MMTについての超簡単な解説

Modern Money Theory: A Primer on Macroeconomics for Sovereign Monetary Systems (English Edition)
最近は日本でもネトウヨがMMTを受け売りして「これこそわれわれの理論だ」と宣伝しているが、経済学者のアンケートでは、MMTに賛成する人は1人もいない。誤解したまま政治的に利用されるのはよくないので、簡単に解説しておこう。

本書はMMTのほぼ唯一の入門書だが、これは金融理論というより素朴な財政哲学で、数式も統計データも出てこない。その考え方は通貨は税であるというものだ。管理通貨制度では政府と中央銀行は一体だから、自国通貨はいくらでも発行できる。政府に徴税能力がある限り国債は通貨でファイナンスできるので、政権が崩壊しない限り政府がデフォルトすることはありえない。

経済政策の目的は失業をなくして物価を安定させることであり、財政はその手段なので、「財政健全化」を自己目的化してはいけない。不完全雇用のときは財政赤字を拡大して需要を増やし、失業を減らすべきだ。これはケインズが1930年代に失業対策として提案したことだが、MMTはそれを雇用保障として制度化すべきだと主張する。これは政府が失業者を(公務員として)雇用して最低賃金を保障するものだ。

これには巨額の財源が必要だが、増税はしなくてもいい。中央銀行が通貨を増発すれば、需要が拡大して失業が減るという。そんなことをしたらハイパーインフレになる、という批判に対してMMTは、不完全雇用(需要不足)がある限りインフレにはならないと反論する。完全雇用になると失業もなくなって財政拡大も止まるので、雇用保障はインフレを防ぐ「自動安定化装置」になるというのだが、そううまく行くだろうか。

続きは3月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

裏切り者が協力の進化を生む

協力と裏切りの生命進化史 (光文社新書)
人類は協力で進化してきたが、これは進化の歴史の中では例外である。個体数でみると圧倒的に多いのは細菌で、1031ぐらい。それ以外のすべての生物を合計しても、細菌の1/10万もいない。つまり進化の大部分は、単細胞生物の競争なのだ。

ではどうやって競争の中から協力が生まれたのだろうか。多細胞生物が生まれたのは、光合成細菌が原核生物に細胞内共生して葉緑体になり、好気性細菌が細胞内共生してミトコンドリアになったためだというのが通説だが、そのきっかけは細菌の感染や捕食で、仲よくすることが目的だったわけではない。

同じような協力は、社会性昆虫や人類の社会性の進化にもみられるが、これをゲーム理論のしっぺ返し(TFT)で説明する本書の議論は誤りだ。TFTが強いのは1対1のトーナメントだけで、不特定多数の対戦では、つねに裏切り続ける戦略が最強である。協力は裏切りによって集団が崩壊するリスクをはらむ、不安定な戦略なのだ。

癌細胞も裏切り者だから、増殖すると宿主は死に至る。それを防衛するために免疫機構が癌細胞を攻撃するが、それに耐性をもつ癌細胞が生まれ、さらにそれを攻撃する免疫が進化する…という進化的軍拡競争が起こる。これは無駄なようにみえるが、癌細胞という裏切り者が免疫の「軍事同盟」を強化し、協力の進化を生み出しているのだ。

続きは3月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

銀行システムの生み出す過剰債務という病

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?
最近は日本でもMMT(Modern Monetary Theory)が話題になってきたが、これはアメリカの問題ではない。「政府が自国通貨を印刷できる限り財政赤字は問題ではない」というMMTの主張はヘリコプターマネーとほぼ同じで、日本は大規模なヘリマネをすでに実行している。著者も指摘するように、日銀の「異次元緩和」は、財政赤字を中央銀行が埋める点ではヘリマネと同じだ。

違うのはあくまでも日本の国債は将来、償還するという建て前になっていることだ。日銀の量的緩和はインフレ目標を実現するためで、財政ファイナンスではないというのが黒田総裁の公式見解だが、それを信じる人は少ない。財政ファイナンス(本書ではマネタリーファイナンス)は法的には禁じられていないし、禁じる理由も明らかではない。「財政規律が失われる」というが、財務省への信頼は高い。

問題はそこではない。日本の財政が危機的だという診断は著者も同じだが、その処方箋はまったく違う。政府の過剰債務の原因は、1990年代のバブル崩壊から始まった民間の過剰債務だった。それを生み出したのは、決済機能という公共インフラを私的な銀行が独占して通貨を増殖させる信用創造というシステムだ。そのリスクは財政ファイナンスより大きい、というのが著者の警告である。

続きは3月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日本最強の「岩盤」はマスコミである

岩盤規制 ~誰が成長を阻むのか~ (新潮新書)
望月衣塑子記者は、マスコミの特権意識を象徴する道化である。彼女がトンチンカンな質問を繰り返しても首相官邸に入れてもらえるのは記者クラブに加盟する東京新聞の記者だからであり、フリーランスだったらとっくに出入禁止だ。彼女はそういう談合の存在にも気づいていない。

本書に書かれている去年の規制改革推進会議でも、最強の「岩盤」はマスコミだった。今まで聖域になっていた電波利権に安倍政権が手をつけたのはよかったが、電波オークションを恐れた放送・新聞業界が反対キャンペーンを繰り広げ、出てきたのは電波利用料だけだった。

このとき読売新聞から朝日新聞までそろって展開した「放送法4条」騒動は、意味不明のキャンペーンだった。放送局に政治的公平性を義務づける4条の規定は表現の自由を侵害するので撤廃しろというならわかるが、それをなくすなというのはわけがわからない。ケーブルテレビや通信衛星で多チャンネル化した先進国では、とっくにコンテンツ規制は撤廃されている。

本書によると、規制改革推進会議の最初の段階で、放送が多チャンネル化すると4条の規制もいらなくなるという議論が出たという。これは当たり前の話だが、マスコミは多チャンネル化には反対できないので、それと一体になっている4条の話だけつまみ食いして「偏向報道が出てくる」と騒いだのだ。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

平成はなぜ失敗したのか

平成はなぜ失敗したのか (「失われた30年」の分析)
平成の時代は、1990年のバブル崩壊から始まった。野口悠紀雄氏はその前から「これはバブルだ」と警告した数少ない専門家だが、バブル崩壊のような金融の問題は日本経済の失敗の本質ではないという。

1990年代は、世界の産業構造に大きな変化の起こった時期だった。冷戦が終了してグローバル化が起こり、特に中国が世界市場に参入してきた。これに対してアメリカ企業は競争力を失った製造部門を海外移転して水平分業し、グローバル化によって大きな利益を上げた。

しかし日本企業は雇用維持のため国内に工場を持ち続け、水平分業の流れに乗り遅れた。電機産業は中途半端な規模とコモディタイズした製品で中国との競争に敗れ、日本の「輸出立国」モデルは崩壊した。このような構造問題を「デフレ」ととらえて金融政策で打開しようとしたアベノミクスは失敗に終わり、財政危機だけが残った。

こういう著者の見方は経済学者の主流で、私もおおむね同感だが、供給面だけでは2010年代の状況はうまく説明できない。財政危機なら金利が上がるはずだが、日銀が資産買い入れのペースを毎年80兆円から30兆円に落としても、長期金利はマイナスだ。これほど企業の資金需要が衰えたのはなぜかという需要側の問題も考えないと、日本経済の陥っている隘路はわからないのではないか。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

聖なる天蓋

聖なる天蓋 (ちくま学芸文庫)
私の学生時代には現象学的社会学が流行した。その元祖はシュッツだが、よく読まれたのはバーガー=ルックマンの『現実の社会的構成』だった。本書はその方法論を宗教社会学に応用したものだが、アメリカでは珍しくマルクスの影響が強い。

最初に「社会は一種の弁証法的現象である」と宣言し、「疎外」や「物象化」という言葉が出てくる。宗教を「社会的規範の内面化」と考える主観主義は、統計的な実証に乗りにくいので、社会学界では主流にならなかった。いま読むと、古めかしいホーリズムにみえるだろう。

しかし最近の生物学や脳科学には、ホーリズムがよみがえっている。進化の単位は(多レベルの)集団であり、バクテリアでさえ集団(コロニー)が生き残れなければ個体は生き残れない。人間の脳の第一義的な機能も人間関係の調整であり、その構造は集団を考えないと理解できない。これは昔の社会有機体説とは違う進化論的ホーリズムともいえよう。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

進化の意外な順序

進化の意外な順序ー感情、意識、創造性と文化の起源
人間は自分が知性の進化の最高段階にいると信じているが、たとえば自分で家を建てることはできない。それに対してアリやハチのような社会性昆虫は、何も教わらなくても巣をつくることができる。彼らが遺伝的にもっている巣の構造についての「知性」は、人間よりはるかに高度なものだ。

このような利他性は、単細胞生物にさえみられる。バクテリアのコロニーが絶滅の危機に瀕したとき、個体にとっては不利だがコロニーが生き延びるには必要な「自己犠牲的な行動」を取ることがある。これはもちろんバクテリアに道徳があるからではないが、その原因は何だろうか。

それはホメオスタシス(恒常性)を維持する感情だ、と著者はいう。これは生物の体のバランスを取るという従来の意味ではなく、集団が生き延びるための調整機能という一般化された概念であり、バクテリアでもアリでも人間でも同じだ。集団が維持できなければ個体は維持できないので、全体は個に先立つのだ。

続きは3月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「定住革命」はなぜ起こったのか

人類進化の謎を解き明かす
人類の歴史上最大の革命は、新石器時代の始まった1万2000年ぐらい前に、人々が住居に住むようになった定住革命である。従来はこれを「農業革命」の結果と考えたが、最近の調査では農耕の始まりは定住より数千年も遅いことがわかってきた。つまり定住するようになった結果、農耕が始まったのだ。

定住したのは農業の生産性が採集より高かったからだ、という従来の説も成り立たない。農耕社会と狩猟採集社会が共存していた時代の人骨の調査によれば、農耕民は狩猟民より小柄で、農耕社会では食糧が不足していたことを示している。農業の生産性が上がったのは、畑や潅漑設備が整備された後の話である。

では定住が始まった原因は何か。今のところ決定的な説はないが、著者は近隣の集団からの襲撃ではないかという。石器時代の人類の15%は、戦争や暴力で殺された。定住時代初期の住居は、戦争で身を守る要塞の役割を果たしていたように見える。戦争には規模の経済があるので大集団は小集団に勝つが、集団があまり大きくなると食糧や女性を奪い合う喧嘩が起こり、集団は内部崩壊する。

このように集団の規模とその求心力にはトレードオフがあるので、大集団の秩序を維持するには個人を集団に組み込む圧力が必要だ。しかし狩猟採集社会の移動生活に最適化した人間の脳は、そういう定住社会の同調圧力にはストレスを感じる。この矛盾を解決することが定住社会の維持にもっとも重要だった、と著者は論じる。

続きは3月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

すべての進化は「集団淘汰」である

Does Altruism Exist?: Culture, Genes, and the Welfare of Others (Foundational Questions in Science)
経済学で「合理的」というのは「利己的」と同義である。人間は利己的に行動するので、それとは別の利他主義(altruism)は存在しないというのが常識だ。これを進化に拡張したのがドーキンスの「利己的な遺伝子」で、ここでは淘汰は個体レベルだけで起こると考える。

それに対して著者は「集団レベルでも淘汰が起こる」と考える多レベル淘汰の理論の提唱者である。それによれば淘汰は個体だけではなく集団の競争でも起こり、各レベルの淘汰に適応した遺伝子があるという。

個体も多くの細胞からなる集団であり、それを一つのまとまりと感じるのは、神経系で統合されているからだ。個体間の競争も細胞集団の競争と考えれば、すべての進化は集団淘汰の結果ともいえる。これはこれは生物学だけではなく、社会科学にも「ダーウィン革命」を起こす可能性があるという。

人間には文化的レベルでも、集団を維持する感情が(おそらく遺伝的に)そなわっている。それが信仰である。宗教は今では生存上の意味をもたないが、かつては人々を利他的に行動させて集団が生き残る重要な武器だった。1851年にaltruismという言葉をつくったオーギュスト・コントは無神論者だった。彼は神なしで人々が利他的に行動する社会をつくろうとしたのだ。

続きは3月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

オスは何のために存在するのか

生きものとは何か (ちくまプリマー新書)
生物の目的は生きることだが、厳密にいえば同一の<私>が生きているわけではない。体細胞は分子レベルではつねに入れ替わっており、私は1年でほとんど別の物体になる。DNAのゲノム配列は死ぬまで同じなので、<私>とは私の遺伝子であり、進化とは遺伝子がコピーをつくることだ。

だとすると進化の簡単な方法は、単純に細胞分裂することだ。現にバクテリアなど単細胞分裂のほとんどは無性生殖であり、個体数では彼らが地球上の生物の多数派だが、多細胞生物のほとんどは有性生殖だ。それはなぜか、という問題には今も決定的な答はない。

有性生殖は無性生殖よりはるかに複雑で、オスとメスの出会えないリスクも大きい。そういうコストを上回るメリットは何だろうか。著者は有性生殖のほうが多様性が大きいからだというが、これもちょっと考えるとおかしい。自然淘汰で生存に適した個体が生き残るのだから、その親が卵を産んだほうが生き残れる確率は高く、多様化する必要はない。メスは明らかに必要だが、オスは何のために存在するのだろうか?

続きは3月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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