科学/文化

戦後知の可能性

戦後知の可能性―歴史・宗教・民衆タイトルの「戦後知」とは、編者によれば「敗戦直後から日本社会の現実に向き合って、社会の変革にかかわろうとしてきた啓蒙的知識人の系譜」だという。この自己規定にもあらわれているように、本書は丸山眞男や竹内好など10人の「進歩的知識人」を取り上げて、その再評価を試みたものだ。

論文集としては成功しているとはいいがたいが、ざっと読んで印象的なのは、対象となる「啓蒙的知識人」が共通にマルクス主義の強い影響を受けていることだ。もっともその影響の希薄な丸山でさえ、「講座派的近代主義」の一種ともいえる。吉本隆明や網野善彦はマルクス主義者であり、村上重良は共産党員だった。もっとも若い世代の柄谷行人でさえ、マルクスの影響を脱却できていない。

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ソーシャル・ネットワーク

zuckerberg話題の映画を見てきた。前評判ほどではないが、よくできた娯楽映画だ。Facebookのテクノロジーをめぐる話はほとんど出てこず、青春ドラマと金もうけと訴訟というハリウッド的ストーリーで、Facebookのユーザーでなくても楽しめるようにできているが、ユーザーが見ると不満が残るだろう。

原作は、ザッカーバーグとともにFacebookを立ち上げて裏切られた人物へのインタビューにもとづいて書かれているので、ザッカーバーグは人間関係がへたで利己的なオタクとして描かれているが、グーグルの創立者のような優等生より映画の主人公としてはおもしろい。

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美徳なき時代

美徳なき時代日本がいま直面している問題は、大きくいえば「啓蒙なき近代化」の挫折だろう。経済発展のためには、自由主義よりも国家資本主義のほうが効率的な場合もあるが、経済が成熟すると行き詰まる。社会を自律的に軌道修正するメカニズムを内蔵していないからだ。会社という「家族」で人々を統合する日本型コーポラティズムも、残念ながらもはや持続可能ではない。

だとすれば、あらためて啓蒙とは何かを考え直すことは避けられない。本書は道徳哲学の観点から啓蒙の失敗を批判し、その現代版としてロールズとノージックを批判して、その後の論争の出発点になったコミュニタリアニズムの原典である(第1版は1981年)。サンデルの議論は本書の焼き直しであり、彼の本に出てくるアリストテレスの話も本書がネタ元だ。

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モダニティの神学的起源

The Theological Origins of Modernityサンデルの流行が、日本人があらためて個人主義や自由主義を勉強しなおさなければならないと自覚したことを示しているのだとすれば、とてもいいことだ。しかし問題は、こうした啓蒙的な価値が普遍的なものかどうかということである。本書はこの問題について「否」という答を出して論議を呼んだ。

啓蒙主義は、一般にはキリスト教を否定して出てきたと考えられているが、著者もいうようにこれは逆である。むしろ啓蒙的無神論は、キリスト教の論理的帰結なのだ。これはウェーバーが『古代ユダヤ教』で論じたテーマである。不可視の神のみが真の実在で他はすべて虚妄だという世界観は、神を疑うと全面的なニヒリズムになってしまう。

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今年のベスト10(音楽)

Flying Toward the Sound (Dig)このごろクラシックもロックもほとんど聞かなくなった。仕事のBGMとして聞くので、あまりじゃまにならないジャズ的なものを聞くことが多い。以下はジャンルを問わない個人的ベスト。
  1. Geri Allen: Flying Toward The Sound
  2. Jason Moran: Ten
  3. Bruce Springsteen: The Promise
  4. Keith Jarrett & Charlie Haden: Jasmine
  5. Vampire Weekend: Contra
  6. Arcade Fire: The Suburbs
  7. Pat Metheny: Orchestrion
  8. Brad Mehldau: Highway Rider
  9. Branford Marsalis: Metamorphosen
  10. John Zorn: The Goddess
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「青少年」という幻想

東京都の青少年健全育成条例の改正案が、来週の都議会で可決される情勢になってきた。この問題についての石原都知事の発言は、あまりにもナンセンスで論じる価値もない。かつて「太陽族」などの新風俗の元祖となり、「価値の紊乱者」を自称していた石原氏が、エロ漫画の撲滅に熱中する姿は哀れをもよおす。

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海老蔵たたきのナンセンス

このごろ新聞は失言や野次など政治家の下らない話ばかりで、週刊誌やワイドショーは海老蔵たたき一色だ。私は歌舞伎はまったく知らないが、海老蔵が批判されなければならないのは顔見世興行に穴をあけたことだけで、傷害事件については彼が被害者なのに、まるで加害者のようなバッシングは尋常ではない。

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衰退先進国イタリア

きのうの記事に、ツイッターで「イタリアに似てきた」というコメントがついたので、おもしろ半分にChikirinの日記の記事を紹介したら、大反響だった。たしかに
  • (政治)ぐちゃぐちゃ。こんな奴が首相でいいのか?と言いたくなるレベル
  • (首都)世界の人が憧れる大都市。ユニークに熟れた都市文化が存在
  • (教育)この国の教育レベルが高い、などという人は世界にいない
  • (食事)世界トップレベルの美味しさ。 世界中でブームが定着
といった特徴は、日本とよく似ている。しかし最大の違いは、イタリア人はそういう現状に満足しているのに、日本人は悲観しているという点だ。自殺率を比較すると、日本は10万人あたり24.4人で主要国でトップなのに比べて、イタリアは6.3人で最低。これはカトリックなので自殺の禁忌が強く、自殺を事故として申告するバイアスもあるが、なんといってもベルルスコーニ首相に代表される脳天気な国民性が大きい。

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リスクに背を向ける日本人

リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書)日本経済の行き詰まりの一つの原因として、家計貯蓄の半分以上が現金・預金で運用されているため、リスクマネーが供給されないことがよく指摘される。この原因は金融機関が銀行に片寄っているためではないか、ということでバブル期には海外の投資銀行が大挙して押し寄せたが、バブル崩壊後にほとんどが撤退した。日本人がリスクがきらいなのは銀行が多いからではなく、逆に日本人がリスク回避的だから預貯金が多いと考えるしかない。

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ことばと思考

ことばと思考 (岩波新書)20世紀の「言語論的転回」のモデルは、古典力学だった。レヴィ=ストロースがヤコブソンの音韻学理論を「人文科学におけるニュートンの運動方程式」と呼んだことが象徴しているように、人類に普遍的な理性を追究することがその理想だった。しかし、こうした合理主義が生成文法や人工知能のような極端な機械論に変質すると、例外だらけの無内容な理論になってしまった。

これに対して、21世紀の「認知論的転回」の出発点は脳科学である。そこには遺伝的に決まった(人類に普遍的な)前言語的な層と、文化的に決まる(各コミュニティに固有の)言語的な層がある。本書は、人間の思考がどこまで普遍的でどこまで各言語に規定されるかを実証的に明らかにしたものだ。

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