暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫)
かつて日本的経営が世界を席巻したころ、日本人が会社の中で「暗黙知」を共有していることが日本企業の優位性の原因だといった話が、野中郁次郎氏などによって流行した。この流行はその後の日本企業の凋落で終わったが、いまだに経営学業界では信じられているようだ。

しかしポランニーが暗黙知という言葉で呼んだのは、学校で習う「形式知」と違う職人芸のような技能ではなく、人が外界を認識するとき共有する枠組である。化学者だった彼はこの概念を科学的発見の論理として考え、これがクーンに影響を与えて「パラダイム」の概念になった。

本書を読み直すと、人間の認識の基礎に非言語的コミュニケーションがあり、その過程は生物の進化に似ていることが強調されている。当時の生物学ではこれはトンデモだったが、今では文化的遺伝子として学問的にも論じられるようになった。

これは20世紀の思想の主流だった言語論的転回の逆転ともいえる。ソシュールに始まってポストモダンまで受け継がれた記号論のドグマは、記号(シニフィアン)に先立つ意味(シニフィエ)はなく、意識は言語で構造化されたものだということだ。本書はそれを逆転し、意味は身体と事物の衝突から生まれる創発(emergence)だという。ここでは意味が記号に先立つのだ。

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