政府の「グリーン成長戦略」では、CO2削減で成長できるというが、これは本当だろうか。たとえば化石燃料を再生可能エネルギーに変えたとき、再エネのコストが化石燃料より安ければ収益が上がるので成長できるが、再エネ投資の収益率は大幅なマイナスである。

それを埋めているのがFIT(固定価格買い取り)で、その賦課金(再エネ-化石燃料コスト)の総額は2030年には44兆円、2050年には69兆円にのぼる(電力中研)。この69兆円は再エネ業者の利益になるが、消費者にとっては電気代の超過負担である。

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その社会的なメリットは、地球の平均気温が30年後に0.01℃下がるかもしれないというだけだ。脱炭素化の私的収益率はゼロに近いので、民間企業には適していない。

エネ庁は脱炭素化とエネルギー節約を混同して「脱炭素化で収益が上がる」というが、収益の上がる省エネ投資はすでにやっている。これから政府が規制や補助金で民間にやらせるのは採算のあわない脱炭素化投資であり、経済的には純損失になって成長率は下がる。それを成長戦略と称して、巨額の賦課金を取るのは詐欺である。

デカップリングではなくトレードオフ

では何のために脱炭素化するのか。著者は「人類が生存し続けるためには脱炭素化が不可避である」からだという。ここではパリ協定の2℃目標が絶対条件になっているので、脱炭素化は無条件の善であり、成長とのトレードオフは考えていない。

「CO2を削減しても成長できる」というデカップリングもよくある話だが、先進国ではCO2排出が減ると同時にGDPが増えたのは、脱炭素化で成長したという因果関係を示しているわけではない。先進国で製造業のサービス化が進んだ結果、エネルギー消費が減ったのであり、CO2排出削減はその結果である。

CO2は有害物質ではないので、それを減らすメリットはない。気温上昇を防ぐ効果はあるが、日本が2050年にカーボンニュートラルを実現するコスト(GDPの低下)は毎年100兆円近い。脱炭素化と成長には、巨額のトレードオフが発生するのだ。