年金「最終警告」 (講談社現代新書)
「反緊縮」で騒ぐ政治家に、会計士や税理士が多いのは偶然ではない。彼らは単年度の「期間損益」しか知らないからだ。MMTも一種の会計理論で、「バランスシートの借方と貸方は同額である」という恒等式をややこしく表現しているだけなので、金利が変化したら投資をどう変えるかという長期の意思決定については何もいえない。

彼らがまったく語らないのが、社会保障である。これは金利の無視できない超長期のリスクだからである。日本経済の最大の問題は短期の財政赤字ではなく、巨額の所得移転が「保険」というフィクションで行われていることなのだ。

日本の年金制度は積立方式で始まったが、戦後の高度成長期に現役世代の保険料をあてる「修正賦課方式」になった。賦課方式の年金は、同時代の現役から老人への所得移転なので、税と同じである。2017年度では、年金給付総額52兆円のうち、「保険料収入」72%、「税金」24%、残りの4%が「積立金の取崩し等」となっている。わずかに残った積立金も、著者の計算では2043年に枯渇するという。

しかし年金財政が破綻するわけではない。厚労省の「100年安心プラン」は、つねに年金財政が均衡するようにできているので、積立金が枯渇すると、年金支給の減額か支給開始年齢の引き上げ(あるいはその両方)が起こる。現役世代は、今の高齢者に比べて多くの保険料を払って、それより少ない年金を受け取る。公的年金は、必ず損する金融商品なのだ。

特に問題なのは、国民年金である。著者の計算によれば、(免除・滞納を含めた)国民年金の未納率は被保険者の48.4%にものぼる。未納の人には支給しないので、これは年金会計としては問題ではないが、未納で年金をもらえない人は生活保護を受けなければ生きていけない。

今の生活保護支給額は年間4兆円程度だが、今後このような無年金の「高齢フリーター」が生活保護を受けると、支給額は20兆円以上増える。これだけで一般会計の2割になるので、どこかで生活保護もバッサリ切るしかない。年金財政は破綻しないが、個人の生活は破綻するのだ。

税を財源にする「基本年金」

厚労省の計算では、今後の現役世代の負担から給付を引いた年金純債務(オフバランスの「隠れ借金」)は1100兆円だが、著者の計算では1490兆円。年金受給者は現役世代から巨額の金を借りたまま死に、その子の世代は孫から金を借りる…というネズミ講が続くのだ。

今の年金制度が維持できなくなるのは、現役世代の負担(税・社会保険料)が大きくなり、給料の半分を超えるころだろう。今は40%ぐらいだが、2050年には70%になる。金利が上がると、破綻はもっと早まる。労働意欲はなくなり、「被保険者の反乱」が起こるかもしれない。

著者の改革案は、国民年金の保険という擬制をやめ、すべて税でまかなう「基本年金」である。これは2009年に河野太郎氏など超党派の議員が提案した年金改革案に近いが、そのときは政治的に問題にならなかった。

ただ世代間格差(年金純債務)はそのときに比べても300兆円増えているので、少しずつでも手をつける必要がある。この意味では、ゼロ金利が続いて財政の安定している今が、改革のチャンスである。