目であり、安倍政権でその順位は変わらなかった。これは不可である。

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一人あたりGDP(IMF)

安倍政権の失敗は、金融・財政政策による需要側の政策に片寄ったことだ。おかげで生産性上昇率は低下し、潜在成長率はほぼゼロになった。これも不可である。安倍政権で日本経済は最悪の時期を脱したが、長期停滞から脱却できない「失われた8年」だった。

続きは9月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

ベーシックインカムは「全国民への公平なバラマキ」



コロナ騒動では、どさくさにまぎれて10万円の給付金が実現した。このように全国民に一律に払う直接給付が所得再分配としては理想で、経済学者は昔から提言してきたが、実現しなかった。それが実現したことは、歴史的な意味をもつ。

これは財政政策の革命だ、とフィッシャーは論じているが、この革命を一歩進めるのがベーシックインカム(BI)である。

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財政・金融政策の意図せざる革命

今年、財政政策には革命が起こった、とフィッシャーは論じている。今年、欧米の政府がばらまいた財政資金は、世界金融危機後の7年間の合計の2倍を上回る、平時では未曾有の規模だった。その最大の特徴は、政府が銀行を通さないで国民に直接給付したことだ。

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第2の特徴は、財政と金融が一体化したことだ。中央銀行の独立性という原則は放棄され、政府支出を中央銀行が引き受ける大規模な「財政ファイナンス」が行われた。各国政府は意図していないが、これは1980年代にFRBのボルカー議長が不況期に金利を上げてスタグフレーションを止めたとき以来の財政・金融政策の革命である。

MMTは「自国通貨を発行できる国はデフォルトしない」というが、これは誤りである。名目債務のデフォルトは起こらないが、インフレになったら実質債務のデフォルトが起こるのだ。

今はロックダウンや自粛で総需要が落ち込んでいるのでインフレの心配はないが、そのうち設備投資が回復するとインフレ圧力が高まる。政府が無原則なバラマキを続けていると、インフレが止まらなくなる。金利が上がると、バランスシートの膨張した中央銀行が債務超過になる。非常時の財政からの出口戦略が必要だ。続きを読む

「累進消費税」で不平等は是正できるか

日本では情報弱者が消費税をきらうが、世界的にはゆがみの多い所得税をキャッシュフロー課税に変えるべきだというのが専門家のコンセンサスだ。法人所得税の廃止にはフェルドシュタインからクルーグマンまで賛成しているが、労働所得税をどうするかはむずかしい。

所得分配の不平等は、VATのような一律の消費税では是正できない。日本では60歳以上の高齢者が金融資産の60%をもっているため、フローの所得だけに課税しても資産格差は是正できない。資産課税を強化すると、海外への資産逃避が増えて税収が上がらない。

これを是正する一つの方法が、ロゴフコクランフランクなどが提案している累進消費税である。これは原理的には単純だ:今の消費税はすべての取引に同じ税率がかかるが、これを累進的にする。たくさん消費する人には高い税率をかけるのだ。

たとえば年間消費額100万円までは消費税率ゼロ、200万円まで10%、それ以上は100万円ごとに税率が1%上がるとすると、消費額が300万円だと税率は11%で33万円、400万円だと12%で48万円…というように累進的になる。

問題はそれを税制としてどう実装するかだ。いくら消費したかを証明するには領収書が必要だが、所得税の経費と違って過少申告のインセンティブが強い。また消費税率の上がる高所得者の消費性向が下がり、貯蓄過剰の日本でさらに貯蓄が増えるおそれがある。

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法人税からキャッシュフロー税へ

菅官房長官の消費税増税発言がネットで炎上しているが、消費税反対派は「消費税を減税して法人税を上げろ」といっている。これはまったくナンセンスな話で、今でもアジアで最高の法人税率をこれ以上あげると、国内に製造業はいなくなる。

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「大企業優遇の法人税を上げて労働者に分配しろ」というが、法人という人はいない。法人税は最終的には、労働者か債権者か株主が負担するのだ。その負担比率は企業によって違うが、約7割は労働者が負担している。法人税を上げると工場は海外に移転し、雇用喪失のコストは労働者が負うのだ。

世界的な課題になっているのは、法人税の改革である。その課税対象となる法人所得は売り上げから経費を引いた利益だから、どんな巨大企業も国内利益が少ないと課税されない。ソフトバンクグループ(SBG)の今年3月期の営業利益は2.3兆円だが、法人税は500万円しか払っていない。続きを読む

日本人はなぜ消費税をきらうのか



次期首相と目される菅官房長官の「将来は消費税は引き上げざるをえない」という発言が炎上し、あわてて「今後10年上げる必要はない」という安倍首相の発言と歩調を合わせた。これは勇み足で、次の政権では増税しないだろう。

だがこれに対するネット上の拒否反応は非常に強い。「消費税減税」で歩調を合わせた野党も、次の総選挙では「増税反対」のシングル・イシューで戦うだろう。不思議なのは、なぜ日本人はこれほど消費税をきらうのかということだ。

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ベーシックインカムについてのよくある誤解



最近いろんな人に「ベーシックインカム(BI)ってどう思いますか?」と聞かれる。コロナ対策で全国民一律に10万円出した給付金がきっかけになったようだ。自民党総裁選挙に出馬した石破茂氏は消費税減税に反対して「BIのような直接給付」を提案し、竹中平蔵氏も「月額5万円のBI」を提案している。

私も消費税減税には反対である。コロナで大幅な需要不足が出ている今、財政赤字は必要だが、消費税の減税は景気対策としては即効性がない。5%の税率を10%に上げるのに22年もかかったことでわかるように、政治的にコントロールしにくい。減税すると社会保障の財源が不足するので、結局は(政治的に容易な)社会保険料の増税になる。

それより国民に直接お金を配るBIのような直接給付のほうが即効性があり、コントロールしやすく、所得格差も是正できる。だがこれについては、次のような誤解が多い。

続きはアゴラで。









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