経済

将来世代は「ITデフレ」で今より豊かになる

300px-Moores_law_(1970-2011)JBpressでも書いたように、ゼロ金利(金利<成長率)の状態では財政破綻を心配する必要はなく、将来世代の負担もそれほど大きくない。この結論は金利が成長率を上回ると成り立たないが、将来世代は現在世代の資産を相続するので、国民全体のストックでみると今より絶対的に貧しくなることはない。

もう一つ大きな要因は、技術進歩である。半導体の集積度はムーアの法則で、図のように指数関数的に上がっている。CPUの性能は30年で1万倍以上になったので、あなたのもっているスマホの性能は昔の大型コンピュータを上回る。たとえば1989年のIBMの大型機の主記憶容量は2GBで、今の低価格スマホと同じだ。

いいかえると、数億円だった大型機と同じ性能のコンピュータが数万円で買えるようになるITデフレが起こり、ユーザーは1万倍豊かになったのだ。半導体価格の影響はあらゆる産業に及ぶので、これは物価にも影響を与えているはずだが、消費者物価指数やGDP統計では技術進歩の影響を微調整するだけなので、情報量の豊かさがマクロ指標に反映されない。

世の中には「デフレで貧しくなる」と錯覚している人がいるが、所得が同じでも物価が下がれば実質所得は上がる。だからこのITデフレが続く限り、若者は老人より豊かになるのだ。

続きは2月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

超低金利の状況では政府債務の負担は小さい



トランプ大統領の大減税で「アメリカの政府債務はGDPの100%を超えて危険だ」といわれたが、超低金利が続いている。政府債務がその2倍以上ある日本の長期金利は、ゼロに近づいている。こういう状況で「これ以上国債を増やしたら財政が破綻する」という財政タカ派の主張には、疑問が強まっている。

その一つのきっかけがMMTだったが、これは学問的には相手にされていない。しかし今年1月のアメリカ経済学会の会長講演で、ブランチャードが「超低金利では政府債務のコストは小さい」と論じたことは、専門家にも波紋を呼んでいる。講演の内容は論文にまとめられているが、そのポイントは今のように国債金利<成長率という状況が長期的に続くなら、次の二つの結果が成り立つというものだ。
  1. 政府債務は発散しない
  2. 将来世代の損失は大きくない
1は直感的にわかりやすい。名目成長率が名目金利より高ければ、税収の増加率が財政赤字の増加率より大きいので、政府債務は長期的には一定の水準に収斂する。1990年代以降、アメリカの国債金利は名目成長率よりつねに低い。70年代のスタグフレーションは例外だったのだ。

新しい論点は2である。政府支出が増えると民間の資本蓄積が減り、これが将来世代の損失になる。しかし国債金利(safe rate)はリスクを除いた資本収益率なので、それが成長率より低いときは資本収益率が労働所得の収益率より低い。したがって超低金利の「長期停滞」の状況では、政府支出で民間投資の不足を補うことには意味がある。

続きは2月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

民主党政権は「悪夢」だったのか

安倍首相が自民党大会で「悪夢のような民主党政権」と評したのに対して、立憲民主党の枝野代表が「自殺者数が減るなど、よくなった部分もある」と反論したことが話題になっている。公平にみて民主党政権が悪夢だったことは事実だが、安倍政権はそれほどいい政権なのだろうか。

次の図は日経平均株価に完全失業率(右軸)を逆に重ねたものだが、失業率が最悪(5.5%)だったのは麻生政権の末期で、2009年8月の民主党政権から下がり始めた。自殺率も失業率と相関が強いので、同じころ減り始めた。その後も単調に雇用は改善した。



続きはアゴラで。

最低賃金を全国一律にすると何が起こるか

自民党に「最低賃金一元化推進議員連盟」が発足した。人材の都市に集中する問題を是正して地方を活性化するため、全国の最低賃金を一律にすべきだという。これは経済学の常識には反するが、日本経済でコーディネーションの失敗が起こっているとすると、ナンセンスな話とはいいきれない。

私もアゴラの記事で書いたことがあるが、日本の中小企業は1990年代末から始まった過剰債務の解消の中で「低収益→低賃金→人手不足」という「悪い均衡」に陥っているおそれがある。これを「よい均衡」に乗せるには、最低賃金で高賃金にして人手不足を解消し、収益を上げるショック療法も、一時的には考えられる。

しかし最低賃金を2年で29%も上げた韓国では深刻な不況になって失業率が上がり、政権がゆらいでいる。最低賃金を上げたら労働需要が減るので、失業が増えることは明らかだ。東京と地方の賃金を一律にしたら、地方に立地している工場が海外移転して(政治家の期待とは逆に)地方の人口は減る可能性が高いが、悪いことだけではない。

続きは2月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日本は長期停滞のトップランナー

日本経済論15講 (ライブラリ経済学15講APPLIED編)
日本経済の長期停滞の原因として、潜在成長率の低下がよくあげられる。これ自体は当たり前で、人口減少と高齢化で潜在GDPが下がるのは自然現象のようなものだが、こういう供給不足が原因なら物価は上がるはずだ。物価も金利も上がらないのは、需要不足が原因と思われる。

その最大の原因は、本書も指摘するように企業の貯蓄過剰(投資不足)である。これは1998年の金融危機から始まったもので、初期には過剰債務を削減して企業を防衛するために行われたが、20年たった今も企業(非金融法人)が純貯蓄部門で、その貯蓄を政府部門の赤字が埋めるいびつな構造は変わらない。

つまり企業が金を貸して政府が借りる状況なので、金融緩和しても企業の投資を高める効果はなく、財政ファイナンスになるしかない。これに対して、民間の貯蓄過剰を政府が吸収する財政支出には意味がある。サマーズの指摘する長期停滞の構造は、1990年代の日本から始まったのだ。

それが20年以上続いているのはなぜか、という問題については経済学者にも合意があるわけではないが、本書が指摘するのはグローバルな実質金利の均等化という現象だ。これによって新興国(特に中国)の貯蓄過剰の影響が世界に広がり、2010年代には世界的に実質金利ゼロになった。日本は長期停滞のトップランナーなのだ。

続きは2月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

勤労統計の賃金上振れは「アベノミクス偽装」ではない

国会で毎月勤労統計についての審議が続いているが、政局がらみの話ばかりだ。データの誤りが2004年からなのに2018年のサンプル変更ばかり追及しているのは、民主党政権にも責任がある時期を避けているのだろう。欠陥の原因を追及しないで、それを是正したことを問題にしても意味がない。

朝日新聞によれば、野党が2018年のサンプル変更前の事業所に限って実質賃金を計算したところ、「増減率は8カ月で厚労省の発表より下がった」という。これを「アベノミクスの成果の偽装だ」と野党は騒いでいるが、そんなことはありえない。



続きはアゴラで。

財政赤字の何が悪いのか

立憲民主党が、アメリカで話題になっている民主党のオカシオコルテス議員を取り上げている。彼女の支持するMMT(Modern Monetary Theory)は、先日の記事で紹介したように「財政赤字は問題ではない」という理論だ。彼女はサンダースを継承する「民主社会主義者」で、MMTはトンデモではない。

トランプ大統領の大減税でアメリカの財政赤字は激増したが、実質金利はゼロのままだ。この状況で財政破綻やハイパーインフレを心配するのはナンセンスで、中央銀行が紙幣を印刷して国債を買えば、格差是正の財源はいくらでも出てくる――というのが彼女の主張で、社会主義としてはそれなりに筋が通っている。

MMTは20年ぐらい前からあるが、注目されるようになったのは世界的にゼロ金利の続く2010年代である。日銀がいくら国債を爆買いしても金利が上がらない日本では、財政ファイナンスはフリーランチになるので、アメリカよりもMMTが向いている。MMTは、ゼロ金利が続く限り正しいからだ。

もちろんゼロ金利が永遠に続く保証はないが、終わる兆しも見えない。サマーズもグローバルな長期停滞が構造的な需要不足によるものだと論じ、MMTを部分的に認めている。立憲民主党がMMTを掲げて「財政赤字なんか気にしないで弱者救済のバラマキをやる」と主張したら、おもしろいのではないか。

続きは2月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

消費増税も軽減税率もポイント還元も中止しよう

有地浩氏の記事に私も同感だ。長期的には消費税の増税は必要だが、今回の増税案は軽減税率やポイント還元など複雑怪奇になり、消費税の最大のメリットである「一律で透明な税」という特長がなくなった。

政府債務を削減することは必要だが、ゼロ金利では優先順位は高くない。政府債務が増加した最大の原因は社会保障給付の増加だが、それを削減できないとすると、負担増にはざっくりいって次の三つの方法がある。

・消費税の増税
・社会保険料の増額
・国債の増発

続きはアゴラで。

毎月勤労統計と原発の「脆弱性」

アゴラの記事には、SEのみなさんから大きな反響があって「いいね!」が6000以上ついた。「COBOLが悪いわけじゃない」というコメントも湧いてきたが、私はそんなことを書いていない。これはプログラミング言語の問題ではなく、レガシーシステムの脆弱性の問題である。

これはタレブの指摘した問題で、システムが大きくて冗長性の小さい銀行や霞ヶ関にみられる。絶対に事故が起こらないように多重の安全装置がついているため、誰もが「安全神話」に呪縛され、事故が起こったときの対策を考えていない。そういう「まさか」と思うような事故はめったに起こらないが、起こると大事故に発展する。

その典型が原発事故である。1961年に原子力損害賠償法ができたとき、国の最大補償額は50億円だった。それでは足りないだろうということで1200億円まで増額されたが、福島第一原発事故の賠償額は8兆5000億円を超える。こういうテールリスクは、通常の確率論で考えることができないのだ。

続きは1月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

毎月勤労統計の「抽出率逆数」の謎

厚生労働省の毎月勤労統計調査の不正事件で、政府は予算案を修正する異例の閣議決定を行った。厚労省の発表によると、従業員500人以上の企業について2004年以降、他の府県では全数調査を求める一方、東京都だけはその1/3の企業の名簿で抽出調査をしていた。

これ自体は大した問題ではない。抽出率の逆数3をかけて集計すれば、精度は落ちるが、サンプルに偏りがなければ平均賃金は大きく変わらない。ところが厚労省は東京都の抽出調査を全数調査と偽り、他の県の全数調査の数字と単純に合計したため、賃金の高い東京の比重が下がり、全国の平均賃金が過少に集計された。

続きはアゴラで。






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