The Spirit of Green: The Economics of Collisions and Contagions in a Crowded World (English Edition)
気候変動は、錯覚のデパートである。地球の平均気温を一定に保つことが絶対の目的だと思い込んでいる人が多いが、これは誤解である。目的は人間が快適に生活することであり、気温はその条件の一つに過ぎない。地球温暖化は経済問題なのだ

だが快適な環境は、価格で正しく計測できない。たとえばガソリンの価格が安いのは、大気汚染やCO2排出などの外部性が反映されていないためだ。図のように炭素税(横軸)をかけると化石燃料の消費が減り、名目所得は減るが、環境が改善されて本当の所得(true income)は増える。それが最大になる点が、最適な炭素税率である。

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これ以外に、排出量などの数値目標を設定することは望ましくない。国連で1.5℃目標や「2050年カーボンニュートラル」などの非現実的な目標が出てくるのは、それが法的拘束力のない努力目標なので、いくらでも美辞麗句がいえるからだ。損するのはそれをまじめに実行する日本のような国で、利益を得るのは中国のようなフリーライダーである。

それに対してノードハウスが提案するのは、グローバルな気候契約(climate compact)である。これは参加国に同率の炭素税を適用して排出量を削減するもので、法的拘束力のある条約だ。違反した国には懲罰関税などの罰則を設ける代わり、炭素税は40ドルぐらいの実現可能な率とする。

環境問題を解決するのは資本主義

パリ協定には175ヶ国が参加したが、EUにパリ協定を国内法で実施した国はない。2050年カーボンニュートラルを立法化したのはニュージーランドだけだ。スイスは国民投票で否決した。

他方でEUは、パリ協定を理由にして、ガソリン車の禁止に踏み出そうとしている。これは日本の自動車産業を陥れるEUの罠である。このままでは、ハイブリッドまで禁止されるおそれが強い。

日本の財界は炭素税に反対しているが、ハイブリッド禁止のような裁量的な規制より炭素税のほうがましだ。このままではEUのペースで、高率の国境炭素税が一方的に決まるおそれがある。今のうちに日本の側からルールメイキングに参加したほうがいい。

日本はすでに揮発油税や自動車重量税などで実質的に約4000円/トンの炭素税をかけており、FIT賦課金を加えると負担額は約6000円に相当する。これを炭素税とみなせば、世界全体に40ドルの炭素税をかけるノードハウス案を超える負担をしていることになる。

合理的な規制は、すべての国が均等にCO2を削減することではなく、限界削減費用=炭素価格になるように世界の削減量を最適化することだ。限界削減費用が世界最大の日本がこれ以上削減するより、削減費用の低い途上国に削減技術を輸出したほうがいい。環境問題を解決するのは「脱成長」ではなく、資本主義と技術革新なのだ。