「ウクライナ勝てませんよ」「無駄死にしてほしくない」 テリー伊藤がウクライナ人に発言...口論に#ウクライナ #テリー伊藤 #ロシア #垣花正あなたとハッピー https://t.co/lBDUuqliG3
— J-CASTニュース (@jcast_news) March 14, 2022
こういう無抵抗平和主義を今回いう人はさすがに少ないが、まだ一部にいるようだ。これは論理的には、それほどナンセンスな話ではなく、人質問題というゲーム理論の例題である。テリー氏はこういう。
このまま行くと、プーチンのことですから、さらに攻撃をするってことは民間人の死者がどんどん増えていくってことが現実になっていく時、私はそれは一番いけないことだと思うんですよね。命を落とすことをいとわないという考え方は避けたい。
これに対してウクライナ人のゲストは激怒したが、テリー氏を説得できなかった。彼の話は論理的には間違っていないからだ。ウクライナが降伏して人的被害を最小化することは、事後的には合理的なのだ。これを簡単な展開形ゲームで考えてみよう(数字はロシアとウクライナの利益)。
まず先手のロシアが撤退して原状回復すれば、上のように両国ともプラスマイナスゼロだ。問題はロシアがウクライナを占領したまま「クリミアの主権を認めろ」とか「東部の独立を認めろ」などと要求したときのウクライナの選択である。
ここでウクライナが要求をのんで降伏すると、ロシアはAの利益を得るが、ウクライナは-Aの損害をこうむるとしよう。ウクライナが要求を拒否して戦争を継続すると、ロシアは-1の損害、ウクライナは-Bの損害をこうむるとする。
ここでウクライナの降伏が合理的になる条件は、降伏による損害Aが戦争継続による損害Bより少ないとき、すなわち
A<B
である。これはウクライナの戦力が、ロシアに大きく劣る場合は成り立つ。テリー氏がいうように、ウクライナ人が無駄死にするより、プライドを捨てて停戦すれば、人的被害は少なくなるのだ。
これが橋下徹氏や玉川徹氏などもいう論理で、事後的には正しい。降伏によってロシアは利益を得るとともに、ウクライナは損害を最小化できる。どちらのペイオフも改善するという意味で、降伏はパレート改善なのだ。
つねに降伏する「チキン」の国は侵略される
しかしこういうゲームがくり返される場合はどうだろうか。いくら軍備をもっていても、いったん侵略すると相手はつねに降伏するとわかると、侵略した場合の期待収益Aは高まり、ロシアはポーランドを侵略するかもしれない。ポーランドが抗戦するとロシアの損害は-1になるので、何もしない(0)ほうがましだが、つねに降伏するとわかっていると、A>-1である限り侵略は合理的だ。つまりウクライナがパレート効率的な政策をとると侵略のインセンティブを強め、世界を危険にさらすのだ。
このように効率性とインセンティブがトレードオフになる時間非整合性は、ゲーム理論のありふれた問題で、答は原理的に一つしかない。政府の(事後的には合理的な)裁量を許さないコミットメントで、犯罪のインセンティブをなくすことだ。
それが法の支配の意味である。殺人犯を刑務所に入れることは犯人にとっても政府にとってもコストがかかるので、事後的には無罪放免することが合理的だが、それは殺人のインセンティブを強めるのだ。国際法には法の支配がないので、国際社会の徹底的な制裁が必要だ。
上のゲームは、ロシアを先手とするチキンゲームである。いくら勇ましいことをいっても、戦争が起こったら「無駄死にしたくない」とか「民間人の犠牲を避ける」などといって降伏するチキンの国は、つねに侵略される。それを防ぐために必要なのは、国境侵犯した国はいかなるコストを払っても処罰するコミットメントなのだ。