日銀の黒田総裁は、国会で今後の物価の見通しについて「さまざまな経路をへてCPIが2%に近づいていく可能性はある」と認めた。これは日銀にとってはめでたいことのはずだが、顔色がさえない。そのニュアンスが「さまざまな経路をへて」という言葉に込められている。彼が2013年に登場したとき想定していた経路は

  1. 日銀が「2年で2倍」の量的緩和でサプライズを起こす
  2. インフレ期待が起こって景気がよくなる
  3. インフレ率が2%を上回る
  4. 量的緩和を縮小してインフレが2%で安定する

だったと思われる。1でマネタリーベースは2年で2倍以上になったが、2のインフレ期待は起こらなかった。彼が想定していたのは、需要が供給を上回るデマンドプルで物価が上がるインフレだったが、いま現実に起こっているのは、脱炭素化で資源価格が上昇するグリーンフレーションである。



来年春にはCPIも1%台に乗ると、民間エコノミストは予想している。今年は携帯電話料金の値下げでCPIが1.5%下がっており、その影響がなくなる4月には、瞬間的に2%を超えるだろうが、黒田総裁は「これは一時的だ」といって、政策金利を上げないだろう。日銀には、利上げでインフレを抑制するという政策手段がないのだ。

その原因は日銀当座預金に金利負担が発生するだけでなく、民間金融機関の保有国債に巨額の評価損が出るからだ。日銀の今年10月の金融システムレポートによると「金融機関の円債投資にかかる金利リスクは、データが遡れる2002年以来最大」である。

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金利が1%上がった場合の民間金融機関の評価損(日銀)

図のように金利が1%上がった場合、民間金融機関の保有する債券に約9兆円の評価損が出て、自己資本が約15%浸食される。特に地域銀行では約20%、信用金庫では約30%が浸食される。1月から始まるアゴラ経済塾「インフレ時代に資産を守る」では、こういうむずかしい問題も考えたい。

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