The Great Demographic Reversal: Ageing Societies, Waning Inequality, and an Inflation Revival (English Edition)
日本で長期停滞が続いている最大の原因は貯蓄過剰だというのは経済学者のコンセンサスだが、その原因についてはコンセンサスがない。サマーズは高齢化で貯蓄が増えたというが、日本の家計貯蓄率はほぼゼロになった。年金生活者が貯蓄を取り崩しているためだ。

本書は、高齢化で貯蓄が減ってインフレになると主張する。従属人口(老人や子供)が増えると、消費が生産を上回るからだ。1990年ごろから世界的にデフレ傾向が続いたのは、グローバル化(中国と旧社会主義国の世界市場への参入)で安い労働力が大量に供給されたためだった。

しかしグローバル化は逆転し始めた。コロナで分断された世界は元に戻らない。他方で高齢化は世界中で進み、図のように中国では労働人口が減り始めた。世界的に安い労働供給が減るとインフレの時代になる、というのが本書の仮説である。

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世界の労働人口増加(単位:年間百万人)2020年以降は国連の予想

この仮説の反例にみえるのは日本である。日本は高齢化のトップランナーだが、企業の貯蓄過剰が続き、金利はマイナスだ。本書はその原因は、製造業の「空洞化」だという。日本のメーカーはアジアに安い労働力を求め、グローバル化して生き延びたのだ。

超高齢社会はインフレ・高金利

1990年代は日本経済の「失われた10年」だったが、2000年代に日本の製造業はリストラで効率化し、国内投資を増やさないで海外直接投資(特に現地法人の設立)を増やした。海外投資は1996年から2012年にかけて3倍になり、海外子会社で雇用する従業員は230万人から560万人に増えた。

かつて経常収支黒字のほとんどは貿易黒字だったが、今は所得収支(海外子会社からの収益)の黒字が大部分である。特に2008年以降の円高で急速に海外投資が増え、国内投資に対する比率は最大30%になった(図の右軸)。日本は「貿易立国」から「海外投資立国」に変わったのだ。

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図2 日本の海外/国内投資比率(経産省)

しかし中国の労働人口が減り始め、単位労働コストが日本とほとんど変わらなくなった今、海外生産で収益を上げることは困難になった。図2のように2015年以降の円安局面では海外投資比率が20%まで落ちた。製造業が国内に回帰すると、雇用が増えて賃金は上がるが、国際競争力は低下する。

もちろん今すぐインフレになるわけではない。これはグローバルな長期の変化なので、本書は逆転の時期を「5年以内」と予想していたが、コロナで早まったという。インフレ自体は悪いことではないが、政府も企業も過剰債務の状態で金利が上がると、金融危機が起こるおそれがある。

高度成長期の日本には労働人口の増加というボーナスがあったが、それを失った90年代以降は、アジアの低賃金労働力というボーナスがあった。それもなくなったとすれば、超高齢社会はインフレ・高金利になるかもしれない。

本書はデジタル化の影響を「まだ不確実」として計算に入れていないが、これはグローバル化を促進するデフレ要因である。それも飽和したとすると、コロナをきっかけにデフレの時代は終わるのだろうか。