アゴラの記事に、ツイッターでコメントがたくさん来た。いちいち答えるのは面倒なので、ここでまとめて答えておこう。

いちばん多いのは「日銀当座預金は負債ではないのではないか」という疑問だが、これについては短い答がある:次のように日本銀行の貸借対照表の負債の部に「当座預金522兆円」と記載されており、これが負債であることに疑問の余地はない。

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問題は日銀当座預金に「実質的な債務性」があるのかということだが、これは金利がつくのかという問題に帰着する。これについても、黒田総裁が明確に答えている。彼は今年2月15日の国会で、こう答弁した。

ありうるシナリオとしては、将来2%に物価上昇率が近づいていくと、出口という議論になりますし、一つのあり方として政策金利が引き上がってゆく。そうなると当然、日銀当座預金に対する付利の引き上げなどによって支払い金利が増えてゆくことから逆鞘になる可能性が論理的にはある。

だから日銀当座預金は形式的にも実質的にも負債であり、借方と貸方が一致しない高橋洋一氏のバランスシートは誤りだ。彼が日銀の資産として計上した714兆円の保有国債は、それを買った日銀の負債(大部分が日銀当座預金)と相殺され、連結では統合政府の負債に計上されるのだ。

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国債は日銀以外の民間金融機関も保有しているので、その負債が947兆円(年金債務なども含む)。そして純資産(負債-資産)が540兆円の債務超過である。これは財務省のバランスシートにも書かれている。

債務の担保は「将来のPB累積黒字」

債務超過になっていること自体は問題ではなく、それが将来のキャッシュフローで返済できるかどうかが問題である。この担保は徴税権なので、将来プライマリーバランスが累計540兆円以上の累積黒字になれば返済できるが、その見通しはない。

民間企業のバランスシートがこんな状態だったら、ただちに破産宣告を受けてもおかしくない。少なくとも金利はジャンク債のように上がるはずだが、今まで国債はずっとゼロ金利だった。それは日銀が通貨を発行して国債を買い取れば、財政赤字を日銀券(無利子の政府債務)に置き換えることができるからだ。

しかし無限に日銀券を発行するとインフレになるので、それを調整するために2008年から付利(0.1%)が行われている。今は一部(政策金利残高)がマイナス0.1%だが、これは民間のコールローンに連動するので、今は付利が政策金利なのだ。

アメリカのFRBはFF金利(準備預金の金利)を6月から0.75~1.0%に引き上げるので、日本がいつまでもマイナス金利を続けると円安が進行する。日銀の政策金利も引き上げざるをえない。ここで日銀の受け取る国債などの金利と、付利の逆鞘が生じる。

政策金利は超短期金利なので、翌日から金利支払いが増え、これがFRBと同じ1%になると、1年で5.6兆円。日銀の自己資本は6兆円なので、2年で債務超過になる。

黒田総裁の予想を裏切った「資源インフレ」

黒田総裁がこのように大きなリスクを取ったのは、金利が上がるのは民間の景気がよくなったときだと想定していたからだろう。たとえば景気が回復して自然利子率(実質金利)が1%に上がり、インフレ目標2%が実現すると、名目金利は理論的には3%になるので逆鞘は起こらず、日銀は既発債を償還するだけで量的緩和から脱却できる。

ところが長期金利がゼロのまま短期金利(付利)が上がると、日銀のキャッシュフローが回らなくなり、最悪の場合は一般会計から補填することになる。これには国会の議決が必要だが、そんな事態は戦後の日銀では初めてなので、黒田総裁の進退問題になるだろう。

これが黒田総裁が「指し値オペ」という異常な政策を続ける原因だが、世界的な金利上昇は避けられない。その原因は資源インフレなので実質金利は上がらず、長短金利が逆鞘になるおそれが強い。そのため政策金利も上げることができず、インフレ・円安が進行するだろう。

長期的な問題は、長期金利が上がって国債に大幅な評価損が出た場合だ。これについて黒田総裁は「日銀の経理上、国債のキャピタルロス(評価損)がかりにあったとしても、経理上は計上されませんので、それについて心配したり、対応するということは考えておりません」というが、市中銀行にとっては重大な問題だ。

山形県のきらやか銀行が公的資金を申請したように、財務内容の悪化した地銀は少なくない。これが今後、長期金利が上がると、取り付けを誘発するおそれがある。メガバンクの財務も悪化しており、何が起こるかはわからない。