科学/文化

無差別PCR検査は医療現場を混乱させるだけ



安倍首相は、あすの記者会見で新型コロナの指定感染症の指定を見直し、医療現場の負担を緩和する方向だ。そんなときに世田谷区内の介護施設や保育所の職員など2万3000人に無差別PCR検査を実施する保坂区長の方針は、世田谷区に風評被害を起こし、医療機関の負担増をまねくものだ。

これに対しては、世田谷区医師会もホームページで「世田谷モデルは医師会とは無関係だ」と表明し、こう批判している。
世田谷モデルの提唱する「誰でも、いつでも、何度でも」は、いわゆる社会的検査ニーズに応えるためのものです。渡航前、施設入所前、手術前、介護や保育、教育現場など社会的検査のニーズは高まっていますが、現状受け入れ先が無く、医療的検査の現場に紛れ込んできているのが実状です。そのために医療の必要な患者さんへの対応が遅れるような事があってはなりません

保坂区長は「医師会の協力がなくても検査会社に委託して検査する」というが、病院の協力なしで2万人以上検査して、陽性者をどこに入院させるのか。プール方式なる検査方法は厚労省が認可していないので、陽性になっても隔離できない。擬陰性が30%ぐらいある上に、結果が出るまでに1週間以上かかり、終わったときには体内にウイルスはいないので隔離する意味もない。

特に問題なのは、保育所の職員1万人に行う調査だ。日本で10歳以下の子供がコロナで死亡した例は1人もない。その職員に検査するのは有害無益である。介護施設は今でも必要な職員や入所者は保健所が検査しているので、それに上乗せして無差別検査をするのは、医療現場を混乱させるだけだ。

このように無差別PCR検査は無意味だという点は、米CDCも新しいガイドラインで明記している。「希望者全員PCR検査が世界の常識だ」という評論家がいるが、これは嘘である。CDCはもともと無差別の検査は推奨していない。今回は感染者に接触した人もすべて検査する必要はないと釘を刺した。

続きは8月31日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

新型コロナは「一類相当」の感染症に格上げされた



新型コロナを指定感染症から外せという議論が、国会でも出てきた。維新の梅村さとし議員が「指定を解除してはどうか」と質問したが、加藤厚労相は「検討していない」と答弁した。

今まで厚労省はコロナを感染症法の「二類相当」と説明していたが、東京脳神経センターの川口浩氏によると、2月に一類相当に格上げされたという。指定感染症は一類とか二類とかいう分類とは別のカテゴリーだが、次の表のように感染症法では「無症状病原体保有者への適応」は一類だけだ。これはエボラ出血熱やペストと同じである。

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ところが2月13日の対策本部のガイドラインでは、「無症状病原体保有者は対象となっていないが、感染拡大防止のため、無症状病原体保有者にも入院を要請」と書かれている。このため検査で陽性になると無症状でもすべて入院させることになり、これが全国でベッドがあふれる原因になっているのだ。

続きは8月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

集団免疫って何?

最近、新型コロナの感染者が増える一方、死者はあまり増えないので、日本はこのまま集団免疫をめざせとか、指定感染症の指定をやめたほうがいいという声が聞こえてきます。

集団免疫のしくみはむずかしいのですが、簡単にいうと感染が広がって、集団の中で免疫をもつ人が増えると、感染しにくくなるのです。

たとえば100人の集団で1人がまわりの2人にうつす病気だと、その2人が2人ずつうつすと4人、さらに8人…とネズミ算で感染が増えていきますが、50人が感染すると、それ以上は増えません。ある人が2人にうつしても、そのうち1人は免疫をもっているからです。

このように感染がゼロになるのではなく、1人が1人にうつす状態が集団免疫です。これが成り立つと、感染は収束します。図のように免疫をもった人が「防護壁」になって感染していない人を守り、ウイルスが減っていくからです。


酪農学園大学ホームページより

続きはアゴラで。

日本で「集団免疫戦略」は可能か

JBpressの記事が意外に読まれているので、テクニカルな問題を少し補足しておく。まず「集団免疫戦略」という言葉は正確ではない。集団免疫は政策目的ではなく、感染の結果である。わかりやすくいえば「ピークシフト」だが、これはあまり一般に使われていない。

専門家会議はこれについて5月1日の分析・提言で「感染の拡大を前提とした集団免疫の獲得のような戦略や、不確実性を伴うワクチン開発のみをあてにした戦略はとるべきでないと考える」と明確に否定した。

これは集団免疫が「感染拡大が望ましい」という誤解を与えるためだと思われるが、もちろん感染はしないほうがいい。新型コロナウイルスをゼロにできるならそれがベストだが、日本では不可能である。この場合、次善の策として次の二つの考え方がある。
  1. ウイルスを徹底的に封じ込めてゼロに近い水準を維持する
  2. 感染をゆるやかに拡大して医療資源の制約内に収める
現在の日本政府の公式の立場だと思われるが、それは維持可能だろうか。感染をゼロにするには、4月の緊急事態宣言よりはるかに厳重な外出禁止令を永久に続けなければならない。

2が感染症学界の主流であり、米CDCやWHOはcommunity mitigationと呼んでいる。この政策の問題点は、感染が拡大すると医療が崩壊するのではないかということだ。イギリス政府の方針転換の原因となったインペリアルカレッジ報告書の最大のポイントも医療資源の制約だった。

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イギリスの重症患者数とICUベッド数(インペリアルカレッジ)続きを読む

新型コロナウイルスの「封じこめ」はできない

検査陽性者数が増えたことが話題になっているが、毎日900人前後というのは世界的には取るに足りない。陽性者数というのは統計的に無意味なので、毎日の人口あたり死者で比較すると、最近、死亡率の上がっている「第2波」の筆頭はアメリカ(100万人あたり3人)だ。これに対して日本の死者はほぼゼロで、図に描くこともできない。

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各国の100万人あたり新規死者(FT.com)

他に第2波が来ている主要国はオーストラリアとイスラエルで、いずれもEUより強硬なロックダウンで封じこめに成功したといわれていた。おもしろいのはルクセンブルク(人口62万人)で、国民の98%をPCR検査して封じ込めたといわれていたが、今は世界最高速で死者が増えている。

この中で日本と似た環境にあるのはオーストラリアである。ともに島国で入国制限しやすく、6月までは死亡率はほぼゼロで同じだった。ところが7月にオーストラリアがロックダウンを解除してから死者が急に増え、累計では日本を抜いた。オーストラリアの人口は日本の1/5なので、死亡率は5倍である。

まだ感染は進行中なので断定はできないが、これまでのデータからいえるのは、ロックダウンでウイルスを封じ込めれば経済が早く回復するというのは幻想だということだ。ウイルスは根絶できないので、一時的に感染を止めても、ロックダウンをやめたら感染は再開する。最終的には(広い意味での)集団免疫ができるまで感染は止まらないのだ。

続きは8月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

「第2波」という錯覚が起こった単純な理由

新型コロナの検査陽性者数が全国各地で増え、「第2波」と騒がれている。たしかにPCR検査の陽性者数は増えているが、これは統計的には無意味な数字である。今の検査は症状の出た人が中心で、サンプルが大きく片寄っているからだ。

これは統計学の初歩だが、統計は母集団をすべて調べるものではない。たとえば日本人の平均寿命を知るには、全国民の年齢を調べる必要はない。特定のサンプルで平均を計算し、チェックするのはそのサンプルにバイアスがないかどうかである。

普通の感染症では、こういう統計手法が確立しているので、すべての患者をカウントしないで推定する。たとえばインフルエンザでは、全国にあるサイト(病院)ごとの患者数を5万倍して患者数を推定する。

だがコロナではサンプルと母集団の関係がわからないので、検査で陽性になった人をカウントしている。したがってコロナ陽性者数をインフルの推定患者数と比較するのは正しくない。

5月までは保健所に届け出た(自覚症状のある)人を検査していたが、6月からは無症状の人も検査するようになった。このため6月下旬には4000人程度だった検査人数が7月から急に増え、7月末には1万人6000人(7日移動平均)と4倍に増えた。


全国のPCR検査人数と陽性者数(右軸)厚労省オープンデータ

続きはアゴラで。

新型コロナの「本当の感染者」は何人か

コロナの「第2波」をめぐる論議には勘違いがある。いま行われているPCR検査は、陽性者を発見して隔離する検査で、疫学的には意味がない。正確な統計をとるにはランダムサンプルが必要だが、今の検査はランダムではないので、検査陽性が増えても本当の感染者が増えているかどうかはわからないのだ。

たとえば東京都民の5%が、コロナウイルスをもっているとしよう。咳や発熱などの症状の出た人の20%がコロナ患者だとすると、症状の出た人500人を検査すると100人が陽性になる。これが東京の4~5月の状況に近い。

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東京都の検査人数・陽性者数(棒グラフ)と陽性率(右軸)

そこで6月以降に検査キットを増やし、無症状の人にも検査を拡大した。発症者1000人+無症状5000人を検査すると、無症状の人の5%(250人)がコロナウイルスをもっているので、検査陽性は100人+250人=350人に増える。これがいま起こっている状況に近い。

このケースでは本当の感染者は5%(70万人)で、増えても減ってもいない。実際のデータでは4~5月に陽性が減っているので、自粛の効果はあったと思われるが、これは誤差の範囲である。6月以降の陽性者の増加は検査の増加とほぼ比例し、陽性率は6.5%前後でほとんど変わらない。つまり陽性が増えた最大の原因は検査方法の変化なのだ。

では本当の感染者は何人いるのか。今まで行われた抗体検査では陽性率は1%以下だが、これは低すぎる。常識的にはウイルスをもっている人はもっと多いのではないかと思うが、ソフトバンクグループの検査では、逆の結果が出た。

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抗体陽性率は0.43%だったが、その陽性者191人のうち(抗体検査の前に行われた)PCR検査でも陽性になった人は11人だった。これはPCR検査で陽性になった人の17倍が抗体をもっていることを示しているが、どう解釈すればいいのだろうか?

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新型コロナは夏のうちに感染したほうがいい



7月31日の東京都の新規感染者数が463人で史上最多になったとマスコミは大騒ぎだが、これは検査人数も5665人と史上最多で、検査キットの感度も上がったからだ。東京の陽性率が0.5%としても7万人なので、今後も毎日4~500人の陽性は出るだろう。問題はそこではない。

7月の東京の死者は5人、全国でも31人だった(30日現在)。月間の陽性者数1万5668人で割ると、致死率は0.2%。インフルエンザとほぼ同じだ。「死者が増えるのは感染の1ヶ月後だ」などという人がいまだにいるが、6月下旬に検査が増えた後、1ヶ月たっても死者は増えない。いま増えている陽性者は、微量のウイルスをもって発症しなかった人をPCR検査で見つけているだけなのだ。

続きはアゴラで。

ゼロリスクは遺伝する

昨今の日本人のコロナに対する反応をみていると、日本人のゼロリスク体質は、ほとんど遺伝的なものだという気がする。もちろん文化が遺伝することはありえないが、最近の進化生物学では、文化的遺伝子(ミーム)は単なる比喩ではない。

たとえば最近よく話題になる「ファクターX」について、それが遺伝的な自然免疫だという説と、東アジアの「風土病」だという説がある。両者の中間として、東アジアの人々は毎年、中国から出てくるコロナ系のウイルスにさらされ、コロナに対する訓練免疫ができるというのが、宮坂昌之氏の仮説である。

この説によると、自然免疫は遺伝的な所与の機能ではなく、多くの免疫機能の中でどの機能が活性化するかは病原体の刺激で決まる。このためいろいろな病原体が多い(公衆衛生の整備されていない)国では自然免疫の強い個体だけが生き残るが、病原体の少ない先進国は感染に弱くなる。

これは感染によって抗体ができる獲得免疫とは違い、運動で筋力がつくのに似ている。筋力は遺伝しないが、肉体労働の激しい地域では筋力の弱い人は生き残れない。今回ヨーロッパで東アジアよりはるかに大きな被害が出たのは、コロナ系ウイルスにさらされた経験があまりなく、免疫力が訓練されていなかったためと考えることができる。続きを読む

コロナ「第2波」で問題なのは陽性者数ではない

東京都の検査陽性者数が連日200人を上回り、「第2波」と騒がれているが、この最大の原因はPCR検査が増えたためだ。おまけに検査キットの感度が上がって軽症・無症状を検出するようになったため、忽那賢志氏が指摘するように、4月には氷山の一角しか見えなかったコロナの全体像が見えるようになったものと思われる。

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東京都の検査人数・陽性者数と陽性率(右軸)

図のように4月11日のピーク時には約300人の検査のうち31.7%が陽性だったが、第2のピークだった7月16日には約4200人のうち陽性は6.1%である。4月に検査した分母は保健所に症状を訴えた「患者」だったが、今回は無症状が多いと思われる(その比率は不明)。年齢も60%が30代以下なので、死亡リスクはゼロに近い。今月の死者は90代の患者2人だけだ。

問題は陽性者の数ではなく、医療資源の制約である。東京都の重症患者は14人だが、ICUベッドは100床ある。陽性者数は増えているが、重症患者はほとんど増えていない(最近は減っている)。

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東京都の医療資源

マスコミは「ベッドが足りない」と騒いでいるが、入院患者949人に対してベッドは2800準備されている。コロナ患者の大部分は入院する必要のない軽症だが、指定感染症なので感染症指定医療機関がコロナ患者に占拠され、それ以外の患者の手術ができなくなっている。これが医療の現場を混乱に陥れている最大の問題である。

続きは7月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。









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