IPCC第6次評価報告書の第3作業部会の報告書が発表された。この作業部会は第1・第2作業部会の報告を受け、それに対する政策をまとめたものだ。

2月28日に出た第2作業部会の報告書は、ウクライナ戦争の勃発直後で、ほとんど注目されなかったが、その中で1ヶ所、注目すべき点がある。IPCCは全体として地球温暖化の脅威を強調しているが、温暖化による超過死亡率というセクション(9.10.2.3.1)は微妙な表現になっているのだ。
アフリカのすべての原因による気温に関連する死亡リスクは地球温暖化で増大し、年間10万人あたり50~180人の超過死亡が見込まれる。しかし寒冷化による死者を経験している一部の地域では、温暖化によって気温関連の死亡リスクが低下すると予測されている。

「気温に関連する死亡リスク」は温暖化と寒冷化を含む。その死亡率がもっとも高いのはアフリカだが、図のように温度変化による死者は、現状から2℃上昇程度のゆるやかな温暖化(RCP4.5)より、4.8℃上昇する激しい温暖化(RCP8.5)のほうが少なくなるとIPCCは予測している(図のcの緑の部分)。つまり温暖化で死亡率は下がるのだ

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アフリカの気温に関連する死亡率の変化(IPCC第6次評価報告書第3部会)

その原因は、この図の説明にも書かれているように、寒冷化が気温に関連する死亡の最大の原因だからである。アフリカでこうなのだから、他の大陸、特にロシアやカナダでは、温暖化でもっと死者は減る。これは前にも紹介したLancet論文の結果だが、他の研究でも支持されている。

大事なのはCO2削減ではなくインフラ整備

つまりこのアフリカの図は、温暖化の被害をあらわしているのではなく、寒冷化による超過死亡をあらわしているのだ。直感に反するが、地球上で寒冷化の死亡率が最大なのはアフリカ大陸である。インフラが貧困で冷暖房もなく、災害に弱いからだ。

ところがこの事実は、第2部会の政策担当者向けサマリー(SPM)には出てこない。第3部会でも取り上げていない。マスコミはSPMしか読まないので、この事実はほとんど知られていない。

IPCCが死亡率の問題を無視した原因は明らかである。RCP8.5は何も温室効果ガス排出を削減しない場合で、RCP4.5はゆるやかに削減した場合の気温上昇だ。RCP8.5のほうが死者が少ないのなら、温暖化を放置したほうが死者が減るからだ。

したがってCO2排出を削減する脱炭素化には、健康を改善する効果がない。地球温暖化は途上国の災害問題なので、堤防などのインフラ整備や農業技術の改良などの適応が重要である。

IPCCはこれを認識し、第3部会でもほとんどの記述が適応に費やされているが、マスコミは乗ってこない。それは脱炭素化のようなセクシーな話題ではなく、ありふれた開発援助の問題だからである。