致命的な思いあがり (ハイエク全集 第2期)
本書はハイエクの草稿を他人がまとめて出版した本だが、最晩年の到達点を示すものとして興味がある(訳本は非常に高価なので図書館で読むことをおすすめする)。新古典派経済学が物理学をモデルにしたのに対して、彼は進化論をモデルにして社会を語る。

ハイエクは計画経済の設計主義(constructivism)に対して市場の自生的秩序(spontaneous order)を擁護した思想家として知られているが、本書ではそれを否定し、生物としての人間に自然な感情は、集団を守る部族感情だという。
それはホモ・サピエンスの生物学的構造が形成されつつあった数百万年のあいだ、人類とその直接の祖先が進化を遂げた小さな流浪する集団や群れでの生活に適応させられたのである。この遺伝的に受け継がれてきた本能は、群れのメンバーのあいだの協同、すなわち必然的に相互になじみで信頼のおける仲間たちの狭く限定された相互作用たらざるをえない協同を制するのに役立ったのである。(p.19)

ハイエクは生物学の集団淘汰理論も知っており、獲得形質は遺伝しないが、社会的に獲得された習慣や規範は継承されるので文化の進化はラマルキズムを模倣するという。これは最近の文化的進化の理論とほとんど同じである。

人類が進化の大部分を過ごしてきた部族社会では、他人に同情し、協力して平等を求める部族感情がきわめて重要で、宗教はそれを維持する装置だが、こうしたローカルな感情は何百万人が暮らす「大きな社会」ではうまく機能しないので、非人格的ルールが必要になる。

その非人格的ルールの最たるものが市場だが、利潤や競争原理は部族感情に合わないため、いつも軋轢を起こしてきた。カトリックでは金利は禁止だったし、イスラムでは今も禁止されている。この意味で市場は、自生的秩序とはいえず、法の支配という西洋に固有のルールでつくられた、きわめて人工的な秩序なのだ。

続きはアゴラサロンでどうぞ(初月無料)