科学/文化

日本人はなぜ新型コロナにかかりにくいのか

ソフトバンクグループの行なった新型コロナの抗体検査で、0.43%が陽性だった。これはランダムサンプルではなく、精度にも問題があるが、今までの国内の抗体検査でも1%以下。ヨーロッパの抗体陽性率10〜20%よりはるかに低い。

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日本で新規感染者が増えたのは3月末までで、これは輸入感染とその2次感染だと思われる。入国拒否すると新規感染者は減り、その後もほぼ一貫してRt<1だから、国内では新型コロナウイルスは増殖しない、つまりRo<1と推定される。

日本もヨーロッパ並みのRo=2.5で、人口の60%が感染すると想定した西浦モデルは明らかに誤りで、集団免疫は実現していない。宮坂昌之氏も「60%感染するという西浦さんの計算は間違いです」と指摘している。同じウイルスで、国によってこれほどRoが違うのは珍しい。



日本人がコロナにかかりにくいのはなぜだろうか。その原因は広い意味の自然免疫だというのが宮坂氏の推定である。これはすべての人が遺伝的にもっている免疫機能で、後天的に獲得できないと思われてきたが、最近その常識が変わってきたという。

結核にかかった人が他の感染症にもかかりにくくなるなどの症例が多く見つかり、訓練免疫(trained immunity)と呼ばれるようになった。これは抗体(免疫グロブリン)のように特定の抗原を排除する機能はないが、非特異的に多くの抗原に効果があるという。

続きは6月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

新型コロナに感染しにくい日本人は「民度」が高いのか

麻生副総理のコロナについての答弁が話題になっている。

数字は不正確で、フランスは100万人あたり443人、アメリカは327人、イギリスは580人だが、日本は7人。EUと北米のコロナ死亡率が日本と2桁違うことは間違いない。その違いの原因が「民度」だというのは麻生氏独特の皮肉だが、いいポイントを突いている。

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誇大な「第2波」シミュレーション

新型コロナが一段落したと思ったら、西浦博氏が今度は「第2波が危ない」というシミュレーションを発表し、そのモデルがウェブサイトで公開されている。今度は確率過程を使っているが、彼はこう説明する。

ここでは、COVID-19のR(実効再生産数)は「1.6」という、現実的な値を使います。被害想定で使っている「R=2.5」とは分けて考えてください。これは全くプレーンな状態、“丸腰”で入国者を受け入れる場合です。これに対して、「1.6」、時に「1.7」という数字を使うこともありますが、これらは日本でいろいろな対策を実施し、人々が行動変容している時の数値としましょう。

これまでの2.5という設定は「現実的な値」ではなかったと反省しているが、計算結果は次の表のようになっている。

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感染率0.1%とすると、90日間で9万人が入国するとき感染者は90人だが、検疫なしだと大規模流行が起こる確率は99.9%。停留とPCR検査をすると35.3%になる。72万人が入国する場合は感染者が720人なので、PCR検査しても96.9%の確率で大規模流行が起こる。

これは日本の輸入感染の実績とはまったく違う。押谷仁氏の推定では、2月から3月にかけて「入国した感染者の実数は1000人~2000人くらい」だったが、4月に入って感染は収束した。このシミュレーションの最悪の場合(感染者720人)よりはるかに多い感染者が入っても、感染爆発は起こらなかったのだ。

この食い違いの原因は明らかである。またしても西浦氏のRt=1.6という設定が過大なのだ。このモデルを使っても、4月に感染がピークアウトした原因は、大澤省次氏の推定するように日本国内ではRt<1だったからと考えるしかない。

続きは6月8日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

なぜ「42万人死ぬ」はずが900人になったのか

新型コロナが一段落し、緊急事態宣言の検証が始まっている。そのコアとなった「8割削減」を提唱した西浦博氏は、ニューズウィーク日本版で、基本再生産数Ro=2.5という想定は「今でも高すぎるとは思っていない」という。

「何もしないと42万人死ぬ」というシミュレーションがはずれた原因について、彼は「死亡者の被害想定は、あくまで「流行対策を何もしない」という仮定の下で計算した丸腰の数字」であり、日本の現実にそのまま適用できないという。

続きはアゴラで。

西浦モデルに欠けている「自然免疫」

ニューズウィーク日本版の特集で、西浦博氏が基本再生産数Roを2.5と想定した理由を率直に語っている。彼は「SIRモデルによるシミュレーション」と明言した上で、次のように説明する。

日本では北イタリアのように全く制御できないような大規模流行が十分な期間、観察されていないため、流行対策に影響されていない、流行を丸腰で受けた場合の基本再生産数Roが定量化できていない

他方で一人当たりの感染者が生み出す2次感染者数の平均値、つまり実効再生産数を経時的に推定している際、3月中旬以降に全国で2を少し超える程度で安定な挙動を示したことから、流行対策の行われない状況下では2を超える安定的な値を取るものと考えられる。

そのため、3月中旬までの欧州諸国の推定値が2から3の間にあることに基づき、便宜的にドイツにおける流行の推定値である2.5を利用して数値計算を実施してきた

これは3月19日の専門家会議で彼が示したシミュレーションとまったく同じである(ソースコードはGitHubで公開されている)。

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だから論理的には一貫しているのだが、気になるのは3月の計算のパラメータを彼が変えていないことだ。ニューズウィークの対談で、彼はこう説明している。

最近まで日本の実効再生産数(ある時点における実際の再生産数)は1を切った状態で維持されてきたが、今回の事例だと、接触率が戻ると実効再生産数も戻ると考えられる。というのも実効再生産数は2つの要素に比例していて、1つが感受性を有する人の比率で、何%の人が免疫を持っているのかを差し引いたものだ。

もう1つは接触率であり、接触回数に依存する。感受性を持っている人に関しては今ほぼ100%に近いまま移行しているので、実効再生産数はほぼ接触率だけで決まっている。つまり接触が元に戻ると、実効再生産数は一気に上がってしまう。
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新型コロナの日本モデルは「まぐれ当たり」だった

新型コロナに関する海外の論調が変わってきた。日本経済新聞は、ドイツの著名なウイルス学者が「日本の新型コロナウイルス対策を近い将来の手本にしなければならない」と語ったと報じた。

これは危険である。ヨーロッパが日本の生ぬるい感染症対策をまねないほうがいい。日本はハンマーとダンスのうち、ハンマーの局面がなかったが、西欧と北米ではハンマーがあった。日本の劇的な成功はまぐれ当たりだったからだ。

続きはアゴラで。

疫病は人類の「ファクターX」だった



疫病はながく人間の(戦争以外の)最大の死因であり、それが宗教を生み出したといってもよい。あらゆる未開社会にあるケガレの禁忌は、疫病を隔離する知恵だった。19世紀に細菌が発見されるまで疫病は人知を超えた謎だったので、呪術師は医師であり、この「ファクターX」を理解することが宗教(呪術)の原初形態だった。

レヴィ=ストロースも指摘したように、自然と文化の二項対立は、あらゆる文化にみられる普遍文法のようなものだ。彼はその起源を説明しなかったが、最大のモチベーションは死の恐怖だったと思われる。死を恐れない個体や集団は、数十万年の進化の中で淘汰されたからだ。

人々は外界のあらゆる物体や動物をトーテムとして分類し、死者をタブーとして隔離した。葬式や墓地は機能的には意味がないが、すべての社会で多大なコストが費やされる。それは人々が自然(死の世界)を恐れ、それを文化(生の世界)から隔離する儀式なのだ。

それをよく示しているのがキリスト教である。イエスはガリラヤで多くの人を癒やす奇蹟をおこなったとされるが、これは今でいうと偽薬による治療だろう。彼は病人や売春婦のような社会から隔離されている人と交わり、その聖なる能力を高めた。こうした不浄な人々にふれても死なないことで、その能力を示したのだ。

そして初期キリスト教団が拡大した契機は、2世紀に大流行した天然痘だった。ローマ帝国はこの不条理な災厄を解決できず、その権威を失ったが、キリスト教会は病院のような役割を果たして多くの信徒を集めた。といっても天然痘に治療法はないので、隔離して介護するだけだ。

医療従事者には天然痘が感染するので、教団では死者が増えたと思われるが、キリスト教徒の生存率は、普通のローマ市民よりはるかに高く、この「奇蹟」でキリスト教は信徒を爆発的に増やした。この原因は今も不明だが、最近の研究は、それは集団免疫だったのではないかと推定している。キリスト教徒は他から隔離されて共同生活し、互いに救護したので、結果として教団の中で多くの信徒が免疫をもち、彼らが感染を防ぐ役割を果たした。続きを読む

基本再生産数って何?

新型コロナの緊急事態宣言は解除されました。日本の被害は圧倒的に少なくてよかったのですが、これを「日本人スゲー」ですませてはいけません。日本人がまじめてきれい好きなことはまちがいありませんが、それだけでヨーロッパとの死亡率の100倍の差は説明できないからです。

それを考える上で大事なのは、基本再生産数という数字です。これはとてもややこしくて、お医者さんでも理解してない人が多いのですが、簡単にいうと日本経済新聞にも書いてあるように「あるウイルスを1人の感染者が何人に感染させるかを示す値」です。


再生産数(日本経済新聞より)

続きはアゴラで。

基本再生産数を捨てて「K値」を使ってみた

緊急事態宣言が「壮大な空振り」に終わった一つの原因は、西浦博氏が「日本の基本再生産数Roはそのうち2.5になる」と思い込んだことだ。日本の実効再生産数Rtは2月以降は2.5になったことはないが、彼がそう錯覚したのはRoは生物学的に決まった定数だと考えたためだろう。

そんな根拠はない。RoはSIRモデルで理論的に要請される初期値であり、現実に観測されるデータではない。万国共通になる根拠もない。こういう錯覚をまねく「再生産数」を捨て、単純に過去のトレンドを取ったほうが将来の動きが予想できるのではないか、というのがK値の発想である。

これは阪大の中野貴志氏と九大の池田陽一氏が考えたもので、彼らのプレプリントが公開されている(日本語版もある)。基準日からd日後のK(d)は、累計感染者数N(d)と7日前のN(d-7)から

 K(d)=1-N(d-7)/N(d)

と計算する簡単なものだ。これは過去1週間の感染増加率で、新規感染者数の7日移動平均をとったようなものだ。Rtの動きは新規感染者数と大きくずれるが、Kの動きは次の図のように2月20日からの日本の新規感染者数の動きとよくフィットする。

k

これを見ると、3月10日と4月3日にピークがあることがわかる。これは武漢発の第一波とEU発の第二波だろう。そして緊急事態宣言の出た4月7日以降はずっと下がっている。これは報告日ベースだから、感染のピークは3月下旬と推定される。ここでも緊急事態宣言の効果は何もなかったことが確認できる。

続きは6月1日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

日本の基本再生産数は2.5よりはるかに小さい

東洋経済オンラインに西浦博氏のインタビューが出ている。彼の「42万人死ぬ」という予想は幸い大きくはずれたが、その原因をまだ理解していないようにみえる。
基本再生産数については、私は海外の例を使って2.5と想定することがよくあり、「根拠は何か」と問われることもあるが、海外では2.5という数値はリーズナブルだと考えられている
「海外の例を使って2.5と計算する根拠は何か」と問われて「海外では2.5がリーズナブル」と答えるのはトートロジーである。基本再生産数Roが2.5のとき、集団免疫の閾値Hは

 H=1-1/Ro=0.6

になるが、これだと日本人のうち7500万人が感染し、致死率1%とすると75万人が死ぬ。それが「42万人死ぬ」の根拠だが、さすがに彼もこれはおかしいと思ったようだ。
最近わかったのは、累積罹患率だけでなく、集団人口の何%が感染すれば、新規感染が自然に減少に転じるかという比率(集団免疫率)についても、従来の計算結果より小さくなること。ようやく異質性を取り入れた計算手法が真剣に検討され始めている。
計算方法を変えれば「Roが2.5でも20~40%で集団免疫が実現する」というのだが、それでも2400万人以上が感染するはずだ。ところが現実には感染者1万6000人で、感染は収束している。

これを彼は「大規模になりかけた流行をいったん制御しつつある段階」だというが、なぜ流行が途中で止まって収束したのか。それが「8割削減」のおかげでないことは、彼の計算した実効再生産数Rtの推移からみても明らかだ。むしろ2月にRt<1になっていたので、3月が異常値だった。

rt
実効再生産数の推移(折れ線・右軸)

Ro=2.5と考える限り、被害の大幅な過大評価は避けられない。残る答は、Roが2.5よりはるかに小さいと考えることだ。たとえば1.1だったら、上の式からH=0.1となり、1200万人が感染すると流行が終わる。これは季節性インフルと同じぐらいだが、問題は日本とヨーロッパでRoが大きく異なる理由は何かということである。

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