財務省の矢野康治次官の『文藝春秋』への寄稿がちょっと話題になっているので、読んでみた。たしかに現役の事務次官が雑誌に寄稿するのは異例だが、中身は財務省の公式見解だ。気になったのは、財政の維持可能性の説明である。

今のような超低金利情勢のもとでは、金利が事実上ゼロなので、中には、「今こそ、思い切って大量に国債を発行して、有意な財政出動によってGDPを増やすべきだ。そうすれば、『国債残高/GDP』の分母が増大するから財政も健全化する」と唱える向きもあります。一見まことしやかな政策論ですが、これはとんでもない間違いです。

これは(名前はあげていないが)高市早苗氏のような「財政出動で経済成長すれば財政赤字が減る」という主張だろう。これが成り立つには

 長期金利(r)<名目成長率(g)

という金利ボーナスが必要だ。これがいわゆるドーマー条件で、たとえばrがゼロでgが1%なら、いくら国債を発行しても金利負担はゼロで、財政支出で成長できるので、反緊縮派のいうように国債を際限なく発行すれば政府債務(GDP比)は減る。しかし矢野氏はこれは誤りだという。

財政出動を増やせば、単年度収支の赤字幅(正確に言えば基礎的財政収支赤字のGDP比)が増えてしまい、それを相殺してくれるはずの「成長率−金利」の黒字幅との差が開いてしまいます。その結果、「国債残高/GDP」は増え続け、いわば、金利は低くても元本が増え続けてしまうので、財政は際限なく悪化してしまうのです。

ドーマー条件はプライマリーバランス(PB)がゼロの場合の条件なので、今のようにPB赤字が大きい場合には、金利ボーナスより赤字幅が大きくなることがある。これは算術的には正しいが、大きな見落としがある。ゼロ金利は一時的な「ボーナス」なのかということだ。

続きは10月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)