MORE from LESS(モア・フロム・レス) 資本主義は脱物質化する (日本経済新聞出版)
地球の資源は有限だが、資本主義はその制約を考えないので、その「無政府性」で地球は滅びるという予言は、マルクスからローマクラブに至るまで多い。最近は役所までそれを信じて「グリーン成長戦略」をとなえているが、それは本当だろうか。

もちろん資源は無限ではないが、石油や天然ガスの確認埋蔵量は増えている。これはシェールオイル・シェールガスなどの非在来型資源が開発されたためだ。図のように金属の確認埋蔵量も増えており、見通せる将来に枯渇する可能性はない。

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世界の銅と亜鉛と鉛の確認埋蔵量(Sverdrup et al.

その原因は、新しい採掘技術の開発だけではない。資源価格が上がると、資源節約的イノベーションが起こるからだ。自動車の燃費は、この30年で半分になった。石炭の消費量は2014年にピークアウトし、CO2排出量も2019年がピークだった。「ピークオイル」という言葉の意味も変わり、石油の需要は2028年にピークアウトすると予想されている。

社会主義は冷戦に敗れたが、環境問題に政府の介入を求める左翼の活動家は、それを復活させようとしている。しかし環境問題でも、資本主義は脱物質化して社会主義に勝利したのだ。

途上国の発展で環境問題は改善する

オクスフォード大学の"Our World in Data"というウェブサイトには、世界の環境問題について多くのデータが集められているが、それを見るとほとんどの指標は大幅に改善されている。

21世紀に入ってから感染症は激減している。たとえばマラリアの死者は2000年の83万9000人から、2015年には43万8000人にほぼ半減した。

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1日1.9ドル以下の所得で暮らす貧困層の比率は、産業革命の前には94%だったが、今は10%以下になっている。

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乳幼児死亡率(5歳以下)は43%から4.5%に下がった。

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このように世界の環境が改善した最大の原因は、発展途上国が豊かになったことだ。特に中国の成長が大きい。少なくとも経済的には、資本主義が多くの人の命を救ったといっていい。これは社会主義から資本主義への移行のもたらした最大の恩恵だろう。

CO2排出が減っても、あと100年ぐらいは大気中に残留するので、温暖化がただちに止まるわけではないが、全世界の石炭消費量がピークアウトしたのは、途上国が先進国が300年かかった工業化の後を急速に追いかけていることを示す。資本主義の脱物質化は、世界的な現象なのだ。

資本主義が資源節約やCO2排出削減になるのなら、途上国の発展が最善の環境対策である。市場経済にはもともと規模の経済があるので、それがグローバルに起こると一部の巨大企業に利潤が集中するのは当然だ。それによって所得格差は拡大するが、それを是正する再分配も豊かにならないとできない。

脱物質化でGDPベースの成長率が下がることも避けられないが、それが人々を不幸にするとは限らない。次の図のように生産コスト(GDP)が下がると消費者余剰は増えるからだ。

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価格低下による消費者余剰の変化(情報通信白書)

本書の予想は楽観的だが、地球温暖化には大きな外部不経済があるので、資本主義だけでは解決できない。ただCO2排出ゼロのような数値目標ではなく、炭素税のような価格メカニズムが望ましいとしている。