電力危機の中で、原子力規制委員会が特重(特定重大事故等対処施設)の審査で原発の運転を止めていることに対する批判が高まっている。細野豪志氏のいうように「特重のバックフィット適用を延期すべきだ」という意見が妥当なところだが、実は法的には5年の期限が来ても委員会には止める権限がない。

アゴラでも書いたように、原子炉等規制法で規制基準を適用するのは「原子炉施設の起動前」であり、「起動後」は運転しながら審査するのが原則である。今でも毎年4回の保安検査は運転しながら行われ、倉庫の建設などの審査で運転を止めることもない。「新規制基準に違反するから止める」という規定はないのだ。

これは電力会社側もわかっているが、今の運用は菅直人首相が「お願い」で止め、田中前委員長が「定期検査に入ったら新規制基準を即時適用する」と非公式に決めたまま、動かせないで今に至っている。

この運用がおかしいことはエネ庁も知っているが、規制委員会は三条委員会(国家行政組織法第3条に定める各省と同格の委員会)なので手が出せない。これを私は8年前に民主党が政権に残した「バカの壁」と書いたが、なぜこんな壁ができたのか。

民主党政権が自民党に設置法を依頼した

もともと全国の原発が止まったのは、2011年5月に菅首相が浜岡原発を止める行政指導をしたことから始まったが、当時はまだ原子力を規制する組織として原子力委員会と原子力安全委員会(内閣府の八条委員会)しかなく、独立性が弱かった。そこでアメリカのNRC(原子力規制委員会)のような強力な規制機関をつくろうというのが、民主党政権のねらいだった。

ところが民主党政権には法律の書けるプロがいなかったので、自民党の塩崎恭久氏が制度設計に協力し、三条委員会として設置することになった。実は塩崎氏(日銀出身)も法律は書けないので、息子の彰久氏(当時NY州弁護士)に外注し、彼はNRCの条文をほとんど丸ごとコピーし、内閣直属の三条委員会として2012年に設置法をつくった。

しかし三条委員会が機能した例はほとんどない。占領期にGHQが電波監理委員会や国家公安委員会などをつくったが、独立性の強い委員会はアメリカのような雇用流動性の高い社会でないとうまく行かないので、ほとんどなくなった。いま機能しているのは公正取引委員会ぐらいだが、これも委員の一部は民間から採用しているが、事務局は各官庁からの出向で、委員長も財務省OBの指定席である。

塩崎彰久氏はそういう事情も知らないで、他の官庁から完全に独立した委員会をつくったので、経産省は協力せず、民主党政権が反原発派を集めてしまった。田中俊一委員長も原研(日本原子力研究所)で共産党系の活動家だった経歴を見込まれたが、放射線の専門家で、原子炉については素人だった。

その他の委員も反原発派だったので役所の情報が入らず、各委員が「個人商店」として勝手に活動し始めた。島崎副委員長は全国の原発の地下の活断層を掘り返し、停止命令を出した。耐震基準を遡及適用することはできないが、委員の中に法律の専門家がいなかった。

事務局の規制庁はいろいろな官庁からの出向者の寄り合い所帯になり、意思決定に時間がかかるようになった。安全審査に膨大な書類が要求され、規制基準にも整合性がなく、特重のように事後的に規制が強化される。エネ庁との人事交流もなくなったので、大事な情報が入らない。

委員会に対する「行政不服審査請求」の制度はあるが、それを審査するのも委員会なので、検察と裁判所を同じ役所がやっているようなものだ。電力会社の異議申し立てを裁判所が審査する制度をつくるべきだ。

「大家族モニタリング」が機能しない

このように規制委員会が機能しない本質的な原因は、今まで電力会社に蓄積された専門知識でやってきた審査を、役所が直接やる方式に変えたことだ。それが機能するには、規制委員会を独立の専門家集団にし、すべての知識を役所に統合しなければならないが、日本の官民関係はそうなっていない。

役所と電力会社の関係は、大企業の親会社と下請けの関係と同じ長期的関係による大家族モニタリングで、役所が電力会社に外注し、具体的な仕事は下請けがやる。これは役所が細かいことまで介入しなくてもいいので、平時には効率がいい。

しかしこういう長期的関係は、役所と業者の利害の一致を前提にしているので、両者が対立すると機能しない。この点で行政と業者が対立関係にあるアメリカとはまったく違う。どちらがすぐれているかは一概にはいえないが、日本の原子力規制委員会のように、スタッフも審査能力も足りないのに、すべてやろうとするのは最悪である。

業者との会合もやめて「バカの壁」を築いた規制委員会には民間の情報が入らないので、何万ページもの書類を一からチェックする。電力会社もこの点を甘く見て、安全審査は昔のように数ヶ月で終わると思っていたようだが、10年たってもまだ10基しか動かない。バカの壁ができた背景には、日本の伝統的な規制体系を無視したバカな制度設計があったのだ。