軍事の日本史 鎌倉・南北朝・室町・戦国時代のリアル (朝日新書)
近代史の最大の謎は、明治維新で奇蹟的な成功を収めた日本が、なぜ昭和に暴走したのかという問題である。司馬遼太郎はこの謎が解けず、昭和を舞台にした小説はほとんど書かなかった。その後も右派は「自虐史観」を批判するだけで、この問題の答を出せない。

よくいわれるのは、学歴社会が日本をだめにしたという説である。明治政府は長州閥だったが、帝国大学や陸軍士官学校は点数主義だったので、次第に官僚機構も軍も秀才が集まるようになった。特に陸軍が反長州閥で結束した結果、組織を掌握できない学校秀才がエリートになり、軍が暴走したという。

しかしこれだけでは、昭和の戦争の国民的エネルギーを説明できない。戦争はエリートだけではできない。それは何よりも国のために死ぬという不合理な行動であり、江戸時代までは武士だけの仕事だった。農民は一生平和に暮らしたので、戦争を恐れる。

それを戦争に(精神的にも経済的にも)動員することが、近代戦の最大の課題であり、ナポレオンの最大の革新は、国民主権という物語で全国民を戦争に動員したことだった。デモクラシーとは、何よりも「国民が自衛する」という意識をつくる戦争装置だったのだ。

それに対して傭兵に頼る帝政は国民意識が弱く、デモクラシーに勝てなかった。だが大日本帝国は、民衆を戦争に動員することに成功した。それはなぜだろうか。

続きは6月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)