ゴーンはなぜ「クーデタ」で追放されたのか

日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年 (文春新書)
きのうのゴーン記者会見は、新しい事実が何もなかった。特に彼の主張する「クーデタ」がどう仕組まれたかについての具体的な話がなかった。経産省出身の豊田正和取締役の名前は出たが、「これ以上はレバノン政府に迷惑がかかる」という理由で、政治とのかかわりにはまったくふれなかった。

つまり政治とのかかわりは、なかったということだろう。西川社長が社内政治に検察の介入を求めたのは異例であり、それをクーデタと呼ぶのは間違いではないが、政治がらみの陰謀ではなかった。そういう事態をもたらしたのは、ゴーンが17年にわたって続けた独裁体制だった。

本書はゴーンと日産の歴史を振り返ったものだが、彼が来たとき日産は倒産の一歩手前だった。経営陣は派閥抗争にうつつを抜かし、下請けに天下りするため、だめな下請けを切れない。労働組合をつぶして第二組合をつくったため、その幹部が経営を支配するようになった。

特に自動車労連の会長になった塩路一郎は「日産の天皇」と呼ばれた。このような独裁者を倒す方法は、スキャンダルしかない。塩路は、経営陣がマスコミに売り込んだ女性スキャンダルで失脚した。この手法は、検察を使ったゴーン事件と似ている。

続きは1月13日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

原子力時代における哲学

原子力時代における哲学 (犀の教室)
福島第一原発事故の直後には、原発で人類が滅びるという類の「現代思想」がにわかに出てきた。 内田樹氏大澤真幸氏は「原子力は人間のコントロールを超えた」と脅し、恐ろしい破局を予言したが、彼らにとっては残念なことに、福島では1人の死者も出なかった。

本書は大島堅一氏の誤った計算にもとづいて「原発は高い」と考えるが、これだけが論拠だと、原発が安かったら使っていいということになる。そこで反原発派の著者は、原発をやめるべき倫理的な根拠をハイデガーに求める。

1955年の「放下」(Gelassenheit)と題した講演で、ハイデガーは「近い将来、地球上のどの箇所にも原子力発電所が建設されうるに至るでしょう」といって、こう警告する。
我々は、この考えることができないほど大きな原子力を、いったいいかなる仕方で制御し、操縦できるのか。そしてまたいかなる仕方で、この途方もないエネルギーがーー戦争行為によらずともーー突如としてどこかある箇所で檻を破って脱出し、いわば「出奔」し、一切を壊滅に陥れるという危険から人類を守ることができるのか。(強調は引用者)
この「出奔」を著者は原発事故と解釈し、ハイデガーが原発事故を予想していたというのだが、1955年には軽水炉の炉心溶融という概念はなかった。おそらくハイデガーは、広島と長崎の原爆の威力を見て漠然と「これだけのエネルギーが発電所でコントロールできなくなったら大爆発が起こる」ぐらいに考えたのだろう。

しかしこれは間違いだった。福島第一原発事故は原子炉の爆発ではないのだ。核反応は制御棒でコントロールできたが、電源が壊れて冷却水が循環しなくなっために燃料棒が過熱し、水蒸気を外気に逃がしたために放射性物質が外気に出ただけだ。その被害は原爆よりはるかに小さい。

この区別は重要である。誤解している人が多いが、核兵器で何万人も死ぬ原因は、放射能ではなく熱核反応である。広島でも長崎でも、放射能だけで死んだ人はほとんどいない。核兵器と原発事故はまったく違うタイプの危険なのだ。続きを読む

社会はどう進化するのか

社会はどう進化するのか——進化生物学が拓く新しい世界観
「社会的ダーウィニズム」という言葉は、現代ではタブーに近い。それはダーウィンの進化論を社会に適用し、弱者や障害者は「淘汰」されるべきだという優生学の思想で、それを実行に移したのがヒトラーだった。しかしこれはダーウィン自身の思想ではない。彼は個体だけではなく集団が淘汰の単位になると考えていた。

このような集団淘汰の理論は一時は否定されたが、21世紀によみがえった。本書はその理論を社会に適用する。遺伝子レベルで集団淘汰が起こるかどうかは論争中の問題だが、社会的に起こることは明らかだ。集団で戦う利他的な集団はバラバラに戦う利己的な集団に勝つので、利他的な感情(ミーム)が継承される。

近代社会が機能しているのも、集団を守る法秩序が確立しているからだ。殺人や泥棒を禁止することは個人の自由に優先するので、近代社会は自由放任主義ではない。このシステムは遺伝的な集団淘汰と本質的には同じだ。人体は37兆個の細胞からなる「社会」であり、たとえば癌細胞が利己的に増殖すると人間は死に至る。

しかし人体は、脳や中枢神経だけがコントロールする中央集権システムではない。癌細胞を殺すのは脳とは無関係な免疫機構であり、それもつねに癌細胞との戦いで組み替えられている。人体でも集団淘汰が起こっているのだ。このような多レベルの集団淘汰という考え方が政治や経済にも応用できるのではないか、というのが本書の提案する「ダーウィン革命の完成」である。続きを読む

文化がヒトを進化させた

文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉
「地球温暖化で人類が滅亡する」というのは錯覚である。人類は産業革命以降の200年で爆発的に増加し、地球の人口は今世紀中に100億人に達すると予想されている。人類以外の動物は大量絶滅の危機に瀕しているが、人類は繁殖しすぎて困るのだ(地球の気温はほとんど影響しない)。

このように短期間に人類が繁殖した原因は、遺伝子ではない。人類の遺伝形質は、ここ1万年ほとんど変わっていない。その最大の原因は文化だというのが、最近の人類学の通説になりつつある。

もちろん文化(獲得形質)が遺伝するわけではないが、言語習得能力は遺伝的にそなわっているので、文化は子供に伝えることができる。これは遺伝的な進化とはまったく違うメカニズムである。遺伝的な突然変異はランダムだから、環境が変化したとき、それに適応できない個体が淘汰されるという盲目的な形でしか進化は起こらない。

それに対してホモ・サピエンスは、生存に適した行動様式を親が子に教育し、習慣や道徳として継承した。文化的な進化は柔軟で変化の幅が広く、特定の目的にあう形質を選んで残すことができる。それを可能にしたのは脳の発達だが、このときもっとも重要な能力は理性ではなかった。

続きは12月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

地球温暖化の不都合な真実

「地球温暖化」の不都合な真実
地球温暖化が人類最大の問題かどうかは議論の余地があるが、それが人類の直面する最も複雑な問題であることは間違いない。そもそも温暖化が起こっているかどうかという根本的な科学的事実が確認されていない。

それを疑う人を温暖化懐疑派と呼ぶとすれば、著者はその一人だが、彼は科学者ではないので、IPCCの報告書を反証するデータをもっているわけではなく、それに代わる理論を提示するわけでもない。多くの疑惑を示すだけだ。

国際機関に集まった数百人の科学者が20年以上にわたって嘘をつき続けることは考えにくいが、そのインセンティブはある。地球温暖化が起こるという研究には多額の研究費がつくが、起こらないという研究にはつかないからだ。ホッケースティック曲線をめぐるスキャンダルは、IPCCが疑惑のデータを撤回することで決着した。

そういうバイアスを割り引いて考えても、次の図のようにここ50年ほど地球の平均気温が上がり続けているトレンドは否定できない(2015年以降は下がっているが)。問題はその原因が何かということだ。

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日米地位協定はなぜ改正できないのか

日米地位協定-在日米軍と「同盟」の70年 (中公新書)
独立国の中に外国の軍隊の基地が置かれているのは、異常な事態である。第二次大戦までは、外国の軍隊が駐留しているのは植民地か保護国だった。したがって「日本は今も軍事的にはアメリカの植民地だ」という共産党などの批判は正しい。

その根拠になっているのは日米地位協定(当初の行政協定)だが、これは終戦直後の東アジアで戦争の危機が切迫していた時期に、日本が再軍備するまでの暫定的な「駐軍協定」としてはやむをえない面もあった。問題はそれが本質的に改正されないまま、今日に至っているのはなぜかということだ。

最大の原因は、ほんらい暫定的なものだった憲法が改正できないことだが、問題はそれだけではない。その条文は米軍に治外法権を認めるような異例の規定だが、日米政府はこれを日米合同委員会の合意議事録という密約で「解釈改正」 してきたからだ。

たとえばいまだに沖縄で問題になる米軍の軍人・軍属の犯罪についての刑事裁判権は、日米行政協定では日本政府にあることになっていたが、1953年の合意議事録で日本側が「実質的に重要」な事件を除いて裁判権を行使しない方針を口頭で表明した。この議事録は2000年代に公開されたが、この密約は今も有効である。

続きは12月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

自己欺瞞としての反日感情

反日種族主義 日韓危機の根源
今年、出版界で大きな話題になったのは『反日種族主義』がベストセラーになったことだろう。内容は必ずしも一般向けとは言えないが、韓国では11万部、日本では25万部も売れた。韓国人が自国の歴史観をここまで批判的に見ることができるようになったのは、大きな進歩である。

しかし木村幹氏も指摘するように、この本は李承晩学堂の出版物であり、明確な党派性をもっている(その点は編者の李栄薫氏が冒頭で断っている)。いいかえると、これは韓国左派の歴史観に対する右派の批判であり、その目線は韓国の国内政治にある。

したがって文在寅政権のあと右派政権に交代したとしても、韓国の反日感情が大きく変わることは考えられない。日韓請求権協定を否定する徴用工判決のような極端な歴史観はなくなるかもしれないが、日韓併合を否定することは李承晩以来の国是であり、それを否定する勢力は韓国内には存在しない。

つまり日韓の本質的な問題は文政権のような左派イデオロギーではなく、日本の朝鮮支配のおかげで韓国の戦後の発展があったという歴史を隠蔽する自己欺瞞なのだ。

続きは12月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

今年の良書ベスト10

韓国「反日主義」の起源今年は不作だった。世界情勢は意外に平穏で、経済もゆるやかに停滞しているので、話題になる出来事も少なかった。そんな中で、日本では韓国との紛争が再燃し、歴史をあらためて考えるきっかけになった。

  1. 韓国「反日主義」の起源

  2. 「追われる国」の経済学

  3. 大分断

  4. 反日種族主義

  5. Becoming Human

  6. 平成金融史

  7. Evolution or Revolution?

  8. イスラム2.0

  9. 腐敗と格差の中国史

  10. 父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

続きはアゴラで。

「社会契約」としての新憲法

はじめての憲法 (ちくまプリマー新書)
安倍政権の残された最大のテーマは憲法改正だが、今のところ自民党内の合意もできていない。公明党の合意は絶望的だ。それでも安倍首相がこの問題にこだわるのは「押しつけ憲法」の改正が自民党の結党以来の悲願だからだろう。

他方で一部の憲法学者は、それが押しつけではなく、終戦で主権者になった日本国民が「八月革命」によって制定したものだというが、この主張に対応する歴史的事実はまったく存在しない。どっちにも共通するのは、憲法が民主的正統性に弱点を抱えているという認識である。

この背景には主権者たる国民が憲法を制定するというドイツ国法学の発想があるが、憲法を書いたのはアメリカの法律家である。彼らにとってはそんな観念論はどうでもよく、憲法は連合国が提案して日本が受諾したポツダム宣言の具体化だった。それは日本と連合国の社会契約だったと著者は考え、この契約を「ポツダム・プロセス」と呼ぶ。

占領で日本の国家主権が制限されたことが国際法違反だというのが保守派の一部の主張だが、当事者の合意した契約は一般法に優先する。日本政府が降伏文書に調印したときポツダム・プロセスが始まり、サンフランシスコ条約で終わった。その根底にあった概念はドイツ的な「主権者」ではなく、英米的な国際法にもとづく契約だった。

続きは12月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

年金不安は幻想か

年金不安の正体 (ちくま新書)
日本の年金制度が危機的状態にあるというのは常識だが、本書はその常識に挑戦し、年金危機は「日本人の心の中にある」幻想だという。

これは一見、驚くべきことを言っているようだが、実はそれほど意外な話ではない。厚労省の年金マンガと同じロジックである。終章に出てくる権丈善一氏の話がそれを要約しているので、基礎知識のある人は終章だけ読めばいい。

キャプチャ

経済学者の批判は「超高齢化社会では、賦課方式の年金だと将来世代の負担が重くなる」ということに尽きる。本書もこの事実は認める。積立方式のほうが将来世代の負担が少ないことも認めるが、賦課方式から積立方式に移行するのは巨額の「二重の負担」が発生するので不可能だから、賦課方式で問題はないという。

これは論点のすり替えである。積立方式が政治的に困難であることは、世代間格差が存在しないことを意味しない。世代会計でみると、今のゼロ歳児の生涯所得(受益-負担)が今の60代より約1億円少なくなることは算術的に明らかだ。それが「不公平ではない」というのは厚労省の弁解である。

なお本書は原田泰氏を一貫して「元日銀副総裁」と書いているが、彼は現役の日銀審議委員である。

続きは12月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。









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