アメリカ大統領選挙は、初日が終わってもまだ情勢が混沌としている。ペンシルベニアとウィスコンシンの開票率が低く、郵便投票でひっくり返る可能性があるからだ。特にペンシルベニアは6日までかかりそうで、トランプ大統領は「4日以降に届いた票は無効だ」という訴訟を起こすと表明しているので、連邦最高裁が大統領を決めるブッシュ対ゴアのときのような展開になるかもしれない。

こういうややこしいことになる原因は、大統領選挙人という特殊な制度にある。ほとんどの州は各州ごとに勝者総取りになっているので、ニューヨークやカリフォルニアのような大きな州(民主党が必ず勝つ)はどうでもよく、両党の勢力が伯仲している中西部のスウィングステートを取ったほうが勝つ。

ここに住んでいるのは、貧しい白人の労働者が多い。彼らはマイノリティや移民に仕事を奪われるという被害者意識が強いので、白人中心主義をとなえて移民を差別し、保護貿易を主張すれば、彼らの支持を得ることができる。トランプの選挙戦術は、それに特化した点で徹底していた。

この奇妙な制度ができた原因は、合衆国憲法ができたときは、各州が独立国だったからである。当時は大統領の選出は連邦議会が行なうべきだという意見が強かったが、それでは各国の独立性が失われるという反対論があったため、各国が独自に選挙人を選出し、その投票で決める折衷案になったのだ。

こういう「三権分立」がデモクラシーの理想だと思っている日本人が多いが、それはGHQの洗脳である。このパッチワークの統治機構のおかげで、大統領選挙のたびに混乱が繰り返され、スウィングステートに迎合するトランプのような大統領が生まれ、中西部の田舎者が世界情勢を決めてしまう。

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