丁寧に考える新型コロナ (光文社新書)
新型コロナで感染症の専門家と称する人々の化けの皮がはがれたが、その最たるものが本書に登場する岩田健太郎氏と西浦博氏だろう。ところが彼らは今なお意気軒昂で、「日本もロックダウンしてコロナを制圧すれば経済は回る」と主張する。

ロックダウンというのは外出禁止令の通称だが、日本の法律では不可能である。特措法45条は「特定都道府県知事は、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことを要請することができる」と定めているだけで罰則はない。

岩田氏は「罰則がなくても政府が外出禁止できる」というが、それは違法行為である。移動の自由は憲法22条に定める基本的人権で、根拠法なく侵害できる権利ではない。憲法に非常事態条項のない日本では、ヨーロッパのように警察が外出を取り締まることはできないのだ。

それほどロックダウンが結構なものなら、ロックダウンしなかった日本のコロナ死亡率が、ヨーロッパの数十分の一なのはなぜか。これについて本書は自然免疫やBCGの効果を否定し、「日本の感染はヨーロッパより遅かったので感染初期に対応できた」という。

これは1月に武漢から感染が始まってアジアで流行した事実と矛盾するが、著者は下水データを根拠にして「ヨーロッパには2019年末に新型コロナウイルスが入った」と主張する。それなら3月にイタリアで流行が始まるまで、ヨーロッパで患者が出なかったのはなぜか?

自粛には効果があったがロックダウンは無意味

その答は本書を読んでもわからない。話が横へ横へとすべって、矛盾した話が出てくる。巻末の西浦氏との対談では「4月に緊急事態宣言を出した日本の対応が遅すぎた」と批判するが、これは日本が感染初期に早く対応したという最初の話とは矛盾する。

彼らも4月の緊急事態宣言の前に感染がピークアウトしたことは認めるが、それは3月に国民が自粛した効果だという。それなら政府が緊急事態宣言で「8割削減」を強要しなくても、3月末にピークアウトした感染はそのまま減ったのではないか。事実、流行曲線も次の図のように緊急事態宣言の前後で変化していない。

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新型コロナの新規感染者数

それについては「緊急事態宣言がなかったらもっとひどいことになっていた」という。これは岩田氏お得意の霊感商法である。「壺を買わないと死ぬ」という命題は、壺を買った人にとってはつねに正しい。その対偶は「死んでいないときは壺を買った」という命題だからである。

それよりありそうなのは、2月から国民の「自主的隔離」で感染速度が落ち、3月末の全面入国禁止で輸入感染が止まり、暖かくなって自然にウイルスが衰えたと考えることだ。これは次の図のように、他の感染症でも観察される傾向で、流行のピークは2月(第4~5週)だった。

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感染症胃腸炎の平年の報告数と2020年の報告数(国立感染研)

自粛の効果は大きかったが、緊急事態宣言は無意味だった。ロックダウンは通常の行動変容では医療が破壊される場合に政府が介入する非常手段であり、日本では必要ないのだ。

岩田氏と西浦氏の共通点は、ファクターXを無視することだ。「このままではヨーロッパのように大変なことになる」と恐怖をあおり続けてきた彼らとしては、コロナは世界中どこでも基本再生産数2.5で感染爆発する怪物でないと困るのだろうが、事実はもう明らかだ。実証科学の原則に立ち返り、日本の現実に即した対策を考えてはどうか。